2001年4月25日 ※無断転載を一切禁じます
◆◆◆現地レポート!◆◆◆
試合前、トルシエ監督が先発を発表した直後にメンバーに入っていた戸田和幸(清水)が急性腸炎で発熱をしたため、急きょメンバーを入れ替えるというアクシデントが起きた。このためメンバーを稲本潤一(G大阪)に代えて臨むことになった。先発には、初代表で初スタメンの波戸康広(横浜)、上村健一(広島)が入り、5バックシステムで守備的な布陣を敷き、フランス戦の教訓からか、特に立ち上がりを慎重に滑り出すよう、監督からは指示が出された。 試合開始からの10分間、日本はフランス戦まで中村俊輔がいた左サイドに代わって入った服部年宏(磐田)が、冷静で読みの早い守備からスペインの攻撃の核となるメンディエータに落ち着いて対応。初先発の波戸も大きなミスをせずに初の「5バック」をうまく機能させた。また、中田英寿(ASローマ)、名波浩(磐田)が、時には体を張って、またテクニカルなプレーでボールを細かくつないで少ないチャンスを作る。前半17分には、名波から中田、伊東輝悦(清水)、サイドを上がった波戸とついないで、ポイントを作った。 フランス戦では2失点を喫した15分までに、日本は、この試合で起用されキャプテンマークをつけたGK川口能活(横浜)が、12分のラウル(レアル・マドリー)のシュート、28分にも同じラウルの絶妙のループシュートに見事な反応を見せて防いだ。守備でのリズムをGKが作っていく形で、そのまま前半を0−0で折り返した。 メンディエータ、ラウル、ナダル(マジョルカ)らを交代させたスペインに対して日本は同じメンバーで後半を迎える。双方が膠着状態の中、名波が高い位置でボールを奪うチャンスが何度かあったが、守備にかける負担から前がどうしても薄くなってしまう。後半30分を過ぎても試合は膠着状態のまま、トルシエ監督は、攻守で果敢に運動量を惜しむことなく動いた名波に替えて、明神智和(柏)を同じボランチの位置に投入。その後、残り10分には高原直泰(磐田)に替えて西澤明訓(エスパニョール)を起用し最後のチャンスを習う。 試合は結局0−0のままロスタイムに突入。しかし、ロスタイムの2分過ぎDF中田浩二のクリアボールを奪われゴール前にスルーパスが送られると、これに走り込んだバラハ(ヴァレンシア)がシュート。GK川口も反応したがボールはゴールへと吸い込まれ、日本はフランス戦に続いての遠征となったスペイン戦に0−1で敗れた。
トルシエ監督のコメント 以下、一問一答: ──なぜ最後の数分間になって選手をたくさん交代したのか? ──フランス戦からここまで立ち直ったが、どういう形で立ち直りを図ったのか ──戸田について、何があったのか ──川口について
◆試合後のコメント 〜日本サイド
稲本潤一(G大阪)「出場を言われたのは急だったけどね。まぁ、トルシエ監督の場合はいつもそういう形で、いつ出るかわからないし、逆にチャンスがもらえるということだと思ってがんばっていた。フランス戦からだいぶ成長はしたと思う。ただ、(ボールを)取ったあとにどうするかというのが課題だと思います。いい形でできているところもあったし、次につながる試合でした」 高原直泰(磐田)「やっぱり(FWに)もう1枚いてくれないと……。ヒデさんがボールをもらうために後ろに行くし、どうしてもまた間があいてしまい、孤立してしまった。ただ、ターゲットにならなければならないし、目標になるために自分ができる動きは全部やってみた。いい展開の面もあったと思う。今後はこれを糧にして、自分たちのスタイルというものを作っていけばいいのではないか。まぁ、あのくらいのレベル(スペインのこと)になれば、(ボールを)受けて簡単に前を向くというようなことはできない」 森岡隆三(清水)「波戸がムニティスを見ていくという形で話をした。引き分けられたのに、本当に残念だ。最後になったあの1点を取られたことはとても悔しい。内容がよかっただけに、本当に悔しいです。ただ、試合中、ものずごくやられたとか、完全に崩されてしまったという場面はまったくなかったと思う」 川口能活(横浜)「試合前にアップをしていて、10−0でスペインが勝つと書かれた横断幕を見つけた。ふざけるなよ、なんだこれ、絶対、食ってやるぞと思って見ていた。選手はみな、最後はどうしても疲れてしまっていた。そこを狙われたような形になってしまった。 上村健一(広島)「最後までピッチに立っていたかったが、左のひざをケガしてしまい、動けなくなってしまった。とても残念です。(代表として)初めての試合だけれども、別に緊張はしませんでした。ただ、どうしても慣れないためにプレーが雑になってしまったところがあったと思います」 名波 浩(磐田)「前半はとにかく怖がらずに行くことができたと思う。ボールの動かしかたも悪くはなかった。それに、守備的とはいえ、サイドから崩す場面も何度かあった。ただ、後半になって長いボールが多くなり、俺の頭の上をボールが越えていくようなことになった。攻撃では、ヒデが入ってきて1.5列目をふらふらしていてくれれば、テル(伊東)や俺も動きやすくなる。こういう形は練習ではやっていないけれども、攻撃の練習はもともと少ないから自分たちで融通を利かせた。前半、波戸が上がって行ってテルが外したシュート、これからも、ああいう形の攻撃を狙って行ければいいのではないか。選手はみな自信を取り戻したいと思ってこの試合に臨んだし、自分自身も試合中、フランス戦のことを思った。やりたいことと形とが合致してきたんじゃないかと思う。後半になって、恐がって自分たちのボールをどんどん蹴り始めてしまったのはお粗末だったと思う。足がつってしまって、もうできるところまでと思って×マークを出そうとしたら“10”と交替(のボード)が出たのでホッとした。稲本もあたっていたと思う」
