1999年7月2日

※無断転載を一切禁じます


〜 南米選手権パラグアイ99 現地レポート 〜

日本×パラグアイ
(アスンシオン/ディフェンソーレス・デル・チャコスタジアム)
2日午後9時5分(日本時間3日午前10時5分)
天候:小雨、気温:15度、湿度:70%

日本 パラグアイ
0 前半 0 前半 2 4
後半 0 後半 2
 



ベニテス:19分
サンタクルス:40分
ベニテス:63分
サンタクルス:87分

日本代表スターティングイレブン
交代出場:
24分:三浦淳宏(福西崇史)
46分:藤田俊哉(名波 浩)
73分:吉原宏太(城 彰二)
 日本代表にとって、決勝トーナメント出場のために落とせない試合となったが、前半からパラグアイに完全に主導権を握られ、逆に日本の動きがまったく冴えない状況の中での試合となってしまった。19分、呂比須ワグナー(名古屋)がベニテスにボールを奪われ、それをそのまま持ち込まれて、ミドルシュートへ。これが決まって早くも序盤で先制を許してしまった。この直後のプレーで、この日、日本代表初先発を果たした福西崇史(磐田)が、左足首を捻挫したために退場。三浦淳宏(横浜)に交代しなくてはならないアクシデントに見舞われた。
 ロペスがミドルシュートを2本放つのがやっと、と、パラグアイの猛攻を受けながら、40分には、パラグアイの若手No.1FW、サンタクルスにヘッドで決められ、2点のビハインドを背負って後半を迎えた。
 後半は、日本の中盤を支えているはずの名波浩(磐田)をベンチに戻して、藤田俊哉(磐田)を投入。しかし、初めての組み合わせということもあってか、全体のバランスを著しく欠いたまま試合が展開する。後半18分には、ベニテスにまたもゴールを奪われ、3−0となった時点で、選手の足も止まってしまう。動きの悪い城彰二(横浜)に代えて、1日にアスンシオン入りしたばかりの吉原宏太(札幌)を入れたが、一度、バラバラになってしまったチームをまとめる術もなく、まとめる選手もおらず、組織のないバラバラの個人技だけに終始した。42分には、またもサンタクルスに頭で決められ、4−0と完敗してしまった。
 日本代表が4点以上を奪われて敗戦したのは、1995年8月9日のブラジルとの親善試合(1−5)以来3年11か月ぶりのこと。
 南米選手権は、Aグループから3チームが決勝トーナメントに抜けられる可能性がある。日本も、予選最終戦となるボリビア戦(5日)に勝てば、依然、勝ち点3を奪える可能性はある。

トルシエ監督「問題はフィジカルではなく、すべてテクニックだった。ハーフタイムで言ったのは、意思の面でも、やる気の面でも、なぜ目覚めて、思いきりやる気を出して行かないのか、それをみんなに聞きたかった。負けることはいいが、ガッツを見せないで終わったことが恥ずかしい。コパに来ていることの価値と意味は、選手や日本のみなさんには分かってもらえないと思う。選手はまるで観光のようにここに来ている。この試合のことは早く忘れて、1勝を取りに行きたいと思う」

パラグアイ/アルメイダ監督「昨日(1日)は私の誕生日だった。4点を取ったことで、このグループの1位抜けと、優勝の可能性が出てきた。日本は、最後まで手抜きをせずに、よくがんばった」

1日に到着したばかりで試合に出場した吉原宏太「時差とか何とか言っていられないくらいに、パラグアイの上手さにやられました。本当に上手すぎた。こうやって上手さを見せつけられると、(もっと試合をしたいという闘争心が沸いて)日本に帰りたくなくなります。組織でしっかりサッカーをやらなくては勝てないと思ったが、今日はみんなバラバラでした」

井原に代わって主将も務めた秋田 豊「パラグアイの意気込みを感じた。どんどん走って来て、耐え切れなかった。もうちょっと踏ん張れれば、後半への勝機もあったかもしれない。2試合をやってみて思うのは、彼等の試合巧者ぶりでしょうか」

監督からは「この試合で、もっともよかった」と称賛された森岡隆三「4点差も嫌ですが、久々に打ちのめされた感じがする。向こうにも(ホームだけに)プレッシャーがあると思ったけれど、こちらは、攻めも守りもミス、ミス、ミス。ボールも簡単に取られてしまった」

途中交代で入った三浦淳宏「Jリーグのプレッシャーとは全然違う。力の差です。スライディングをしようにも、ガチっと、足の入るところまで行くけれども、その後、もう一度ボールを取られてしまう。1、2人でボールを取りに行っても、このレベルでは奪い切れないし、組織的にやらなくてはいけないこちらがバラバラだった。バカにされて悔しい」

