2001年4月25日

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◆現地レポート!◆
スペイン×日本
(スペイン・コルドバ)

スペイン 日本
1 前半 0 前半 0 0
後半 1 後半 0
89分:バラハ

 

先発メンバー
<交代出場>
フランス

31分:バラハ(イバン・エルゲラ)
45分:テジェス(ナダル)
45分:ヴィセンテ(メンディエータ)
45分:ホセ・マリ(ラウル)
68分:プジョル(マヌエル・パブロ)
75分:カシージャス(カニサレス)
75分:セルヒオ(グアルディオラ)
日本代表
79分:明神智和(名波浩)
83分:西澤明訓(高原直泰)
87分:奥大介(中田英寿)
89分:中澤祐二(上村健一)
89分:鈴木隆行(伊東輝悦)
 フランス戦以来のサッカー日本代表海外遠征試合は、満員の観衆で埋まるこれがスペイン代表初ゲームとなるコルドバの約15,000人収容のスタジアムで、気温23度、湿度24%と絶好のコンディションのなか行われた。

 試合前、トルシエ監督が先発を発表した直後にメンバーに入っていた戸田和幸(清水)が急性腸炎で発熱をしたため、急きょメンバーを入れ替えるというアクシデントが起きた。このためメンバーを稲本潤一(G大阪)に代えて臨むことになった。先発には、初代表で初スタメンの波戸康広(横浜)、上村健一(広島)が入り、5バックシステムで守備的な布陣を敷き、フランス戦の教訓からか、特に立ち上がりを慎重に滑り出すよう、監督からは指示が出された。

 試合開始からの10分間、日本はフランス戦まで中村俊輔がいた左サイドに代わって入った服部年宏(磐田)が、冷静で読みの早い守備からスペインの攻撃の核となるメンディエータに落ち着いて対応。初先発の波戸も大きなミスをせずに初の「5バック」をうまく機能させた。また、中田英寿(ASローマ)、名波浩(磐田)が、時には体を張って、またテクニカルなプレーでボールを細かくつないで少ないチャンスを作る。前半17分には、名波から中田、伊東輝悦(清水)、サイドを上がった波戸とついないで、ポイントを作った。

 フランス戦では2失点を喫した15分までに、日本は、この試合で起用されキャプテンマークをつけたGK川口能活(横浜)が、12分のラウル(レアル・マドリー)のシュート、28分にも同じラウルの絶妙のループシュートに見事な反応を見せて防いだ。守備でのリズムをGKが作っていく形で、そのまま前半を0−0で折り返した。

 メンディエータ、ラウル、ナダル(マジョルカ)らを交代させたスペインに対して日本は同じメンバーで後半を迎える。双方が膠着状態の中、名波が高い位置でボールを奪うチャンスが何度かあったが、守備にかける負担から前がどうしても薄くなってしまう。後半30分を過ぎても試合は膠着状態のまま、トルシエ監督は、攻守で果敢に運動量を惜しむことなく動いた名波に替えて、明神智和(柏)を同じボランチの位置に投入。その後、残り10分には高原直泰(磐田)に替えて西澤明訓(エスパニョール)を起用し最後のチャンスを習う。

 試合は結局0−0のままロスタイムに突入。しかし、ロスタイムの2分過ぎDF中田浩二のクリアボールを奪われゴール前にスルーパスが送られると、これに走り込んだバラハ(ヴァレンシア)がシュート。GK川口も反応したがボールはゴールへと吸い込まれ、日本はフランス戦に続いての遠征となったスペイン戦に0−1で敗れた。


トルシエ監督のコメント
「(試合全体について)内容もよかったのに、結果はこういうことになってしまった」

    以下、一問一答:

──なぜ最後の数分間になって選手をたくさん交代したのか?
監督 特に戦術的な意図によって交替をしたわけではない。とにかくいろいろな選手に多くの経験をさせようと思ったことが理由だ。展開によって選手を入れたのではなく、ピッチに多くの選手を立たせたかった。スペインも選手を全部入れ替えてしまった。

──フランス戦からここまで立ち直ったが、どういう形で立ち直りを図ったのか
監督 フランス戦に比べれば、」戦術の面でも非常に高い集中力を持って90分間戦えたことは非常にうれしかった。戦術的に、守備をするという文化を身につけた。攻撃については、1トップから2トップに変えたとしても、選手がとまどうことがあったと思う。本当に、これには経験が必要だ。

──戸田について、何があったのか
監督 私は何が起きたのか阿話すことができないので、ドクターに聞いてほしい。

──川口について
監督 今日は明らかによく仕事をしていたと思う。彼の問題点というは、いつも精神力にあった。つまり集中力が欠けるということだが、今日はキャプテンになったことで自信をつけ、気持ちが楽になったのではないか」


