2001年11月7日

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キリンチャレンジカップ2001 国際親善試合
日本×イタリア
(埼玉スタジアム2002)

天候:晴れ、気温:12.2度
観衆:61,833人、19時20分キックオフ

日本 イタリア
1 前半 1 前半 0 1
後半 0 後半 1
10分:柳沢 敦

ドニ:51分
 

先発メンバー
<交代出場>
●日本
HT :鈴木隆行(高原直泰)
HT :中田英寿(森島寛晃)
66分:西澤明訓(柳沢 敦)
69分:服部年宏(小野伸二)
73分:明神智和(波戸康弘)
75分:稲本潤一(伊藤輝悦)
87分:中山雅史(鈴木隆行)
●イタリア

HT :ザネッティ(ディビアジョ)
HT :ドニ(トッティ)
57分:デルベッキオ(デルピエーロ)
66分:ココ(バンカロ)
87分:フィオーレ(F.インザーギ)
89分:ディリービオ(ドニ)
 2001年13試合目となる、今年最後のAマッチに挑んだ日本代表は、W杯3度の優勝経験を持つイタリアに対して1−1と引き分け、これで今季ホームでは9戦で6勝1敗2分けと「W杯の初戦」と位置付けたトルシエ監督の意図通り、ひとつの成果を収める結果となった。
 日本は、97年フランスW杯のアジア予選ウズベキスタン戦以来となる中田英寿(パルマ)のベンチスタートで試合に臨んだが、前半10分、柳沢 敦(鹿島)が、稲本潤一(アーセナル)が中盤から奪ったボールにダイレクトで合わせ、右足アウトからそのままゴール。喉から手が出るほど欲しかった先制点を奪って、来日わずか24時間でピッチに立ったイタリアの悠長な出足に火をつけた。激しいプレスと球際での応酬が続く均衡した中、その後も、前線でのキープ力の高い柳沢、高原直泰(ボカ・ジュニアーズ)のコンビが機能し、トップ下の森島寛晃(C大阪)が早い動き出しから再三のチャンスを生み出す。守備では、松田直樹(横浜FM)を欠いた穴を、ナイジェリア戦ですでにテストしていた宮本が入ることで埋めて、トッティ(ASローマ)、F.インザーギ(ACミラン)、デルピエロ(ユベントス)と3人の速い攻撃を凌いで、前半はリードして折り返す予想以上の展開となった。
 後半、中田英寿が入り、中盤のキープ力には安定感が生まれたものの、セットプレーからのゴール前での混戦で、6分には交代したドニ(アタランタ)にミドルシュートを決められて同点とされる。しかし交替枠7人のルール最大限に、高原に代えて鈴木隆行(鹿島)、柳沢と西澤明訓(ボルトン・ワンダラーズ)、鈴木と中山雅史(磐田)とFW全員を投入。小野伸二(フェイエノールト)、稲本潤一(アーセナル)も交替まで高いパフォーマンスを見せた。

 この日、イタリアチームは宿泊していた千葉からさいたま市まで、移動のために渋滞で足止めをされ(ちなみにパトカーでの先導がありながらも動けなかったほどの渋滞)、じつに1時間55分かかって、試合開始1時間前ギリギリに入場。選手たちも疲れきった表情で「前半はほとんどサッカーになっていなかった」(カンナバロ/パルマ)という状態。後半に入ってようやくエンジンがかかり始め、日本のバックを速いパスと出だしで翻弄する場面が続いた。

 日本のGK陣ではアクシデントが続き、楢崎正剛(名古屋)が午前中の練習で右足首を捻挫、2週間の怪我のため離脱し、川口能活(ポーツマス)も痛めていた足をさらに悪化させて、急きょ南 雄太が柏から招集して挑む緊急事態となった(G大阪の都築は物理的に間に合わなかったとのこと)。しかしそんななか、曽ヶ端 準(鹿島)は落ち着いたボールさばきと、さらにはクレバーに時間に緩急をつけて自分たちのペースを保つなど、ハプニングでまわってきた大舞台とは思えない落ち着きでイタリアのシュートを防いだ。さらに日本代表全体が激しい当たりに負けないプレーを全面に打ち出し、戸田和幸(清水)、稲本、高原らがイエローをもらうなど、ファールギリギリでのプレーでイタリアに対抗した。
 試合は結局、後半そのまま動かずドロー。しかしトルシエ監督は「W杯の勝ち点にふさわしい」と収穫を誇り、これで「新たなステージに入った」とした今年の代表の日程はすべて終了した。12月1日には韓国のプサンで抽選会が行われる。

トラパットーニ監督「今日のドローには非常に満足している。私たちにとっては短い48時間だが非常に有意義で、試合だけではなくさまざまな点で(下見の意味で)満足ができるものだ。願わくば、もう少し多くの点を取ることができればと思うが、しかし、これは贅沢というものだ。後半交代で投入したドニ、ザネッティの働きも私は満足している。日本は技術、スピードともに持っているチームで、今日は特に地元ホームということもあってチャンピオンゲームにふさわしいすばらしい戦いができたと思う」


