2001年6月4日

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FIFAコンフェデレーションズカップ2001
日本×ブラジル
(県立カシマサッカースタジアム)

日本 ブラジル
0 前半 0 前半 0 0
後半 0 後半 0
 

 

交代出場
<日本>

45分:中田浩二(小野伸二)
45分:森島寛晃(鈴木隆行)

61分:中山雅史(山下芳輝)
<ブラジル>

63分:ジュリオ・バチスタ(ハモン)
73分:ロベルチ(カルロス・ミゲウ)
80分:マグノ・アウベス(ワシントン)
 すでに勝ち点6を奪って準決勝への進出が決定している日本は、この試合、カメルーン戦も先発だった中田英寿(ASローマ)、明神智和(柏)、小野伸二(浦和)、鈴木隆行(鹿島)の4人を除く7人のスタメンを「総入れ替え」し、準決勝に向けての準備のゲームとした。

 GKには第3GKの都築龍太(G大阪)、FWに山下芳輝(福岡)とAマッチ初出場の2人を起用。ブラジル戦とは思えない、余裕のメンバー構成で挑んだ。都築が落ち着く前に失点をしないことに焦点が絞られた。

 この日はカメルーン戦と違い徹底したサイド攻撃から展開するブラジルに対して、左サイドの小野が懸命に守備に回るが、何度か決定的なチャンスを作られる。前半15分には、左サイドを完全に割られ、マイナスからセンタリング。これをシュートされるが都築が素晴らしい反応で跳ね返す。このこぼれ球もまたシュートに持ち込まれたが、ゴールライン上で松田がクリア。最初のピンチを免れた。これで、初出場の都築が冷静さを取り戻して、コーチングの声もよく入るようになる。ここからは持ち前の強いゴールキックで、不利な向かい風を跳ね返し陣地を挽回した。

 その後も32分には、オーバーヘッドシュートをファインセーブするなど、完全に波に乗り最後尾の安定感が増した。その後の時間帯からは、攻撃にもチャンスが生まれる。なかなか相手を崩してのシュートまで持ち込めなかった日本は39分、左サイドを抜け出した中田が山下に左足で手前側に戻る回転をつけた高度なパスを中に戻す。山下はこのボールにスライディングで飛び込むが惜しくも合わせきれず、ボールはポスト左に流れた。

 しかし、主力のほとんどが来日していないとはいえ、日本はブラジル相手に一対一、個人技、組織的な守備、どれをとっても一歩も引けをとることなく、むしろ日本の主導権下で前半を0−0で終える。

 後半、森島寛晃(C大阪)、中田浩二(鹿島)を連続先発した鈴木、小野と代え、バックラインを、松田、上村、中田浩二とし、それまで3バックの左に位置していた服部年宏(磐田)を左のアウトサイドに上げた。森島の前線での運動量に、ブラジルDFは再三振り回される。15分には、山下と3試合連続の交代出場となる中山がチェンジ。中山は日本の落ちかけたスピードを再び取り戻す強力なカンフル剤となる。

 10日のナポリとの試合にスクデットをかけるASローマへ戻ることを、この日も山本コーチ、加藤強化部長と話し合った中田は結局フル出場をすることになる。後半40分過ぎには、30メートルのフリーキックをゴールポスト内最上部を狙う強いシュートを放つなど、予選3試合目、しかも準決勝を決めての試合運び、戦術すべてでの完璧な「仕事」を見せた。試合はそのまま0−0で終わり、日本は勝ち点7、Bグループ1位で抜けて準決勝でオーストラリアと対戦することになった。

    ◆試合後のコメント:


3試合連続で左サイドでの先発をした小野伸二「1位通過は素直にうれしいと思っています。左サイドはいろいろと勉強をした。特に守備面では、今日が3試合の中でもっとも厳しかったし難しく、ほかのみんなに守備での負担を大きくかけてしまったと思う。ブラジルとの対戦だったけれど、これといって気持ちで負けることもなかったし、気負ってしまうものもなかった。技術でもそう脅威は感じなかった」

