イギリスにおけるクワガタの保護

 

 SIGMA B@UK

 

1.         はじめに

ヨーロッパ全体でヨーロッパミヤマクワガタ(ユーロミヤマ,Lucanus Cervus)が保護対象となっている.この種のイギリスの主な生息地は,幸か不幸かロンドンの周辺であり,特に全英オープンテニスで有名なウィンブルドンなどは多産地として知られてい

る.

この種は,イギリスにおいても,古くは嵐を呼んだりや魔術をもつ昆虫として畏敬の念をもってとらえられてきたようで,それにまつわる伝説も多く,社会的な関心も高い.本稿では著者からみたイギリスにおけるクワガタ保護の実情を紹介する.

 

2.         法的な規制

このクワガタはイギリスでは“The Wildlife and Countryside Act 1981”という野生動物保護法の適用を受けている.この法律は,「商取引の禁止」を定めている.したがって,現時点ではただちに採集禁止あるいは飼育禁止というわけではない.

The Wildlife TrustのAdvice Notes [1]に書いてあるこの法律の目的の説明が面白いのであげておく.

“A major threat to the species, especially in Europe, has been through private collectors (who trade in them for collections), and in certain parts of the world such as Japan, this trade is still thriving where the beetles are kept for pets and

status symbols.”

(この種にとっての脅威は,ヨーロッパの個人蒐集家と,ペットやステイタスシンボルとしてクワガタを飼育する日本人(!)等である).前者はヨーロッパの広範囲に分布する本種の亜種や地域変異に興味を持っている個人蒐集家のこととを指しているので

あろう.後者は日本人にとっては,はなはだ迷惑な話である.stillというのも気にくわない.クワガタを取引するなんて野蛮だとでもいいたげである.飼育が難しくまた短命であるからペットには向かないと思うのだが.またヨーロッパミヤマがステイタスシンボ
ルになるほど貴重,高価なようにも思われない.保護のための大義名分にていよく利用されているにすぎないような気がする.

 

3.         保護活動

最近の個体数の原因は(1)倒木の減少,(2)都市開発による生息地の減少,(3)道路の舗装,(4) カラス等による捕食などと考えているようである[1,2].(1),(2),(4)は日本でもよく耳にする説である.(3) は,舗装面は温度が高くなるため,クワガタが集まりやすく,

その結果として車等に轢かれやすいという説らしい.日本ではそういう説は聞いたことがないが,客観的事実でもあるのであろうか.確かに車に轢かれた個体はよく目に付くし,残酷ではあるが.また日本でよくある採集圧説は候補になっていない.やはり
主因は(2)と考えるのが妥当であろう.

1997年以降London Wildlife Trustがロンドン周辺の個体数や分布の調査を毎年定期的に行っている.その一例はWebページにも見ることができる(http://www.wildlondon.org.uk/cons/stagbeet.htm).1997年に“The National Stag Beetle Focus Group

(SBFG)”も組織され全国的な調査,啓蒙,保護活動にあたっている.

そういった団体はクワガタの幼虫の住処となる朽木や,マットをいれた箱を半分地面に埋め込むことを推奨し(上記Webサイト参照),2000年以降は一部の公園等で実施している.また交尾のための巣箱(詳細不明)をおくこともしているである.啓蒙活動とし

ては,学校等における説明のほか,People’s Trust for Endangered Species では ”Stag Beetle Friendly Gardening” とう冊子を作成し,配布しているらしい.日本で大流行のEnglish Gardeningの専門家達にもぜひ実践をお願いしたいところである.

 

4.         おわりに

イギリスのヨーロッパミヤマクワガタの保護活動の一端を紹介した.こちらでも本格的な保護活動は始まってからたかだか5年余であるから,効果を議論するのは現時点では早計であろう.しかしながら,毎年行われている調査は,今後,保護の効果を定

量的に議論することを可能にするであろうし,幼虫等の生息できる朽木等を意識的に設けるなどの活動はある程度の効果をあげるかもしれない.社会や価値観が違うので,クワガタの「商取引の禁止」は離島の稀少種などをのぞけば,日本にはそぐわな
いと思われるが,幼虫の生息環境の確保などでは参考にする点もあるのではないだろうか.

 

参考文献

1. London Biodiversity Action Plan ? Stag Beetle.

2. Mathew Frith: “Stag beetle Advice Note”, The Wild Trusts.


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