朝焼けの白谷雲水峡から登山を開始してはや5時間 いったい、いくつの木段をあがってきたか 額のバンダナから滴り落ちる汗をぬぐい 一歩一歩、息を切らしながら急勾配な斜面に掛けられた木段をあがりきると そこは今まで登りきった無数の斜面とは違い、静かで張り詰めた空間が広がっていた 大きくひとつ深呼吸 眼下の沢から木段にそって視線をゆっくりあげると 神々しいまでに白く隆々とした幹と生命を奪うかのようなその腕がかすかに見える 瞬間、今までの疲れを忘れたかのように木段を駆け下り、沢から一気に駆け上がる 襲いかかる様な勢いで眼に映るその圧倒的存在に言葉を失いました・・・
縄文杉へと続く最後の木段 4月29日 世界遺産屋久島。1993年青森県白神山地と同時に日本初となるユネスコの世界自然遺産に登録。九州一の山宮之浦岳を擁し、標高1000メートル超の山々がそびえ、亜熱帯から冷温帯までの植物が分布するなど、特異な生態系を持ち『洋上のアルプス』とも称されております、なかでもそのシンボル的存在で樹齢7200年ともいわれる神の木『縄文杉』。どうしても『この目でみたい』と思い続けてきました。 また同島にはヤクシマオニやヤクシマスジなど多くの魅力的なクワガタも生息しており、非常に魅力的な島でもあり、クワ馬鹿のはしくれである私としてはこちらもどうしてもはずすことができなく、渡航を夢見ておりました。 今回、ようやくつかんだ屋久島への渡航。この貴重な場をお借りし、屋久島の自然の一部とそのクワガタについて報告させて頂きます。
飛行機から見た『洋上のアルプス』
屋久島空港 まずは初日、白谷雲水峡を探索しつつ、屋久島の自然を堪能。白谷雲水峡ではヤクシカとご対面、その後、港町を観光後、渡航のもうひとつの目的であった民宿『松峯荘』の女将と感動の挨拶を済ませ早々床に就きました。
白谷雲水峡 余談になりますが、民宿『松峯荘』の女将はこのとき初めて会ったのですが、実は2007年もこの民宿に私は宿泊予約をしていました。がその際は運悪く台風で渡航できなかったのですが、それを哀れんでか、後日なんと屋久島ノコギリを送ってくれたのです。 予約だけしただけのただのキャンセルした一人の客に対するこのおもてなしに強烈に感動した私は『この女将になんとしても御礼を言いたい』と。それを今回申し上げることができまず渡航の一つ目の目標を達成しました。もし屋久島へ渡航される機会のある方はこちらの民宿をお勧めします。場所は港町安房にあり、近くにはお土産屋も豊富、ヤクスギランドへのアクセスも良く、何よりお弁当は女将さんの愛情がたっぷりで山の疲れも吹き飛びます!! http://www.minc.ne.jp/matumineso/ 4月30日 午前3時半起床、4時に女将にお弁当をもらい、車で約1時間の白谷雲水峡へ。そこから縄文杉を目指す!!