ペルー戦はベンチ。やっと回ってきた出番だった川口能活「何もしないで終わった。気負いはなかったんだけど……。グラウンドは、見た目とは違ってまるで畑のような感じでした。今日は4点、すべてフリーでやられたゴールです。4タコ(0−4)で負けて、今動揺しているし、敗因は冷静に分析をしたい。彼らは助走がなくて、ワンステップで正確なシュートを打ってくる。今日のことは一生忘れない」

序盤でミドルシュートを2本放つなど、気をはいた呂比須ワグナー「2点を取られても、守備もやらなくてはならないし、点を取りにも行かなくてはならない。それはとても難しいし、(2点取られたのに)前半と後半でやり方が代わらなかったのは残念。(パラグアイが強すぎたのか、と聞かれて)いや、そうじゃない、自分たちの甘いところをつかれてしまったのだと思う。(南米選手権に来るのが10年早いんじゃないか、という質問が出て)何言ってるの? 10年遅い。日本はもっとこういう所に早く来てもよかったと思うし、(質問者に向って)そういう、日本のサッカーは遅れてる、みたいな考えこそ、10年古臭い。自分にとって、どこでも同じようにがんばるけれども、南米選手権は(ブラジル出身で)特別なものなんです。何とか雰囲気を変えないといけない。こうなったら、守りよりも攻撃。攻撃の練習をしてないから、仕方ないんだけど、とにかくボリビアに勝ちたい」


「国際基準の選手は……」

「アウエーでこそ燃える」「初めてのアウエーで本当の力を試したい」「アウエーを楽しみたい」。
 試合前、開催国のパラグアイとの一戦に向けて、選手たちのコメントはこんな風だった。
 しかし実際のところ、こんな勇ましい言葉や希望とは裏腹に、アウエーでの難しさ、サッカーそのものの怖さ、国際レベルとは一体どんなレベルなのか、それら基本的なことを叩き込まれてしまった。
 試合の最後5分間は、パラグアイのパス1本がつながるごとに、サポーターから大声援が沸く。「楽しむなんて、10年早いよ。顔洗って出直して来い!」と言わんばかりに遊ばれ、パラグアイに強烈なパンチでノックアウトを食らってしまったかのようなゲームだった。
 この日は、試合開始直前から気温が下がり始め、ペルー戦よりも肌寒く感じるほどの北風が吹いていた。また、小雨が降り続く、選手にとってはあまり歓迎できないコンディションだったといえる。
 日本代表は、スリップするなど足元をとられる場面が多かった。
 ペルー戦も雨上がりだったこともあり、井原、秋田らDF陣は取り替え式スパイクを履いたという。攻撃陣も、最近ではかなり性能の高い兼用スパイクがあるにはある。しかし、足元の悪さから取られたボールが前半に4本もあったこと(うち1本はゴールにつながった)は、試合そのものへの準備の不充分さや、足元もおぼつかないような、この日の精神状態を象徴するものであった。
 後半から名波を外したことについて監督は、「グラウンドがあれだけ濡れているのに、どうしてあんなに滑るスパイクを選んでプレーするのかわからない(スパイク云々よりも、基本的なミスをしていたという意味の例え)」と話し、「今日の名波のプレーは、大きな失敗だった。無駄なドリブルをし、右に左に行き、キックを蹴っているだけ。システムという考えを無視しているし、彼自身の第六感だけでプレーをしている。システムを重要視するイタリアに行っても、あれでは通用しないだろう」と、大黒柱への大きな期待度を示すかのように、手厳しい評価を下した。


