2001年6月2日

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FIFAコンフェデレーションズカップ2001
日本×カメルーン
(新潟スタジアム)

日本 カメルーン
2 前半 1 前半 0 0
後半 1 後半 0
08分:鈴木隆行
65分:鈴木隆行
 

交代出場
<日本>

61分:森島寛晃(中田英寿)
73分:中山雅史(西澤明訓)
85分:服部年宏(小野伸二)
<カメルーン>

55分:エパレ(ヌジタプ)
55分:ジョブ(オレンベ)
76分:チャト(ウォメ)
 コンフェデレーションズカップ第2戦、日本代表は、試合前にカシマスタジアムで行なわれたブラジル×カナダが引き分けとなったため、勝てば即決勝トーナメント進出という高いモチベーションのもとカメルーンとの一戦を迎えた。

 後がないカメルーン相手に日本は守備を固めざるを得ないと予想される中、トルシエ監督は先発に初戦のカナダ戦で軽快な動きを見せた森島寛晃(C大阪)ではなく、4月のスペイン戦ではわずか20秒ほどピッチに立つだけで終わった鈴木隆行(鹿島)をAマッチに初先発させるという、大胆な起用を敢行する。前線からの守備を徹底させることで、監督が3年をかけて築き上げてきた「フラット3」の原点とも言うべき「コンパクト」なサッカーを意図して運動量が極めて豊富な鈴木を前線に置いたもので、一方では、フラット3におけるサイドでの守備を熟知している明神智和(柏)を先発で起用、右サイドの守備をカナダ戦から建て直すという攻守でのバランスをはかった戦術を取った。

 開始1分、左サイドの小野伸二(浦和)からのセンタリングに西澤明訓(エスパニョール)が走り込み、最初の決定的なチャンスを作る。これは相手DFに阻まれるが、守備的に戦うと予想される試合を、果敢な姿勢から入ったことで攻撃的な姿勢が全体に浸透した。
 中盤からのコンパクトな守備のために、鈴木はチームのための動きを徹底する。前線からボールを追い、さらには前かがりになっているカメルーンDFのスペースを狙う。前半7分、DFの中田浩二が左サイドで奪ったボールを正確にコントロールしたロングパスで右前線のスペースに駆け抜けて行った鈴木へ送る。鈴木はこのボールをワントラップでシュートポジションまで運び、右足で角度のない位置からシュート。今回の代表には、DF中澤祐二(東京V)の怪我による離脱にともない、鹿島での練習も休養中に急遽収集された。スペイン戦では、ロスタイムのしかも50分にピッチに立って、ボールにワンタッチもしていなかった鈴木が値千金のゴールを決め、日本は序盤で先制する。

 どうしても点が欲しいカメルーンの猛攻に対して、GK川口能活(横浜)が初戦に続いてファインセーブを連続する。26分には、ゴール左前での一対一をワンハンドでセーブ。29分には、ボランチの戸田和幸(清水)が足を痛めピッチ上で倒れていた1分ほどの間に、エムボマのシュートを含む3連続シュートを打たれたが。これをすべてファインセーブし、流れを完全に日本のものとしてしまった。
 この後も日本は決定的なチャンスを作るなど、終始攻撃的な姿勢とコンパクトなサッカーを徹底させ、前半を1−0で終わる。


 後半、こうした動きがどこまで持つかがポイントとなったが、14分には、攻守で激しく動き回りチームプレーに徹した中田英寿(ASローマ)に代え森島を投入。激しい運動量でカメルーンを振り回し、20分には、その森島が右サイドをコーナーまで踏ん張りセンタリングをゴール前に。このボールにDF1人のマークを振り払い鈴木が飛びあがってヘディングゴールを奪う。
 鈴木の2点目で日本は試合にダメを押し、27分には前線からの守備をこなした西澤を、初戦勝利の突破口を開いた中山雅史(磐田)に代える。困難が伴うはずのフラット3での中盤からのコンパクトなサッカーで、まったく運動量を落とすことなく、40分には小野を服部年宏(磐田)に代えて、最後の5分を守り抜いて、日本は最大の難関だったカメルーンを2−0で下して勝ち点6を奪い決勝トーナメントに進出。昨年のシドニー五輪、秋のアジア選手権に続き、3大会連続での決勝トーナメント進出を決めた。
 3日には鹿嶋に移動して4日のブラジル戦に備える。