朝焼けの白谷雲水峡 今日も快晴である、それにしても非常に美しい、澄み切った空気に清流の流れる音 4時50分、登山開始 まずは白谷雲水峡を横断するため楠川歩道を歩く 楠川歩道を歩くと見えてくる道しるべ。 白谷小屋到着6時。
白谷小屋 流石に白谷小屋にはまだ人の気配が。まだ登山開始1時間、休憩しても仕方ないので先を急ぐことに。 屋久島最初の有名杉 「くぐり杉」 確かに大きな木ではあったが、それほどとは思わないなあという感想。 東北のブナ帯や山梨の台場クヌギなどを見慣れてきたせいなのでしょうか
くぐり杉 登山開始後1時間半 映画『もののけ姫』の舞台となった 白谷雲水峡のコケに覆われた森 『一ヶ月に35日雨が降る』といわれるほどの豊富な水と手付かずの自然が織り成す神秘の森です
神秘の森 巨大な切り株 そしてそこから更に息吹く新しい命。 屋久島で生き抜く動植物の生命力の高さに感服 そんな感傷に浸るも、道はかなり険しい。レンタカー屋のおばさんに言われたとおり、通常のコースを選択すればよかったかなぁと思う瞬間も。
巨大な切り株 白谷雲水峡から約2時間。 ようやく楠川別れに到着、
楠川別れ 到着するや、否や多くの登山者と遭遇。単独者、ガイド付きの団体、夫婦等々、みな思い思いの格好で。 リュックにナタをしたためていたのは私だけかもしれません(笑) ここから長いトロッコ道を進むことことに。一度地図を確認、記念撮影をしながら、平坦な道をひたすら進む。
トロッコ 登山開始から3時間 『 仁王杉』 屋久島に来て、初めて『デカイ』 と感じたヤクスギ!! 仁王というだけあり、他の杉とは比べ物にならないほどデカイ。 更に反対側にはその倒れた上部が横たわっておりました。 数百もの杉が生育するなか、突然眼前の現れた巨大な大木にただ唖然とする一瞬であります。
仁王杉 トロッコ道をあるくこと1時間 ようやく大株歩道入り口に到着。
大株歩道入り口 歩道を見上げると、かなり勾配が厳しそうな感じを受ける。 ここから著名なヤクスギが!! その最高峰が縄文杉です。 大株歩道を進む。 が道はかなり険しい。 屋久島第2の杉 『翁杉』 脇から翁岳が見えるところからその名がついたということです。
翁杉 階段や岩場など道はかなり厳しくなる・・ 登山開始4時間30分 ウィルソン株からかなり急勾配な山道を歩き続けること約1時間、これまた大きなヤクスギ 『大王杉』 『王』がつく杉はひときわデカイ。
大王杉 それにしても今は木道が整備されているが、この斜面を昔の先人は這って登ったという。 並々ならぬ体力と気力を感じずにはいられない、そしてそういったこの巨樹との出会いはひとしおならぬものがあっただろう、考えただけでも、感動で身震いがする一瞬でもありました。 途中の水場でバンダナを絞りなおす。 それにしても、体が熱い。インナーのシャツを脱ぎ、乾かすために外からはおる。バナナで栄養を補給し最後の山道を登り始める 『大王杉』から程なくして、世界自然遺産地域へ。
世界自然遺産登録地域 ここからいよいよ世界自然遺産。 身が引き締まる思いでありました。 世界自然遺産地域に入ってまもなく 『夫婦杉』
夫婦杉 かも急な勾配な山道を当ても無く、どうやって先人達はこれらの巨樹を探し当てたのだろうか・・改めて偉大な先人達へ敬意を表さずにはいられませんでした。 登山開始約5時間 この道のりもかなり険しく、息もかなりきれ始める。 大きな岩場をいくつも超え、眼の前の木段をただひたすら越える単純作業が続く。 そして一段切り立った斜面に、今までにない長い長い木段が飛び込んでくる、そしてその向こうにうっすらと巨樹が見える、いよいよ御神木との対面である。 他の杉と違い幹は白く、見る者に何かを訴えかけるような威風堂々とした巨樹の存在感はまさに圧倒的
巨樹 となりでは眼に涙を浮かべる人もちらほら、思わず目頭が熱くなるひと時でした。 この巨樹との体面は筆舌できません。 感無量でした。 他の著名木など比較になりません。 深く刻まれた皺 隆隆と盛り上がる巨大な幹 巨体を支えるために力強く大地をつかむ根 神々しいまでの白き樹皮
