あれぁイイ日だった-アマミネブトクワガタ-

標本修理工T



 
 
 
 
 

この話は「奄美大島編 その壱」の続きです。「その壱」をご覧になりたい方は、下記のURLまでお越しください。

http://www.geocities.co.jp/AnimalPark-Tama/7263/amaminebuto.html

 初の奄美大島で中歯型のネブト(といっても24mm。本土であれば大歯型なのに……)を採集することができた私が、再びこのクワガタを採集できたのは翌年の1992年。この年も数はそこそこ採ることができたが、最大はまたもや24mmの中歯型。もうこのサイズはどーでもいいから、ちゃんとした大歯型が欲しいものだ。  

 1995年。8月7日に奄美大島入りしてから、毎日採集三昧の日々が続く。もういつ何を採集したかなんて覚えていられないくらいいろんなものを採った。しかし、ネブトはホントに大型個体が入らない。数え切れないくらいの小歯型と10頭にも満たない24mmオーバーという数値を見れば、いかに大型個体が少ないかがわかる。  

 季節は9月に入り、今日はもう8日だ。奄美大島に入って1ヵ月以上が経過したにもかかわらず、現在までのネブト最大は27.0mm。このサイズにいたっても、まだ完全大歯型とは自分的に認められない個体であった。「いったい大歯型はどこにいるのだ……」  募る焦燥感とともに、多少のイラ立ちを感じる。この当時のギネスは33.5mmで、タダネブトよりも大きいのだ。それにもかかわらず、大歯型と呼べる個体すら採れないのはどうしたことだ! あと10日もすれば沖縄本島へ渡らなければならない。ネブト大歯型だけではなく、アママルもロクな成果をあげられていないこの状況を打破するには、なにか別な要素が必要なのではないかとさえ思えてくる。  この頃になると、焦点をアママル採集に絞っていたため、バナナトラップの数は次第に少なくなってきていた。9月に入ったと同時に、トラップに来る虫の数も急速に減っていた。

 今夜も、さしたる期待もせずにトラップまわりを始める。3日ほど前に仕掛けたトラップを、ひとつひとつ丁寧に見ていくも、アマミコクワとアマミヒラタがいくつかついているだけだ。ネブトもいることはいるが、採りたいと思えるようなサイズは一向に現れない。  ところがだ。いくつ目のトラップかは覚えていないが、とあるトラップでとんでもない個体が入った。そのトラップは目線よりも高い位置に仕掛けてあり、ヒラタやネブトよりも、コクワ狙いで掛けたトラップであった。そのトラップよりさらに1mくらい上に、コクワサイズの尻だけが見えていた。 私はその虫の真下にいたため、全体像がわからなかった。上翅しか見えない。あのサイズの尻はネブトには見えないが、コクワにしてもなにか変だ。すぐ後ろにいたS氏に声をかける。
 
「あれ、コクワかなぁ?」

「えー……ネブトだー!!」

「なぬーっ! デ、デカイぞー!!」

 S氏がネットをその個体の真下に添える。私はさらにその真下で、下に落下しないように手を拡げる。樹皮の凹凸した所にいるので、ネットに入りづらそうに感じたのだ。案の定、その個体はネットに入らず、私の手もすりぬけて草の中に落下した。あわてて下草を掻き分けると、すぐにその個体を発見することができた。

「デケー!」

 2人同時に叫ぶ。これほど強烈な個体はあまりにも久しぶりだったため、最近感動が薄れていた私達には衝撃が強すぎた。頭に1対の突起が出ている、完全大歯型である。これで叫ばないハズはなかった。

 宿に帰ってさっそく計測の儀式。ノギスのメモリは32.0mmといったところか。それまでの最大個体を5mmも上まわる、途方もない個体である。とてもじゃないが、これ以上のサイズを採るのは不可能に思えた。ここで問題があるとすれば、この個体を2人のうちのどちらが持っていくかということだが、これはS氏にゆずる。

「まぁ、今度良い虫をくだされ」

という交換条件付きであるが(翌年、この個体の代わりにトカラノコの大歯型3頭をもらう)。  それから6年後の2001年。その前年に当時のギネスである35.2mmというとんでもないバケモノ個体のさらに上をいく3mmを採集したS氏が、例の32mmを手放すというので、私が買い取ることとした。私の採集ラベルも付けられるわけだし、他に出したくもないというところだ。 とゆーわけで、この個体は現在、私の箱の中に鎮座している。36mmオーバーが存在するからといって、この個体を小さいと思う人がいるならば、私は胸を張ってこう言おう。  「自分で採ってみ」  と。 徳之島編につづく (上写真がその時に採集した個体。ホントに大型個体を採集するのがキツイことこの上ないネブトである)

 
 



 
 

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