〜ヒメオオ初心者採集記〜

by えいもん
 
 

(のっけからお詫び)

本採集記は檜枝岐採集記にかかわらず、檜枝岐の写真が出てきません。同行の亀有カブトさんが、写真撮影にもってこいの眼前のヒメオオ・ペアをせっかく見つけてくれたのに、私が不慣れなデジカメ撮影に苦労している間にポロッと落下されてしまい、結局採り逃がしたという失態を演じたため、ショックでそれ以降は撮影などどうでもよくなってしまったからなのです。ああそれなのに、採集記の執筆を頼まれるとは・・・。
 
 
 
 

1.   プロローグ 〜エンジン音も高らかにいざ出発
 
 

 エンダーさんのお誘いを受け、9月15日、くわ馬鹿3大?巡礼地の一つ、檜枝岐の地に初めて足を踏み入れた。私は、別稿にあるように「近場採集派」なので、ヒメオオ採集自体が初めての経験であった。しかし、近場採集派にとって9月中旬は既にシーズン・オフ。こんな時期にコクワ以外の採集を続けられるなんて、これほど嬉しいことはない。仕事の状況は週末にかけてきな臭くなる見通しではあったが、そこはぐっと目をつぶって何とか14日金曜夜に職場を離れ、そのまま今回の採集に同行する6名が集う葛飾区のJR某駅に向かった。
 
 

 メンバーは、亀有カブトさん、エンダーさん、アンクルパパさん、きんととさん、近本さん、自分の6名が東京出発組で、現地でBAJAさんが宮城から合流予定。また、OBCむげんさんとsyourinjiさんも部分的に合流することとなっていた。このうち、私のほか、きんととさん、近本さんが初めての檜枝岐、初めてのヒメオオ採集である。
 
 

 東北道を西那須野・塩原インターで降り、いっきに檜枝岐へ向かう。遠い道のりではあるが、採集は大のオトナをまるで修学旅行のバスに乗る小学生のようにウキウキ気分にさせるのか。長時間の車中も互いの会話がはずみ、まったく退屈しない。しかし気になるのは、何といっても天気。ちょうど秋雨前線が停滞している中での採集行であった。途中小雨や濃霧をかいくぐり、檜枝岐に到着したときは、おお神よと言うべきか、日頃の行い(誰の?)と言うべきか、真夜中2時過ぎの夜空には東京ではけっして見えることのない無数の星がきらめいていた。
 
 

2.   道ばたの黒い残骸
 
 

 そうそう、忘れてはいけないのが、途中の伊南村での話。アンクルパパ車を先導するエンダー車が道すがら突然停車。「街灯下のオオクワでも見つけたか!」と、先行車の動態視力に感心する、私を含むアンクルパパ車側。エンダーさんが車のドアを開けて勇むように走るその先には、確かに黒い大きなものが・・・。いや、クワガタにしてはあまりに大きすぎるその黒い物体。それは、何と、エンダーさんが3週間前の檜枝岐の帰りにそこでバーストさせてそのまま放っておいたタイヤの残骸であった。エンダーさんは、この採集行の数日前から「53ミリオーバーのヒメオオ採るゾ!」と息巻いておられたが、実はこの残骸回収こそが今回の採集行の最重要目的ではなかったか。それにしてもとんでもないバーストだったようで、よくぞご無事で‥‥。これも檜枝岐のご加護によるものか。


(写真1: バーストしたタイヤを懐かしがるエンダーさん)
(編:この後、車につんで持ち帰ったそうです。)

3.   我慢のきかなかったA林道、クワ影のうすい国道
 
 

 さて、檜枝岐のアルザ駐車場にはBAJAさんが先着されていて、OBCむげんさんとsyourinjiさんもやや遅れて合流。真夜中の歓談ののち、短時間仮眠をとる。そして、朝6時、檜枝岐の山々の清々しい朝焼けに囲まれて、みな眠気を振り切って起き出し、短時間の朝食タイムを経て早速採集に向かうこととした。
 
 

 さあ、採集。気分は高まる、心は踊る。アルザからの出発時にどうやら他の採集者に先行を許してしまったことから、まず手始めに、檜枝岐ベテランのメンバーも未だあまり経験していないというA林道を選んだ。しかし、まだ朝早く、またその時間はあいにく林道の多くの部分が日陰になっているせいか、クワの姿を見つけることができない。その場は早々にあきらめ、OBCむげんさんとsyourinjiさんと別れて、有名なB林道を目指すこととした。(後々の情報によれば、A林道をもう少し粘って登っていけば、ヒメオオの姿も見られたという。)

(編:翌日リベンジに向かい、全行程制覇し、53mmを筆頭に多数採集してきました。)

 B林道への道すがら、国道沿いのヤナギの枝先に十四の瞳が集中する。しかし、なかなか状況は芳しくないようだ。結局国道では亀有カブトさんが発見し、近本さんが初体験ながら長網をうまく操りGETしたヒメオオ♂1頭に終わった。
 
 

4.   先行者に根こそがれたかB林道
 
 

 さて、B林道。通常とは逆側から攻めていく。ちょっとした悪路も何のその。行くぞ採集、待っておれヒメオオ。BAJAさんのガイドよろしく、次々とポイントに停車し、一同散らばっていく。しかし、相手はヤナギ、いつもの近場採集時のクヌギとはちょっと勝手が違う。見上げる目線が日の光と重なりかなり眩しい。枝が幾重にも折り重なり、瘤とクワガタの見極めは容易ではない。ベテラン連の見よう見まねで、一本の木の幹や枝先をいろいろな角度からじっと見つめてみはするが、それでも初心者に容易に見つかるものではない。ベテラン連の「ほらあそこ」「今動いた」の声に心はあせりゆくばかりだ。
 
