ファブリース・ノコギリクワガタの飼育
 

27.Dec.2001 by 青木


 ファブリース・ノコギリクワガタ(Prosopocoilus fabricei Lacroix,1988)は、数あるノコギリクワガタの中でもその色彩から最も美しい種のひとつと言えるのではないだろうか。上翅の色彩はノコギリクワガタの中でも独特のもので、途中でかすれたようになっている黒色条が特徴的だ。ペレン島、バンガイ島、スラ諸島に生息し、ペレン、バンガイのものが基亜種 fabricei で、スラ諸島のものは、亜種 takakuwai とされている。生き虫として入ってくるものは、私の知る限りではペレン島のものだけのようだ。

 通常、販売されている個体は40mm程度の小型個体が多く、60mmを超えるような個体はなかなか見られない。本種は最大で70mmほどになり、大型の長歯個体は大変に素晴らしい。ブリードでは、比較的容易に60mm後半に達する長歯個体を作出することができる。ノコギリクワガタ類の多くは、ワイルド個体よりも飼育した個体の方が明らかに大型になるので、飼育しがいのある種類と言えるのではないだろうか。

                      
 

写真1 70mmの長歯型。
飼育でこれぐらいの個体が出せれば最高。
羽化後1ヶ月半ほど経つが、まだ寝ている。
写真2右が70mm、左は64mm。
60mm以上になれば、立派に長歯となる。
写真3 50mm台の中歯型。
ワイルドで見られるのはこれぐらいのサイズ。
この個体は、累代用として小さいビンで温度をかけて育てたもの。メスよりも早く羽化した。

成虫飼育・ブリーディングセット

 ワイルドもののペアは多くが小型で安価であり、本種を飼育する人は成虫ペアで入手することがほとんどだろう。小型のペアでは当然♀のことながら個体も小さく、ブリーディングケースとしては、小ケースでいけるだろう。大きくても中ケースで十分。累代個体の♀は結構大きいので、大ケースまたはコンテナケースを使うとかなり良い。というのも、本種はマットの一番底に産むので、底面積が広い方が多数の卵を回収できるからだ。本種は基本的にマット産みなので、材は必要ない。材を入れる場合は、やや柔らかめの材を入れて置くと、材に産むこともあるようだ。

 マットはケース底3〜5cmを固く詰めておく。私がいつも使用しているのは、Zマットとカブト産卵マットだ。カブト用産卵マットは、普通のマットで産まない個体に使用すると結構いい。国産ノコギリのように、黒土を使ってみてもいいかもしれない。産まない場合は、温度設定を変えてみることも有効だ。

 固めたマットの上は10cmぐらいマットを普通に敷き、転倒防止の材の切れ端とゼリーを配置すれば、ブリーディングセットの出来上がり。温度は25℃程度が適切。セットに♂を一緒に入れても、まず♀を挟み殺すことはないが、産卵に専念してもらうために♀単独でセットした方がいいだろう。飼育品の新成虫の場合は、♂♀共にゼリーを良く食べるようになってから、交尾をさせてセットする。

卵・幼虫の取り出し

 本種のようなマット産みの場合、ある程度産んでいるのを確認したら、卵で取り出した方が効率が良い。放ったままにしておくと、♀が産んだ卵を潰してしまうことがままあるからだ。セットして2週間ほどすると、大抵はケース底に卵が見えるはずである。10個ぐらい確認できたら、卵で回収してしまおう。卵はプリンカップで管理する。湿らせたティッシュの上に卵を置いて管理する方法と、無添加醗酵マットで管理する方法がある。私は無添加醗酵マットに卵が入る穴を作り、そこに一個づつ卵を入れて管理している。卵はまとめて管理しても問題はないが、卵から幼虫が孵化したら、個別にプリンカップに移す。

幼虫の飼育

 幼虫は添加醗酵マット、菌床ビンのどちらでも飼育可能である。菌床の場合は、あまり初令のうちに投入すると、菌に巻かれていなくなってしまうことがある。菌床でなくても、マットで十分に大型個体は作出できる。まず200ccほどのプリンカップで2令まで育て、♂♀の判別ができるようになってからビンに移すといい。♀は600ccもあれば十分。♂は600〜1000ccビンにて飼育する。幼虫は結構丈夫なもので、よほど変なマットを食べさせたり、温度が上がり過ぎたりしなければ、まず死ぬようなことはないはず。私は、マット飼育ではOマットに改良を加えたものにXマットを混ぜてみたりしたものなどを使用。菌床は、水分やや多めのものを使った。どちらからも60mm前半〜70mmが出ている。幼虫期間は、管理温度によって変わってくるが、だいたい1年ほどだ。幼虫の飼育温度は22〜23℃が適切。♂幼虫は、低い温度でじっくりと育てれば長歯が出やすい。

累代

 ♀は多くのクワガタがそうであるように、大抵♂より早く羽化する。短・中歯の♂では、♀より1〜2ヶ月遅れぐらいで羽化するが、大型の♂になると、♀と半年近く羽化がズレることがある。また羽化後の寝ている時間も少々長い。こうなると累代飼育が難しくなってしまうので、他から交尾に使える♂を調達してくるか、小型の♂をわざわざ作出する必要が出てくる。小型♂を作るには、450ccぐらいの小さめのビンに入れてやや高めの温度(25〜26℃)で管理すると、大抵短歯の小さな♂になってくれる。要するに、無理矢理成虫にしてしまうのである。

 または、逆に♀幼虫を低温(20℃ほど)で管理して成長を遅らせるという手もある。いずれにしても、♂♀の羽化ズレに対しては、何らかの工夫をしないといけない。これは寿命が長い大型ドルクス類ではさほど問題にはならないかもしれないが、色虫、特にホソアカ系のように寿命が短いものを累代する際には、避けては通れない道である。

 自分で工夫してみることも大事だが、こういうときに頼りになるのが、同じ虫を飼育している仲間だ。仲間がいれば、困ったときに何かと助けてもらえるし、こちらも助けることができる。多くのくわ馬鹿仲間を持つことも、飼育面では意外と重要な要素であったりもするのだ。