トルシエ監督
「W杯への通過点として通らねばならない大きな試験だった。あと7か月後の大会に向けて、このメンバーでチャレンジできるのか、この体勢で挑めるのかといった重要なテストで、目標は達成できたといえる。内容にも十分満足している。先制したことで、イタリアも試合を最初の状態に戻さなくてはならないという展開になったし、親善試合とはいえ、内容は随所でW杯の匂いが漂うものだった。日本はイタリアというすばらしいチームを相手にドローゲームをすることができた。
 中田英寿については、なぜみなさんがそう中田、中田と肩を持とうとするのかわらない。中田がいる、いないはそれほど気にすることではないし、中田はまだ若い。膨大なポテンシャルを持った選手であることは間違いない。しかし今回はものの流れ、これまでこのチームでやってきた継続性、ロジックを重視してこういうこと(先発を外れること)になった。しかし後半、彼を投入して非常にいい形になったし、彼はフィジカルでの十分な力を見せてキープでもいい仕事をした。十分に満足している。
 今後は、25人のグループに3人(名波 浩、アレックスの名前は挙げた)が欠けている状態だが、ほぼチョイスは出来上がっている。席はもうないといっていいと思うし、3月くらいからアクセルを踏むことになるだろう。中間試験として非常にいい出来だった」

小野伸二(フェイエノールト)「イタリアでもどこでも、こうして組織をしっかりとしてみんなで戦えば勝つことができるし、僕は周りの選手が有名だと聞いていても(オランダにいるから)全然知らない分、ビビることがなかった。後半、ヒデさんが入ってからは、もうお願いします、という感じで、(キープを)全面的に頼んで自分が動くこともできた。今年最後の試合としていい結果になったと思う」

稲本潤一(アーセナル)「アシストでは柔らかいいいボールを出すことができました。戸田とボランチを組んでからは、非常にいいコンビでプレーができるようになっている。前に出ての守備もうまくできている。今日はトッティがまったく守備をしていなかったので、自分へのプレッシャーはなくてプレーができた。シャツを引っ張ったり、これはイングランドで経験しているよりも多かったと思う。(ネスタとやりあったが? と聞かれて)名前と顔が一致してなくて……。とにかく90分集中してやれたのがよかった」

高原直泰(ボカ・ジュニアーズ)「積極的なプレーを心がけたし、前半、それをああやって表現できたことは、今年最後の試合としては満足できる点だった。当たりにも負けることなくプレーができたし、さらに成長をしたいと思う。今後は代表の試合もないので、ボカのゲームに集中できる。それでまたひとつ上を目指していきたい」


柳沢 敦
(鹿島)
「今日は楽しくやることができて、自分自身でも満足している。監督からは高い位置からボールを奪って、それを攻撃につなげろという指示が出ていたし、チームとしてもそういうふうに臨んだ。その点はうまくいったと思うし、高い位置で奪えたからFWとしてはやりやすかった。イタリアのDFは、ビデオで見て前に強いという印象があった。実際に対戦してみても強いと感じたので、自分としては裏を狙っていた。
 得点については、どんなゴールでも1点は1点だから、ほかの得点と変わらない。あれは稲本のパスのおかげでしょう。フィジカルコンタクトは、もちろん強かったけれども、日本も負けていなかったし、僕自身も負けてはいなかったと思う。セリエAは日本でもおなじみのリーグだし、僕自身もすごく知っていたリーグなので、興味はあった。今日はテレビでいつも見ている選手と同じピッチで試合ができたことは嬉しい。(今日先発で2トップを組んだ高原については)僕の口からコメントすべきことはないが、同じチームメイトとして大切なパートナーだと感じている」

Jリーグ川淵チェアマン「イタリアが昨日着いたばかりであっても、さすがに点を取ることは非常に難しいチームだと試合前には思っていた。どうであれ、1点を取ってくれればなあと思っていたら、先制点を柳沢が取ってくれた。稲本、柳沢、非常に素晴らしいプレー だった。ただ全体的には、安易なパスミスや判断の遅れ、ちょっとしたボールの扱いのミスが目立つ場面もあった。これはイタリア戦であれば、これではすまされないという話になるが、Jリーグでもこうした厳しい経験を身をもって示してほしいと思う。 中田はおそらく調子が悪いんだろうなあと思うが、早く自分の自信を取り戻してやってほしい。 それができる選手だから」


