2001年7月1日

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KIRIN WORLD CHALLENGE キリンカップサッカー2001
日本×パラグアイ

(札幌ドーム)

キックオフ:15時3分、観衆:39,073人
気温:23.2度、湿度:68%

日本 パラグアイ
2 前半 1 前半 0 0
後半 1 後半 0
15分:柳沢敦
50分:柳沢敦
 

<交代出場>
●日本

70分:服部年宏(小野伸二)
78分:中山雅史(鈴木隆行)
87分:伊東輝悦(戸田和幸)
89分:藤本主悦(森島寛晃)
92分:山下芳輝(柳沢 敦)
●パラグアイ
HT :キンタナ(モリニゴ)
55分:クエバス(カセレス)
60分:アマリージャ(サナブリア)
73分:エスコバル(イサシ)
84分:マシ(ガビラン)
 コンフェデレーションズ杯では準優勝を果たした日本は、この大会を2連覇で飾りW杯1年前の足固めとすることをテーマとして、初戦のパラグアイ戦に挑んだ。

 前半は、コンフェデレーションズ杯の布陣とほぼ同じとし、FWには、同じクラブ(鹿島)でのコンビでもある鈴木隆行、柳沢敦を起用。また左サイドにはコンフェデで安定した力を発揮してほぼ定着した小野伸二(浦和)を置いた。中盤には中田英寿(ASローマ)らゲームをコントロールするプレーヤーが不在のために、前線へのボールを預けることができずにバランスをなかなかとれずにいた。しかし小野は、自ら左サイドから攻撃の起点となるようなプレーを選択し、15分には、DFから受けたボールをワントラップで左足に持ち替え、これを40メートル以上の超ロングパスで、前線に走って行った柳沢へ。柳沢はDF一人を背負いながらノートラップでシュートし、これが決まって日本は開始15分で早くも先制点を手にした。
 その後は攻撃は形を作る場面は少なく、プレーが大きく中だるみしたが、DFはパラグアイの攻撃に決定的な場面を作らせずにそのままハーフタイムとなった。

 後半も布陣、メンバーは変えずにスタートし、前半のコンビネーションと流れそのままに、50分には小野が起点となってペナルティエリア付近を中に切れ込んだ柳沢に対して、これを追いかけるようなパスを右足で供給。これも柳沢が右足で決めて2−0と、試合を決めた。

 その後、小野に代えて服部年宏(磐田)、また多くのファールを受け疲労の見えた鈴木と中山雅史(磐田)を交代。終盤には伊東輝悦(清水)を戸田和幸(清水)、藤本主税(広島)と森島寛晃(C大阪)、柳沢と山下芳輝(福岡)をそれぞれ交代、パラグアイから帰国した廣山望(セロ・ポルテーニョ)は起用せずにすべての交代枠を使い切り2−0で初戦をものにした。

試合データ
日本   パラグアイ
6 シュート 13
14 GK 19
2 CK 5
17 直接FK 25
4 間接FK 4
0 PK 0
 柳沢は、コンフェデレーションズ杯でも代表に選ばれながら怪我でこれを辞退している。しかし昨年のキリン杯でもボリビア戦で2ゴールを奪っており、この試合で再び国際舞台での実力を示したことで、熾烈さを増すFWレギュラー争いに改めて名乗りをあげた恰好となった。

    試合後のコメント

トルシエ監督「勝ったということをまずは報告したいと思う。それほどすばらしい勝利だった。コンフェデレーションズ杯があったからこそ、こうした戦いもできたと思う。その意味で、あの試合を戦ったメンバーを構成してそれがしっかりとしたものであるイメージも確認したかった。コンフェデで、あるいはチームに戻ってからのJリーグで、選手はエネルギーを吐き出してしまったのではないかとモチベーションを心配していたが、今日この試合でフィジカル、戦術、技術、モラル、すべてのレベルの高さを確認したことが本当にうれしい」

マルカリアン監督「まず日本におめでとうを言いたい。90分を通じて、勝つにふさわしい戦いをしたのは日本だった。日本のFWにはスピードがあり、1点目はすばらしいパス、2点目は裏を取られてしまった。しかしながら、文句や不平を言うわけではないが、日本の今日のDFはオフサイドトラップを多用し過ぎていたのではないか。オフサイドトラップの多いサッカーは近代的ではなく、ほかのチームと対戦するような場合、おそらく大変だろう」