3試合とも流れを引き寄せる動きで貢献した森島寛晃「こうして代表のユニホームを着てもう一度ピッチに立っていることが本当にうれしかった。(オーバートレーニング症候群のことは)もう全然気にならないし、特にこれをやるというのもありませんが、3試合を中3日で、これといった不調もなく乗り切れたのは大きな収穫でした。中山さん、ヒデには、90分走る、というとても簡単だけど重要なことで、あらためて励まされた」(森島はよほど充実感を味わったのだろう。こう話した後、頭の上で両こぶしを力強く握ってガッツポーズしてミックスゾーンを去った)。

“キャプテン”服部年宏「まあ、コイントスしただけだからね(ミックスゾーン爆笑)。今日は最初は勝ちたいと狙いにいった分、引き分けを意識してから楽に戦えたと思う。後半、自分が前(左アウトサイド)に出た時点で、守備の意識が非常に高まったし、スペインのときにも、ああやれば守れるというオプションはしっかりチームとして持てていたと思う。後半は0−0でOKというムードがむしろ余裕を与えてくれたし、いくら(今大会)勝てないからといって、ブラジルにはもう少しドタバタすると考えたが、まったくそうはならなかった。足は大丈夫。これでフランスとの決勝も考えられるし、もしもう一度当たってまた5−0なんかでやられたら、もうゴメンなさいだよね」

国内Aマッチでのデビュー戦となった波戸康広「代表初ゲームはやはり雰囲気が違いますね。何よりも、声がまったく通らないことに驚きました。出ていなかった2試合で、出ていた選手のいいところをしっかりと観ていたつもりだったんですが、それは『つなぎ』だったんですね。それは気をつけて壊さないようにしました。服部さんを中心に、服部さんの声が特にないときでもしっかりと守備の意識があったと思う。豪州は高い、普通にやっていればやられると思うので、(体の使い方など)工夫してあたりたい」

念願の代表初出場を果たした山下芳輝「本当に悔しいですし、自分がふがいない。思うプレーができなかったことが、ベンチに戻ってから余計に悔しくて思いが込み上げてきました。中盤からのいいパスがいくつかあったのについていけなかったことチャンスを逃がしてしまってチームに申し訳ない。ただ、雰囲気に飲み込まれてしまうようなこともなかったし、ブラジルだからという気持ち負けもなかった。自信があったし、それはよかったと思って、これからに生かしたい」

1試合の『休養』をした守護神・川口能活「守備としてはDFが非常に安定していたと思う。疲れはやはり(自分も全体も)かなりある。中一日の試合は本当に疲れるものでした。ただこの1試合はかなり大きな休養になって、みんな楽になると思う。ヒデを見てても、凄くコンディションが(3試合目なのに)上がっていると思った。豪州はとにかくデカイ。普通にやったらダメだし、ヘディングも何かやってから跳ばないとやられるでしょうね」

“超スーパーサブ”中山雅史「こちらが何か(若い選手に)アドバイスをするということよりも、勉強をさせてもらっているというところも大いにあった。自信を持って行けという話をしたくらいですが、いくら言ったところでやるのは本人ですから。FWとして、得点はもちろんですが、流れのリズムを変えることは3試合とも心がけていました。リズムの変化をもたらすことはとても重要だったから。自分が(ポジション的に)先頭にいるのだから、果敢に行くということを最初に示すことができるはずで、それはやろうと思ったし、サブといっても、以前(ドーハの頃の話)そういうこともありましたからね(笑)。試合が終わってヒデからも、ボールの受け方を説明してもらって、そういう厳しいところで受けないと、次ができないと教えられた。そういう意味では自分にもまだまだ伸びるところはあるし、いつでもがけっぷち、そういう気持ちで行きたいと思う。フィジカルは全然大丈夫です。若いですから」

