徳之島リポート

ふじもり@えりー


■世の中には不思議な縁というものがある.
話せば長くなるので省略するが,突然,調査の仕事で徳之島へ行くことが決まった.
2泊3日なので実質の滞在時間は48時間である.
これはプライベートな旅行ではなく,あくまで”仕事”なので,虫採りに興じるわけには行かないが,最終日のフライトの前くらいは少し時間がありそうだ.
採集旅行で飛行機に乗る場合に気をつけて欲しいことは,スプレー缶は禁忌であるということ.
キンチョールは現地調達となる.
固形燃料もダメである.
これまでガーバーの斧は注意されたことが無いし,DNA抽出用のエタノールや,酢酸エチル,サンプルチューブなどはお構いなしだ.
しかし,空港で捨てられることもあるらしいので採集用品の取扱いは注意を要する.
今回3本持っていった毒ビンのうち2本が割れていたのはちょっとショックだった.
毒ビンはしっかり布やタオルで梱包しておく必要がある.
もし,宿があらかじめ決まっているようなときは先に宅配便で送ればよい.
黒猫ヤマトは離島だって数日で送ってくれるのである.
今回は時間がなかったので,スーツケースには愛用の6m竿とネット,毒ビンなどをしっかりと収めて伊丹空港から飛び立つのであった.

■徳之島への直通便は無いので,どこかでトランジットする必要がある.
今回は鹿児島経由で徳之島へ行くことになった.
奄美大島にくらべて徳之島はリゾート開発はほとんどなく,訪れる観光客も少ない.
実際機内でも観光客らしい姿は見えず,ビジネスマンか島人ばかりである.
これといって特産もないみたいだし,戦艦大和が沈没したのは徳之島沖だとか,そんな程度の知識しか私も持ち合わせていなかった.
一周約90kmのこの島は南西部はさんご礁が隆起してできたのか石灰質の土壌で,多くの鍾乳洞もあるらしい.
徳之島でもっとも有名なのはハブかもしれない.
もちろん奄美大島にも沖縄にもいるハブだが,徳之島のハブは特に獰猛で,木の上から攻撃してくるという.
毒性も高く,いまだに被害件数も多い.
産卵期にジャングルの中に入るのは自殺行為だと言える.
特に高い山もないが,北部のほうが山は深いので虫も多いかもしれない.
離島に行くときはいつも私は事前に地図を頭に叩き込む.
交通手段はレンタカーになるので主要な道路や集落の地名はいちいち地図をみていたのではわずらわしくて仕方が無い.
虫の楽園である離島だが,現地の採集ポイント情報を持たずにいきなりいっても虫はそう簡単には採れない.
今回は別に採りたい虫があったわけではないのでとりあえず出たとこ勝負をすることにした.
まあカミキリとかハナムグリは何かしら採れるだろうし,アマミノクロウサギが見れればラッキーだくらいに思っているのがよいだろう・・・
わすれてはいけない,これは”仕事”なのだ.

■急な話だったので宿も現地調達にしようかと思ったが,運良くインターネットで調べたら安い宿が見つかった.
空港からは離れているが,仕事をするには丁度よい場所だったので即決してしまった.
”3000円”
こんな安い宿にはついぞ泊まったことがないが,どんな宿か楽しみである(笑).

■天気は上場.
ちょっと風が強かったが,飛行機はゆれることも無かった.
眼下に広がる海は真夏の日差しを照り返していた.
徳之島空港へ降り立つとき島の北部が見えたが,思いのほかさんご礁というよりは,岸壁の多い島だということがわかった.
遠浅の砂浜というよりはすぐに海が深くなっているのである.
漁港も少なく今回の仕事はちょっと難しいことになるかもしれない,そんな予感がしていた.

 

■到着したら,すぐにレンタカーを借りた.
空港前にワゴンが止まっていたので乗せてもらう.
レンタカー屋は空港の敷地の出口にあるので歩いてもまったく問題ない距離である.
半端でなく暑い.
こんなに暑くて乾燥していては,虫もいないのではないか?ふとそんな気がしてならなかった.

 ■今夜の仕事場であるマリーナ

 ■沈む夕日

■六甲山に沈む夕日も綺麗だが,離島でみる水平線に沈みゆく夕日は格別だ.
さあ,いよいよ調査開始である.