    ◆試合後のコメント:

トルシエ監督「試合を終えて大変うれしい。技術、精神面その両方において、私は日本代表がワールドカップレベルにあることを確信している。結果について大変誇りに思う。選手も、厳しい試合だったがプレーを楽しんでいたと思う。この3年間、ステップバイステップでここまで成長をしてきたが、今だに経験が不足していることは事実だ。フランスとスペインでの敗戦は、私たちのそのこと(経験不足ではいけない)を気づかせ『変らなくてはならない』と考える上でも非常に重要だった。実は昨晩は何度も何度も目が覚めた。1トップか、それとも2トップかとにかくスタメンについてはこれほどギリギリまで悩んで決断できなかった。鈴木はリーグでも力を発揮できずにいたが、試合前、彼の目を見てスタメンを決めた。今晩の川口の成果は彼の努力のたまものだと思う」

カメルーン/ルシャントレ監督「まずは、古い友人でもあるトルシエ監督に心からおめでとうをいいたい。私たちにとって非常に厳しい戦いだった。あのGKの並外れたセービングには完全に実力を阻まれてしまった。今日の日本代表は、戦術的にも組織的にも、本当に優れていたし、ワンタッチの技術はすばらしい。(アフリカ経験のある)監督は、私たちの攻撃のパターン、空中戦やサイドからのセンタリングを読んでいたのだと思う」

日本代表Aマッチ初スタメンで史上初の2得点という快挙を果たし、決勝トーナメント進出をお膳立てした鈴木隆行「競技場に出発する前に言われた時には本当に驚いた。試合前には緊張もしたが、ゲームには落ち着いて入れたと思う。1点目も2点目も価値があるというか、貢献できてうれしい。今回は代表にも入っていなかったので、後から呼ばれただけでもラッキーだったと思う。たくさんの観衆の中でプレッシャーもあったけれど、それも気持ちよかった。これが最後のチャンスだと思っていたし、集中していたことが(2点の)一番の要因になったんじゃないか。やってやろうという気持ちよりも、足を引っ張らないように、その気持ちのほうが強かった。こうしてピッチにいたことが驚きですし、今日も先発を言われて代表のチームメイトのほうが、お前か、と驚いていましたよ。鹿島の仲間もきっとびっくりしてるんじゃないでしょうか。みんなに励まされたし、ぼくもこれまで見てるだけだったので何とか少しでも貢献したかったし認めてもらいたかった。90分やれるとは思っていなかったので、今はほっとしたという気持ちです」

2試合連続出場の戸田和幸「あの時、足を痛めて(前半左足首を蹴られて)倒れていたのは僕のミスでした。声が(痛くて出せなかった)出なかったとはいえ、やはり立ち上がるべきでした。情けないプレーで、あの時3本のシュートを打たれているのですから反省している。自分のプレーには満足していないし、次はしっかりプレーしたい。今は緊張と、ハーフタイムに痛み止めの薬を飲んだので、痛みは感じてないんです」

2戦連続で左サイドを務めた小野伸二「今日は何もしてないですよ。後ろで中田(浩)がよく声を出してサポートをしてくれたので何とか凌げた。次の試合も、何とかスタメンで出て話はそれからです。カメルーンは(身体能力など)これまでのイメージとは違って怖くはなかった。90分プレーをしたかったですが、チームのために良かった」

1点目、鈴木へのロングパスを逆サイドに通した中田浩二「スペインほど攻撃的なチームなど滅多にないと思ったので、ああやって守れることが自信になっていました。監督からはカナダ戦のようにやれ、と言われ、まずはシュートコースを丁寧に消すことを心がけた。今日のエムボマは真ん中にたっているだけという印象で怖さはなかった」

