コルリの新芽採集
r.matsuda

6月2〜4日

 先週末は天気にも恵まれ、心ゆくまでコルリクワガタの新芽採集が堪能できた。こんどは以前から捕まえてみたかった、青いコルリを求めて新潟に行くことにした。コルリクワガタは名前に瑠璃と付いているものの、緑から青まで様々な個体変異がある。前回採集した福島の個体群は緑がかったものが多かったが、「越後型」と呼ばれる新潟県の一部にいる個体群は青みの強いものが多く、紫がかった色彩を帯びることもあるという。


 最近は通い慣れた福島県や、事前にポイント情報があるところばかりに行っていたので、久々に図鑑に載っている地名だけを頼りにした採集である。前日の夜には現地入りするが時間はまだ9時、当然その周辺で燈火採集を始める。と、道路にぴかぴか光る甲虫の影があり、あわててブレーキを踏んだ。


 今年初の燈火採集個体はミヤマのメスであった。しかし、結局飛んできたのはこれだけで、まだまだ本格的な燈火採集には早すぎるようだ。さて、明日のポイントに関しては何の情報もないので、近く(といっても遠い)のコンビニに入り地図をみる。しかし、目指す山にはあまりいい道路は通っていないようだ。最も高い標高まで到達する道に目星をつけ、とりあえず今日は車中泊だ。


 早朝目が覚めると空は晴れ渡っており、絶好のコルリ日和と思われた。早速、昨日見つけた道を行けるところまで行ってみる。すると標高600mを越えた時点で道路は終わり、「登山口」と書いてある。先週採集したのは標高1300m前後であり、だいぶ登らなければならないだろう。駐車場周辺でも雪渓の周りにはブナをはじめとして新芽をふいている木がたくさんある。いるわけないと思いながらも一応網ですくってみるが、やはりコメツキやコガネムシしかいないようだ。仕方がないので覚悟を決めて登山することにした。


 登り始めるとすぐにとんでもない急勾配になる。雪解け水が流れて、川のようになった道を、どろどろになりながら網を片手に登っていくと、30分ほどで突然視界が開け尾根道まで到達した。通りがかった登山者に聞いてみると山の頂上まではまだ2時間はかかるらしい。しかし頂上は標高1500m以上あるので、もしコルリがいるならだいぶ手前で採れるはずだ。


 時計についた標高計とにらめっこしながら、相変わらず続く急勾配を登っていく。雪渓沿いにはいい状態の新芽があり、確認しながら登るのだが、一向にコルリのいる気配はない。そうこうしているうちに標高は1200mにまで達してしまった。さすがに不安になってくる。ここまで条件はそろっていて、もしいるとすれば簡単に採れるはずだ。


 そういえば先週の採集で、ブナの場合は木の先端部の新芽に集中的についていた。ところがここのブナは樹高が4〜5mあるものがほとんどで、前回のように先端の新芽をみることはできない。そこで、試しに網をのばしておいしそうな新芽の部分をすくってみることにした。


 一回目、網の扱いに慣れていないのでうまくいかない。いるわけないな、と思いながら網の中を覗くと、なんとオスが入っている。取り出してみると、すばらしく深いブルーの体が日光に反射してぴかぴかと光る。目標のクワガタを捕まえたときの何ともいえない感動が体を駆け抜ける。久々の感覚だ。


 どうやらかなり高いところにいるらしいことがわかり、注意して枝先をみていくと実は次から次へと飛んできていることがわかった。ただし飛んでいるのは9割以上がオスである。コツがわかったので山道を登ったり降りたりしながら採集していく。新芽も見ていくがかじった跡も全くなく、わずか2頭のメスがいただけ、交尾個体もいなかった。おそらくまだ発生初期なのだろう。


 午後2時、もう充分採集を楽しんだので下山することにした。視界の隅っこではコルリが飛んでいるのがあちこちに見える。まさに”湧いている”といった感じだ。しかし、少しでも天気が悪かったり、時期がずれれば全く採れなかっただろう。二週連続で大当たりしたことに感謝しつつ山を下り始めた。


 温泉に入り、飯を食ったら今度は燈火採集である。昨日のことを考えると全く成果は期待できないが、ここまで来てなにもしないわけには行かないだろう。幸い日中の好天のおかげで気温もだいぶ上がっている。ところが、日が暮れるとともに温度は急降下、8時には15度、9時には12度になってしまった。結局一頭のクワガタも見ることなくこの日の採集は終了。車中2泊目となった。


 翌日の天気はいまいち。今度はカミキリ、タマムシを求めて福島県のいつものポイントへと移動することにした。県境の峠を越え、トンネルを抜けるとすばらしい湖の風景が眼下に開ける。


 クワガタのページを標榜していながらまことに申し訳ないのだが、去年の夏後半から本当にカミキリ、タマムシ採集にはまってしまっている。今回どうしても採りたかったのは、クリストフコトラカミキリである。先週来たときにカミキリ採集の人に教えてもらった種類で、特別珍しくもないようだがなかなかかっこいいのだ。


 いつもの材木置き場に着くと気温が異常に低く、とても虫の活動できる温度ではない。疲労も限界まで来ていたので、少し温度が上がるまで車中で休むことに。午前も遅い時間になると何とか虫が集まりだし、目的のクリストフコトラカミキリ(写真左、右はクロヒラタカミキリ)も捕まえることができた。しかし昆虫以上に多かったのが、昆虫採集の人だった。


 会うたびに世間話がてら情報を聞いてみるが、人によって言うことが全く違ってなかなか楽しかった。同じ種類が珍品だったり、普通種だったり、同じ場所でもたくさん採れるとか、全然採れないとか様々である。さすがに私のような初心者は全くいないようだ。


 材木置き場に飽きてきたので、昼過ぎには先週オニヒゲナガコバネを採ったポイントへ移動することとした。その途中で昨年タマムシの同定でお世話になったスギリンさんにも偶然会った。やはり温度が低く目的のタマムシは捕れなかったそうだ。結局移動したポイントには何もおらず、三週連続でいつもの焼き肉屋さんでごちそうになった後、採集を終えることとした。


 最後に、先週採った福島産(右)と新潟産「越後型」(左)の比較写真を載せておく。全体に新潟産の方が体が大きい。また、色は福島産でも青みの強いもの、新潟産でも緑のものがあるが、写真では最も典型的な個体を選んでみた。ちなみに福島産といっても有名ポイントである広沢林道の個体はもっと青みが強い、とのことである(あいあんさん談)。コルリシーズンが終わったら、採集仲間で各地の個体を並べてみてみたい、と思っている。

(00.6/12)
 


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