1999年7月5日

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〜 南米選手権パラグアイ99 現地レポート 〜

日本×ボリビア
(ペドロ・フアン・カバジェロ/リオ・パラピティスタジアム)
5日午後7時5分(日本時間6日午前8時5分)
天候:雨、気温:10度

日本代表 ボリビア代表
1 前半 0 前半 0 1
後半 1 後半 1
73分:呂比須ワグナー

サンチェス:53分

日本代表スターティングイレブン
交代出場:
63分:奥 大介(藤田俊哉)
63分:城 彰二(岡野雅行)
70分:三浦淳宏(名波 浩)

 勝ち点3での決勝トーナメント進出にかけた日本は、前半からトルシエジャパン初先発となった岡野雅行(浦和)、また、名波浩、藤田俊哉の磐田コンビを中盤で起用。攻撃的な布陣で、得点にかけた。
 前半は、勝って決勝トーナメントを狙うボリビアが一方的に攻め、日本のシュートはわずかに3本。しかし、41分には、ボリビアのDFサンチェスが藤田への危険なファールで一発退場。日本は11人の数的優位を持って後半を迎えることになった。
 小雨で気温が下がり、ピッチ上も深い霧に覆われてしまった後半8分、DFの秋田豊(鹿島)、森岡隆三(清水)の間を抜かれた際にファール。絶好の位置でのフリーキックを与えてしまい、これを決められ10人のボリビアに先制をされる。この後も、ボリビアペースで試合が展開するが、19分、日本は、岡野に代えて城彰二(横浜)を、藤田に代えて奥大介(磐田)を同時に交代する。
 この直後から流れが一気に変わる。また25分には、名波と三浦淳宏(横浜)を交代。この直後の27分には、奥がドリブル突破でペナルティエリアに切り込み、相手のファールを誘ってPKを得る。呂比須ワグナー(名古屋)がこれを決めて同点に追いついた。38分には、前半にイエローを受けていたキャプテン井原正巳(横浜)が遅延行為から、2枚目のイエローを受けて退場し、10対10で終盤ラスト5分に入った。結局そのまま両者ともノーゴールに終わり、日本は初出場した南米選手権で勝ち点1を奪ったものの、決勝トーナメント出場の望みは消えた。
 2試合目のパラグアイ対ペルーは、パラグアイが1−0でペルーを下し、勝ち点を7としてこのグループ1位、ペルーは2位で決勝トーナメントに進出する。


    ◆試合後の会見より

トルシエ監督「今大会前には、わずかな準備期間しかなかったし、準備不足でここにこなければならなかった。そういう状態でこれだけのハイレベルな相手と対戦したのだから、結果は(勝ち点1)は非常に論理的な結果であった。もちろん勝ちたかった。けれども、勝ち点1の意味は決して悲観するべきものではない。将来に向けて、私は前向きに考え、チームを作っていく」

94年W杯米国大会アジア予選以来(93年、対タイ戦)のAマッチ退場となった井原正巳「あの場面は、(パスを)狙っていた。遅延行為しかないでしょう。みんなには迷惑をかけた。今大会は勝ち点を4点取って、決勝トーナメントに進むつもりでここに来ていた。1点では少なすぎた。いろいろな経験といっても、自分たちは、W杯だけだったのだと今回改めて気がついた。南米選手権は、フランスとは違ってみなホームのような状態で、コンディショニングに大きな差があったと思う。今後は、3バックでのビルドアップの精度を高めないといけないし、また代表に選ばれるようにがんばりたい」

今大会2試合に出場、ファインセーブで安定した力を見せた楢崎正剛「(途中から濃霧がひどくなったが)それは気にならなかった。フリーキックの場面は、壁の横を抜いて来てしまった。一瞬、右に蹴るかな、と思って体重を動かしてしまったら、左に来た(ので反応が遅れた)。完全に自分の判断ミスで、それがずっと気になっていた。今日は、後ろから見ていても、攻撃に行こう、勝ちに行こうという気持ちが伝わってきた。3試合をやってみて、勝てる試合もあったし、自信も持てた。しかし、厳しい面も痛感した。3試合とも、競技場に時計がありませんでした。勝ちたい、と思う気持ちが強くて、時計もなくて、90分があっという間に終わってしまった」