カメルーンのシュート、じつに19本を防いだ川口能活「最初4分でのシュートをしっかり止められて、あれで落ち着いてプレーができた。自分としては相手が誰であっても、自分のプレーをすること、同じプレーを続けることだけを心がけて集中している。カメルーンはやはり意外性のあるプレーをしてくるし、強くて、トリッキーだった。2試合の無失点はたまたまの話で、こだわりはない。キャプテンについてはもともと自分のポジションはリーダーシップが求められるからやっているだけ。中山さんも、モリシも、ヒデもいる。キャプテンに重みはないし、経験のある人たちが回せばいい。ブラジルとは本気で戦いたい。アトランタの時には、前半は本気でなくて後半になってようやくエンジンがかかってきた。楽しみにしている」

2試合連続、中盤での見事な働きをした稲本潤一「エトーなど本当に切り返しが速かったので早めに対応しなくてはならなかった。小野との連携でかなり防いでいけたと思う。中盤が良かったと言われることはとてもうれしい。エムボマとは話せませんでした。フランスともう一度必ずやりたいと思います。ブラジルがカナダと引き分けたことは本当にびっくりしました」

フラット3をまとめあげた森岡隆三「準決勝進出は素直にうれしい。速い時間に先制点が取れたのはよかったし、今日は組織としても個人のファイトとしても負けていなかったと思う。ゆっくり休んでブラジル戦に備えたいと思う」

左手のひじから下、相手との競り合いからか、ひどい切り傷ができていた明神智和「カメルーンだからといって身体的にかなわないなどとは思わなかった。圧倒的にやられた場面はなかったし、今日は体をぶつけるとか、そういうことをやって身体的にも競り勝った、そういう自信が持てる試合だった。でも、僕が一番小さかったですよね。途中で森島さんが出てきてくれたときはちょっぴりうれしかった」

      Group B 勝点 得失点
      日本 2 0 0 6 +5
      ブラジル 1 1 0 4 +2
      カナダ 0 1 1 1 -3
      カメルーン 0 0 2 0 -4


「自分も、代表も、鹿島もみんなびっくり」


 鈴木は、自分に対するカメルーンのマークが甘いことを試合開始直後に感じ取っていたという。この日の起用は、「前線でできるだけボールをキープし、体を張ってチャンスを生むこと」と監督に言われていた指示を忠実に守ろうと思ったが、しかし、ゴールを狙う嗅覚は、どんな時にも絶対に失せることはない。カメルーンのバックラインの裏を抜けてできる大きなスペースをめがけて、中田浩二のロングボールがけりこまれ、鈴木がスタートを切った。
 ボールは背中から追ってくる難しい角度だが、これをワントラップ、自信と集中力の現れを示すかのような正確さで絶好の位置につける。落ち着いてGKの右手を抜くシュートを右足で放ち、これが先制点となった。
 誤算というレベルではないにしても、前半8分での先制点など思いも寄らなかったはずだ。まして、この代表には選ばれていない鈴木が奪うなどとは、監督さえ考えていなかっただろう。ベンチでサミアコーチに抱きつく鈴木に、中山が真っ先に乗っかり、チームメイトが続々と頭をたたいた。
 4月のスペイン戦では、ロスタイム表示が出てから、しかも後半の50分過ぎになって初めての代表ピッチに立った。ボールがみずからのところに転がってきた瞬間にタイムアップ。結局ファーストタッチのボールさえ触ることがなかったFWにとって、この日には特別な思いがあった。
「ええ、もちろん今日こそが自分のデビューだと思って向かいました。そして、今日を逃したら、2度とチャンスはない、先発はもう2度とできない、そういう思いでした」
 鈴木が振り返る凄まじいばかりの集中力こそ、Aマッチ初の初先発2得点の快挙を演出する原動力だった。

 鈴木には、もう後がない、というがけっぷちでの緊張感を集中力に変える力があるのかもしれない。
 今年入団5年目を迎える。しかし、日立工から鹿島に入ったものの、決して楽な道のりではない。ブラジルのリオ・デジャネイロに行き、98年に鹿島に戻って、市原、また鹿島、そしてジーコ率いるCFZへ。ここでも大きな成果をあげられずに帰国し、今度は川崎フロンターレへ移籍する。そして戻った鹿島で、これも「最後のチャンスかもしれない」と臨んだ試合でゴールをあげて、それがトルシエ監督の目に止まった。
「もちろん、今日こうしてピッチにいることは信じられないですね。けれども、ブラジルでの経験も移籍の多さもすべていい経験になったし、自分を強くしてくれたと思います」
 24歳にして、8度の移籍を経験する苦労人が、またも「最後のチャンス」と自らへ大きなプレッシャーをかけて挑んだゲームで、最高の結果を手にした。