トルシエ監督「結果として勝ち点7、5得点で終わったことが非常に誇らしいし、将来に向けての大きな自信になった。3年のプロセスが結実した結果だった。監督業は、常にプレッシャーがかかるもので、それが私の仕事だ。決断をするたびに迷いと戦うし、チーム全体の管理、メディアの対応、ファンの期待、これら全てに気を配ることが必要だ。緊張のあまり選手の中には試合が始まる前にトイレに駆け込む選手もいるし(自分も)そういう経験があるほど、プレッシャーはきついのだ。
 豪州はすばらしい。心理的にはフランスよりも楽だ。ただ、豪州なら勝つだろう、というファンの期待が緊張となる。あと2試合で決勝だ。横浜はホームで、日本で試合ができる。我々は決して諦めないと決意を新にしている」

レオン監督「ファンが期待していた通りの展開だった。ブラジルはスピードもあったし、攻撃力もあった。日本よりはチャンスがあったと思う。(日本のファンや関係者にとって)両チームとも次のラウンドに行けてよかったと思う。日本チームは戦術的にも強かった。フランスとの準決勝は、大変面白い試合になる。勝ったこともあるし、負けたこともある。大事なのは相手に敬意を払うことだと思う。もちろん、日本に対してもそういう気持ちだ」

Group A 勝点 得失点
フランス 2 0 1 6 +8
オーストラリア 2 0 1 6 +2
韓国 2 0 1 6 -3
メキシコ 0 0 3 0 -7
Group B 勝点 得失点
日本 2 1 0 7 +5
ブラジル 1 2 0 5 +2
カメルーン 1 0 2 3 -2
カナダ 0 1 2 1 -5
赤字のチームは準決勝に進出。


「フランス、スペインでの敗戦をチームとして生かしていければと思う」


 これは、大会が始まる前の5月30日、中田英寿が広報を通じてコメントした言葉である。予選3試合、すべてがタイトルをかけた厳しい戦いでもあり、それを勝ち点7、5得点、無失点で終えた今、中田が言った、ともすれば「ぶっきらぼう」で、しかしシンプルな目標というものの重さが、あらためて実感されたのではないだろうか。

 この試合できわめて印象的だったのは、日本代表の戦い方だった。A代表では通算6試合目となるブラジル相手に初めて引き分けた、その方法論だ。
 服部も「いくらこちらが予選突破を決めているからといっても、もう少しバタバタするんじゃないかと思ってもいた。まったくそういうことがなかったね」と振り返るように、攻め疲れ、そして破られるという展開はまったく見られず、辛抱強く守っては、落ち着いてボールを回しキープ。ボール支配率は、日本が全体で44.5%、ブラジルが55.5%。しかし、最終ラインを割られることも、決定的なパスを出されることもなかったのは、この試合、フル出場で「試合運びの妙」を見せた中田をはじめとする、成熟度の高さにあったのではないか。そして、これらをもしもたらすきっかけがあったとすれば、中田が大会前の抱負とした「2試合の敗戦」だった。

 前半でも2本、さすがにブラジル相手の守備ではてこずる小野がサイドを完璧に割られてしまう場面があった。抜ければ最大のピンチ。そんな場面で、服部は「スライディング」を2本完璧に決めて、このボールを外に掻き出した。
「見ているとどうということはないと思うけれど、細かなところでフランスでの負けは生きてると思うし、逆にそうしないと負けた意味すら失っちゃうからね。フランスの時は条件もあったけれど、ああいうところで甘く行ったために、最後まで割られていた。だから、無理してでも体を張ること、シンプルだけど今日はそれも心がけた」
 本人は意識してないというが、服部、名波、中田のスライディングは、滑るだけでなくてその後、すぐに立ち上がっていることがわかる。つまり同じ体を張る、のでも捨て身などという古くさいものではなくて、常に臨戦体勢をとっているわけで、高い技術がそこにある。
 次に「試合運び」でも、後半、小野を下げた時点で、服部がアウトサイドに出て、全員がスペイン戦でをイメージし、徹底した。
 波戸は言う。
「服部さんがあそこに入ったことで言われることがなくても何をすればいいか、どうすれば0点を守れるか、これが、自分を含めてできていたと思う。落ち着いていました」
 ロスタイムで失点したスペイン戦での守備的な辛抱は、この局面で何よりの教訓となった。攻め急ぐことなく、中盤を使い、ボールを回してゴール前に切り込む恰好で、ブラジルの攻め疲れをかえって誘うことになった。

