ポプラ並木のマメピカヒラタ
(
想い出のクワガタ/思い入れのクワガタ)

by tsuu3@田中

 
 これは、1960年代後半、私が幼稚園の年長か、小学校1年生の時、つまりガキだった頃の話である。大阪万博が行われた年に近い時代の話である。家の応接間のいすに手をかけ、いすといすの間でぶらぶらとブランコのようにぶら下がり、ジャンプをして遊んでいた。もっと遠くに飛びたい、もっと遠くに飛びたいと・・・・・ジャンプ!
ゴツ!ギャー、わーん、わーん。頭から血が出たー、頭から血が出たよー!頭がおかしくなっちゃうよー、頭が馬鹿になっちゃうよー。誰か助けて〜〜〜 (そう、頭をテーブルの角にぶつけて出血してしまったのだ。)
こうしてその時から、私はくわ馬鹿になってしまったのかもしれない(^^;

 私がガキの頃住んでいた栃木県藤岡町には、遊水池と呼ばれる湿地帯が存在する。ここには小さな池や沼が無数に有ったので、小さな池でフナや亀を捕まえて良く遊んだ。また、崖で芝滑りなどを楽しんだ記憶も有る。そしてかつてそこには大きなポプラの並木があった。実家でのコクワガタ、ノコギリクワガタの採集経験から、ポプラの樹液でクワガタが採れることを知っていた私は、遊びのついでにその並木道のポプラを覗いてみるのが習慣であった。

 ポプラの樹液は今にして思えば、カミキリムシが作ったと思われる穴から出ており、その出口はまるで木をノコギリで削った後のカスを集めたようなふっくらとした削りカスの蓋で覆われている。そして、蓋が除かれたカミキリムシの出口のような部分は、その部分だけクワガタが入れる程度に広く樹皮もめくれ、クワガタが隠れることが出来る良い環境になっている。このようなカミキリムシが開けたと思われる穴はその後、関西におけるアキニレ、南西諸島におけるアカメガシワでも経験しており、クワガタの好む穴の一種なんだと実感している。しかしながら、関西地区の採集でポプラの木でクワガタを採った経験は無く、また、このような穴の空いたポプラを見ることも無い。その昔、あの採集の名人○○ちゃんさんより、「関東のポプラはクワガタが採れるが、関西のポプラではクワガタは採れない。」とBE−1に行った時、教えていただいたことがある。やはりそうなんだろうか?最近実家に帰省したついでに、ポプラの木を見てみたが、カミキリの穴はふさがってしまっていた。最近はクワガタもいないそうだ。クワガタが近くの雑木林にいることはわかっている。ポプラのクワガタは何処に行ってしまったのだろうか?ポプラを食性とするカミキリも、クワガタの全体的な数も減ってしまったのではなかろうか?そこからいなくなってしまったのではなかろうか?昔は数も多く、生息環境も十分にあったので、旨くサイクルが回っていたのではなかろうか?そう言えば、私のカミキリムシの原点もポプラで採ったゴマダラカミキリだったように思う。あのゴマダらカミキリの幼虫がポプラの穴の犯人だったのだろうか?

 さてそんなある日・・・ポプラの木の下の方に、黒くなったカミキリの削りカスの蓋を発見した。前に見たときは気づかなかったが、黒い所をみると既にだいぶ経っているいるようだ。周りのヨシをかき分け、地面にはいつくばって、隙間からそっと中を覗いた私はクワガタがいることを確認した。「きっとコクワガタだろう。」そう思った。削りカスを取り除いて見た私は「ドッキッ」とした。”光ってる”ぴかぴかと輝くクワガタがそこにいた。「コクワじゃない」。じっとして動かない、いや動けないようだ。穴ぴったりした丁度同じような大きさだ。穴からつまみ出しながら考えた。「何クワガタだろう?オオクワガタ?スジクワガタ?ヒラタクワガタ?・・・」一瞬だったと思うが、ガキの私の頭の中をよぎった閃光と疑問と驚きと、喜びは、時間を超え永遠の彼方まで続くようだった。
こうしてその時から、既に私は採集馬鹿になってしまっていたようだ(^^;;


豆ぴかヒラタ34mm 兵庫県神戸市産 てらぼんさん採集 2001年

 そのクワガタはヒラタクワガタであった。今にして思えば小さな小さなヒラタクワガタだったと思う。何しろヒラタクワガタは、小さければ小さいほどぴかぴかしているからである。あの時大きなヒラタクワガタを採集していたとしても、きっと思い出に残っていただろう。しかし、小さな小さなマメピカなヒラタクワガタだったからこそ、ヒラタクワガタとして鮮明に記憶に残っていたのかもしれない。そしてマメピカヒラタクワガタだったからこそあの感動が今でも脳裏に焼き付いて離れないのではないだろうか。
こうしてその時から、既に私は小型種馬鹿になってしまっていたようだ(^^;;;

 あれから30年近く経ったが、そんな私が夢中になっている趣味は、小型なクワガタの採集である。ブナ林の登山道をネットを持って歩いていると、良く声をかけられる。「何をしているんですか?」、「虫を採ってます。小さなクワガタです。」、「へ〜こんな山の中にもクワガタムシがいるのですね。」、「はい、この小さなルリクワガタと言うクワガタなんですよ。ルリ色に輝くとっても綺麗なクワガタなんです。」、「はぁ、これがクワガタなんですか?綺麗ですけど。」、「そうです。」、「これからどのくらいまで大きくなるのですか?」、「いえ、これ以上大きくならない、小さなクワガタなんですよ。」、「へぇ〜〜この小さなのが、あのクワガタなんですか。いろんなクワガタがいるのですね。」、「はい、いろんなクワガタがいるんです。」、「へぇ〜頑張って下さい。」、「ありがとうございます。お気をつけて。」こんな会話も慣れっこになってきた。不思議だ。
 私を小型クワガタ採集馬鹿にさせたのは一体何だったのだろうか。やはりマメピカなヒラタクワガタだったのではないだろうか?大人になってクワガタを再開した。初めて採集した小さなネブトクワガタの感動は今でも忘れられない。大好きなノコギリクワガタや、ミヤマクワガタの大きなのを採集した時の記憶も忘れられない。しかし、今私を小型種の、採集の魔力に引きずり込み続けているのは、あの一瞬のマメピカヒラタを採集した時の、頭の中を走った流星のような閃光だったのではないだろうか。そしてその閃光は永遠に死ぬまで走り続けるのかもしれない・・・。

マメピカヒラタよ永遠に!

   

てらぼんさんマメピカサンクス(^^)


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