 後半15分には、西澤が厳しい守備から奪ったボールを、森島が右コーナーで踏みこたえてつないでセンタリング。鈴木はDFを一対一でかわしてヘディングシュートを放った。 
「ニアに飛び込んだら合わなくて、少し下がってみたんですが、そうしたら森島さんから絶好のボールをもらった。あまり覚えていないんですが」
 このゴールが、カメルーンへの勝利、日本の勝ち点6、準決勝進出、何よりも自らがもはや「がけっぷち」ではなくなったことを決定づけた。代表の仲間でさえ「なんでお前が先発なんだろうな」とジョークを飛ばすほど、意外な、しかももともと代表には呼んでおらず、おまけに故障をしたDF中澤との交代という事態である。鹿島で招集を聞かされたときも練習は休みで、仲間に「代表に行ってきます」とさえ言わずに新潟に一人で合流した。
 しかし、チャンスを生かしたいという気持ちと「少しでも貢献したい。自分を見せたい」と、チームプレーに徹したことが、2ゴールを生んだ。
 鈴木は笑った。
「まぐれ、みたいなもんです。自分もびっくり。代表のみんなもびっくり、そして、鹿島のみんなもテレビ観てきっとびっくりしてるでしょう。これで次も出られるということは絶対にない。でも、今は本当にほっとしている」

 大仕事を終えた反骨のFWは、取材を待つ間、代表アタッシュケースに腰をおろして、ただ1点を見つめていた。殺到した取材を終え、最後にミックスゾーンを後にするとき、大きな息をついて天井を見た。
 大会前の選手会見では、誰も鈴木の周りに集まらず、最も短い時間で囲み会見を引き上げたはずだ。それからわずか3日後、もっとも多くの報道陣に囲まれて、最後に会見場を後にするなどと誰一人予想していなかったはずだ。もちろん鈴木自身さえ。


「我々が対戦した中で最悪のGK」

 敗れたカメルーンのルシャントレ監督は、試合後、「これまで私たちが対戦した中で最悪の(最高のという意味)GKだった」と、カメルーンの19本ものシュートを防いだGK川口のファインセーブをそう絶賛して脱帽した。
 最悪のGK、これほどの賛辞もないだろう。
 エムボマも「私たちのサッカーのほうが良かったはずだ。ただしフィニッシュを除いて」とつぶやいていたが、川口の動きにはまったくの無駄もミスもなく、守備をしながら攻撃を演出してしまった。それほどの影響力を持ったプレーだった。
 圧巻だったのは前半26分から。右手のワンハンドセーブで最初のピンチを防ぐと、29分から30分には、戸田が倒れて人数の少ない中盤を狙われ3本連続でシュートを浴びる。この時、手、足、体、すべてを使いきるセービングで凌いで、これがカメルーンのモチベーションを大いに下げることになった。カナダ戦でもオジェック監督が話していたが、「決定的なチャンスを逃がしてゴールが決まらないと、全体的なモチベーションに大きな悪影響が生まれる」という。体が細い、身長が低い、こういったGKとしての負の材料を川口は長い時間をかけてプラスの材料にした。激しいトレーニングと類稀なポジティブシンキングによって。
 調子が良いときには、ボールがゆっくり見えると話す。シュートが打たれる瞬間、相手の目を見て、筋肉が反応するとも話す。フランスW杯後、楢崎に譲ったGKの座を再び奪い返した。しかし、それもまた、この日の鈴木がそうであったように、スペイン戦で回ってきたチャンスをものにしたからだろう。攻守の要が見せたがけっぷちでの集中力こそ、代表の底力をもっとも端的に示す指標なのかもしれない。


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