伊東輝悦(清水)「守備に関しては、ある程度できたと思います。ただ、やっぱり攻めはもう少し……。今日のゲームで自分の課題としては、前を向いてもう少し積極的にプレーをすることだった。ただ、スペインが相手で、前を向くと言ってもプレッシャーをかけられているからそんなに簡単じゃないけれど。先発から入るということは、まぁ、監督にも信頼されているのかなとは思います」 大仁邦彌 強化委員長「ロスタイムにやられてしまった。しかし私たちとしては狙い通りのゲームができたのではないか。コンディショニングもよかったし、ディフェンスもよかった。波戸、上村の初出場の2人も落ち着いてプレーをしていたと思う」
◆試合後のコメント 〜スペインサイド スペイン代表/カマーチョ監督「前半はよかったが、後半になって日本が速い動きになり展開が悪くなった。(日本にスピードで負けたのではないかという問いに)そんなことはない。確かに両サイドのクロスは不足していたが。日本は、フランス戦の0−5から本当によく修正をしてきた。日本が守備的に来ることはわかっていたことだ。(会見の中でスペインのマスコミのプレッシャーを批判し)1−0でこうして勝っても批判される。今、世界中のサッカーは力が拮抗していて、大量点で勝ったり、華やかな形で勝利を収めることは非常に難しいのが常識だ」 46分43秒のロスタイムに決勝ゴールを決めたバラハ「ゴールには大変満足している。日本は速くて集中力が高く、とてもやりにくいチームだった。それと、フィジカルがとても強い印象が残った」
「守りの文化、とは一体何か」 試合を終えたGK川口に対して、「試合に対する集中力がむしろ高まり、自信をつけたはず」と監督もこの試合の合格点を評価した。 日本は格上のチームとの対戦において、5バックという新しいカードは手にした。ゲームの中でも、5バックは統制されたもので、これまで左を中村俊輔(横浜)が務めていた概念と、この日、服部が徹底した仕事には大きな違いがある。服部は「メンディエタもガンガン来たわけではないから」と相手の力加減をまず挙げたが、波戸のムニテス側にしても、両サイドの守備的意識が高くなったことで、守りには全体に安定感があった。「まったくどうしようもなく崩されてしまった、という場面はなかった。もちろん、相手の状態はわかっています(チャンピオンズリーグの最中で疲労があるという点など)。ただ、手応えといえば、きちんと守ることはできる、という感覚を体に刻んだことです」と波戸は話していたが、選手にとってもなりふり構わない「5バック」がそれなりの機能をした点は、今後、コンフェデレーションズ杯を戦ううえでも大きかったはずだ。 これが「守りの文化を身につけた」と監督が言うほどオーバーなものかどうか別として、「ドローカード」が増えた点は、ささやかな土産にはなるだろう。しかし、守り切るという「詰め」においては、監督自身にも文化と呼べるような覚悟があったのか疑問である。
「晴れているのに水浸し」 川口は試合前のウォームアップでスタンドを見渡した際に発見した垂れ幕に、スペイン−日本 10対0と書かれていたことに憤慨。この日は、競技場のミスから、録音された国歌も試合前に流れず「日本をなめているにもほどがある。ふざけるな、絶対に食ってやると思っていました」と笑う。 スペインの代表はこの日、午後8時過ぎに早くも競技場に到着し、トレーニングウェアのままピッチを歩き回った。日本がピッチの確認に来たのは午後8時間25分で、この時にはすでにピッチへの散水が始まっていた。湿度が24%と確かに乾燥はしている。またスペインのためにピッチを速くすることも狙いにあっただろう。この水撒きは両チームの練習の間を除き、試合開始15分前にようやく終了している。1時間以上もスプリンクラ−で水を撒いており、「あんなに天気がいいのに、ゴール前はなぜか水びたし」と川口は笑い「あんなのも珍しいですよね。晴れているのに、足元は水浸しなんて」と話していた。 川口が表現した「晴れているのに水浸し」とは、相反する2つの材料を同時に抱えているという点において、この日の代表を言い表すのにもっとも適した言葉かもしれない。 0−5のフランス戦から取り戻した「自信」は大きいが、一方で今度はロスタイムでの失点という、サッカーではもっとも嫌なイメージのひとつと潜在的な「不安」というものを、チームとして心身に残すことになってしまった。 またシステムにおいても、こうした「相反する矛盾材料」を同時に背負う結果となった。 日本代表は今後、コンフェデレーションズ杯が行われる5月下旬まで試合はなく、中旬から合宿に入る。
日本代表、帰国の途に 25日にコルトバで行われたスペインとの親善試合(0−1)を終えた日本代表は、一夜明けたこの日午後、セビリア空港からロンドン・ヒースローを経由して帰国の途についた。前日、急性腸炎で試合を欠場した戸田和幸(清水)も同行しており、「試合前日から調子がおかしく熱が出ていた。迷惑をかけて申し訳なかった」と話していた。なお、中田英寿(ASローマ)、西澤明訓(エスパニョ−ル)は別便でそれぞれクラブに戻った。
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