    ◆試合後のコメント 〜日本サイド

服部年宏
(磐田)
「せっかくあそこまで行ったのだから、(失点を)ゼロで終わらせたかった。ディフェンスのバランスはよかったと思うが、全体のバランスが悪かった。全体のバランスというのは攻守のことだけれども、0−5だったフランス戦に比べればまだまだ今日はサッカーができたし、自分の左サイド(対面はメンディエタ)はもっと来ると思ったのだけれど、意外と静かなスタートだった。序盤に落ち着いてプレーできたことがよかったのではないか。ただ、やっぱり攻撃は課題が残るよね。薄い。50〜70メートルも前と距離があいてしまって、攻撃に入るときに詰められない。今、攻撃は8:2とか7:3の割合でしか練習していないし、やっていないから、まぁこれは大きな課題だろうと思う。自分のコンディションは最悪でした。カゼをひいてしまい、3日間下痢をして発熱した。今日もじつは試合前に点滴を打ってここに来ていた」

稲本潤一(G大阪)「出場を言われたのは急だったけどね。まぁ、トルシエ監督の場合はいつもそういう形で、いつ出るかわからないし、逆にチャンスがもらえるということだと思ってがんばっていた。フランス戦からだいぶ成長はしたと思う。ただ、(ボールを)取ったあとにどうするかというのが課題だと思います。いい形でできているところもあったし、次につながる試合でした」

高原直泰(磐田)「やっぱり(FWに)もう1枚いてくれないと……。ヒデさんがボールをもらうために後ろに行くし、どうしてもまた間があいてしまい、孤立してしまった。ただ、ターゲットにならなければならないし、目標になるために自分ができる動きは全部やってみた。いい展開の面もあったと思う。今後はこれを糧にして、自分たちのスタイルというものを作っていけばいいのではないか。まぁ、あのくらいのレベル(スペインのこと)になれば、(ボールを)受けて簡単に前を向くというようなことはできない」

森岡隆三(清水)「波戸がムニティスを見ていくという形で話をした。引き分けられたのに、本当に残念だ。最後になったあの1点を取られたことはとても悔しい。内容がよかっただけに、本当に悔しいです。ただ、試合中、ものずごくやられたとか、完全に崩されてしまったという場面はまったくなかったと思う」

川口能活(横浜)「試合前にアップをしていて、10−0でスペインが勝つと書かれた横断幕を見つけた。ふざけるなよ、なんだこれ、絶対、食ってやるぞと思って見ていた。選手はみな、最後はどうしても疲れてしまっていた。そこを狙われたような形になってしまった。
 ロスタイムの失点は本当に悔しい。あそこはみな疲れていたし(名波は脚がつっていた)、(交代は)仕方ないでしょう。最後は引き分けで終わりたかったし、これではいくらいい試合をしたとしても意味はない。スペインに勝つことは無理でも、引き分けることはできたし、両サイドがああやって守備的に戦うのは仕方ないことだと思う。日本がなめられているのが本当に悔しかったし、絶対食ってやると思った。いいセーブが続いたことで、チームに流れを引き寄せることができたと思う。なんとか面白いゲームはしたいと考えていた。(96年のアトランタ五輪ブラジル戦ほどのセーブかと聞かれて)あのときよりはボールもよく回っていたのではないか。
 個人的にはキックがダメだったし、戦術的なミスもいくつかあった。何よりも、ゴール前が水びたしだったのはやりにくかった。雨で下が濡れているならいいが、晴れていて水びたしとは経験があまりない。」

上村健一(広島)「最後までピッチに立っていたかったが、左のひざをケガしてしまい、動けなくなってしまった。とても残念です。(代表として)初めての試合だけれども、別に緊張はしませんでした。ただ、どうしても慣れないためにプレーが雑になってしまったところがあったと思います」

名波 浩(磐田)「前半はとにかく怖がらずに行くことができたと思う。ボールの動かしかたも悪くはなかった。それに、守備的とはいえ、サイドから崩す場面も何度かあった。ただ、後半になって長いボールが多くなり、俺の頭の上をボールが越えていくようなことになった。攻撃では、ヒデが入ってきて1.5列目をふらふらしていてくれれば、テル(伊東)や俺も動きやすくなる。こういう形は練習ではやっていないけれども、攻撃の練習はもともと少ないから自分たちで融通を利かせた。前半、波戸が上がって行ってテルが外したシュート、これからも、ああいう形の攻撃を狙って行ければいいのではないか。選手はみな自信を取り戻したいと思ってこの試合に臨んだし、自分自身も試合中、フランス戦のことを思った。やりたいことと形とが合致してきたんじゃないかと思う。後半になって、恐がって自分たちのボールをどんどん蹴り始めてしまったのはお粗末だったと思う。足がつってしまって、もうできるところまでと思って×マークを出そうとしたら“10”と交替(のボード)が出たのでホッとした。稲本もあたっていたと思う」