「メンタルではない」

 この試合では残念なことに、まったくと言っていいほど、「何かに立ち向かおう」とするスピリットが見られなかった。
 今回は、中田英寿が抜け、井原正巳が先発メンバーを外れ、中山雅史も怪我で離脱と、中田は一時的なものとしても、日本代表をリードして来た「背骨」の手術中だけに、もちろん、技術的なマイナス要素を差し引く必要はある。
 強行日程での疲れ、初めて組む顔ぶれでの試合への戸惑い、過渡期という不安な時代の不安な空気、すべてが絡み合っていたとはいえ、いずれにしても、1試合終わって気が抜けた、とされても仕方のないような、「魂のこもらない」ゲームだったといえる。
 スピリットのなさ、精神的なもろさを露呈したということは、そのまま、格上の相手に十分耐えうるだけの「技術」という拠り所が何もなかったことを、十分に示している。
 この日、1対1で勝った場面は攻守とも1度もなかった。局面を凌いだことはあっても、1人で相手DFに突進して行くことも「できなかった」し、1対1で相手を止めることも、スライディングで勝負を打てる瞬間も一切なかった。スライディングしてもなお、軽くボールをさばかれるシーンが何度もあった。
 日本はアジア予選を勝ち抜いてW杯に行き、そこではアルゼンチン、クロアチアなどの強豪と、「W杯限定」での戦いはした。しかし、今大会の意味合いはまるで違うはずだ。
「収穫はない試合。そんな中でもあえて言うなら、森岡はいい試合ができたのではないか。彼には明るい将来が必ずあるといえる。秋田は、将来性はともかく、いいプレーをした。伊東も、最後になっていいプレーをつかんだ。しかし、この3人を除けば、大きな失敗だけだった」と、自ら作ったチームの脆さに、監督自身の読みの甘さに、呆然としながら話すのがやっとだった。
 問題は、精神以上にテクニックの圧倒的な差にある。今回も、あまりにも「アウエーをタフに戦う」、というメンタル的な部分に目標を置きすぎたのかもしれないし、その考え自体が甘かったともいえる。
 選手たちにとっては、安易に、「気持ちで負けなければ何とかなる」などと言うことの危うさを、改めて知る試合だっただろう。
 ボリビアがペルーに負けたことで、いまだ、日本の決勝トーナメント出場の可能性はなくなったわけではない。
「ボリビア戦に向けて、この敗戦は早く忘れる」(ロペス)ことも正しいし、「この敗戦は一生忘れない」という川口の言葉もまた、正しい。


GROUP A
チーム 試合 得点:失点 勝点
ペルー 2 2 0 0 4:2 6
パラグアイ 2 1 1 0 4:0 4
ボリビア 2 0 1 1 0:1 1
日本 2 0 0 2 2:7 0

 日本が決勝トーナメントに進出するためには、5日のボリビア戦(日本時間:6日午前8時5分キックオフ)に勝ち、かつ、日本が他グループの3位チームより勝ち点(勝ち点が同じ場合は得失点差)で上回らなければならない。なお、今日の第1試合の結果により、ペルーは3試合目の勝敗にかかわらず、決勝トーナメント進出を決めた。


パラグアイ戦当日
アスンシオン=7月2日正午(日本時間3日午前0時)

 試合当日の天候は、正午現在で晴れ時々雨、気温23度、湿度60%と、ぺルー戦に比較すると気温も上昇している。午後からは雨、という情報もある。
 また午前10時30分には、サッカー協会の強化担当副会長でもある、釜本邦茂参議院議員がサンパウロ経由でアスンシオンに到着した。副会長は、予選ラウンドの2試合を観戦することになっており、今回の南米選手権の結果で、トルシエ監督の評価をどう「採点」するかも注目される。
 空港では5分ほどの立ち話にも応じ、代表と、柳沢敦(鹿島)の代表謹慎処分について触れた。

 以下は、釜本邦茂強化担当副会長との一問一答:

──今日のパラグアイ戦は、どんな展開を予想されますか?
副会長 まあ2−2くらいなら一番いいんだが、まずは勝ち点を取ることだね。ペルー戦は日本でテレビを見たが、選手はどうしても、(戦術的な意図を)忘れてしまう面がある。

──今回監督に対しての何か、ノルマなどは課せられているんですか?
副会長 いや、ノルマはない。いい戦いをしてくれれば、ということです。ひとつやって(試合をこなして)何か前進をしているとわかるような、そういうものを見せてくれればと思う。キリン杯をやって、ここに来て、何を(戦術的に)やっているのか、わからない、ということではね……。
 そういう意味では、ペルー戦で、2点をセットプレーから取ったのは、ひとつの成果だと思う。でも、今度は得点したらしたで、相手がガンガン(得点を奪おうと)来るからね。
 エリアを守る、というのならいつでもできるんだけど、時には、ボールを捨てても行かないといけない場面もあるし、そういうところを、どうしても忘れてしまうようだね。

──話は変わりますが、柳沢選手の代表謹慎について、どう考えられますか?
副会長 いやね、私たちの頃もねえ、いろいろとありましたよ、でも、写真誌に追っかけられるとか、そういうのはなかったからねえ。まあ、規律があって、それを破ったんだから、自覚が足りなかった、それは間違いないでしょうし、(謹慎は)しかたがない。本人も十分わかっていることだろうし、こういうのは、静かにそっとしておいてやるのが一番いいんじゃないか。あの子(柳沢)は、あまり気丈な子ではなさそうだし。

──こういう経験を乗り越えて、また一回り大きくなる、ということでしょうか?
副会長 いや、それはわからんよ。私たちはそう思ってる、というだけでね。でも、まあ、私だってスネにひとつやふたつ傷くらいあるし、みんなあるんじゃないのかな。だから、自覚に任せて放っておいてあげるのが、一番だね。


BACK