2002年4月17日

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キリンチャレンジカップ2002 チャレンジ2
日本×コスタリカ
(神奈川・横浜国際総合競技場)
キックオフ:19時21分、観衆:64,783人
天候:曇り、気温:23.6度、湿度:60%

日本 コスタリカ
1 前半 0 前半 0 1
後半 1 後半 1
70分:明神智和
 
パークス:77分

<交代出場>
●日本
 26分:森島寛晃(小笠原満男)
 29分:柳沢 敦(西澤明訓)
  H T :福西崇史(市川大祐)
 80分:服部年宏(三都主アレサンドロ)
 81分:波戸康広(明神智和)
 82分:中村俊輔(宮本恒靖)
 87分:久保竜彦(鈴木隆行)
●コスタリカ
  H T :マドリガル(マリン)
 67分:パークス(フォンセカ)
 67分:ロハス(ロペス)
 76分:サンチェス(センテノ)
 76分:バジェホス(ウォラス)
 85分:ブライス(ゴメス)
 ワールドカップイヤー3戦目となるキリンチャレンジカップ2002コスタリカ戦がこの日、ワールドカップ決勝戦開催地、横浜国際競技場にて行われた。「国内のメンバーの重要なテスト」と、トルシエ監督が位置づけた試合は、「試してみたい新しい選手」(監督)としていたサイドの三都主アレサンドロ(清水)、市川大祐(清水)、中央に小笠原満男(鹿島)を先発で起用しスタートした。

 小笠原は序盤から積極的に動き、サイドにボールを供給しようと試みるが、コスタリカのオーソドックスな守備にボールコースをふさがれ、なかなかタイミングがつかめない。しかし7分には、柳沢 敦(鹿島)から小笠原とつないでこの試合初めてのシュートを放った。さらに9分には、コーナーキックから三都主、市川、また小笠原とシュートに持ち込むが、これも枠外へ。日本は左サイドの三都主からの突破で再三チャンスを作るが、柳沢がゴール前に飛び込む絶好のチャンスも決められず、試合の中盤に入った26分、小笠原はテストとされていた重要なゲームで森島寛晃(C大阪)と交代。また28分には柳沢が西澤明訓(C大阪)と交代し、前半で大きなテーマを失うという試合展開となってしまった。

 前半は無得点のまま、後半開始に市川を福西崇史(磐田)と代え、右のアウトサイドには前半ボランチをこなした明神智和が入った。そして後半開始から7分、サイドを突破されるとDF中田浩二(鹿島)がペナルティエリアで不用意なファールで止めようとし、コスタリカにPKが与えられる。しかし、GK楢崎正剛(名古屋)が足で止めるファインセーブを見せ、これをしのいだ。この直後の54分、55分、左から三都主が連続して絶好のセンタリングを鈴木隆行(鹿島)に上げるが、鈴木は2本のヘディングをともに外し、その後、59分にも、またも三都主からゴール前に絶好のボールが折り返されたが、鈴木の目前でDFにクリアされた。日本は試合が大きく動いた数分を活かすことができなかった。

 迎えた70分、右サイドから明神がボールを中に入れようとセンタリングを上げたが、これが風のためかGKの上を抜けてゴールの左隅に。決めた明神も苦笑いをするゴールで、待望の先制点をものにした。しかし、77分には、交代したばかりのコスタリカ、パークスにゴールを奪われて同点に。その後は、服部年宏(磐田)、中村俊輔(横浜FM)、久保竜彦(広島)と、交代枠7人を使い切って選手を投入したが、追加点は奪えず試合は引き分けに終わった。ポーランドではアウェーの厳しい戦いを制しながら、ホームのこの試合では、コスタリカの典型的な「アウェーの戦術」に翻弄される結果となってしまった。