今大会2ゴール。故郷で十分に存在感を示した呂比須ワグナー「PKの場面では、ナビスコ杯で外していたこともあったので、本当に緊張した。絶対に決めなければならなかった。相手も、かなり疲れていたと思うので、最後に勝ち越しできなかったのは残念です。この大会に向うには、日本の準備は足りなかった。今朝新聞を読んだら、日本には、次の南米選手権(コロンビア、2001年)にも来てもらいたい、という意見があると(関係者が)言っている記事があった。是非そうしたいし、前回(1997年)2位のボリビアと引き分けたことは、少しも恥ずかしいことではないけれど、(自分自身としては)2点を取っても勝てなかったことは、とても悔しいし、情けないね」

トルシエ・ジャパンで初先発、超重馬場に足を生かせずに終わった岡野雅行「試合中は、なんだかカラ走りばかりしている感じで、とても難しいゲームだった。今回は、最初から合流しても別々の練習メニューだったし、特に指示もなかった。コーナーキックの立ち位置の確認くらいで、やはりかみ合うことが難しかった。(後半開始早々の)服部からのパスに合わせた場面だけが、唯一、サッカーをやっているな、と思うような状態だった。得意のボールだったが、残念です」

交代して早々に持ち味のドリブルを生かしてPKを奪った奥 大介「とにかく勝つために思いきって行こうと思った。あのプレーは、とにかくよかったです、ほっとした。自分は南米のサッカーが大好きでそれに憧れて目指していた。実際にその舞台に立つことができて、やはり予想以上に厳しいことが実感できた。またがんばりたい」

3試合フル出場。監督にも試合後、その働きを絶賛された伊東輝悦「もっと積極的に行かなければならなかった。今日はそれほど良かったとは自分では思っていないが、後半、ドリブルで切り込んで行ったり、シュートを打ったり、ああいいうことをどんどんやれるようにはなっている。今後は、もっと狙ったプレーをできるようにしたい。この大会でも、別にフィジカルの差があるとか、アウエーで差が出た、とかそういうことは思わなかった。ただ、自分のプレーには、まだまだ至らないところがあった、ということだと思う」

試合を観戦した、サッカー協会釜本邦茂・副会長(強化担当副会長)「勝ち点を取れたということはよかった。しかし、日本のサッカーはもっとゴールへの意識を強く持たなければならない。つなぐサッカーよりも、前に行く速さを身につけなくてはならないのではないか」

大仁技術委員長「2戦目よりは良かったのではないか。1戦目といい、今日の試合といい、どれもいい経験になった。トルシエ監督は、一度日本に戻り、それからフランスに一度帰ることになる」


「1対1、という思想の欠如」

 試合は、ハーフラインから、ペナルティエリアがまったく見えないほどの濃霧の中での戦いとなり、数的優位を持ったはずの日本は、ミスを連続しながら、やっとの思いで同点に持ち込んだ。
 試合後、ボリビアのGKフェルナンデスが、「10人になってもそれほど心配はなかった。日本には、それほど強引な選手もいないし、組織でやってくるとわかっている部分も多かった」と、試合を振り返った。
 彼の言葉通り、今大会で圧倒的な差を見せつけられたのは、「1対1」の場面がまったく作れなかった、あるいは、あったのに、それを回避し続けた、という点だった。
 もちろん、練習では攻撃に割いた時間が皆無に近く、形を作ることは無理な注文だ。しかし、攻撃の形の根幹を成すのは、サッカーにおいて、1対1のイマジネーションであり、強さではないか。
 例えばこの試合、サイドの望月、服部は、彼らの技術を持ってすれば十分な突破が可能な、前が開いていてDF1人という場面にも、まずボールを返す。FWも同様。3試合を見て、相手を背負って抜いていった場面は、この日の奥のドリブル1本であった。
 これでは、トルシエ流が何であっても勝てない。
 日本は、どの競技でも「組織」を重視する。野球チームが会社組織に例えられるのは、そのいい例である。個人の力がなくても、組織で戦う、的なものが多い。
 けれども、組織は、強い個人がなければ成り立たないし、1対1で勝ってこその、ゾーンであり、ラインであり、つなぐという攻撃の形ではないか。ボリビアが10人になったあとに先制したのは、勝つために、1対1の勝負を挑み続けたからで、1対1で負けるから、日本は数的な優位を少しも活かせなかった。
 監督の問題以前に、選手がやらなくてはならないのは、1対1では絶対に勝つ、という技術と気構えで、それなしには、あらゆる監督の戦術も機能しない。
 確かに準備不足、コミニケーション不足、固定練習の不足、さまざな敗因はあった。監督のやる気も問題だった。しかし、1対1で勝てない、勝とうとしない、その戦いを挑もうとすることが先決だ。
 1対1と言うシンプルでかつ普遍の鉄則を思い出さないと、南米選手権でもW杯でも、国内での試合でも、結果はそう変わらない。
 10人でも苦戦をした理由は、監督のやり方以前に、そこにあるのではないか。


