1999年6月3日
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キリンカップサッカー'99
日本代表×ベルギー代表
(東京・国立霞ヶ丘競技場)
天候:晴れ、気温:24.0度、湿度:67%
観衆:54,685人
日本代表
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ベルギー代表
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0
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前半 0 |
前半 0 |
0
|
後半 0 |
後半 0 |
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先発
GK |
1 |
川口能活【横浜】 |
GK |
12 |
デブリーヘル【KRCハレルベク】 |
DF |
5 |
秋田 豊【鹿島】 |
DF |
3 |
ビドビッチ【エクセルシオール・ムスクロン】 |
3 |
相馬直樹【鹿島】 |
4 |
スターレンス【RSCアンデルレヒト】 |
2 |
斉藤俊秀【清水】 |
15 |
デブリュル【クラブ・ブルージュ】 |
22 |
森岡隆三【清水】 |
MF |
5 |
グール【RSCアンデルレヒト】 |
MF
|
15 |
田坂和昭【清水】 |
6 |
バンデルハーゲ【エクセルシオール・ムスクロン】 |
13 |
藤田俊哉【磐田】 |
7 |
デルブルック【KRCゲンク】 |
10 |
名波 浩【磐田】 |
8 |
タンゲ【エクセルシオール・ムスクロン】 |
7 |
伊東輝悦【清水】 |
9 |
ヘンドリクス【KRCゲンク】 |
8 |
中田英寿【ペルージャ】 |
10 |
マルテンス【KAAゲント】 |
FW |
11 |
呂比須ワグナー【名古屋】 |
FW |
11 |
ベルヘイエン【クラブ・ブルージュ】 |
交代
46分:服部年宏(田坂和昭)
59分:柳沢 敦(藤田俊哉)
87分:奥 大介(呂比須ワグナー) |
デブック(ビドビッチ):28分
エムペンザ(マルテンス):65分
カベンス(ベルヘイエン):65分
ヤンセンス(デルブルック):91分 |
試合データ
日本 |
|
ベルギー |
6 |
シュート |
13 |
10 |
GK |
10 |
5 |
CK |
5 |
25 |
直接FK |
18 |
6 |
間接FK |
4 |
4 |
オフサイド |
4 |
0 |
PK |
0 |
トルシエ監督になって3戦目のこの試合、日本代表は、DFに、Aマッチ121試合の井原正巳(横浜)に替え、Aマッチ2試合目となる若い森岡隆三(清水)を起用し、呂比須ワグナー(名古屋)を1トップで置く、3−6−1の初めてのシステムで試合に臨んだ。
前半は、平均身長で約8センチも違うベルギーの高さに翻弄されたためか、ミスを連続するなど自らピンチを招く。また中盤でも、名波浩(磐田)が守備的な役割を多く分担したことから、前線への攻撃的な動きがほとんどとれずに、ベルギーにシュート8本、逆に日本はわずかに1本、と防戦一方の試合展開に持ち込まれてしまった。
しかし後半、服部年宏(磐田)をボランチに入れたことで、名波が攻撃に参加。これで、中田英寿(ペルージャ)、とのパス交換も活発になり、前線へのボールが出るようになった。後半10分過ぎには、この日初めてともいえるアウトサイドからの攻撃がつながった。中田、右サイドに伊東輝悦(清水)、さらに、左ききの服部が右コーナーをえぐってセンタリング。最後は、ゴール前に飛び込んだ藤田俊哉(磐田)がベルギーDFに阻まれてしまったが、攻撃の流れを少しずつつかんで行った。
また、直後の後半14分には藤田に変えて2日に合流したばかりの柳沢敦(鹿島)を入れ、前線でのキープ力が効を奏したため、日本の攻撃時間が長くなった。結局、ゴールを割ったのは、日本、ベルギーともオフサイドでの1本ずつと、0−0のタイトなゲームとなった。
なお、この試合の結果、6日のペルー戦(横浜国際競技場)での勝者に優勝のチャンスが残った。トルシエジャパンはこれで、昨年のエジプト戦(10月)以来3戦目で、1勝1分1敗となった。
試合では井原に代わって、秋田豊(鹿島)がキャプテンを務めた。