 そして、中田浩に代表されるロングボールの多用だ。
 カメルーン戦では、鈴木の2ゴールがあまりにも鮮烈だったために正当に評価されていないが、中田浩のアシストは、この3試合の中でも特筆すべきパスだった。
 左のサイドから大きく逆サイドまで展開する形でのアシストは、中田英がイタリアに移籍してから、日本に持ち込まれたかのような「輸入品」のひとつでもあった。ミドル、ロングレンジのサイドチェンジは、日本サッカーの欠落しているパートの一部だと、長いこと強化の課題でもあった。
 フランス、スペイン戦では、日本の持ち味だとされたショートレンジのパスがことごとくカットされた。条件の差異があったとしても、こうしたパスの失敗は、中盤の選手にも転換を促したといえる。
「ああいうパスがカットされてみて、例えば俊輔もそうでしたけど、ロングパスを思い切り使ってみるということがすごく重要だと僕も思いました。だからコンフェデでは思い切り、チャンスがあったら蹴って行こうと思ったんです」
 明神はそう説明している。
 中田浩にブラジル戦後、鈴木へのアシストパスについてもう一度振り返ってもらった。
「自分の持ち味はわかっていても、大きな試合になると結構勇気がいるものですよね、ロングパスを出すのは。取られるし、味方も走らせる。けれども、今回は2試合の反省をふまえて、あえて、思い切りを考えてました」
 中田浩に「鈴木君が鮮烈で、あのパスはあまり注目されてなかった」と言うと、茶目っ気たっぷりに笑って首をすくめた。
「そうなんですよ、けっこうジコマン(自己満足)入ってるんですけどねえ」

 3試合の結果は完璧だったが、むしろ褒められるのは、その前の2試合での結果ではなくて、「ディテール」(細部)を選手それぞれがまったく無駄にはしていなかったことだろう。個々が無駄にしなかったからこそ、チームとしても活かすことになった。
 中田が言葉であげた目標は、勝ち点や予選突破といった具体的なものではなかった。
 しかし、予選が終わった今、これほど重みのある目標はなかったといえる。
 日本代表は5日、鹿嶋で練習を行い、午後横浜に移動し、7日のオーストラリア戦に備える。


「結論は、持ち越し」

 10日、ナポリとの一戦にスクデットをかける中田の処遇について、木之本・強化推進本部副本部長は「トルシエ監督も話している通り、すべては予選終了後になる。何も対立していることはない」と話し、結論は4日夜からの話し合いによることを示唆した。
 4日昼には、山本コーチを含めて中田も自分の意向は伝えたようだ。
 この日のフル出場も含めて、協会関係者は「十分な働きをしてくれた。もともと、予選突破のハードルを越えるために来てくれたのだから満足している」と話す。準決勝は出場させると監督は明言したが、真意は、すべての決定権が自分にあることを周囲に示したい点にある。
 もう移籍は決定しているのだから、ローマにはたいして思い入れもない、サブでの優勝だからそれほど重要ではない、という話を伝える声もあるが、中田はそういう選手ではない。チームを尊重し、もし経験したというのなら自己犠牲を完結させるはずだ。
 サブを含めて、2年を過ごした初めての世界的なビッグクラブで辛抱し、何を学び、それをどう今後の糧とするか。準決勝後の試合直前の合流ではなくて、大一番を戦う1週間すべてを経験し、優勝というもの本当の意味で味わう「権利」が彼にはあるのではないか。
 もちろん、監督も承知の上だろうが。中田は5日の練習には参加し、横浜には移動すると関係者は説明しており、準決勝出場は話し合いで決断したようだ。


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