コンフェデから失点1と堅守の川口能活(横浜FM)「こうした国際舞台ではきっちりと勝って結果を残していくことが大事。チラベルトのフリーキックということではなく、フリーキックを危険地帯で蹴らせないようにすることは守備では重要ですから。日本は全体的に非常によくなっているし、守備の対応力もある。戦う集団として機能していると思う。(自らの移籍について)どんな環境でも同じですし、自分のできるプレーを精一杯するだけです。ドームは慣れの問題だけです。今日は問題なかった」

2アシスト、左サイドでの出場も安定したプレーを続ける小野伸二(浦和)「1点目は狙ってました。2点目は、もっと自分が中に切り込む動きをするように言われていたのでやってみたところ、うまく得点になったのがよかったし、ヤナギさんがすばらしいシュートを打ってくれた。1本目は自分では長すぎたと思いましたが。これまではパスで得点に絡めばいいと思いましたが、これからはもっとドリブルも増やして積極的にプレーをしていきたい。(試合前の)君が代では緊張して、最初のトラップはミスしてしまったけれど、あのミスで落ち着いて緊張がほぐれましたね」

コンフェデ杯を怪我で欠場の鬱憤を晴らした柳沢 敦(鹿島)
「伸二のパスがすべてだった。初戦なので大事だと思っていたし、自分にとっても久しぶりの代表のゲーム、とにかく結果がほしかった。この得点でチームに必要な存在と考えてもらえるならばそれはうれしい。コンフェデは残念だったが、がんばってほしいと思っていたし、次のキリン杯はチャンスはあると思っていたのでJでがんばろうと思った。チラベルトから(合計5点)は、たまたまです」

右サイドでフィジカルでの強さを印象づけた波戸康広(横浜FM)「自分らしいプレーができたかなとは思っている。スピードを活かし、守備でも強さを持つことを心がけているけれど、今日は僕のミスで迷惑をかける場面もあった。どうしよう、どうしよう、と考えてスペースが広くなったところでミスをしてしまった」

中盤で、ゲームをコントロールする仕事を任された稲本潤一(G大阪)「簡単なミス、マイボールでのミスが多すぎたので、失点は0でも満足はしていません。内容的には、遅攻になったときにどれくらい攻撃が展開できるかが大事なテーマだったので、これでは……。(移籍については)キリン杯が終わってからでないと」

DFの安定ぶりを支える松田直樹(横浜FM)「今、DF3人は話さなくても守備ができる。今日は(左サイドの)伸二を高く上げて行かなくてはならないので、波戸を逆に下がり目にコントロールした。その意味でバランスは非常に良く保てたし、波戸が下がり目の中での守備を本当によくがんばったと思う」

交代で後半投入された藤本主税(広島)「楽しかったです。あまりドリブルはするなと監督から言われていました。こういう大会と場所、雰囲気でのプレーができることがうれしかった」

パラグアイとの対戦で出場機会が期待された廣山 望(セロ・ポルテーニョ)「今日出ることがどうしても、とか、では次は、という(起用の)話はサッカーではないことだから、特にがっかりもしていません。どの試合であっても最善のプレーができるように、自分のコンディションを整えるだけですから。パラグアイからの帰国ですが時差やコンディションなどはまったく問題がない。次の試合も集中して準備します」

木之本・強化推進本部副本部長「フランス、スペインと2試合でガツンとやられて、コンフェデ、このキリンでしっかりと建て直しをはかって前に進んだという印象だ」


「リベラリストの司令塔」

 この日、小野が左サイドから放った45メートルもの「アシスト」は、コンフェデレーションズ杯から左サイドで続けているプレーが、名波浩(磐田)や中村俊輔(横浜FM)といったレフティ不在ゆえの応急処置ではもはやないのかもしれない、そんな可能性を感じさせる軌道を描いていた。
 この日、日本代表には中田英寿がいなかった。中盤でのパスを預けるプレーヤーの不在のために、森島、柳沢、鈴木といった前線の選手は当初「やり難さ」を感じていただろう。前半序盤、こうした預け場所の不在から、目的地まで浮遊してしまったパスが何本も続いた。無論、この試合に関しての指示は出ていたはずだが、中田英寿がいた場合の小野の左サイドと、この日に実験された小野の左サイドでは目的も応用方法も、なによりも概念自体がまるで違うものである。