トルシエ監督の話「今日の結果で日曜日まで優勝が分からないことになった。私自身も楽しみにしたい。今回は(FWが欠け)ハンディがあり、いろいろとフォーメーションを考えた。0−0はいい0−0であり、今回は、ブラジル戦のようなミスから失点することもなかった。リーグもまだ終わったばかりで万全な体調ではない中で、選手は、強くやるんだ、という気持ちを持ってお互いを信頼していた。それが非常に良かった」
ルーケンス監督の話「シュートが多く、観客を沸かせたと思う。前半にはお互い2度のチャンスがあった。日本は技術をベースにいい試合をした。ベルギーも良かったのだが、運がなかった。最後の15分で、2日前に合流した2人を入れた(カベンス、エムペンザ)が、彼等もいつ得点してもいいくらいのチャンスがあったが、入らず運がなかった感じがする」
(尚、今回のベルギーは、2000年の欧州選手権ホスト国として、候補選手を固めるための試合と位置づけられており、2〜3人が候補という。また監督の去就も注目されている。2分けは果たしてどう評価されるのか)
秋田「キャプテンといっても特別な感じではなかった。前半は、相手の高さにでこずった面もある。FW2人は当たりもかなり強く、(自分でも)負けた。しかし、勉強するところはたくさんあった試合だった」
森岡「もっともっとボールをキープして前に出るとかやりたかった。でもどうしても勝負、というこだわりが出ると、ああやってセーフティなパスを回してしまう。そこが良くなかった。代表に先発でデビューするならば、アジア第1次予選くらいがいいのかもしれない。相手は非常に体が強かったが、自分もぶち当たるつもりでいたんで、気持ちは負けてなかった」
藤田「0−0では、攻撃陣によってよくなかった、ということ。0点では攻撃云々とは言えないということだと思う。ちょっと慌てていた」
中田「前半はオフサイドを取られることが多かった。見ていて分かるように、後ろ(DF)のボール回しが厳しかった。ベルギーは確かに体は大きく強かったが、強いのは前線(FW)で、後ろは(DF)はそうではなかったのに、それを崩すことができなくて残念だった」
斉藤「森岡とは清水でやっているので、別に問題はない。井原さんには井原さんの良さがあって、森岡には森岡の良さがあり、そういう形になったとしても状況を判断したい」
井原「0点に抑えたのだから、評価ができるのではないでしょうか。自分のことは(昨年6月3日のユーゴスラビアとの親善試合以来のAマッチ不出場、この時は怪我)気にしていない。次に出られるようにベストをつくせばいいだけの話」
柳沢「今日は集中力があった。積極的だったし、心の中での余裕があった。こういう積極性を大切にしたい」
川口「前半はベルギーの上手さが上回った。高さは何ともしようがないので、制空権を自分が取れるように、ゴール前のハイボールやクロスボールに対しては早めに、そして慎重に対応したことが0点に結びついたかもしれない。(エジプト戦以来の代表マッチに)今日は自分でもとても楽しみな感じでした」
服部「(右からのセンタリングに)びっくりした。右足だったね。自分でも驚いちゃったけど、俊哉(藤田、ゴール前にいた)も、もっと驚いたらしい。監督には、名波を攻撃に出せという指示を受けた。あれで少しは攻撃のリズムが生まれたような気がする。次は左から上げます」
「これが本当の怪我の功名?」
後半から投入された柳沢が、決定的なシュートを打ち、またチャンスを作るなど前線での攻撃に厚みを持たせた。監督もこの動きには十分に満足をしたようで、「彼を投入してからは、全体に攻撃にも守備にも深み出たのではないか。昨日のトレーニングでも非常によかったので、今日使ったことで、自信を持てたはずだ」と手放しで評価した。
また、中山の怪我の回復ぶりを待たねばならない、という前提ながらも、「柳沢を南米選手権に連れていかないというわけではないし、もしかしたら連れていくかも」と、思わせぶりながら、6月下旬からの南米選手権(パラグアイ)への選出を示唆した。
チームメイトも、柳沢には高い評価を与えている。後半28分には、右サイドラインのぎりぎりで相手DF2人とボールを競り合いながらこれを奪って、ゴール前へ。そこから突破をして、シュートまで1人で持って行った。
こうしたキープ力、突破力、あとは、経験をベースにした相手との駆け引き、この3つを代表のゲームで表現できれば、FWでは、頭ひとつ抜き出ることができるのではないか。