「監督と選手の溝の行方?」

 トルシエ監督は試合後、2週間にも及んだ南米選手権での目的は、選手とのコミ二ケーションを取ることにもあった、と漏らした。
 昨年、初采配を取ったエジプト戦以来、ブラジル戦もキリン杯でも、合宿期間はわずか。すべてがぶっつけ本番的な臨み方になっていただけに、監督自身、選手とじっくりと話し、さらに、選手を見る材料を得るためのチャンスとも位置つけていたようだ。
 6月の五輪アジア予選香港ラウンドでも、収穫を最後に聞かれ、「毎日一緒にいたことで、選手の人間性というものに触れることができた。考え方がわかった」と話すなどしている。
 しかし、Aチームの方ではどうやら収穫がなかったようだ。

「2週間一緒にいることで、私はもっとコミニケーションを取ろうと思った。しかし、選手は食堂で食事をわずか10分で済ますと、部屋に戻ってカギをかけてしまう。そして部屋で何をしているか、といえば、プレーステーションをやっている。日本代表として、リーダーシップを果たさなくてはならない選手たちがこんなことでいいのかどうか、私は疑問だ」と、このところ、選手の間でくすぶっていた、監督のコミニケーション不足に対する不満に反論するような発言をした。

 選手からは、「先発の伝達も、当日試合直前のミーティングで言われる。前日には、まったくやっていなかった(レギュラーチームでの練習をしていないため)なんてこともある」、「練習でも、レギュラーはものすごく練習をしても、そうでないと、まったく体を動かしていない、という状態。フィジカルトレーニングもまったくない」、「攻撃の練習は一度もしていない」、「言うことに矛盾があって、試合中の指示なども無視して自分たちでやってみた」、などとさまざまな声があった。

 しかし、ならば、こちらにも言い分はある、というのが、監督のコメントだろう。
「そんな中でも、吉原(宏太)だけが大人だった。彼だけは私との会話をしようとしていたし、(言い方を替えれば)今の代表には、柳沢がやったような(1人で外出するような)ことはできないんじゃないか。それくらい、本当に小さな生活(狭い範囲、という意味)の中だけで生きている」とも続けた。
 監督にとって、長い時間と手間をかけたユース、五輪の世代のチームは確かに「可愛い」はずだ。結果も残した。しかし、A代表には、昨年W杯で指揮を取った岡田武史監督、またほかの監督の色が濃く残るし、さまざまな面で、個性がある。
 その個性という「色」が、監督にとっても、あるいは選手にとっても、過渡期の現在では厄介な存在である。互いの色が、今はまだ混じり合わない。それが、今回の中途半端なサッカーを招いた原因であり、日本代表のサッカーから特色を奪ってしまう要因でもある。

