2001年5月31日

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FIFAコンフェデレーションズカップ2001
日本×カナダ
(新潟スタジアム)

日本 カナダ
3 前半 0 前半 0 0
後半 3 後半 0
57分:小野伸二
60分:西澤明訓
88分:森島寛晃
 

交代出場
<日本>

38分:中山雅史(上村健一)
67分:明神智和(伊東輝悦)
81分:三浦淳宏(中田英寿)
 日本代表にとって、98年に就任したトルシエ監督の指揮のもと、3年目の集大成を実らせる意味を持ったこの大会だけに、初戦となるカナダ戦は、勝ち点3を無難に奪ってスタートを切ることが目標とされた。
 日本は、故障者が続出したために左アウトサイドに小野伸二(浦和)、右アウトサイドに伊東輝悦(清水)を置き、守備ラインも右サイド(カナダの左サイド)を上村健一(広島)、伊東、左サイドは小野と中田浩二(鹿島)とこれも初の縦ラインとなり、前半は、このサイドそれぞれのラインの出来が、試合の流れをカナダにもたらしてしまった。

 開始6分、カナダが初のコーナーキックから高いヘディングで合わせてまずは最初のチャンスを作る。日本とは平均身長で6センチ、バックスには193センチのプレーヤーが2人入っているだけに、高さには圧倒的な強さを見せた。日本DF陣はこれを警戒するあまり、足元でのミスが連続する。11分には、西澤明訓(エスパニョール)、24分には森島寛晃(C大阪)がそれぞれGKと一対一になるチャンスを作ったものの、ノーゴール。試合は、前半の中盤からカナダペースとなった。

 久々の先発となった小野(中田英寿との同時先発は1年3か月ぶり)は本来のポジションではないことに加え、カナダのマケナが小野の上がりに対して徹底的に防ぎ、動きが取れない。このため、左からボールが上がらず、カナダの守備を中田英寿(ASローマ)からのボールに集中させてしまった。
 逆に、カナダの左サイドからブレナンの正確で素早いセンタリング、そしてスタルテリ、ザウザら前線の選手のゴール前へのラッシュに対して、日本の右サイドの伊東、上村はまったくついて行くことができない。29分、33分にはゴール前でピンチを迎えるが、これをGK川口能活(横浜)が落ち着いてセーブしたために凌いだが、この時間帯、終始カナダペースの展開に拍車をかけた。

 38分には、トルシエ監督が早くも上村に代えてFWに中山雅史(磐田)を投入。右サイドの守備での建て直しを図るよりも前に、稲本潤一(G大阪)のワンボランチに変える攻撃的な戦術で、局面の打開を図ろうとした。
 しかし、さらにカナダの攻撃を抑えることはできずに、41分から続けて猛攻を浴びたものの、カナダの決定力のなさに助けられた形で前半は0−0で終了した。

 選手交代をせずに臨んだ後半12分、鋭く突破をしかけた中山が倒され、日本はゴール前絶好のポジションでフリーキックを得る。カナダのオジェック監督は前日に「日本に得点を許すとすればセットプレーからをもっとも警戒したい」と話していた。その元浦和監督オジェックの目前で、小野は右足から6枚の、しかも190センチ以上の高い身長の選手が並ぶ、壁の上を抜いてゴール左隅にコントロール。GKは一歩も動くことができない完璧なコース取りで先制した。小野は昨年のアジアカップ以来となる代表2ゴール目を挙げて、初戦で硬直していたムードを一気に変えた。

 直後の60分、中央でボールを持った中田が、左前線を走り抜く中山へロングパスを出す。タッチライン際ギリギリのところを踏ん張り、ディフェンスを交わすと、右を走り込んできた森島へとサイドチェンジするロングパスを送る。森島はこれをボレーで中に返すと、走り込んだ西澤がヘディング。エスパニョールとの契約など精神的にも苦しかった西澤の会心のゴールで2−0と試合の主導権を完全に掌握した。

 その後、伊東に替えて明神智和(柏)を投入。カナダに突破される場面が減り、逆に日本の攻守にバランスが生まれた。
 81分には、強行日程をこなす中田に替えて三浦淳宏(東京V)を入れ、日本は交代枠をフルに活用。88分には動きの止まったカナダ守備陣の裏に走り込んだ森島へ小野から絶妙なスルーパスがわたる。森島はキーパーの動きを冷静に読み、ゴールへボールを蹴り込んで3点目。結局3−0でカナダを下して、今年3戦目で初勝利。難しい初戦を勝ち点3で乗り切り、予選ラウンド突破に向けてスタートを切った。