「今日は、気持ちに余裕があった」と、左足のアイシングをしながら、試合後も落ち着いた様子で話していた。
南米選手権へのテストに「合格印」を押されたことについては「南米でも、五輪でもどちらでも決められたところでがんばるだけです」と、香港での予選、日本ラウンドと、中田と同様、こちらも常にスクランブル態勢を敷くことになりそうだ。
柳沢はAマッチに4試合目の出場。これまではなかなかアピールする場面がなかった。今回の代表のFWは中山雅史、城彰二と辞退者が相次いで回って来た「出番」だっただけに、日本代表にとっても、本人にとっても、まさに「怪我の功名」とでも言うべき、大きな収穫となった。
「サンドイッチ食べながら見てる、とは」
監督は試合後の会見で、「(この試合がよくなかったのではという声について)点が入らなかったけれども、価値のある0−0であった。選手交代にしても、どういう状況で、いつ誰を使うのか、奥のことも前半から、彼(などのアップ選手の)のエンジン音を聞いているんだ。観客のみなさんのように、ビールのみながら、サンドイッチをつまんで試合を見ているいるわけではないんで」と、ジョークを交えながら話していたが、それだけ機嫌もよかったということだろう。
報道陣に対しても、常に強気の監督にとっても、W杯に5大会連続出場するベルギーとの引き分けは、収穫であり手応えになったようだ。
もっともビールを飲もうが、サンドイッチを食べようが、全く問題はないのだが、報道陣でもやはり上から見ているだけで分からないことも多々ある。
例えばこの試合、ベルギーは非常に大きく見える。平均身長で176センチ(日本)と184センチ(ベルギー)、体重でも71キロと76キロ。かなりの差が、目でもわかる。
しかし、試合後、選手たちがロッカーから出てくると、伊東、斉藤、森岡、名波らがみな、ひざや足首ではなく、「首」にアイシングをしている。試合中、ベルギーの意図的な空中戦に、この日の日本は、とにかく「飛ばされた」といえる。そんな中で、首にかなりの打撃を受けることも多く、半ばむちうち的な症状になっていたからである。
この試合最初の空中戦で、秋田が跳ね飛ばされた。「秋田が飛ばされたのは、もうずいぶんと見てなかったね」と服部もそのシーンを振り返っていたが、やはり、それだけ「強い」相手だったということである。
斉藤も、「前半は、(終了の)ホイッスルが待ち遠しかったですね」と試合後、完封したことにほっとした様子だった。
しかし、そんな中でも、決してそれを避けるのではなく、うまく交わし、時には勝負しながら耐えた点は、高く評価していい。
もちろん、中田が指摘したように、「強いのは前だけで後ろはなかった」と、詰めの甘さはあった。守備でも、ボール回しが安定しないことから、再三中盤でボールを奪われてしまい、ピンチを自ら招いた。
ブラジル戦でも同様だったが、レベルダウンはすぐに目に見えて分かるのだが、逆にレベルアップというのは目に見えにくく、進歩もはかりにくい。
「過渡期は難しい」
進歩と同時に、今、日本代表の置かれているのは「過渡期」というもっとも厄介な時期である点も見逃せない。トルシエが指揮をとってからの3試合、すべて多少違うメンバー、多少違うシステムで、監督は、米国W杯の後のファルカンとはかなり違って、緩やかな世代交代と、システム変更、を試みている。
井原はこの日先発ではなかったが、しかし、森岡がこれに変る存在、というところまでは行っていない。
中盤も、山口素弘(名古屋)が選ばれていない代表で、名波、中田と、綿密なコンビネーションを組むこともまだできていない。この日出場した藤田は「チームで一緒にやっているから、慣れているから、といって、代表でうまくいくわけではない。今日は、中盤の攻撃にもまったくタメができずに、すべて1本調子に終わった」と、反省ばかりを口にしていた。どこか慌ててしまった試合運びの印象は、選手も十分に分かっている。
FWも、柳沢は確かに収穫だったが、それでも、はたで見ているように「ベテランより、若手がいい」といって、すぐにとっかえひっかえできるものでもない。「この半年、あるいはこの1か月(南米選手権まで)が勝負になる。2002年にはもっとも大切な時期」と監督は話す。
誰が、どう使われ、何を求められているか。
見どころは、勝敗だけでは決してない。
トルシエJAPAN、これまでの先発メンバー |
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