波戸康広
(横浜)
「結果的には負けたけれども、次につながる一戦だったと思う。初めての国際試合で開き直っていたので、むしろすんなり入れた。意外とチャンスがあったし、個人的にはアピールができたのではないかと思う。手応えもありました。ラウルはやはりすごい選手だと思った。前半で変わってしまったが、できれば後半も見ていたかった。戦術的な面でもっと外に開いて(ボールを)もらうほうがいいという場面もいくつかあって、自分の課題にしたい」

伊東輝悦(清水)「守備に関しては、ある程度できたと思います。ただ、やっぱり攻めはもう少し……。今日のゲームで自分の課題としては、前を向いてもう少し積極的にプレーをすることだった。ただ、スペインが相手で、前を向くと言ってもプレッシャーをかけられているからそんなに簡単じゃないけれど。先発から入るということは、まぁ、監督にも信頼されているのかなとは思います」

大仁邦彌 強化委員長「ロスタイムにやられてしまった。しかし私たちとしては狙い通りのゲームができたのではないか。コンディショニングもよかったし、ディフェンスもよかった。波戸、上村の初出場の2人も落ち着いてプレーをしていたと思う」


    ◆試合後のコメント 〜スペインサイド

スペイン代表/カマーチョ監督「前半はよかったが、後半になって日本が速い動きになり展開が悪くなった。(日本にスピードで負けたのではないかという問いに)そんなことはない。確かに両サイドのクロスは不足していたが。日本は、フランス戦の0−5から本当によく修正をしてきた。日本が守備的に来ることはわかっていたことだ。(会見の中でスペインのマスコミのプレッシャーを批判し)1−0でこうして勝っても批判される。今、世界中のサッカーは力が拮抗していて、大量点で勝ったり、華やかな形で勝利を収めることは非常に難しいのが常識だ」

46分43秒のロスタイムに決勝ゴールを決めたバラハ「ゴールには大変満足している。日本は速くて集中力が高く、とてもやりにくいチームだった。それと、フィジカルがとても強い印象が残った」


「守りの文化、とは一体何か」

 試合を終えたGK川口に対して、「試合に対する集中力がむしろ高まり、自信をつけたはず」と監督もこの試合の合格点を評価した。
 前半28分、ラウルのループシュートを後ろに下がりながら外に掻き出すファインプレーでしのぎ、直後のコーナーキックも勇気ある飛び出しからパンチングで逃げるなど、存分にアピールもした。ともに、シュートコースのもっとも高い地点でジャンプして、いわば「逆ピンポイント」で止めている点などフィジカル面での充実ぶりも見逃せない。相手の攻撃をGKの好守で防ぎながら、結果的に試合の流れを引き寄せて行く、そんな展開となった。
「日本には守りの文化がない」と監督は話していたが、何をもって「守りの文化」を定義するかは不明にしても、この日、GK川口が握った守備でのイニシアチブは、チームにとって攻撃的な姿勢をリードし続けたはずである。

 日本は格上のチームとの対戦において、5バックという新しいカードは手にした。ゲームの中でも、5バックは統制されたもので、これまで左を中村俊輔(横浜)が務めていた概念と、この日、服部が徹底した仕事には大きな違いがある。服部は「メンディエタもガンガン来たわけではないから」と相手の力加減をまず挙げたが、波戸のムニテス側にしても、両サイドの守備的意識が高くなったことで、守りには全体に安定感があった。「まったくどうしようもなく崩されてしまった、という場面はなかった。もちろん、相手の状態はわかっています(チャンピオンズリーグの最中で疲労があるという点など)。ただ、手応えといえば、きちんと守ることはできる、という感覚を体に刻んだことです」と波戸は話していたが、選手にとってもなりふり構わない「5バック」がそれなりの機能をした点は、今後、コンフェデレーションズ杯を戦ううえでも大きかったはずだ。

 これが「守りの文化を身につけた」と監督が言うほどオーバーなものかどうか別として、「ドローカード」が増えた点は、ささやかな土産にはなるだろう。しかし、守り切るという「詰め」においては、監督自身にも文化と呼べるような覚悟があったのか疑問である。


