カミキリムシ採集記
〜普通種だって楽しいのだ〜
insect collecting ’03
27/Jul/2003

by なべ


 
去年の夏の出来事である。

その日は栃木県の某花火大会であった。

毎年の行事の一つとなっている花火大会だが、私はちとニガテなのである。っと言うのも、私は大のヒトゴミ嫌いなのである。

家族を会場の近くに下ろし、延々と離れた駐車場に車を停めて、ヒトゴミの中をまた延々歩いて行くのは、言うまでもなく私の仕事なのである。

であるから、花火大会は少々気が重い行事なのであった。が、去年は違った。

幾つかある大会の一つではあるが、義妹夫婦が絶好の秘密ポイントを見付けたと言うので、そこでのんびり花火見学 を楽しむ事となったのである。

現場に到着すると、なるほど見晴らしはよく申し分ない。 がしかし、肝心の”秘密”は私から言わせればぜ〜んぜん秘密ではなかったりするのである。

某堤防の上を陣取っての見学なのだが、ヒトゴミとは言わないまでも、相当見物客は居るのであった。

日もとっぷりと暮れたころ、花火大会が始まった。

どの見物グループも一様に酒盛りが始まった、丁度そんな頃合に、忘れられない出来事が起こったのである。

一台の軽トラが屋台を乗せてやって来たのである。

そしてスピーカでアナウンスを始めた。

『あま〜い焼きトォモロコシ、ジャンボフランク、イトウゲンはいかがですかァ〜!』・・・・・・。

なんですか!イトウゲンって。

その後は軽トラは黒山の人だかりとなり、謎の食べ物(だと思う)の正体を確認することはできなかった。

私意外の家族も、皆その”イトウゲン”のアナウンスは耳にしていたとのことで、決して私の聞き違いではないようである。

来年こそは、そのイトウゲンの正体を突き止めよう・・。 その日が実は今日だったりするのだ。

まァいい。 謎は謎の方が好い事だってあるのだ。

私の中では、あれは千と千尋のお父さんとお母さんが貪りついたヤケに水っぽいブヨンとしたタテジマのアレ・・と言う 事で解決しているのだから。(^^;;

実を言うと、その花火大会のお陰でねくとんさんは自由の身になれたとのことであった。
それがどう言う訳なのかは、ここで触れるのは止めておく。


 


 
 
いずれにせよ、昆虫採集を楽しんでいる今が、一番楽しい のである。(^^そんな長い前置きでやって来たのは、栃木県北部である。ちょうどノリウツギやリョウブなどが満開に差し掛かっており絶好のスイーピング日和なのである。しかしながら、今年の天候不順のせいで、やたらと日照時間が少ない。そのせいか、虫の飛びもイマイチに感じる。 とちあえずは道端のノリウツギを掬ってみた。
まずネットに入ったのがヤツボシハナカミキリである。このカミキリは”原型”と”黒化型”と”ツマグロ型”がある。今回採集したのは”黒化型”である。  


ヤツボシハナカミキリ(黒化型)
Leptura arcuata mimica Bates

 


フタコブルリハナカミキリ
Stenocorus caeruleipennis Bates

次にネットに落ちてきたのはフタコブルリハナカミキリである。初心者のうえ芋な私はこれが初採集であり、普通種ながら激しく喜んでいたりする。何を採っても”初”が付く今が、最も楽しい時期なのかも知れない。だから今のうちに、思いっきり普通種で喜んでおこう。
お次は、ミヤマクロハナカミキリだ。ちなみにこれも”超”が付くほどの普通種である。でも嬉しい。う〜ん、この艶、このいかにもハナカミキリ!と言ったスタイル、何とも美しいものだ。  


ミヤマクロハナカミキリ
Anoplodera excavata Bates

 


 
 
今度は少々標高を上げて”白い花”を探す。途中途中のブロック積みよりツルアジサイが垂れ下がっているのが目に付く。しかしこちらは既に最盛期を過ぎたようで、スッカリ花は見当たらなくなっている。最盛期には、それはそれは沢山のヒメハナカミキリが訪花 するそうである。
そんなツルアジサイの近くに咲いていたノリウツギをスイーピングしたところ、私的に初となるヒメハナカミキリがネットに入った。オオヒメハナカミキリである。ちなみにこれも”超普通種”である。だけど初採集な私。そんなことをしていたら、雨が降ってきてしまった。まったく今年は何処に行っても雨に祟られてしまう。お次は某林道でヒメオオとソリダ(オオホソコバネカミキリ)をやっつける予定であったが、雨脚も段々と強まり、どうやらそちらは断念せざるを得ないようである。  


