3月2日

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サッカー

J1 1stステージ第1節
ジュビロ磐田×名古屋グランパスエイト
(静岡スタジアム エコパ)
天候:曇り、気温:13.3度、湿度:42%
観衆:29,763人、19時35分キックオフ

磐田 名古屋
2 前半 1 前半 0 0
後半 2 後半 0
14分:ジヴコヴィッチ
82分:川口信男

 昨年、わずか3敗しかせずにタイトルを奪うことができなかった磐田は、名波 浩、服部年宏、田中 誠と、中盤、守備と軸になる部分での離脱が相次ぎスタートから不安視された。前半14分、高原直泰から出たボールを名古屋DFがクリアボールに躊躇してこぼれたところ、ジヴコヴィッチがそのまま左から交わしてシュートを打ち、これが決まって磐田が先制でゲームの主導権を握る。
 今季、中盤を3ボランチとし、さらに名波、服部が欠けた中盤のボール回しにはリズムが失われている。しかし、中盤の高い位置からプレスをかけて行く守備で、金沢 浄、西 紀寛、福西崇史の3人が運動量で何とか凌ぐ。FWの高原、中山雅史がさらにロングダッシュを続ける「運動量のサッカー」で、前半を1−0で折り返した。
 後半開始後、先に西澤淳二を投入して中盤を押し上げた名古屋に対して、磐田は交替を待って辛抱。豊富な動きとクオリティの高いキープ力で粘った高原を後半29分に交替して、スピードの川口信男に。川口は、37分、福西が転倒しながらつないだボールを拾って、これを左足で持ち込みシュート。2点目を奪って試合を決めた。
 新しいシステム、新しい布陣を敷かざるを得なかった磐田だが、結果的には、名古屋DFのわずかな隙と、ミスを見逃さずにこれをものにするなど、試合巧者ぶりを十分に見せつけた。

川口信男「シュートが入る時はあんなものか、という感じですね。とにかくボールを見て、きっちり当てようと思って打ちました。中山さんがDFと絡んでくれて、転びながら行けっと言ってくれたし、ちょうどいいタイミングで自分のところにボールが来たのでドリブルからシュートまで自分のリズムで打つことができました。とにかくこれが続くように、そして次に試合が出られるようにということだけを考えています。ベンチから見ていてDFが頑張っていたので、点に絡む仕事をイメージしながらプレーしました。自分が出て、きっちり勝つことができたのは嬉しいです。少ない時間でも自分をアピールできるように、またどんどん自分を使ってもらえるようにしたいですね。ジュビロのようなチームはなかなか試合に出ることが難しいから、ポジションにはこだわっていません。時間は短くても、このチームでは試合に出るということが大切です」

試合データ
磐田
名古屋
12 シュート 8
6 GK 5
4 CK 6
18 直接FK 30
8 間接FK 5
0 PK 0
中山雅史
「とにかく結果がほしかった。自分たちがやってきたことがどういう結果に表れるか、多少なりとも不安でしたが、うまく結果に結びついてよかったですね。ただ、結果だけを見て満足するというのでは上を目指せない。このシステム、やり方がいいのか悪いのかというのはこれから徐々にわかることでしょう。今日は、後半はロングフィードが多くて、相手も引いてしまっていた。ロングキックの蹴り合いみたいな形になっていた時間帯もありましたね。タカ(高原)とは、お互いの動き出しでポジションを確認しながらやっていました。あとはパサーも含めてもっとバリエーションを増やせればと思います。W杯までの7試合でほとんどファーストステージは決まってしまうでしょう。勢いだけではもちろん駄目だけれども、勢いを持続していきたいです」


「不安と恐怖の違い」

 10年目を迎えた開幕が、過去史上もっとも早くなった2日、選手たちが内心抱えていた不安の大きさは、最初のボールタッチだけでも十分にわかる。
 キックオフ直後に中山が出したパスは、まるで相手に手渡しに行くような慎重さで、届くか、と冷っとするようなボールだった。中盤をコントロールする藤田俊哉もまた、これ以上ないというほど、丁寧な回転でサイドにボールを出した。ビビっているとか、おっかなびっくり、というのとはまったく違い、ひたすら慎重で丁寧だった。

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 試合前、鹿島が負けたことを知り「びっくりした。他人事ではなかった」と大岩 剛が話したように、気持ちを十分に引き締めて臨んでもなお、彼らのキャリアは、「思い切り」とか「何とかなる」などといういう当てにはならない素人の考えを放棄したのだろう。
「開幕戦の中で、相手に点を与えずこうして勝てたことは大きかった。開幕というのは、自分たちがそこまで積み重ねてきたことが本当に正しいのかどうか不安があるし、結果を出せたことは本当に大きかった。ひとつひとつ勝っていくことが、大きな目標を達成することになると思っている」

 試合後、中山が吐露していた「不安」は率直なもので、このことにどれほど謙虚に対してきたかも理解できるはずだ。開幕が早いこと、チーム戦術の変化、メンバー構成、自分の体調、自信、W杯イヤーへの漠然とした不安、怪我への恐怖心、材料はいくらでもある。
 重要なのは、不安が、怖がると一緒ではない点だった。
 名古屋は、ボランチの山口素弘が不安を乗り越える術をアピールしていたが、チーム全体としては、戦術への不安、チームへの不安、何より自分自身への不安を抱えたまま、ミスで自滅してしまったことを見ると明らかなのかもしれない。

「いつもよりも開幕が早い。故障者も多い、システムも変わったし、メンバーも違う。けれども、そういう不安を怖がらないところがジュビロの強いところだと思う。当然のことながら、これまでと違っていたり、さらに高い所を目指そうとすれば当然リスクが生じる。それは承知の上で、後は結果を出して前進するしかない」
 細かい点を言えば、いくらでも修正点はある。あれだけ長いロングボールを繰り返し、繰り返し出していることによって、中山、高原の2トップはほとんど90分、裏を狙って縦に走り続けなくてはならなかった。
 3ボランチの必然性がアピールされるほど機能はしていないし、リズムの良い中盤の構成なしに磐田の血液は循環しないだろう。
 しかし、今日は、開幕だけは、中山が口にしたようにとにかく「不安に」答えを出すことが重要だった。
 開幕はただの1試合であって、ただの1試合ではない。足元がすくむほどの不安を一蹴する方法があるならば、3日に開幕を控えたどのチームも、何としても知りたいのではないか。



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