2000年3月15日


日本×中国
(神戸ユニバー記念競技場)
キックオフ:19時2分、観衆:39,482人
天候:くもり、気温:12度、湿度:37%

日本 中国
0 前半 0 前半 0 0
後半 0 後半 0
 

 

先発メンバー
交代出場
57分:服部年宏(小野伸二)
67分:中村俊輔(中田浩二)
88分:三浦知良(城彰二)
 今年最初のホーム戦で中国を迎えた日本代表は、欧州でプレーする中田英寿(ローマ)、名波浩(ヴェネツィア)、城彰二(バジャドリッド)の3人がチームに合流し、攻撃的にもより厚みを増した恰好でホームでの勝利を狙った。
 前半から日本は、中田、小野伸二(浦和)、名波らの中盤で完全にボールを支配。中田が再三、チャンスを作ってパスを前線に供給し、また名波も香港でのカールスバーグ杯で初めてプレーした左アウトサイドで、果敢にドリブル突破するなど全体的に積極的な攻撃で中国を圧倒した。前半は7本のシュートを放ったものの、中国のGKに阻まれ無得点に終わった。
 後半開始3分には、中田、城、名波の連携から最後は名波がシュート。しかし中国GKにまたもこれを阻まれた。
 その後も、中山がヘディングでボールを浮かしてGKの頭上を抜くが、これはオフサイドの判定。24分には、望月重良(名古屋)がGKと1対1となって右からヘディングでシュートを放ったがこれもセーブされ、結局後半も5本、合計13本のシュートを打ったが得点にはならなかった。  
 98年10月、トルシエ監督が就任して以来、国内での代表の勝利はエジプト戦(98年10月28日)以来ない。
 中田、名波、城の3人は揃って16日に日本を離れ、チームに戻る。

トルシエ監督「日本はシュート13本、中国は5本、ゴールキックは中国が19本、日本が6本、と数字をあげてみれば、いかに日本が攻撃を支配し、強さがあったかわかると思う。13本ものシュートを打って入らないのだから、これはもうどうしようもない。しかし今日の試合は満足している。動き、志などでも、すべてで非常に高いレベルを示してくれたと思う。今までやってきたことは無駄ではなかったし、大きなチームに育つ予感を感じさせた。今後も取り組み方、態度、志、大いなる意志、これらに加え攻撃的でアグレッシブなサッカーを目指して準備をしていきたい。結果的にはゴールは生まれていないが、次の試合での得点は想像できる(形が作れた、の意味)」

中国/ミルチノビッチ監督「私にとって3度目の日本でのゲームに戻ってこられたことが本当に楽しかった。最初はアメリカを連れてきたが、3-1で敗れてしまった。次はメキシコだったがこれも3-2で敗戦。そして今日、中国を連れて再び戻ってこられたうえに、引き分けという結果にはとても満足している。中国の選手はインテリジェンスを持ったプレーをし、ボールは自由に回させても、スペースは与えなかった。
 中国に関しては、私がもし楽観主義者で中国に初めて行った、というのなら、今は超楽観主義者だと言いたい(それくらい中国の進歩がめざましいとのこと)。日本のみなさん、2002年の幸運を祈ります」

中田英寿
(試合後のミックスゾーンでのテレビの代表インタビュー)「まあまあ、あんなものでしょう。(黄金の中盤について)フォーメーションを固めるにはまだまだ時間がかかると思います。試合前には疲れを感じることはなかったが、後半に入って多少疲れたと感じた。(シュートが決まらないが)チャンスはあるので、それを最後に決めるのは、トルシエ監督ではない、選手だ」

名波 浩「究極(の課題)は、中田がボールを持ったときに、周りがどのくらいサポートをできるかだと思う。今日もヒデが1人で持ち込んでドリブルをして、取られてしまう場面があったが、あれはサポート不足からの問題だ。チームはカールスバーグ杯の時よりははるかによくなっている。あとは選手個人の問題。自分としてもサイドをドリブルで積極的に行き、あとは馬のように走る。監督もそれはわかってくれているだろう。(サイドと中とどちらがいいか、と聞かれて)もちろん中ですよ」

城 彰二「膝はちょっとひねってしまった。なんだか、スペインに比べるとちょっと下がやわらかいのかな。そんな感じだった。中国のDFは強いけれど、それほどチャンスが作れなかったわけではないし、肉体的なこと云々よりも前を向いてボールをもらうことがすべて。そうやってプレーするから、ヒデなんてどんどんトライして、少しでもチャンスなら自分で切り込む。結局、得点を奪うのに大事なことはそれしかない。それと、日本はどうしてもパスをきれいにつないで終わっちゃうところがあるから、もっと汚くてもゴールを目指すよう、とにかく前を向くことだね」

稲本潤一(G大阪)「ボールを周囲に散らしてバランスをとることはできたと思う。とにかくゴールを奪いたい。入れるだけなのに……」

小野伸二「状況判断があまりにも悪くて……、せっかく中田さんと一緒にプレーできたのに、判断が早ければもっと面白かったはずだった。試合中にも、早いテンポで崩して行こうと、アドバイスを受けていた。今はとにかく状況判断の遅さがあるせいか、ボールをもらうとどうもミスをしそうな気がしてしまう」

望月重良「自分で言うのもなんですが、(GKとの1対1)あのシュートは最後までもっていけたことが大きなプラスです。入った、と思ったんですが……。右サイドをもっと切り込んでいかないとだめだと思っている。ホームなので勝ちたかった。疲れた、本当に疲れました」