トルシエ監督(抜粋)「スタートが悪かった。でも、そのあたりの説明はつくでしょう。新しい選手が入り、お互いの理解度がまだ高くないなかで、今日の試合は学ぶことがあった。いい日ではなかったと思うし、“和”とか“決め事”がうまく徹底していなかったと思う。とは言うものの、私の選手たちは非常に強い意志を持ってトライしていたし、判断力を持ったいいプレーをしていた。(2人の交代について、聞かれ)まさに、それだと思う。選手個人の質がどうということではない。小笠原はポジションが低すぎたし、攻撃に絡むことができなかった。しかし、そういう選手だということは初めからわかっていたわけで、わかっていながら選んだ私に責任がある。柳沢は、今日はやる気がなかった。あんまりプレーをしたくなかったんじゃないか。市川は、彼のスペースが足りなかった。そのために後半、明神に代えた。後半の最後のようなプレーができていたら、もっと違った試合になっていたかもしれない。いずれにしても、個人としても組織としても、学ぶことがあった。(今年3試合目で初失点となったが、と聞かれ)非常にいいことだと思う。自分たちにもこうしたことが起きるんだ。私たちが常に言っているラボ(実験室)のいい形だと思う。今日はどのような形でボールをつなぐか、新しい構成の中でそれを試すことが重要だったわけで、決して個人の資質を確かめるということではない」

コスタリカ/ギマラエス監督「なかなかいい試合だったと思う。見に来てくれたみなさんには満足していただけたんじゃないか。私たちコスタリカにとって、非常に重要な試合だった。今日は初めて試す選手が7人ピッチにいた。しかし今回、新しいメンバーを7人入れながら、コスタリカとしてのサッカーを最後までつなぐことができた。非常に満足している。日本は個々のことはともかく、組織が非常にしっかりしていると思った。いずれにしても、代表のことはその国の監督が話すべきで、私たちは大きな目標を果たした。つまり有効にこの試合を使い、ワールドカップに準備するという目標を果たしたことになる。ワールドカップでもう一度、日本と対戦できれば非常にうれしい」

70分、明神智和のゴールで日本が先制
明神智和(柏)「あれはたまたまですね。はい、クロスでした。試合そのものについては結果が出せなかったことが悔しい。自分たちの形を作ることもできなかった。右サイドに出た後半は守備をメインに中をカバーしろという指示だった。もっとやらなくちゃいけないと思いながら時間を過ごしてしまいました。(トルシエ監督のプランでは先発の次のグループだと言われていたが)誰だって最初は先発を目指すに決まっています。僕もそのつもりでやっています」

柳沢 敦(鹿島)「ミスが続いたんで(監督が)気にくわなかったんでしょう。いろいろな思いはありますが、しなくちゃいけないことができなかったことは確かです。(監督が疲れていると言っていたが、と聞かれ)僕自身、疲れているとは思わなかったけれども、監督がそう思ったのならそうなんでしょう。コスタリカは組織が非常によく、厳しかった。しょうがないです。またがんばります」

52分、コスタリカのPKを好セーブした楢崎正剛
楢崎正剛(名古屋)「(PKを止めたシーンは)ボールとか、軸足とか、しっかり見ていた。跳んだ方向にボールが来たので足を出して止めた(読み切っていた)。相手のシステムとかいろいろな影響があるとは思うが、確かに立ち上がりはよくなかった。でもサッカーは完璧にはいかないから。これを教訓に、また修正していかなくてはいけない。(強風の影響はあったか、と聞かれ)そうですね。もともとここ(横浜国際総合競技場)は風の舞う場所ですから、注意はしていました。でも今日はいつも以上にハイボールの処理とかに神経を使ったつもりです。明神のゴールが決まったのを見て、自分にも起き得るなと思いました。集中して試合を最後まで終えることができた。それは今日の上手くやれた部分だったと思う」

市川大祐(清水)「とにかくスペースがなかったです。ディフェンスラインに入って守ったり、中に絞って行ったり、コスタリカが非常に上手いポジショニングを取っていた。ディフェンスと中盤の間、中央とサイドの間など(サッカーで言うところの)門に入る選手がいて、とても上手いと思った。自分としては後半代えられたことは仕方ないと思う。試合開始前からみんなでしっかりやろうと気合いも入っていたけど、立ち上がりがよくなかった。こういう試合というのもあるのだと勉強になった」

森島寛晃(C大阪)「(前半の早い時間に交代したことについて)みんないつでも行けるように準備はしているので、そう問題はなかった。(1本大きなチャンスがあったが、と聞かれ)あれをもっと押さえて、決めて行かなくてはいけないと思う。今日はフォワードが前線でよく競っていたので、そのボールがこぼれたところをしっかり拾っていこうと心がけていた」