オオヒメハナカミキリ
Pidonia grallatrix Bates

 


アオアシナガハナムグリ
Gnorimus viridiopacus Lewis

そんな沈んだ気持ちを一掃するかのように、ねくとんさんが見慣れないハナムグリを掬ってくれた。帰宅後の同定ではアオアシナガハナムグリということになった。過去にオオチャイロをヘンな臭いがするからと、投げ捨ててしまった辛い経験があるので、見慣れない虫でも、ちゃんとキープして同定することにしている。ちなみに、ハナムグリはねくとんさん的に対象外とのことで 有難く私が頂くこととなった。
雨がパラつく中、ネットをビショ濡れにして掬ったところフタスジハナカミキリが入った。こちらもやはり普通種だが、何処にでも居るヨツスジハナカミキリと違い、県北の山地に来ないとお目に掛かれないのでちょっとうれしかったりする。  


フタスジハナカミキリ
Leptura vicaria Bates

 


ヨツスジハナカミキリ
Leptura ochraceofasciata Motschulsky

そんでこちらが、何処にでも居るヨツスジハナカミキリである。かと言って、オオヨツスジハナなるヤツもいるので、一応はチェックしておく。
某林道入りは断念したのだが、どうしてもヤナギのルッキングがしたくて、林道入口までやってきた。残念ながらヤナギに付くクワガタを見ることはできなかったが、舗道を歩く♀なヒメオオと遭遇することが出来た。ちなみに今回登場するクワガタはこの娘だけである。  


ヒメオオクワガタ
Nipponodorcus montivagus Lewis

 


 
 
さて、ヒメオオに別れを告げて、今度はルリボシカミキリに会いに行くことにした。辛うじて雨は上がったものの気温の上昇がイマイチである。しかも、悉く材木が片付けられており、その大半がソダになっていた。これは余り期待がもてないかなァ・・と思ったが、とりあえずネットをもってルッキングを始めた。
最初に目に付いたのがコレ。コバネカミキリである。慌しく材の上を走り回るその姿は、まるでゴキを連想させる。とは言っても、私はこのカミキリは嫌いではない。  


コバネカミキリ
Psephactus remiger Harold

 


ルリボシカミキリ
Rosalia batesi Harold

他に何か居ないかと、ソダの上に上がってルッキングしていたところ、獲物を狙うヤマカガシと遭遇してしまった。確か去年はマムシと遭遇しているような・・。蛇たちにも、この土場は餌場として、魅力がいっぱいの様である。しかし、私もここではハンターなので、ヘビ殿には退いて頂くことにした。ヘビが退くのを待って、辺りを見渡すと・・。居るは居るは、ルリボシがソダのあちらこちらから現われてくる。まるで涌いているかのようだ。今回はルリボシにおいては、標本の採集に来た訳ではなく、撮影及びブリード個体のキープが目的であった。撮影後、5〜6頭のルリボシを摘んでプラケに入れた。プラケの中には直径4cmほどのブナの枝を入れて、カルピスを餌にして飼育を試みた。今現在、親虫は死んでしまったが、ルリボシの1令幼虫をブナの樹皮下に見ることができるようになった。
さて、話を土場に戻そう。雲間から時折差し込む日差しで、やや気温も上昇したようである。それにつれて、カミキリたちの動きも活発になってきた。目の前を飛んで来た小さなオレンジ色のカミキリを掬ったところヘリグロリンゴカミキリであった。(^^何とも美しい良いカミキリである。  


ヘリグロリンゴカミキリ
Nupserha marginella Bates

 


ホウノキトゲバカミキリ
Eryssamena sapporensis Matsushita

次に目に付いたのがコレ。ホウノキトゲバカミキリである。 はっきり言って同定に自信がない。(^^;;が、大先輩から”ホウノキトゲバとトゲバは後脚腿節に剛毛列があるかないかが鑑別点。あればトゲバ、無ければホウノキトゲバ。”という鑑別方法を教えて頂き、よくよく観察したところ、後脚腿節に剛毛列がないことから、ホウノキと判断した。これまた私的に初採集である。
こちらにも初物がいました。ツユクサの葉上に居るのは、エゾサビカミキリ。なんとも可愛らしいカミキリである。  


