神奈川ヒラタ狙いオフ採集記

コダック


プロローグ

横浜で生まれ育った私にとってヒラタは未だに貴重種に位置付けられている。

ご多分に漏れず、子供の頃には毎夏沢山のクワガタとカブトを採集した。横浜 と言っても緑区の片田舎だったので、自然は豊富で虫も多かった。幼い頃には 家にホタルも飛来するような環境だったのである。しかし、毎年、100頭、 200頭とクワカブは採れたが、ヒラタは1頭も採集したこともなかったし、 友達が採ったという話しも聞いたことがなかった。だから、ヒラタに対する憧 れはオオクワに比肩するものだったのである。

3年ほど前に「子供達のために」がきっかけで、本格的にクワガタ採集飼育を 行うようになり、その後インターネットを通じてこの世界にのめり込んだ。多 くの方から色々なことを教えて頂き、ヒラタの棲息環境も漸く分かって来た。 その甲斐あり、去年今年と地元神奈川の材割りで数頭のヒラタを採集すること ができた。しかし、まだまだポイントは限られており、新規ポイントを開拓し たいという思いが強い。特に神奈川産にこだわりがある。

神奈川東支部のくわたけさんがやはりヒラタ採集大好きということで 、ヒラタ 狙いオフを計画した。普段の土日は子供のお守りを仰せ使っているが、1日だ けということで奥さんから許しを得ることができた。採集はいつも子供連れで 限られた時間の中でしか行うことができない。この日ばかりは思い切って採集 に没頭することができそうである。

新規ポイントの開拓を念頭に置き、計画を立てる。そのために、大枚叩いて神 奈川1万分の1地図を購入。夜な夜なこれを広げて、どの辺りが良さそうか想 像を巡らせる。これだけでも楽しい。さらに、ヒラタ採集には欠かせない、ス コップも購入し、その日に備えた。

同じ神奈川東支部のスカさんからは、「内歯が先っぽについているヒラタがい っぱい採れますように(^^;」との暖かい声援を頂き、3月17日にヒラタ 狙いオフをくわたけさんと二人で敢行した。




採集記

極めて過酷な死のロードとも言うべき1日だった。でも、心地よい汗と疲労感 に包まれ、くわたけさんと共に満足感に浸ったのであった。

当初の計画は、横浜南部2ヵ所、葉山周辺2ヵ所を回るというもので、前者に ついては前日のオフ会の席でPOPさんとGCさんから情報を得て、舞岡と釜利谷 を当たることにした。横浜南部を午前、午後は葉山方面を攻める予定を立てる。

くわたけさんを8時に港南台駅にてピックアップ。まずは舞岡ポイントに向か う。道すがら、採集方針をくわたけさんと確認する。

1)1日で上記4ポイントを回るには効率的採集を心掛ける必要がある
2)そのためには各ポイントでは時間をある程度決めて採集する
3)やたらと削らずに材を選ぶ

舞岡ポイントには8:40頃に到着。1時間の予定で採集開始。このポイント には、台場チックなものを含め、相当数のクヌギが見られる。樹液の痕と洞も 多く、また低地には河童池?もあり、ヒラタ棲息条件はかなり揃っている。ま ずは、池から少し離れた所の太めの立ち枯れを倒すと、すでに食痕が覗いてい る。その根部を削るとかなり大きな幼虫が出る。しかし、残念ながらノコ。こ れを皮切りに手当たり次第に次々と材を削る。方針3)なぞもう完全に忘れて る。やはり目の前に材があったら削らない訳にはいかない。立ち枯れの根部を 掘り起こしたり、倒木をひっくり返しての材割りは相当の重労働だ。曇天にも 関わらず比較的気温が高かったこともあり、忽ち、汗だくとなり、ジャンパー とトレーナーを脱ぐ。ぽつぽつと幼虫が出るが、皆コクワのようである。くわ たけさんが1頭コクワにしては大きい幼虫を割り出したので、こいつに期待し よう。結局、予定時間をややオーバーしてしまったが、それだけこのポイント は期待の持てる所だったので良しとしよう。10:20頃にこのポイントを後 にする。

次いで釜利谷ポイントに移動。11:00頃到着。この辺りは広範に森林地帯 が残っており、横浜市ではおそらく最も期待できるエリアだろう。ただ、市民 の森になっているため、採集を行うには人の目がやや気に掛かる場所である。 採集ポイントは森の端から10分程歩いたところにあるひょうたん池の周辺で ある。途中、くぬぎ並木などもあり、結構いい感じだ。道は整備されているが、 起伏が多く、特に池へのアプローチはかなり長い下り坂でこれだけでかなり体 力を消耗する。ひょうたん池の辺りは谷戸のような地形で全体が湿地帯となっ ており、これまたヒラタいそうポイントである。ここでは主に湿地帯の倒木を 削る。1本とても感じの良い材があったが、食痕もない。どうもこの辺りはク ワガタが薄いようである。周辺の植性が照葉樹中心でくぬぎこならが余り見ら れないことに加えて、日当りが余り良くないことが原因と思われる。コクワ数 頭を割り出して、このポイントには見切りを付けた。さて、この後が大変だっ た。たった10分ほどの登りだったが、実にもはや体力の限界に差し掛かって いる。日頃の運動不足、不節制がたたりもう体が言うことを効かないような状 態だ。見境なく材を割り続けたのもよくなかった。くわたけさんと二人して無 口でとぼとぼ歩く。もう朽ち木を見ても削る意欲が湧かない位に疲弊している。 それに加えて、機を見るかのように大粒の雨が降り出した。