三浦知良(京都)「(ボールをGKの前に置いたプレーは)サッカーは10秒で1点取れるからね。アップしながらだからよくはわからないけれど、チャンスは作れていたゲームだった。前半1点取れていれば(大量点など)全然違う展開になったと思う。今日はヨーロッパから3人が合流してくれて、勝てなかったが、いい形は多かった。それが収穫だろう。ゴール前はもう、自分の体でボールを入れてやる、それくらいの気持ちで行かないとダメだ。ゴール前まで行って点を取るのは、監督じゃあない」

楢崎正剛(名古屋)「いつかは点が取れると信じていましたが……。今日は結果だけ、それが欲しかった。自分がボールを触った時間も少ないが、とにかく点が欲しい」

中山雅史(磐田)「点を取れなかったことは本当に悔しいし、反省している。オフサイドの場面は、もう少し、ひきつけてから行けば、ヒデからももっといいパスが来る可能性があったはず。FWとして、こういう試合は非常に辛いが、しかし前向きさを失ってはダメだと思う。ホームで勝ちたかったが残念です」


「余裕」

 中田はこの日、たった1人で相手から7つものファールを奪っている。
「私は人のプレーについてのコメントはしないが、今日は正直、世界のビッグプレーヤーのプレーを目の当たりにできたことがうれしい。中田は、本当にローマの一員だ。彼のようなプレー、つまりインテリジェンスを持ったプレーを中国の選手も、憧れにしてもらいたい」
 ミルチノビッチ監督は、中国の記者団に対して、そう絶賛していたという。
 際立ったのは、90分通してのプレーの「余裕」である。疲れを感じた、と試合後は漏らしていたが、今季の日程を考えても当然のことだろう。
 しかしその中でも余裕をもっとも見せつけていたのは、最後の最後まで待ってパスを出す動作だった。
 中田に対して中国はマンマークをつけてきた。中田はここで、自分にボールをギリギリまでひきつけてから、パスを出している。
 投手ならば、ボールを最後の最後まで握っている「リリースポイント」の原理である。いい投手ほど、最後の最後まで、つまり打者にボールを繰り出す瞬間までボールを握っていられる。研ぎ澄まされた感性と感性の勝負に勝つための唯一の武器である。
 中田のサッカーにもこうしたことが当てはめられる。中田はボールを広い範囲でコントロールする。セリエAに行ってからは、そのキープ半径が広がる一方だ。そして、もう一点、ボールを蹴るタイミングは、ほかの選手とはまったく違っている。ボールをギリギリまで離さない。この0コンマの時間で、相手を引きつけ、味方の絶好のチャンスをも引きつける。だから、中田がパスを出した時には、チャンスが生まれる。
 ギリギリまで肉体をコントロールできる余裕、シンキングスピード、何よりメンタルでの「余裕」が、この日は際立った。
 小野が、「早いテンポで崩そう、と中田さんに助言してもらったのに、実際には自分がついていけない。余裕がないということなんですね」と漏らしていたのは、まさにこの違いを実感したのではないか。
 試合は引き分けに終わった。13本ものシュートが入らなかった以上、このゲームに限れば、選手たち自身の問題が、監督の戦術よりもより重大だということも的外れではない。
 しかしこの日、最大の収穫は、鮮やかにピッチに映し出された中田、また名波が見せた、個人技の魅力と、可能性ではなかったか。


「わずか10日で」

 中国のミルチノビッチ監督は、就任して初の国際試合を引き分けでスタートした。上海で8日間の合宿を行っただけでこの試合を迎えたが、高いフィジカル、それに「中国の選手は非常に知的だ」と話したように、4-4-2のシステムに、それぞれの個性を十分に見極めて、日本と引き分けに持ち込んだ。
 2002年のW杯出場を狙う。
 86年はメキシコ、90年はコスタリカ、94年は米国、98年はナイジェリア(ベスト16)と、名将の名を欲しいままにしているが、初めて選んだアジアの大国にとてつもない可能性を感じているとも言う。
 トルシエ監督とはナイジェリアですれ違った。ミルチノビッチが本大会、トルシエが予選を98年のW杯では戦っている。
 2年かかってテストを繰り返す指導と、10日である程度の形を出す監督と、指導の方法というものもまた対象的であることが、際立っていた。

釜本邦茂強化推進本部長「いい試合だったねえ、ペナ(ルティエリア)の前までは。中盤のミスからカウンターをくらう場面もあったが、中国は高いけれどはやくはないので助かった。決定力をつけないと、負けないけれど勝てないだろう。(欧州帰国の)3人はよくやった。ソウル(韓日戦、4月)まで、点が取れないという監督の戦術的評価を待つ(チャンスを与える)つもりはない(=もう頭の中ではレポートができている)」

試合データ
日本代表   中国代表
13 シュート 5
6 GK 9
3 CK 0
23 直接FK 16
8 間接FK 4
8 オフサイド 4
0 PK 0


    ◆試合前の選手コメント

名波 浩「中国には2年前に負けているので借りを返したい」

中田英寿「ともかく結果が出るように、内容よりも結果重視でがんばりたい」

城 彰二「試合に勝つために帰ってきたので、自分自身でもいいプレーをして勝利に貢献したい」

中山雅史「ベストを尽くします。魂を込めて戦います」

森岡隆三「久しぶりの代表の試合で、これだけの観衆の前でプレーできるので勝利に貢献できるようにがんばりたい」


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