エゾサビカミキリ
Pterolophia japonica Breuning

 


ヤツメカミキリ
Eutetrapha ocelota Bates

こちらはねくとんさん採集のヤツメカミキリ。この他にも、ハンノアオカミキリなんかも採れたりする。さて、今度は土場を離れて、少々移動。道沿いの草花をルッキングしてみる。
最初に見付けたのが、これまたとっても小さなハナカミキリ。体長5mm程度のチャボハナカミキリである。はっきり言って、これらのカミキリは、こちらから会おうとしなければ、一生会う事はないであろうカミキリである。  


チャボハナカミキリ
Anoplodera misella Bates

 


ニンフホソハナカミキリ
Parastrangalis nymphula Betes

こちらもまた、小さなカミキリである。ニンフとはよく言ったものだ。それにしてもカミキリは種類が多く、採集環境のバリエーションも多彩で、飽きることを知らない。
こちらは、マルモンサビカミキリ。低地では5〜6月、山地では7〜8月が発生のピークで、個体数は多いらしい・・が、初採集。はじめは、栃木的に珍のチトオビチビかと思ったのが、カミキリの大先輩より”マルモンサビでは?”とご指摘を頂き、再度同定してみたところ、マルモンサビということになった。ちょっとガッカリ。それにしてもカミキリの世界は奥が深い。  


マルモンサビカミキリ
Pterolophia angusta Bates


 


昼の部はこんな感じで、あっという間に過ぎていった・・。 

さてさて、お次は夜の部である。

が、生憎の雨・・・。

しかしどうしても諦めきれず、一時は一気に福島まで行ってしまおうかとも考えたが、ここはひとつ少々南下して、出来るだけ近場での雨覚悟のナイターをする事にした。

某温泉街の近くに、程よい空き地があるのを、ねくとんさんが知っており、早速そこで張ることに決めた。

南下するに連れて、雨脚も大分弱まり、やがては曇り空の好条件となった。

全くの未開の地でのナイターなので、何が来るかサッパリ分からないのがまた楽しい。

少々風はあるものの、問題なくスクリーンを張ることができた。

ミヤマやオオなどの大きなクワガタを採集するときは、スクリーンがなくてもさほど影響はないのだが、ことオニクワや小 さなカミキリなどの採集となると、スクリーンの有無はその成果を大きく左右する。

点灯後、間もなくやって来たのはアカアシクワガタであった。

蛾の飛来なかなか好い感じだ。

居すぎると片付ける時ウンザリしてしまう蛾たちも、ナイターでは雰囲気を盛り上げてくれる大切な脇役なのである。


 


アトモンマルケシカミキリ
Exocentrus lineatus Bates

ハンノアオカミキリなども飛来を初め、ヨシヨシと思っていた ところに、小さな小さなカミキリが飛来してきた。アトモンマルケシカミキリだ。これも嬉しい初採集。それにしても小さい。
その他にも、初採集のトガリシロオビサビカミキリも飛んできて、雨にも負けずここでナイターを張った甲斐が会った。 時計の針がPM9:00を回ったころ、雨脚が強まってきた。 今回の採集はこの辺でお終い。  


トガリシロオビサビカミキリ
Pterolophia caudata Bates



いやァ、カミキリムシと言う甲虫と向き合う様になって、本当に採集の楽しさを満喫できるようになった気がする。

恐らくそれは、カミキリに限ったことではなく、昆虫採集全般に言えることだろう。

灯火採集に於いてもそうである。

只々、一つの種を追い求めて極めるのも悪くはないが、折角多くのムシが訪れて来ているのだ。

もう少し彼等にも目を向けて行こうではないか。きっとそこには、今までにはなかった驚きと発見があるはずである。

とか言いつつ、採集に出掛けると朝から晩まで、ノンストップで走りっぱなしの自分に、少々疲れ気味な今日この頃である。

あまり欲張るのも良くないな・・と、戒める自分であった。


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