時間は12:30。午後は葉山方面へ出撃予定であるが、この雨の中、ぼろき れのような体でさらに新規ポイントを求めて彷徨い歩くのは流石に辛い。決断 の時。ここで、くわたけさんに緊急提案をする。「葉山は止めて、相模川を狙 ってみましょう」。河川敷きなら車で川端まで移動して、そこから見渡してや なぎを探せば良い。少なくとも、山の中を歩き回る必要はない。くわたけさん も二つ返事で賛成。やはり大分お疲れの様子だ。

ということで、志は高かったが現実は厳しかった。で、渋滞する1号線を西に 向かう。結構雨が激しく降り続いている。相模川では先日ヒラタ成虫を割り出 しているが、やはりできれば新規ポイントを探したい。取り敢えず、地図で当 たりを付けて、茅ヶ崎へ行ってみることにした。かなり広い河川敷きがあるし、 対岸の平塚も同様なのでどちらか一方はそれなりにやなぎが生えているだろう。 結局、移動に2時間程度を要し、着いたのが14:30。でも、時間が掛かっ たお陰で体力は大分回復した。また、雨はほとんど止んでいる。一応、カッパ を着て、河川敷きへ繰り出す。ただ、見渡す限りやなぎが全く見当たらない。 対岸も然り。ここはこれにて終了。

ここで選択肢としては、さらに新規ポイントを求めるか、実績のあるポイント を当たるかのどちらかであった。残された時間ももう余りない。このまま終わ る訳にはいかない。ということで、くわたけさんと協議の上、後者を選択する こととした。やっぱり採りたいという気持ちが強い。

15分ほどで寒川のポイントに移動。ここは過去二度来て、二度ともヒラタが 採れているので、確率は高いだろう。ただ、いきなりそのポイントに行ってし まうのも面白くないので、やや下流の今まで入ったことのない所に分け入った。 丁度15:00だ。ここは多くのやなぎが群生しており、非常に期待が高まる。 くわたけさんと思い思いに割りまくる。クワガタの濃いところで、割れば割る だけ出る。が、しかし、どうもこれはヒラタだと言い切れるような幼虫が出な い。体つきはヒラタっぽいんだけど、いまいちサイズ的にはコクワ域を出ない。 自分ではコクワとヒラタの幼虫識別はある程度できると自信があったのだが、 段々と当てにならなくなってきた。または、全てコクワなのか?一応、ヒラタ になれ幼虫も数頭得られたが、どうにもこれぞという決定打は出ない。で、こ の辺りで本当に体が動かなくなってきた。思考力も低下。意識もなかば朦朧と し、完全に限界だ。しかし、この時、スカさんの高らかな笑い声が耳に響いて 来た。内歯が先っちょに付いたヒラタか、、、。うーん、やっぱりこのままへ こたれる訳にはいかない。17:00だ。そろそろ暗くなりかけてきたが、最 後の移動で上流の実績ポイントへ。

前回ヒラタ新成虫を割り出した倒木は記憶が曖昧でよく分からなかった。が、 その辺りには多くの倒木があり、部分的に埋没していたりで極めて期待される。 くわたけさんとそれぞれ最後のチャージをかける。1つ目の倒木の端っこを叩 いてみると、何やら小さな黒いものが覗いている。これはと思い、良く見ると 小さなクワガタである。何とか引っぱり出したたころ、ヒラタじゃあないです か。やったぁ!28mmの極小ヒラタ♂。越冬個体だ。よくぞこんな小さな体 で越冬して待っていてくれた。感謝感謝。くわたけさんに報告し、喜びを分か ち合う。その頃はもう二人とも消耗しきっていたため、派手なパフォーマンス こそなかったが、静かに喜びを噛みしめた。この後も手元が見えなくなるまで、 採集を続け18:00にお開きとなった。




エピローグ

結局、私の分の成果としてはヒラタ♂越冬成虫1、幼虫16(明らかにコクワ 幼虫は全て放虫した)。翌日、まじまじと幼虫を見てみたが、やっぱり良く分 からない。でも、幼虫鑑定もお楽しみなので無理やり幼虫の帰属を付けてみた。 その内訳はノコ1、コクワ8、ヒラタになれ7であった。くわたけさんも相当 数の幼虫をゲットされた。この中の何頭かがヒラタになるといいなぁ。特にく わたけさんの舞岡幼虫にヒラタになってもらいたい。幼虫鑑定眼はもっと研か ないと。実地で全然役に立たんかった。

今回は残念ながら新規ポイントは開拓することはできなかった。やはり新規ポ イント探しは難しい。しかし、それだけに面白い。今回、回れなかった地域を 含めまだまだ見てみたい所がある。これからも神奈川ヒラタ新規ポイントを求 めて彷徨ってみようと思う。

最後にくわたけさん、1日お相手頂いてどうもありがとうございました。疲れ ましたが、本当に楽しく採集を満喫しました。それから、これまでに色々とヒ ラタについて教えて下さった方々にこの場を借りて感謝致します。



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