    ◆試合後のコメント:


トルシエ監督
「前半は停滞気味だった。後半はリスク承知で選手を交代させ、戦略を変えた結果、攻守のバランスがよくなってゴールへつながりチームの雰囲気が好転した。1戦目はメンタリティの上からも絶対に勝ちたかったので満足しているが、まだ気を抜くことはできないない。カメルーン戦に向けて集中力を維持したい。レフトの小野の活躍、戸田も期待以上だった。中山はやはりベテランならではのメンタリティを持って臨んでくれた。
 ゲームとしての戦略のポイントは、森島を稲本のポジション(中盤)まで下げたことだった。諦めないプレーをしてくれ、と選手に話したが、その通り応えてくれて幸先のよいスタートを切ることができた」

オジェック監督「前半はこちらが完全に押していたのに得点できず、それがすべてだった。選手が存分に力を発揮したとは思えない。シュートが決まらないとチーム全体的にパフォーマンスが落ちてしまう。負け試合というのは、疲れが2倍になる。今日プレーしなかった選手の起用を考えてブラジル戦に臨みたいと思う。日本は特にテクニックが優れている。小野のフリーキックは、こちらの準備が整っていないかったので狙われてしまった」

小野伸二「フリーキックは中田さんと2人で話して決めました。あのコースは自分のチームでもよく決めていたので自信があった。(ユースの頃から進歩が目覚ましいが、の問いに)成長したかどうか、それは自分ではわかりませんが、久々に呼んでもらったのでいいプレーをしたいと思った。
(フリーキックをどちらが蹴るかについて)中田さんとは“口ジャンケン”で決めたんですが、僕が『グー』と言って中田さんが『チョキ』と言った。手でやるとバレちゃうんで。
 トルシエ監督には、左サイドだけではなくて中のほうも状況を見てプレーをするようにと言われていた。」

2点目をヘディンでグ奪った西澤明訓「やったろうと思っていた。自分の中では、時差で体が多少重いというだけで何も問題がなかったし自信もあった。2トップになってから、お互いのポジション、相手のポジションを意識して注意深く見るようにした。モチベーションの上でも(スペイン戦で出ていないからといって)まったく問題なく、練習をしっかりとやれていたからだと思う。移籍の件は、自分だけの意志で全部が通るわけではなくてC大阪、代理人がしてくれることですから。とにかく久しぶりにゴールを奪えたことが本当にうれしかった。(スッキリしたかと聞かれて)まあ、そんなところですね」

2点目をアシスト、最後はゴールも決めた森島寛晃「あのシュートは空いたスペースに飛び込んだだけですから。(小野)伸二からのボールがよかったんです。前半はチームには全然貢献できませんでした。後半になって後ろに下がってからボールを受けられるようになって、多少は仕事をしたかな、というところですね。前後半を通じて、もう少し貢献しないとならないと思う。今日の試合は初戦で非常に大事なゲームだった。だからホッとしてます。2戦目に向けて気持ちを引き締めたい」

森岡隆三「結果は3−0でよかったということです。内容はともかくとして、リーグ戦での1勝をもぎ取ったことは大きい。カメルーンに対しては今日のような形で攻めることができるとは思えないので、攻守の切り替えがもっとも大事になると思う」

Aマッチ初出場の戸田和幸「競技場に入るまでは足が震えてました。フラット3のオプションをやることについてはまったく言われてなかったので戸惑いも少しありましたが、(DF)3人で気にし合いながら、カバーしてもらった。ただ、動きにどうしてもズレが出てしまったところが反省点ですね。右のほうがいいです、利き脚ですから。けれども、また中盤をやらせてほしいと思う。最後まできっちりやってみたいので」

稲本潤一「相手の11番がうまくてずいぶんと振り回されてしまった。ゲーム中、1トップはかなり難しいと思っていたが、2トップになってからは全体の動きが非常によくなった。1ボランチとか、さまざまなシステムの変更があって多少混乱していたけれど、ああいう局面で混乱しているようではいけないのかな、と思います。エムボマとの対戦は、とても楽しみです」

中山雅史「逆サイドへのパスについては、モリシ(森島)が見えていたので思い切ってサイドチェンジをした。自分でもびっくりしたけれどね。ミスキックではなくて、森島をちゃんと狙ったんです。服部はベンチで『ミスキックだ、ミスキックだ!』と騒いでいましたけどね(笑)。得点につながるプレーができたので、俺もここにいるんだという存在感を証明できた。ポストは西澤に任せて、自分は裏に抜ける動きを意識した。3−0はまずまずだけど、とりあえずはよかったと思う。最後のほうはきつかったけれど、なんとかもたせました。次はカメルーンだけど、今日とは違ったタイプでまた試してみたい。強引に持って行ける部分もあったし、それができないこともあった。強引でも(シュートを)打たないと後悔する。これからもチャンスがあれば打って行きたい」