西澤明訓(C大阪)「試合を外から見ていて、確かにリズムがよくないなと思っていた。ただ、柳沢と小笠原が個人的に悪かったという印象はない。もちろん準備はしているけれど、“アッ!?”と思いましたね。三都主とのコンビはとても楽しい。飛び込めばボールが必ず来る。プレーもシンプルだし、1対1になったときに安心して自分が飛び込んで行ける感じがする。ダイビングシュートはいい感じだったんですけれども…。コスタリカのサッカーは南米に近いと思います」

宮本恒靖(G大阪)「(ディフェンス)ラインのギャップがどうして生まれてしまったのか、今はわからないのであとでビデオを見てしっかりと研究したい。ただ、ディフェンスでやられた場面というのは、前半、ヘッドで折り返されたところだけだった。今年3試合目で(初めて)1点を取られたといっても、もちろんこういう試合もあるでしょう。このあと、どうしたらいいか、しっかり修正できるように研究したい。コスタリカは非常にいいチームでした」


「テスト疲れ」

注目の左サイドに先発出場した三都主アレサンドロ
 はるか昔の話になるが、1学期の間に行われるテストは、中間と期末試験だった。それでも、テストと言われる度にドタバタしたものである。これが、高校3年のときなど、実力テストといって、ほかの試験も入ってくるからとんでもない騒ぎだった。日頃から真面目にやっている親友は、「普段通りでいいのよ。勉強時間だって同じだし」と、ノートを余裕たっぷりに貸してくれたが、こちらは普段通りではもちろん「よくない」ので、集中力と一夜漬けいう切り札を使う。ところが集中しよう、集中しようと思うと、なぜか、非常に疲れて寝てしまう。

 この日、日本代表の久々のスロースタートぶりはおそらく誰にも原因がわからなかったのではないか。手を抜いたわけでもなければ、サボったのでもない。体調が非常に悪いはずもないし、戦術的な変化があったわけではない。ポーランド戦での、目の醒めるような立ち上がりと比較すると、まるで別人のようである。
 両国とも「テスト」の試合だった。しかし違ったのは、テストの種類だ。
 コスタリカは、期末試験1本にかけるかのような「テスト」で、日本は、実力試験を繰り返される「テスト」だったということだ。同じ試験でも、新鮮さが違った。監督が自ら説明した「個人的に誰がどう悪い、ということではない」という通り、1か月で3試合の重要なテストに心身とも、個人も組織も見えないところで疲れ果てていたのではないかと思う。
 激しい競争は、確かにいい効果をもたらすこともあるが、一方では、選手が戦うべき相手が目前のライバルやサッカーではなく、自分への評価になってしまうことになる。
 25分ほどでの交代は、この日のテスト問題、つまり「いろいろ試してみたい」としていた問題が、が突然変わってしまったようなものだった。監督も、「なぜああいうことになるのか、理解しなくてはならない」と話していたが、おそらく普段とはまったく違った選手たちの立ち上がりに首をかしげたのだろう。
「5月21日に向けて、さらに激しいプレッシャーを選手にかけていく。それがこのチームの大きな力だ」と会見で発言したが、組織にも、選手個人にも、かけたプレッシャーと同じだけのストレスがかかることもまた、チームスポーツの難しいところかもしれない。

 左サイドのテストについては、三都主が、鈴木、西澤とともに太いラインを形成し、ひとつの回答を自分たちで見つけたはずだ。三都主はウクライナ戦後、「自分をアピールするという考えではダメだと思った」と話していた。この日は、「いいボールを出すことを心がけた」と、自らが解こうとした問題を説明する。森島が、ウクライナ戦とは違って、縦の動きではなく、右に右に、人を連れ出す動きによって、三都主に有効的なスペースを与えたことも高く評価されるものだった。
 一方、守備では、「4バック」と、ボランチを含め6人での守備を見せるなど、これまでとは違ったテストが行われていた。コスタリカにサイドを再三割られたことを考えるとき、これがこの試合限定のものか、それとも、オプションなのか、キリン杯でわかるはずだ。

 5月21日までテストが続く。学生時代と違うのは、テストの後にこそ、本物の「勝負」が待っているということだ。


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