 この日代表は、この実験のために反対のサイドで波戸を下げ、小野を高い位置に置くためにDFラインが働いた。いわば3バックのシフト自体を左寄りに高く寄せていった結果、90分のうちほとんどで「変形4バック」になっていることが明らかな布陣でもあった。
 こうした中で、小野は攻撃的な、しかもここから起点となって攻撃を把握するような動きを多用した。本来ならば、それは稲本のポジションに任されてもいいところだが、そうはならなかった。

「ぼくの今のポジションにはまず敵があまりいません。それによって、本当によく、これまでとは違った形でFWがよく見えるんです」
 小野は試合後そう解説した。確かに中盤で中田英寿のように非常に激しいプレッシャーを受けながらもボールをさばくようなタイプではない。小野のサッカーはこうした混乱から一歩下がって、しかしそれでも全体を見渡すために、左サイドで十分に生かされることになる。「FWがよく見えるから、狙うこともできる」という。1点目の45メートルものロングパスを、ノートラップで柳沢に出したアシストなどは、センターの位置からでは決して出すことのできないラストパスであろう。サイドでありながら、しかし真ん中、あるいは、サイドであっても自分を中心に右によじれているシステムの居心地のよさを、小野はこのゲームで十分に味わったのではないか。こんなコメントにもユーモアが溢れる。

「(左でのロングパスが多いのではと聞かれ)レフティーに憧れてますしね。どちらでも蹴られるように、プロの釜で飯を食うなら工夫しなければならないですしね」
 1点目のパスは、本人は「長すぎた」と話したが、柳沢は「非常に質の高いパス」と尊称した。確かに力の加減は長かったのかもしれないが、小野は左利きに憧れるというような「考え方の習慣」によって、ボールを微妙にコントロールしていた。芝についたボールは流れることなく、柳沢の走り込みのタイミングを待って「止まった」からだ。
 これが恒久的な起用かどうかは別として、小野の左アウトサイドは単に個人的なプレーの幅を広げるばかりではなく、日本のサッカー全体のキャパシティをも大きく広げる考え方をもたらしている。
 政治の世界では左翼的思想は社会主義や共産主義を表すが、左サイド(左翼)を任された彼のサッカーは現在のところ、自由な「リベラリスト」とでも呼べるようなプレーではないか。システムでも、もしかすると思想でも、極めて自由な司令塔の表現を、あと1試合楽しめるだろうか。


「半年ぶりのAマッチ」

文/松山 仁

 昨年12月の韓国戦以来、半年ぶりのAマッチ出場で2得点(代表6点目)を挙げた柳沢は、「2つとも伸二(小野)からのいいタイミングで出たパスがすべて」と、自らの得点よりもチームメイトのアシストを称えた。
 先制点につながった小野のロングパスを受けたとき、「一瞬、チラベルトが前に出てくると思った」という。しかし、GKが後ろに下がって定位置に構えたのを確認すると、追って来るDFのコースを塞ぎながら、ドリブルでペナルティーエリアに持ち込み、豪快に左足を振り抜いた。
 2点目は、ゴール前でフリーになった瞬間に小野から「正しいタイミング」(柳沢)で出たラストパスをダイレクトでゴール左隅に流し込んだ。

「強いチーム相手だと、ペナルティーエリア内で2タッチ、3タッチしてシュートということはあり得ない。ゴール前でも2点目の形を作ることができれば、どんな強豪に対してもフィニッシュまでは持っていけるという手応えを得た」

 昨年のキリンカップでもボリビア戦で2得点と、南米勢との相性のよさを感じさせる。またトルシエ監督も「柳沢の、チラベルトからのハットトリック(98年JOMO杯)を思い出した」と試合後、先発起用の理由を説明したような好相性ぶりも、いい方に作用したのだろう。
 しかしいずれもホームでの親善試合であり、相手も決してベストメンバーとは言えない。アウェーでのフランス戦やスペイン戦を経験していないだけに、格上相手のシビアな国際試合でどれだけのパフォーマンスができるかは依然未知数だ。
 それは本人も十分認識している。

「今日の試合で僕がヒーローと呼ばれることには、すごくギャップを感じる。僕自身のヒーローの定義は、ゲームの中でどれだけ多くチームに貢献できたかということ。その意味ではゴールは挙げたけれども、ゲームの中で消えている場面も多かった。まだまだこんなもんじゃないし、強いチームとあたった時にどれだけのことができるかということが重要でしょう」

 とはいえ、この日に限れば、間違いなくヒーローではないか。


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