「晴れているのに水浸し」

 川口は試合前のウォームアップでスタンドを見渡した際に発見した垂れ幕に、スペイン−日本 10対0と書かれていたことに憤慨。この日は、競技場のミスから、録音された国歌も試合前に流れず「日本をなめているにもほどがある。ふざけるな、絶対に食ってやると思っていました」と笑う。
 フランス戦とは違いピッチの状態は良く、見た目のコンディションはそう困難がないように見えた。しかしGKの位置は少しばかり特別だったようだ。

 スペインの代表はこの日、午後8時過ぎに早くも競技場に到着し、トレーニングウェアのままピッチを歩き回った。日本がピッチの確認に来たのは午後8時間25分で、この時にはすでにピッチへの散水が始まっていた。湿度が24%と確かに乾燥はしている。またスペインのためにピッチを速くすることも狙いにあっただろう。この水撒きは両チームの練習の間を除き、試合開始15分前にようやく終了している。1時間以上もスプリンクラ−で水を撒いており、「あんなに天気がいいのに、ゴール前はなぜか水びたし」と川口は笑い「あんなのも珍しいですよね。晴れているのに、足元は水浸しなんて」と話していた。

 川口が表現した「晴れているのに水浸し」とは、相反する2つの材料を同時に抱えているという点において、この日の代表を言い表すのにもっとも適した言葉かもしれない。
 試合を、しかも代表レベルの試合を、ひとつの要素や要因からのみ分析することは無論不可能ではあるが、この日のサッカーの特徴は、ひとつの評価基準の中にまったく相反する材料が対峙していたことである。
 つまり収穫は極めて大きかったがそのぶん、システムうんぬんのレベルではなかったフランス戦の内容以上に、多くの反省点も山積みとなったわけである。

 0−5のフランス戦から取り戻した「自信」は大きいが、一方で今度はロスタイムでの失点という、サッカーではもっとも嫌なイメージのひとつと潜在的な「不安」というものを、チームとして心身に残すことになってしまった。
「日本のフィジカルはとても強かった」とスペイン側からも声があがるほど、よく走り、最後まで厳しい「当たり」におけるフィジカルの結果を出しながら、一方では90分を目前に疲労が極端になる、試合運びそのもののフィジカルに大きな課題が残った。
 代表初出場の上村、波戸が多少のバタつきはあっても合格点は出るような試合を終えた一方では、先発が予想された大抜擢の戸田が試合当日の、しかも昼になって急性腸炎から試合をキャンセル。原因は明らかにされていないが、精神的なプレッシャーもかなりの影響をもたらしていたのではないか。

 またシステムにおいても、こうした「相反する矛盾材料」を同時に背負う結果となった。
「5バック」という対スペイン戦での守備的なオプションは機能しながらも、攻撃での選択肢が大幅に減少している。もともと攻撃の練習にかける割合いは「2対8」(服部)というほどで、練習でもボールを回すものがほとんどでシュートまでフィニッシュをしない。高原は「ボールを持ったときにはほとんど孤立していました」と話していたが、後ろが厚く、前があれだけ薄い状態になれば無理もないだろう。
 名波、伊東の中盤の位置は試合の最後まで非常に高い所にキープされていた点は、試合の中でも高い評価のポイントである。後半には、名波が2本、伊東が1本、非常に攻撃的な姿勢から守備の高い位置でボールを奪いながら、これを大きなチャンスと得点に結びつけることができないもどかしい場面があった。
高い位置で取りながら、結果的には後ろに戻さざるを得ない。これも矛盾する材料を抱えていたプレーだろう。

 日本代表は今後、コンフェデレーションズ杯が行われる5月下旬まで試合はなく、中旬から合宿に入る。
 カナダ、カメルーン、ブラジルとのタフなコンフェデ杯予選ラウンドでの戦いは、フランス、スペインともまた異なった難しさを持つ。
 どしゃ降りのフランス戦と快晴のスペイン戦。晴れてはいたが、足元にはぬかるみもあった。2試合の欧州遠征を終えて、さまざまな要素でのこんな状態が浮き彫りになったのではないか。


日本代表、帰国の途に
(スペイン・セビリア)
26日=日本時間26日午後

  25日にコルトバで行われたスペインとの親善試合(0−1)を終えた日本代表は、一夜明けたこの日午後、セビリア空港からロンドン・ヒースローを経由して帰国の途についた。前日、急性腸炎で試合を欠場した戸田和幸(清水)も同行しており、「試合前日から調子がおかしく熱が出ていた。迷惑をかけて申し訳なかった」と話していた。なお、中田英寿(ASローマ)、西澤明訓(エスパニョ−ル)は別便でそれぞれクラブに戻った。


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