縄文杉 屋久島の厳しい自然に生き抜くために自分自身でそうさせたのでしょうか
縄文杉 太古より原生林の中でひとりで生き抜いてきた孤高の巨樹 屋久島の厳しい自然と融合した『杉の王者』たる姿でした。 気が遠くなるような時間を生き抜いてきた命には、なにか訴えかけるものを感じます。 深く考えさせられます はるばる行った甲斐がありました、また会いに行きます。 5月1日 お約束の雨・・・が九州最高峰である宮之浦岳を制覇しなくては、九州男児の血を引く私としては許されるはずもなく、強行登山・・これは昨日以上に疲れました・・・ お目当てのクワガタが採集できた時も感動しますが、この日の感動は生涯忘れることはないでしょう。こうして衝撃の二日間を満喫した私はクワ馬鹿であるにもかかわらず、採集という仕事を忘れるという失態を・・・このままではくわ仲間の皆さんに殴られてしまう・・・ 強烈な恐怖心に襲われた私は2日間の登山でボロボロになった体に鞭打ち『ヤクオニに会う』という最後のミッションを完墜するためにナタを枕もとに深い眠りに就くことに。 5月2日 〜お待たせしました、ここから屋久島のクワガタ登場です!!〜
民宿の女将 民宿の女将と涙の別れ 女将の目にうっすら光るものがあるのを私は見逃しません!! 女将と再会を約し、いざ出発。 が、クワガタに関しては右も左もわからない状況、とにかく事前に教えて頂いていた地名に車を走らせる。 更に、私は元々ヒメオオ採集がメインなので材割は最近ほとんどやらない、内地でオニも割り出したことなどない、しかも季節は4月。ヤクオニの新成虫が材割で得られるのは、7月〜8月と聞いていたので・・・・ とにかく山に行くしかない!!今までの勘と経験で勝負!!とばかりに入山。 迷わない程度に登山道からそれ、沢沿いに奥深くへ。ヤクシカの鳴き声を聞きながら朽木を崩そうにも『硬い、硬い!!』クワガタどころか何もでてこない・・・ 『こ、このままでは殴られる・・・』 クワ仲間皆さんの姿が脳裏をよぎる、こうなると、クワ馬鹿の血が全身を駆け巡る、いつしか来た道すらわからなくなるほど深い山中へ・・・ 時間ばかりが、残酷に過ぎる・・・ とにかく屋久島の倒木はデカく、硬い・・・そして突然、ヤクシカの鳴き声が山中でこだまする、これが結構心臓に悪い・・・・ 『ま、まずい、ボーズの予感』 最悪の結果だけは避けなくてはと、今まで見向きもしなかった廃材でもすこし見てみようと思った瞬間!!黒い塊が!!
屋久島最初の獲物!! コクワですが、最高にうれしかったです。 要するに廃材だなと、ポイントをつかむ!! 狙う樹木を変え、内地と同じ感覚で木を割り始めると、幼虫がポロポロ出始める
幼虫 が、飼育や材割を怠ってきた私には、何の幼虫だかわからない・・・・ とりあえずルアーケースにしまう。 そして次の瞬間、明らかに甲虫の足!!コクワがでてきた材とは大分状態が違う、これはヤクオニだ!!と蛹室から足を引っ張ると・・・・ 私の心とともに、その虫もばらばらと崩れていった・・・・ 無残にも室内で命を終えてしまった・・ 生涯初のヤクオニ?? この大アゴはヤクオニですよね???
ヤクオニ? そんなこんなでこの頭部がでた材からも数頭の幼虫を出し、私の屋久島採集は幕を閉じました。 4日間という短い期間でしたが、世界遺産の島を十分に満喫し、最高の思い出を作ることができました。感謝です。
世界遺産の島 後日、持ち帰った幼虫が何頭か羽化して参りました、その喜びは感慨ものでした。
ヤクオニ
もうひとつ 羽化に成功したヤクオニ(23ミリ) 本土産よりも大アゴが異様に太くメチャメチャカッコいいです。 ♀も運よく羽化し、飼育にチャレンジしましたが、結果は・・・・ 最後に採集に関するアドバイスを頂いたきーさん、P.kawadaiさん、標本修理工Tさん、ヤクオニ羽化を成功に導いて頂いた健太パパさん、.kaikaiさん、えいもんさんに改めまして感謝申しあげます。 そして松峯荘の女将さん、本当にありがとうございました。 感想、ご意見、お問い合わせはこちらまで |