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■オフサイドはなぜ反則か
中村敏雄/著
2001年11月(増補版) 平凡社ライブラリー 1300円

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評者・増島みどり スポーツライター 2002.1.1 update
一昨年の真夏、クーラーの効きも悪い学士会館(東京・千代田区)で、私は初めて、著者である中村氏とお目にかかった。『ゴールキーパー論』(講談社現代新書)を書くために取材をお願いし、貴重なお時間を割いていただいたわけだが、こう切り出された。
「あなたはスポーツライターといいますね。ところで、バレーボールや、テニスではなぜ、サービス、というんだろう」
本当に恥ずかしかった。まったく知らないからである。
重ねて「なぜGKがいるのかを考えるには、フットボールの歴史を理解しなければ無理なのではないだろうか」とも言われた。
本当に恥ずかしかった。もちろん常識的な歴史や成り立ちは別としても、これらに心を砕いて調査しようなどという根性は、どこにもなかったからである。
ぜわざわざH型の難しいゴールを用いたのがラグビーなら、なぜサッカーはゴールをおきながら、人をそこに配置したのだろうか。わざわざ物事を難しくする発想は、何に所以するものだろうか、GK論を書きながらそんなことを考え続けた。

「そんなことも知らないでスポーツライターを名乗るのはおかしい」という思いは当然としても、「スポーツを書く」とは、単に人間ドラマなどといった表裏をなぞることでは決して解決しないのだと、中村氏には教えられたと勝手に思った。ドラマではなくて、事実と科学性、彼らの技術とその根拠、これらの集大成がスポーツを書くことに類するのであって、人間ドラマやスポーツ的私文を書くことは、私にとっては興味の外である。
さらに言えば、歴史、史実、民俗、などを総動員してルールを解き明かすという実に些細で、宇宙に旅するかのような作業には迫力があると思った。スポーツに似ている、とも思った。スポーツを通してもし本物の人間ドラマに触れられるとすれば、それはこうした基本を汲み取ってからの話である。現実に叶うかどうか別としても、基本があって、応用のすべてがある、これがスポーツラインティングの理想だと思っている。

「学生に言われたのですよ。先生、なんでオフサイドは反則なんですか、と。愕然としてね、答えられないから」
中村氏が笑ってそう話しておられた姿は、本書の根底に流れる探究心である。
私はこの本を、ルールの成り立ちの奥深さや面白さを噛み締めるために、また「スポーツは人間ドラマだよ」などと、うっかりすると安直な考えに頼りそうな自分を整体するために繰り返し読むことにしている。
子供に「オフサイドはなんで反則なの?」と聞かれて困らないためにも、ぜひ読んでいただきたい。もっとも、オフサイドはなぜ、と聞かれて、本書にあるような「ヒント」を自分自身が理解できるか、相手がわかるかどうか、お互いにさらに混乱する可能性が残る点は別問題だが(笑)。
ワールドカップの年、奥深い一冊だと思う。

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