1999年7月5日 ※無断転載を一切禁じます 〜 南米選手権パラグアイ99 現地レポート 〜 日本×ボリビア
勝ち点3での決勝トーナメント進出にかけた日本は、前半からトルシエジャパン初先発となった岡野雅行(浦和)、また、名波浩、藤田俊哉の磐田コンビを中盤で起用。攻撃的な布陣で、得点にかけた。
◆試合後の会見より トルシエ監督「今大会前には、わずかな準備期間しかなかったし、準備不足でここにこなければならなかった。そういう状態でこれだけのハイレベルな相手と対戦したのだから、結果は(勝ち点1)は非常に論理的な結果であった。もちろん勝ちたかった。けれども、勝ち点1の意味は決して悲観するべきものではない。将来に向けて、私は前向きに考え、チームを作っていく」 94年W杯米国大会アジア予選以来(93年、対タイ戦)のAマッチ退場となった井原正巳「あの場面は、(パスを)狙っていた。遅延行為しかないでしょう。みんなには迷惑をかけた。今大会は勝ち点を4点取って、決勝トーナメントに進むつもりでここに来ていた。1点では少なすぎた。いろいろな経験といっても、自分たちは、W杯だけだったのだと今回改めて気がついた。南米選手権は、フランスとは違ってみなホームのような状態で、コンディショニングに大きな差があったと思う。今後は、3バックでのビルドアップの精度を高めないといけないし、また代表に選ばれるようにがんばりたい」 今大会2試合に出場、ファインセーブで安定した力を見せた楢崎正剛「(途中から濃霧がひどくなったが)それは気にならなかった。フリーキックの場面は、壁の横を抜いて来てしまった。一瞬、右に蹴るかな、と思って体重を動かしてしまったら、左に来た(ので反応が遅れた)。完全に自分の判断ミスで、それがずっと気になっていた。今日は、後ろから見ていても、攻撃に行こう、勝ちに行こうという気持ちが伝わってきた。3試合をやってみて、勝てる試合もあったし、自信も持てた。しかし、厳しい面も痛感した。3試合とも、競技場に時計がありませんでした。勝ちたい、と思う気持ちが強くて、時計もなくて、90分があっという間に終わってしまった」 今大会2ゴール。故郷で十分に存在感を示した呂比須ワグナー「PKの場面では、ナビスコ杯で外していたこともあったので、本当に緊張した。絶対に決めなければならなかった。相手も、かなり疲れていたと思うので、最後に勝ち越しできなかったのは残念です。この大会に向うには、日本の準備は足りなかった。今朝新聞を読んだら、日本には、次の南米選手権(コロンビア、2001年)にも来てもらいたい、という意見があると(関係者が)言っている記事があった。是非そうしたいし、前回(1997年)2位のボリビアと引き分けたことは、少しも恥ずかしいことではないけれど、(自分自身としては)2点を取っても勝てなかったことは、とても悔しいし、情けないね」 トルシエ・ジャパンで初先発、超重馬場に足を生かせずに終わった岡野雅行「試合中は、なんだかカラ走りばかりしている感じで、とても難しいゲームだった。今回は、最初から合流しても別々の練習メニューだったし、特に指示もなかった。コーナーキックの立ち位置の確認くらいで、やはりかみ合うことが難しかった。(後半開始早々の)服部からのパスに合わせた場面だけが、唯一、サッカーをやっているな、と思うような状態だった。得意のボールだったが、残念です」 交代して早々に持ち味のドリブルを生かしてPKを奪った奥 大介「とにかく勝つために思いきって行こうと思った。あのプレーは、とにかくよかったです、ほっとした。自分は南米のサッカーが大好きでそれに憧れて目指していた。実際にその舞台に立つことができて、やはり予想以上に厳しいことが実感できた。またがんばりたい」 3試合フル出場。監督にも試合後、その働きを絶賛された伊東輝悦「もっと積極的に行かなければならなかった。今日はそれほど良かったとは自分では思っていないが、後半、ドリブルで切り込んで行ったり、シュートを打ったり、ああいいうことをどんどんやれるようにはなっている。今後は、もっと狙ったプレーをできるようにしたい。この大会でも、別にフィジカルの差があるとか、アウエーで差が出た、とかそういうことは思わなかった。ただ、自分のプレーには、まだまだ至らないところがあった、ということだと思う」 試合を観戦した、サッカー協会釜本邦茂・副会長(強化担当副会長)「勝ち点を取れたということはよかった。しかし、日本のサッカーはもっとゴールへの意識を強く持たなければならない。つなぐサッカーよりも、前に行く速さを身につけなくてはならないのではないか」 大仁技術委員長「2戦目よりは良かったのではないか。1戦目といい、今日の試合といい、どれもいい経験になった。トルシエ監督は、一度日本に戻り、それからフランスに一度帰ることになる」
