♪私の採集歌♪

by リュージョン

音楽の好みは人それぞれ。皆で採集の時は、自分の好みを押し付けるのも良くないので小さな音で流しているが、一人の時はボリュームを右に大きく回してたらら〜ん♪。
そんな私の好きな採集歌。採集の脇役にふさわしい、抑えた曲調のものを並べてみた。どれも古いが、時の洗礼を受けた名曲たちだ。

あなたを愛し続けて レッド ツェッペリン
SINCE I'VE BEEN LOVING YOU LED ZEPPELIN
彼らのVに入っているずっしりヘビーなブルースだ。私はこの歌を「ヒラタを愛し続けて」と呼んで、樹液採集の時によく流している。
「7時から11時まで毎晩虫採り、ダメだってわかっちゃいるんだが…。俺の人生、虫漬けになっちまうぜ」という歌詞がまた採集にぴったりではないか。濡れたようなジミー・ペイジのギターは夜風に揺れる柳の枝か?ギコギコと軋みをあげるジョン・ボーナムのペダルは大アゴの擦れる音か? とにかくこの歌のおかげで沢山採らせてもらった。採集成果に確実に効く一曲。

アキレス最後の戦い レッド ツェッペリン
ACHILLES LAST STAND LED ZEPPELIN
ツェッペリンの最高傑作として「天国への階段」を推す人が多いが、それ以上の名曲だ。四方から降り注ぐギターの強烈なリフ、最後まで押し通す大河の流れようなリズム隊の力、それに抑えに抑えたロバート・プラントのヴォーカルが鉛色に絡みつく。この曲が出て30年近くなるが、この曲を超えたロックが果たしてあるのか!と言いたいほどの素晴らしい出来栄えだ。全てのパートを覚えるまで聴き込んで欲しい。
採集の出撃歌としても申し分無い。シーズン末期のヒメオオ採集、アキニレでのヒラタ採集などに最適ではなかろうか。「それは9月の朝だった。俺たちがあんたに虫採ってこいって言われたのは。あんたを見ればただ微笑むだけ、行かないわけにはいかんじゃろう!」とロバートは歌う。曲名も聞いてアキレる「秋です最後の戦い」。採れなかった帰り道には「あ〜ああっ、あ〜ああっ」と一緒に歌えばよい。

ついておいで パット・メセニー
ARE YOU GOING WITH ME? PAT METHENY
ライヴアルバム「トラベルズ」の冒頭を飾るテイクが最高だ。前半はしっとりとテーマが繰り返される。そして4分後、突然パットのギターシンセが立ち上がり、身を捩り、天高く舞い、転がりまわる。Are you going with me?、ただその一言をなぜそこまで切々と奏でるのだろうか?ライヴで観たパットは、苦しいわけ無いのに、実に苦悶の表情でピョンピョン飛び上がりながらこの曲を弾いていた。きっと脳内が食痕だらけなのだろう。
車で聴くには自分で企画した夜の採集にぴったりだ。特別のマイポイントに「ついておいで」と案内する時の喜びと不安が、不覚にもその場所を誰かにボロボロにされてしまった失意が、象さんの叫びとなり、この曲に乗って心の中をじっとりと濡していく。

アウター シークレッツ エディ・ジョブソン
OUTER SECRETS EDDIE JOBSON
1985年、天才エディ・ジョブソンが残した全編シンクラヴィアによる渾身のアルバム「テーマ オブ シークレッツ」に収録。アルバム中、SECRETSを題に含む同じ旋律の曲が全く違うアレンジで3回登場するのだが、この曲がそれはもう壮麗なクォリティで最後を締めくくる。
学生時代に、エディの居たUKというバンドのあまりの凄さに体表痺れっ放しだったのであるが、日経新聞の片隅に「悲しみに満ちている」とのレコード評を見つけて手にしたこのCDで、ただただ泣いた。凍り付いていた秘密の悲しみの氷山が青い滝となって流れ出す。
そんな樹液だらだらの秘密の木を探しにいくときに、ぜひこの曲を。

ストレート トゥ ザ ハート デイビッド・サンボーン
STRAIGHT TO THE HEART DAVID SANBORN
同名のライブアルバムに入っているテイクを断然お勧めする。期待を絶対外さない男マーカス・ミラーの筆による。抑えたバックが後半の長〜いクレッシェンドに入ると、サンボーンのアルトが暖かく切なく回り始める。
坂を登り、鼓動が高鳴り、ついに頂点を捉える。そして深呼吸のような幸福なフィニッシュ。それはぜひ、最後に大物をゲットして満面の笑みを浮かべる自分でありたい。しかし「核心へ一直線」という曲名は、採集時に車から真っ先に飛び出して虫を捕まえる某支部長のようだ。

アイス キャメル
ICE CAMEL
プログレの第2集団として結構人気があったバンドだ。代表曲のスノーグースやエコーズはもちろんとても良いが、採集ならこの「アイス」に決まり。ぐっと抑えた旋律に、ギターのチューニングまで低くなっているが、そこは名手アンドリュー・ラティマーの独壇場。寂しげな流れから、号泣の様を呈する後半への感情移入には圧倒される。
月光冷たく降り注ぐ墓場の採集にこの曲を聴いていこう。車はラクダになり、ポイントの前でゆっくり膝を折ってあなたを降ろしてくれるだろう。

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