川口能活「(シュートを防いだ場面について聞かれて)組織で守る決まりごとはある。けれども、シュートを打たれた瞬間だけはGKの判断とか能力になる。右手1本のセーブも、マリノスでは多々あることなので落ち着いてやっていました。今日のような初戦ではモチベーションが上がりすぎることがあるので、それをうまく抑えてコントロールできればいいプレーができる。相手の11番は非常にいいプレーをしていて速かったので、そこをしっかりケアするように伊東に言った。とりあえず1勝でスタートできたことはよかった」

      Group B 勝点 得失点
      日本 1 0 0 3 +3
      ブラジル 1 0 0 3 +2
      カメルーン 0 0 1 0 -2
      カナダ 0 0 1 0 -3


「力、入ってたんでしょう、思わずグーと」

 小野が、中田との「口ジャンケンで、なぜグーと言ったのか」と聞かれてそう答えると、ミックスゾーンはなごやかで、どこか落ち着いた笑いに包まれた。
 今季、日本代表の初勝利を呼び込んだのは、4年前、日本代表としてフランスW杯に選ばれ、最年少でプレーをした小野だった。昨年12月の韓国戦後は代表でのピッチに立つことはできず、合宿に呼ばれながら外されるという悔しさ、フランスに遠征しながらベンチで帰ってくるフラストレーションを味わっている。小野がこうして代表を行き来することについて、何人もの関係者が「あれでは気持ちがもたないのではないか。そのうちパフォーマンスに影響をする」と懸念した。事実、Jリーグでのプレーでもこうした「埋もれてしまう」危機感が小野の周辺に忍び寄っていたことは事実ではなかっただろうか。


「監督に少しでもアピールしたいから、左サイドでも構わない。むしろ、だからこそ見えるものもあると思う」と30日の会見では話していた。ここまでポジティブに割り切っていたことは、プレーの余裕、心の余裕、両方に影響をもたらした。
 自分にまったく合わないポジションであること、ケガ人もいること、中田とのコンビネーション、さまざまな思いはあっただろうが、発想の持ち方ひとつで──実際のところこれはそれほど簡単なことではなく、逆に発想の持ち方が失敗するためにスランプに陥るケースもあるのだが──小野はこれらを逆手に取った。

 素晴らしいのは、中田と小野が交わした会話だった。会話だけではなくて、そこには本当の「ユーモア」が溢れている。力だけ比較すれば、カナダに勝ったことはただそれだけに過ぎない。しかし、嫌な時間帯、展開を、こうしたユーモアで乗り切ったところに、この日の代表のよさが象徴されていた。
「口ジャンケン」と言った中田はそのとき「こういう試合でドタバタしても仕方ないだろう。もうちょっと気楽にやろうぜ」という代わりに、小野に口ジャンケンを、と持ちかけたのだと思う(ミックスゾーンで話を聞けなかったので、これはヒデの嫌いな想像ですが)。

 セリエAで毎試合しびれるゲームを連続し、しかもサブで登場となれば失敗は絶対に許されない。そういう緊張感の中で、中田は「張り詰める」こと以上に、「おおらかさ」を得ていることが、このシーンで十分にわかる。
 小野は「ヒデさんがそう言うので一瞬びっくりしました。だけど、考えてみれば、手でやったら(相手に)わかっちゃいますもんね」と笑って振り返る。 
 小野は、力みがあって「グー」と声に出し、中田はそれもわかっていて「チョキ」と言ったのかもしれない。
 中山のセンタリングが森島に入ったときも、ベンチにいた服部が「今のミスキックだよ! あんなの(正確に)行くわけないんだから、ミスキック!!」と笑って中山に声をかけていたという。中山はベンチを見て笑い返していた。

 監督が話した通り、初戦は難しい。ブラジルとカメルーンも0−0から1点を奪ったブラジルが2−0としており、前半の膠着状態を打開するのは、簡単ではない。周囲で見ていても「このままズルズルと」と思う時間帯に、選手がこれだけのユーモアを持って戦っていたことは、カナダ相手の勝利ということ以上に、勝ち点3という以上に、大きな意味を持つものだった。
 ゴール、勝利、ユーモア、すべてが揃った試合だったことは、今後の試合に間違いなくいい効果をもたらしたはずだ。

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