「勝ち点1、プラス」

 試合後のミックスゾーンは、インタビューを受けている選手、コーチ陣の声がすべて入り混じってしまい、まったく声が聞こえないほど雑然としていたが、トルシエ監督の声はこれまでにないほど落ち着いていた。
「私のチームが勝利したことを、これでようやく証明ができるのだと思う。私たちは予選リーグに挑むための勝ち点1をまずは手にすることができた。あとはプラスを積むだけだ。本当に満足しているし、これからあとは、もはやフィリップ・トルシエがどうのこうのというのではなくて、彼らが踏ん張らないといけないだろう。私ではなくて選手の半年になる」
 選手に下駄を預けたとも解釈できるが、ここまで3年をかけて築いてきた基盤工事の、本当の意味での終了を表現したものだろうか。アウェーでの戦い方とホームでの緩急、あるいは戦術の変化、フラット3への補充オプションの有無、攻撃パターン、セットプレーの確立など、無論、消化できなかった「中間試験」(監督)もある。一方では、25人のメンバーに向けての大枠は完全に決まったといえる。
 中間試験となった、あるいは最終試験でもあるかもしれなかったイタリア戦では、個人の力、組織力その両方でそれぞれが高得点をマークした。

 個人の能力のレベルアップに挙げられる筆頭は、稲本がこの日見せたプレーだった。この日の「MVP」である。
 3月、サンドニでフランスに惨敗したとき、稲本は監督にこう忠告を受けている。
「もっともっと激しく、なぜあのフランスを相手にしながらイエローをもらってでも倒すとかDFの価値を示さないのか」
 稲本はその後、アーセルに移籍。激しさという言葉の意味を練習から体験しているとこの日も話している。
「試合に出ないことでの焦りも不安もありません。練習だからといって、何かを得られないわけではないですから。練習から本気ですしね、彼らは。イタリア相手にもそれほど(フィジカルの)プレッシャーも感じていませんでした」
 稲本、戸田の「ボランチ」2人が、中盤の速い地点からプレスをかけ、前半ならばトッティの動きに必ず一手間かけた。戸田も、スペイン戦で体調不良による「幻の先発」以後、よく踏み堪えて代表の先発に定着してしまった。これもまた個人能力のレベルアップにおけるシンボルになる。

 組織では監督が言う守備力が挙がる。松田がいないこの日、監督は朝、宮本、戸田、森岡隆三(清水)と話したという。松田のところに普通に入れるならば宮本である。しかし戸田をセンターバックに入れることもオプションとしていた。
「戸田に話をするとすぐに、ちょっと違いますね、という返事だった。次に宮本は非常に強い意志を持って、このポジションに挑みたいとしていたし、森岡は経験から非常に柔軟に対応できると話してくれた。その結果の選択だ。私のチームの特徴は誰が出ても同じにプレーをできる点にある。この1年、こうした組織での力は強い結束を見たと確信している」

 監督の言葉通り、別のハプニングも組織力で乗り越えた結果として試合を左右するものだった。GK楢崎、川口がともに当日午前の練習で怪我をしたために離脱せざるを得なくなり、第3GKの予定だった曽ケ端がスタメンに起用された。
「緊張しないといえば嘘になりますが、それでもこれまでやってきたことは無駄ではなかったと思う」
 イタリアの放った13本ものシュートを防いだ試合後、大役を果たし曽ケ端は話していた。本番を想定するならば当然、この試合運びでは不十分で、特に後半に見られたように守備ではオフサイドをDF3人が1回でとろうと手をあげてしまい、結果的には抜かれているケースが5つもあった。決定力があれば、試合はそこで終わってしまうともいえる。13試合をどう評価するか、これは詳細な分析が必要となるが、少なくても、選手の個人レベルのでスキルアップと、組織力の充実は、当たり前のようで難しい課題だったが、見事にクリアはしたのではないか。


「大人になるべきは監督かそれとも選手か」

 97年11月、当時のW杯予選ウズベキスタン戦で先発を外れて以来の中田英寿の先発落ちとなった。
 トルシエ監督は中田をも特別扱いしないと話し、ついに先発落ちの実力行使に出たが、原因には、やはりコンフェデレーションズ杯での(決勝をめぐる)軋轢がいまだ尾を引いている。「それはもう終わった」と、強化推進本部・副本部長の木之本氏は言うが、一方ではこの日の朝、中田本人と同氏が話したことも明らかにした。木之本氏はそれまで中田に対して「大人にならなくては」と言っていたが、むしろ中田が大人であることを確認したともいう。
「一般的にいってチームに対する話を聞きました。中田は非常に大人だなあと感じるものがあった。W杯に向けて一丸とならなくてはいけないし、同じチームだから今後も1対1で話し合うだろう。ただ監督は監督、選手は選手、この差はどこまでも縮まらないだろう」と、中田に折れてほしいといったニュアンスをにおわせた。
 監督の中田への対抗心はじつに細かな点にまで及んでおり、どこか子供じみていることも多い。中田にとっての凱旋ともいえる状況下での試合における先発落ちは、コンフェデ決勝での感情的もつれをそのまま引きずるかのようでもある。
 もちろん、大人になるべきは監督であって、選手ではない。選手が13試合で残した結果と積み残し同様、監督も再考すべき点は無論ある。監督と中田の件がW杯に向けて、新たな火種をチーム内、選手間に残さなければいいのだが。


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