1999年3月31日

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キリンビバレッジサッカー'99
日本×ブラジル

(国立霞ヶ丘競技場)
キックオフ:19時06分、気温:13度、
湿度:57%、観衆:53,903人

日本
ブラジル
0
前半 1 前半 1
2
後半 0 後半 1
 

アモローゾ:12分
エメルソン:48分

 日本代表は、'97年以来2年ぶり通算5度目の対戦での初勝利を狙ったが、前半、後半とそれぞれ得点を許し、0−2で敗れた。
 トルシエ監督は、'98年フランスW杯代表に、GKに下田 崇(広島)、MFには田坂和昭(平塚)と新メンバーを起用。前半15分までは、ブラジルの攻撃をディフェンスラインが上手くコントロールしていたが、12分には、中盤でボールを受けに入った名波浩(磐田)が連携ミスからパスを奪われ、元川崎のアモローゾが持ち込んでシュート。完璧な個人技に先制点を奪われた。
 後半開始3分には、リバウドからのコーナーキックに一瞬マークが外れ、このチャンスにエメルソンが頭で合わせて2点目を奪われた。後半には井原正巳主将(横浜M)に替え森岡隆三(清水)を、中山雅史(磐田)に替え柳沢敦(鹿島)といった若手を投入したが、最後まで局面を変えるまでには至らずに終わった。

トルシエ監督「試合の感想は2つ。ひとつは、日本とブラジル(1位)の差がランキングそのままにあるということ。もう1点は、そういう中にあって、我々がいかに連帯感を持って、コンパクトに、そして頭を使って試合を進めたか、それを強調したい。この試合に関して我々が恥じなければならないようなことは何もないし、選手の取組み、戦術的なアプローチ、彼らの態度、どれも素晴らしかった」

ルシェンブルゴ監督「いい試合ができた。アジアへの遠征での2試合は、選手にとって楽なものではない。しかし、韓国で負け、日本に負けることは許されない。試合は2−0だが、監督として見た内容はもっと近かったと思っている。日本のDFはクレバーである」

名波 浩「(前半、失点の要因となってしまったパスミスについて)オレが悪かった。不用意なプレーだったし、あれがどんなことになるのかは、わかっているはずなのに非常に悔しい。ブラジルがどうのこうのではなく、単純なミスや判断の遅れから、チームの足を引っ張ってしまったと思う」

中田英寿「全体的に下がり過ぎていたと思う。あの状態ゆえに、攻撃で前を向いてプレーをできる回数が極端に少なくなってしまったのではないか。エジプト戦のことは(昨年10月)覚えていないが、もう少し攻撃での結果を出したかった」

柳沢 敦(後半27分から出場)「(途中から柳沢コールが沸いたのは)聞こえていましたし、期待されているのがうれしかった。出た時間内では十分にやった。監督からは、腕を使って体をしっかり張ったプレーをしろと言われた」

井原正巳「交代は別に気にはしていないし、監督には若い選手にチャンスを与えたいという意図があったはず。自分たちのディフェンスラインとしては、うまくコントロールができていたはずだった。1点目は仕方ないと思うし、2点目もミスから。完全に崩されたわけではないので、改良点が明らかだ」


「これまでとは次元が違う(もちろん日本の)」

 この日先発でディフェンスに入った斎藤俊秀(清水)は、試合後「今日はブラジルコンプレックスを払拭する絶好のチャンスだったのに」と悔しがった。確かに'89年以来過去4回の対戦(Aマッチ)では、得点わずかに1、失点12と圧倒的な差をつけられている。韓国に敗れた直後(0−1)だけに、チャンスであったことは間違いないだろう。
 この試合、過去とまったく違ったのは、選手全員、日本代表が「ブラジルに勝つ」という意識で戦っていた点である。もちろん、口で言うのではなく、試合運びそのものに、そういった意欲があった点は評価できる。
「これまでならば、世界一のブラジル相手に失うものはなにもない、そういう特攻的な意識でした。でも今日は違う。もっと落ち着いて、全員が頭を使っていた。それは実感した」
 斎藤のこういった感想を裏つけるように、無得点に終わった試合にも、トルシエ監督は評価を与える。試合前のミーティングでは、コンプレックスを抱くことなくプレーすること、頭を使って相手を追いつめて行くこと、これらの確認に指示を出したという。
 監督は、「フランスW杯から日本が何を学び、それをどう実践しているのか、それがこれほどはっきりした試合もない。私は今日、日本代表が過去のブラジル戦とは違った次元でプレーをしていると実感した」と話す。
 失点の場面もミスから招いたもの。1点目は名波と、動きをサポートする側の連携ミス。2点目も相手に奪われたコーナーキック。井原、秋田が指摘した通り「問題点」は明らかである。
 Jリーグなら帳消しにできるミスも、ブラジルや世界のトップクラスとの対戦では高い対価を支払うことになってしまう。
 こんな当然のことを知るのが第1段階、それを体で実感するのが第2段階だとすれば、日本は第3段階へ進んだことになる。
 残念なのは、それは外から見ている者にはなかなかわかりにくい、ひどく細かく、しかも形になりにくい「戦果」なのだということだ。
「単純に比べられるものではないのはよく分かっているが、正直なところ、日本戦の方がひどく神経を使った」と、ブラジルの10番リバウドは試合後コメントした。
 この試合のために積んだ練習はわずか3日程度。しかし、下田、森岡、柳沢が溶け込んでしまうようなキャパシティ、相手に全力疾走で突っ込んでいかないキャパシティ。以前の日本代表には、こんな面はなかった。


「MVPは中山」

 トルシエ監督は、「私にとって今日のビッグプレーヤーは中山」と手放しで褒め称えていた。前半から前線で積極的にボールを追い、しかも守備ではペナルティエリアから攻撃に転じるなど、すさまじい運動量を見せた。
「まだまだミスが多い。1プレーの精度が悪いですね。ヒデとのコンビネーションというよりは、もっと全体的なボールの受け方、さばき方、間合いなどをしっかりしたい」と、試合後には反省ばかりだった。
 この日は後半37分で、井原、中山の30歳コンビがピッチからいなくなった。若手へのチャンスを与える目的ではあったが、そんな遠まわしな言い方をされなくても、安穏としていられないことを、2人は誰よりも分かっているようだ。


「トルシエ去就問題、1日決着か」

 今日1日、ナイジェリアに出発する日本代表ユースにトルシエ監督は同行しないことが明らかになった。1日には協会幹部との緊急ミーティングを行うためで、今回の予防接種問題が未だに尾を引いて、釜本副会長の発言で亀裂は決定的になったようだ。 
 監督は「1日には休む(ミーティングのこと)。しかしナイジェリアには行くし、協会内部のことは私には分からないが、私と協会、私自身には何の問題もない。すべて解決しておりハッピーだ」と、通訳は、トルシエのフランス語のコメントを英語に訳した。
 しかしどうやら、今回の予防接種問題、そこから派生した釜本副会長のトルシエ否定発言には、監督も激怒。協会に対して発言撤回と、謝罪を要求したとも言われる。関係者によれば「私は日本でこれ以上仕事をすることに自信が持てない」とすでに発言をしたともされる。協会の依頼で日本に招聘され、しかもその時の責任者は強化担当理事の釜本副会長である。それを、身内から批判されるのは理屈が通らないからである。「彼らは全面支援を約束してくれている」と、これもまた「通訳」が明言したが、今日のミーティングの結果がどうなるか。さまざまな相違点をぶつけ合い、どこかで接点が見出せるのか、それとも、このまま最悪の事態にまで発展してしまうのか注目される。


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