 現在、両者の間にある溝は、言語のギャップでも、文化のギャップでも、あるいはジェネレーションギャップでもなく、これまでの流れとそれを大きく変えようとする流れと、その変化を拒もうとする流れの対立だ。
 監督は、「メンバーを試し、システムを試し、絞り込んでいく段階はこれで終わる」という。9月8日に予定される国際Aマッチに召集される、本当の新生日本代表は大幅な若返りをはかる予定で、「10人の(中心的)グループを作り、あとはその10人の周りをユースの若手年代で固め、バランスを取りたい」とのプランだ。
 2か月の間、溝は埋まるか、深まるか。


「経験をしなければわからない」

 今大会で2ゴールをあげた呂比須ワグナーは、「ゴールを何点とっても勝ちにつながらなければ意味がない」と、残念そうな表情を浮かべた。
 試合後の会見では、面白い指摘をした。
 グラウンドは3日続く雨で、水を含み、さらに、アスンシオンの会場よりは芝も深く状態も悪い。「非常に難しかったのは、日本にとっては、こういう環境の細かな部分で、まだまだボリビアみたいな国とも差が出てしまうということ。条件は同じだ、と言っても実際は全然違うんです」という。
 ボールは今回、南米では100%近いシェアの「ペナルティ」製のもの。日本、欧州はアディダスのトリコロールという、W杯で開発されたボールを常に使っており、トリコロールはどちらかといえば、攻撃でのメリットを考え、開発されたものだ。
 呂比須は言う。

「アディダスのは、水やドロでも重くなりにくい。ましてグラウンドの芝が深くて、足を取られるような中だと、ペナルティのは(水を含んでしまうため)パスも出しにくいし、コントロールがとても難しい」

 これは言い訳などではなくて、実感なのだ。むしろ、日本代表には、まだ、異なる特性を持つボールを悪環境の中で扱い、使い分けるような実力も地盤もない、ということを、わかりやすく説明してくれている。
 スパイクの選択にしても、同じようなことがあり、ぼこぼこのグラウンドでも、ピンの深い交換式を履かずに、軽く、扱いやすい固定でアップしていた選手のスパイクの裏を、わざわざ点検した監督が、「そんなものを履いて滑ったら、どうなると思っている?」と(特に後ろの選手に)怒り、初歩的なミスに呆れたということもあった。
 今回、アウエーの洗礼と、観客や移動距離のこと、環境のことばかりに注目したが、呂比須の言葉は、アウエーを戦うということは、つまり、いかに正確に、タフにホームを戦っているか、こそが重要である、ということを示している。

「日本の芝も日本の環境も良すぎたということ、それはよくわかった。もっと悪い環境でも戦える力を普段から付けないとね。昔は、自分もこんな悪環境の中でのプレーが得意だったのに、いつの間にか弱くなっていた。JFLの頃のサッカーを思い出さないと」。

 呂比須の話は、この遠征を象徴するものだったかもしれない。


    ◆以下は、会見で話した監督の選手評:

伊東輝悦について「今回の大会では文句なくNo.1の働きをした選手。中盤は彼がいたおかげで、本当に助かった。最初は守備を重視したが、攻撃へのきっかけもつかんだし、プレーに自信が出てきた。まるで、(フランス代表、現チェルシー)のデシャンのような可能性を持っている」

森岡隆三について「彼は才能あふれるプレーヤーだ。しかし、それにとどまってしまうかどうか、というところにいる」

三浦淳宏について「すばらしい才能を持ちながら、自分に強い自信がないように見える」

奥 大介について「彼もすばらしいセンスがある。こういう厳しい試合をたくさんこなしていけば、きっと伸びる」


 なお、日本代表は試合終了後、濃霧でチャーター便の運行ができなくなったために、深夜にバスでアスンシオンに移動した。約7時間かけて移動した後、6日午後にはアスンシオンを出て、日本へ帰国することになった。


◆試合前のコメント

トルシエ監督「夕べのアルゼンチン対コロンビアの試合を見て、サッカーは何が起きるかわからないと思った。本当に非論理的なスポーツだ。ウルグアイが勝ったことでベスト8の可能性は低くなったが、プライドを持って戦って欲しい。選手の反応に期待する。ボリビアは3位を狙ってくるので、守備だけではないだろう。いい試合をするチャンスだ」



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