 

 こうしてアカアシ(+コクワ+な、なんとカブト)がポツポツと採れ始めた頃、前半戦のクライマックスは突然やってきた。エンダーさんがヒメオオ♂を発見。エンダー網は私が借り受けていたので、近本さんがエンダーさんの代理でGET。それが、デ、デカい。私なんか、一目オオクワかと思ってしまった。測ってみると54ミリ。エンダーさんは、のっけから「53ミリ以上」という今回の目標を達成し、あとは余裕の流しぶりだ。う、羨ましすぎる。

(編:あそこはいつもいい型が着いてるんです。)

 しか〜し、B林道、この先は甘くはなかった。発生のピークを終えたであろうアカアシがところどころで見つかるものの、行く先々のポイントにクワガタの影はうすいうすい。どこへ行った、美しき姫たち。午前0時の鐘が鳴るにはまだ早すぎる。その間、狭い道をすれ違う何台かの車に、一同、他の採集者の数の多さを知るようになる。これでは採れない。さすがに最盛期の土曜日。しかもこの週末は、月齢も灯火採集に適しているとのおまけつき。採集者が檜枝岐に群がっているようだ。結局、B林道の後半はほとんど収穫なしであった。
 
 

 このとき一部のメンバーは、あることにうすうす気づき始めていた。今日のこの窮状は、何も今日の採集者との競合のせいばかりではない。至る所に、そう、2日前檜枝岐に吹き荒れた「あいあん台風」の爪痕が見られるではないか(ほんとうは目に見えないのだけれど)。恐るべし、あいあん台風の根こそぎ力。その被害は数日間に及び、また一週間もすると新たな台風が発生してしまうという。
 
 

5.   ようやく採集らしくなったC林道
 
 

 ところがところが、我らこんなことでめげるヤワなくわ馬鹿達ではけっしてない。昼食時もなんのその、ほとんど間をおかずに、次の狙いのC林道に勇躍突入。BAJA車が進む、どんどん進む。「上から攻めたるでぇ」(なぜか突如関西弁風)と気合い十分な侵攻を見せた。必死で追いすがるアンクルパパ車。ここで置いていかれて根こそがれては、一生初心者クラスから脱出できない。そんなこんなで一気にC林道の頂上へ。
 
 

 すると、なんとそこには朝方別れたOBCむげん車が既に到着していた。一難去ってまた一難。一同「これは根こそがれたか」と一瞬たじろぐ。ところがむげんさん、syourinjiさんコンビもこれから採集ということで、ホッと胸を撫で下ろす。再び仲良く合流採集とあいなった。
 
 

 ここC林道は、幸いなるかな、他の採集者の気配はあまり感じられない。頂上付近のヤナギには、待望のヒメオオの姿がちらほらと。これなら、遠慮がちのベテラン連のわきで、初心者連としてもなんとか採集気分に浸ることができる。ようやく私も、網にポトリと落とし込むヒメオオ採集の醍醐味の一端を味わえた。素手によるわしづかみ採集も経験できた。余裕かましてデジカメに納めようとして、目前のペアを落虫させ見失ってしまったのは、冒頭に記したとおり。檜枝岐2度目のアンクルパパさんは、見事♂50ミリを採集し、既に初心者から脱しつつあった。
 
 

 結局、7人でヒメオオ22頭を採集。かくいう私は、「おこぼれ落虫何とか掘り起こし個体」を含め、ようやく2ペアを確保。これまでの数々の勇者達による採集記と比べると、何とも情けない結果と評されることとなるのであろう。しかしけれどもちょっと待て、不利な条件下(先行採集者多し、あいあん台風による被害)、並びにベテラン達の初心者講習ということからすれば、まあまあの成果とも言えるのではないか。自らの2ペアも、持ち帰るには十分過ぎる数だろうと、心の中で力一杯強がってみる。さらに言えば、まあ何といっても、ヒメオオがどんなポイントで見られるのか、少しでも感覚を磨けたことが、ヒメオオ初心者にとっては大きな収穫であった(また強がり)。


(写真2: 本日のギネス、エンダーさんの54ミリ)
 

 かくして午後3時頃には、採集を無事終了。むげんさん、syourinjiさんとは早めに別れ、皆で温泉にゆっくりつかった後、BAJAさんを除く一同は、後ろ髪を引かれる思いで檜枝岐を後にするのであった。
 
 

6.   エピローグ
 
 

 やはり、檜枝岐は初心者にとってはけっして甘いところではなかった。初心者は修行を重ねなければならない。甘くないなら甘くないで、なにくそと檜枝岐にどんどんハマりこむのは、これ必定。一方、バンバン採集できるように腕が上がれば、それはそれでますます檜枝岐にハマっていきそうだ。檜枝岐の微笑みにいったん触れてしまったら、その微笑みに魅入られ吸い込まれていくのも、これまた避け難し。
 
 

いずれにしても、ほんとうに困ったところだ、檜枝岐は。
 
 

採集同行の皆さん、たいへんお世話になりました。

またご一緒に温泉につかりに行きましょう。
 
 

あ、その前に、長網を買いに行かなきゃ。