「1対1、という思想の欠如」 試合は、ハーフラインから、ペナルティエリアがまったく見えないほどの濃霧の中での戦いとなり、数的優位を持ったはずの日本は、ミスを連続しながら、やっとの思いで同点に持ち込んだ。
「監督と選手の溝の行方?」 トルシエ監督は試合後、2週間にも及んだ南米選手権での目的は、選手とのコミ二ケーションを取ることにもあった、と漏らした。 「2週間一緒にいることで、私はもっとコミニケーションを取ろうと思った。しかし、選手は食堂で食事をわずか10分で済ますと、部屋に戻ってカギをかけてしまう。そして部屋で何をしているか、といえば、プレーステーションをやっている。日本代表として、リーダーシップを果たさなくてはならない選手たちがこんなことでいいのかどうか、私は疑問だ」と、このところ、選手の間でくすぶっていた、監督のコミニケーション不足に対する不満に反論するような発言をした。 選手からは、「先発の伝達も、当日試合直前のミーティングで言われる。前日には、まったくやっていなかった(レギュラーチームでの練習をしていないため)なんてこともある」、「練習でも、レギュラーはものすごく練習をしても、そうでないと、まったく体を動かしていない、という状態。フィジカルトレーニングもまったくない」、「攻撃の練習は一度もしていない」、「言うことに矛盾があって、試合中の指示なども無視して自分たちでやってみた」、などとさまざまな声があった。 しかし、ならば、こちらにも言い分はある、というのが、監督のコメントだろう。 現在、両者の間にある溝は、言語のギャップでも、文化のギャップでも、あるいはジェネレーションギャップでもなく、これまでの流れとそれを大きく変えようとする流れと、その変化を拒もうとする流れの対立だ。
「経験をしなければわからない」 今大会で2ゴールをあげた呂比須ワグナーは、「ゴールを何点とっても勝ちにつながらなければ意味がない」と、残念そうな表情を浮かべた。 「アディダスのは、水やドロでも重くなりにくい。ましてグラウンドの芝が深くて、足を取られるような中だと、ペナルティのは(水を含んでしまうため)パスも出しにくいし、コントロールがとても難しい」 これは言い訳などではなくて、実感なのだ。むしろ、日本代表には、まだ、異なる特性を持つボールを悪環境の中で扱い、使い分けるような実力も地盤もない、ということを、わかりやすく説明してくれている。 「日本の芝も日本の環境も良すぎたということ、それはよくわかった。もっと悪い環境でも戦える力を普段から付けないとね。昔は、自分もこんな悪環境の中でのプレーが得意だったのに、いつの間にか弱くなっていた。JFLの頃のサッカーを思い出さないと」。 呂比須の話は、この遠征を象徴するものだったかもしれない。
◆以下は、会見で話した監督の選手評: 伊東輝悦について「今回の大会では文句なくNo.1の働きをした選手。中盤は彼がいたおかげで、本当に助かった。最初は守備を重視したが、攻撃へのきっかけもつかんだし、プレーに自信が出てきた。まるで、(フランス代表、現チェルシー)のデシャンのような可能性を持っている」 森岡隆三について「彼は才能あふれるプレーヤーだ。しかし、それにとどまってしまうかどうか、というところにいる」 三浦淳宏について「すばらしい才能を持ちながら、自分に強い自信がないように見える」 奥 大介について「彼もすばらしいセンスがある。こういう厳しい試合をたくさんこなしていけば、きっと伸びる」
なお、日本代表は試合終了後、濃霧でチャーター便の運行ができなくなったために、深夜にバスでアスンシオンに移動した。約7時間かけて移動した後、6日午後にはアスンシオンを出て、日本へ帰国することになった。
◆試合前のコメント トルシエ監督「夕べのアルゼンチン対コロンビアの試合を見て、サッカーは何が起きるかわからないと思った。本当に非論理的なスポーツだ。ウルグアイが勝ったことでベスト8の可能性は低くなったが、プライドを持って戦って欲しい。選手の反応に期待する。ボリビアは3位を狙ってくるので、守備だけではないだろう。いい試合をするチャンスだ」
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