■調査は予想どおり難航したが,あっというまに2日間が過ぎた.
夜中3時くらいまで島中を走り回っていたので疲労困憊していたため,宿にたどりつくなりいきなり爆睡だ.
3000円の宿はというと,これがすばらしい!
ロフト付きの5人泊まれる部屋を独りで使えて,水量の豊富なシャワーにエアコンは効きすぎるほどだった.
どうやらダイビングの講習会を行うためなのか水深のあるプールも完備である.
これで3000円なら絶対安い.
今度もし徳之島に行く機会があったら再度ここに泊まることは間違いない.
離島,本土で調査を行ってきた相棒いわく,調査旅行でこんな立派な宿に泊まったのは初めてだという.
(普段は野宿だそうだ)

 ■晴と雨の間

■2日目の夕方スコールが来た.
梅雨明け以後の降水量が3mmというカラカラ状態の島にとっては恵みの水である.
離島は水の確保が難しいのだが,徳之島はダムが多く,水にはあまり困らないようだ.

■相棒は次の調査地へと早朝に旅立った.
さあ,午後のフライトまで数時間ある.レンタカーは日単位で借りているので,フライト前までに返せば十分である.
夜間の調査の間に,街頭下でトクノシマノコ,トクノシマヒラタなどを拾うことはできたが,調査のほうが難航したため,ほとんど虫を見ていない.
ただ,サトウキビの害虫であるタイワンカブトだけはうじゃうじゃいた.
まさかこんなところまでタイワンカブトがいるとは思っても見なかった.

 ■井ノ川岳より

■この2日間で,島の様子はわかっているが採集できそうなポイントというのはあまりない.
よさそうだと思っていた北部の山は乾燥がきつく,ジャングルの中に入らずに虫が採れるような場所は見つからなかった.
そこで,徳之島でもっとも標高のある井ノ川岳へ行ってみることにした.
なにしろこれまで1匹もカミキリムシを見ていない.
夜間の調査ではホタルが採れるかと思ったが,ついぞ見ることはなかった.
ベニボタルくらい飛んでいてもよさそうなものであるが・・・.
クワガタ以外何も採れませんでしたでは虫屋がすたる.
乾燥した島であったが,井ノ川岳の周辺はハブがたくさんいそうな沢もあり,ジャングルは十分な湿度を保っていた.
蝶は数多く飛んでいた.

 ■ハブがいないか上を確かめながら,このような枯れ枝やツルを叩く

 ■いかにもハブのいそうな沢・・・とても入る気はしない(^^;

■まず目に付いたのは濃紺のハンミョウである.
気温が高く,動きがめちゃくちゃ速いが,本土に比べてかなり近づいても逃げないので簡単にネットに入る.
コンクリートの道路であるが,山頂付近にはうじゃうじゃいた.
そういえば,アマミノクロウサギを目撃した北部の土場にもいたが,そこではアマミハンミョウのほかに,地味な色をしたハンミョウもいた.
ジャングルの中に入れば雑甲虫は沢山とれそうであったし,湿度のある側溝をあさればハネカクシやゴミムシなどがいそうだったが,いかんせんハブが怖くて林道から一歩が踏み出せない.
1時間ほどの間に,ゴミダマを数種,スレンダーなオビレカミキリ,アマミコブヒゲカミキリなどが採れたところで,タイムアップ.
アマミキモンにはちょっと遅かったようである.
シイの花でもあればもう少し面白い虫が採れたかもしれない.

 ■車に轢かれて干からびたヘビ・・・ハブ??

■さいごに.
今回は仕事ということもあって,思う存分昆虫採集をするわけにもいかなかったが,下見をするには十分であった.
欲を言えばきりは無いが,多少の虫も採れたのだから満足するしかあるまい.
隣の奄美大島に比べると特産種も少ないのでそれほど魅力的とはいえない島であるが,離島はやっぱり楽しい.
手を伸ばせば届きそうな星空,人の居ない海に打ち寄せる波,沈む夕日を見ていると,日常はこう在るべきだと思ってしまう.
南の島大好き人間としては,仕事であってもこのようなチャンスに恵まれたことはラッキーだった.
今度は採集三昧をしにプライベートで訪れたいものである.

えの(ふじもり@えりー)
ceruchus@mb.neweb.ne.jp


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Photographs of the collected beetles in Tokunoshima island