一行8名、登山のベテランであるクワ吉氏が引率隊長であるものの、高山種の材採集については 自分も含め初心者が多い。自分にとって本格的な高山種の材採集は、昨年3月の山梨での採集以来2度目だ。 林道入り口から長くなだらかな坂を登って行く。紅葉には時期が少し遅いが、それでも ところどころに残っていて、好天に映えて美しい景観を作り出していた。 さわやかな好天に恵まれる 最後の植林帯を抜けると、ブナ林にたどり着く。標高はおよそ1100mで、700m近く登ったことになる。 その一帯が特別保護地区から外れていることは、事前に確認済みだ。このあたりの山系では、いわゆる 「車の横付け」ポイントがなく、ある程度登山をしなければ採集ポイントに到達できない。 しかし、苦労して採集に向かうのもなかなかどうして悪くない感じだ。早速、採集開始。 本日の採集ポイントのブナ林 早々に、hide氏がヒメオオらしき3令幼虫をブナ材から割り出す。シゲ氏も同じ材からヒメオオ期待幼虫を 割り出したようだ。オニらしき幼虫も次々と割り出されている。 自分はというと、落ち枝や立ち枯れにルリ属の産卵マークを探してみるも、なかなか見つからないでいた。 かといって、ヒメオオ狙いの材割りは、堅いブナ材との格闘を強いられるので、非力な自分としては躊躇してしまう。 こうなったら、これまで自分が採集したことのないツヤハダを狙ってみたいところだ。 ツヤハダといえば、赤く腐朽した材と聞く。赤枯れしていそうな材にターゲットを絞ることとした。 そのような目で材を物色し始めてほどなく、赤黒く腐朽の進んだ材の小片が足元に落ちているのに気づいた。 手にとって、「山菜掘り」で丁寧に削いでみると、すぐにミニサイズの幼虫が現れた。クワガタ幼虫の 形状をしているが、それにしても極小だ。「これは、もしかして?」との思いで、こんどは手でさらに慎重に 割ってみる。すると、予想どおりに出た。小さな蛹室に、それこそ木屑のような虫が鎮座している。マダラだ。これまで 様々な画像で見覚えがあったが、野外で現実に見るのは初めてである。クワ吉氏にも見てもらうと、 「まさにこれが『粒胡椒』ですよ」と、味のある表現でマダラであることを確認してくれた。 とても小さな幼虫たち マダラ成虫に出会う
マダラ成虫は、都合3頭を採集(注)。手からこぼれ落ちたら見失うことは必至なので、慎重にルアーケースに
収める。しまじろう氏も、同じ材からマダラ成虫を割り出した。
マダラの自己初採集に気を良くして、こんどは太めのブナの倒木で赤く腐朽していそうな材を探す。 まもなく良さそうな材を見つけ、早速割ってみる。期待どおり内部は赤枯れしており、すぐに赤い食痕が現れた。 斧で丁寧に削いでいくと、やがてポコッと蛹室らしき穴が空く。その中で、縦スジの入った甲虫の鞘翅が黒光り していた。一瞬コカブトに見えたが、こんな高地ではありえない話だ。期待を高めながら慎重に穴を広げ、 ピンセットで黒い個体を摘み出す。おお! ツヤハダ(ミヤマツヤハダ)ではないか。どうやら♀のようだ。無事に生きている。 これもマダラ同様、自分として野外で初めて見るクワガタであった。幸運にも、幼虫が出ないうちから成虫を 割り出すことができたのだ。けれども、胴体が思ったより太く寸胴な体形で、本当にクワガタなのかとちょっぴり疑いたくなって しまった。 お、これは!? ミヤマツヤハダ♀@神奈川 同じ材をさらに割っていくと、また出た。蛹室に先ほどと同じような黒光りの個体。これも♀だったが、 狙いの獲物の連発で、なかなか調子がいい。 連続ゲット しかし、その後は苦戦。幼虫はところどころで出てくるが、オニかスジらしきものとツヤハダらしきものが 混じっている。そもそもツヤハダ材は、うまく当たれば成虫は出にくいものの幼虫はザクザクと聞いていたが、 成虫が出たわりには思ったほど幼虫が出ない。 近くで、くわたけ氏も根気よく倒木と格闘している。聞くと、くわたけ氏はツヤハダ♂を割り出したという。 さすがだ。見せてもらったが、やはり♀よりも大顎が立派で、こうなると、自分もなんとか ♂を採集したくなってしまう。 奮起して、次々と材を探して廻る。赤材を求めるが、腐朽が進みすぎていたり、水分が多すぎたりで、 なかなか条件の良い材に出くわさない。♀成虫の死骸が出たりしたので、狙いはそう外れてはいないようだったが、 相変わらず幼虫さえも思うように見つからない。 赤く朽ちた部分はあるものの、少し早すぎるかと思われる材を割ってみた。蛹室が空くとともに、縦スジの はっきりした鞘翅が覗く。一瞬期待させられたが、よく見るとその縦スジは、ツヤハダのものよりも細かい。ピンセットで 摘み出すと、スジクワ♀だった。スジクワには失礼千万な話だが、実に紛らわしいものだとがっかりしつつ、埋め戻す。 これはスジ♀。紛らわしいぞよ いくつかの材に当たりをつけた後、だいぶ疲れたので、一休み。気がつくと、周りには、シゲ氏とちょっと遠くに くわたけ氏が見えるだけだ。聞けば、他の人たちはヒメオオ狙いで標高1200mあたりまで登っていったそうである。 日が傾き始めたので、体を動かさないでいると寒さを感じるようになってきた。皆が帰ってくるまで、 ゆっくりと材を探し続けることとする。 赤みがかって有望な倒木 するとほどなく、「これは」と思えるような倒木に出会う。叩いてみると、赤い食痕。こんどは期待できるのか? 慎重に削っていくと、蛹室が空く。そこから、太く短い2本の顎が覗く。半信半疑のままピンセットで引き出す。 これは、♂だ! ちゃんと生きている。ラッキー、ラッキー。心の中でガッツポーズ。思わず遠くのくわたけ氏に 大声で報告してしまった。こんな歳(どんな歳?)にもなって、自分はいまだになんてガキなんだろう。 出たか? うっしゃあ〜、ミヤマツヤハダ♂だ やがて、ヒメオオ狙いの人たちも下りてきた。残念ながら成虫は出なかったようだが、ヒメオオらしき幼虫を 追加できたようだ。採集を始めておよそ3時間、時刻は3時を回り、日が落ちるのも早いので、一同これで下山する こととなった。自分は、割り出したいくつかのスジ、オニ、ツヤハダ、マダラ幼虫たちを材に埋め戻すこととした。
こうして、日本特産のクワガタであるツヤハダとマダラ成虫を初めて採ることができた。特にツヤハダは 是非とも採集したいと思っていたところだったので、初めて訪れた場所で1♂2♀♀を採集できたのは、初心者の 自分にとって望外の成果であった。これをきっかけに、小型種採集にもハマりそうな気がして、ちょっとコワい。 ミヤマツヤハダ1♂2♀♀ マダラ1♂1♀
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