『くわ馬鹿・・・』最新号(2001.12)掲載の「積算温度についての疑問」について



 
 
サル彦@アマチュア虫屋のはしくれです。

『くわ馬鹿・・・』最新号(2001.12)掲載の「積算温度についての疑問 by隠@G」について、ふとコメントを書きたくなったので、連絡申しあげます。

結論から先に申し上げますと、「KよりはCの方が無難かな」というところです。理由は以下の通り。

積算温度理論は、変温動物とくに昆虫類の成長(養蚕や害虫防除でその研究は御利益がある)を考える上で、便利な経験則として元々発展してきたものに、酵素反応の速度論が絡んでできたものです。
すなわち、生物体内の物質生産の積算として考えられるであろう成長の満了時期を単純化して予測するのに便利な指標として使える量として考えられているわけです。

生物体内で生体物質を代謝・生産する酵素反応系の世界の話ですから、生物が増殖を停止せざるをえない温度の世界は、想定外となります。
すなわち、本来の摂氏(0-100度)ですら、その範囲を超えた部分を含みます。生体酵素反応に不可欠な「液体として存在する水」が、液体でなくなる温度範囲(0度以下および100度以上)はまず想定外。

さらに液体としての水の性質が少し異なる摂氏4度以下の世界も想定外。例外なく蛋白質である酵素が失活して「ゆで卵」になるほどの温度(生物種によって多少のふれがあります)も想定外。
常識的に、自分が風呂で我慢できる限界を考えてまず45度以下でしょうか。ということで、Cで計る範囲内のごく狭い領域の話となります。

ただし、絶対温度Kは摂氏Cの拡張系として考えられていますから、単位の刻みは実質同じになっています。したがってKであれ、Cであれ、実際に計測された有効積算温量(日・度)は、同じ数値になることになります。

しかし、上記の理論発展の歴史的経緯、さらに、それが生物体内のことを考える量であることから、一般物理化学とより整合性のよい単位と無理にそろえるよりは、その意味まで深く理解するにはCの方が無難かな、というところ。

ちなみに、おおざっぱに温帯に分布する植物ではtは摂氏5度、昆虫では摂氏10度程度と想定すると積算温度理論のあてはまりがうまくいくことが多く、昆虫学では別名「Q10の法則」と呼ばれることもあるほどです。

すなわち、個別に実験的にtが求まっていない段階で積算温度理論をあてはめて、温帯地域に分布する害虫の成虫発生時期の予測などをするときには、tに摂氏10度を想定して、当たるも八卦、当たらんも八卦。