、、、と言っても別に私が旅をしたわけではない。それどころか人間の旅でさえない。これはこの厳寒期に寒い地方との虫のやり取りをいかに安全に行えるか、という研究と実験の成果の報告である。

事の起こりは例によって例のごとく、日々の
怪しい地下活動を報告されている岩手の秘密結社、御伽社の活動に関わったものであった。御伽社では年々増え続ける格闘用昆虫を日本中に送りつけ、そこら中で繁殖させて国民の昆虫格闘熱を煽り中毒させようという恐るべき野望を持っているらしい。そして、この地下活動に協力している関東方面の亀蟻支社椎羅支社愛餡支社等に次々と刺客を送り込んで来ていたのだが、秋を過ぎるとここに問題が生じて来た。

冬将軍の到来である。元々大半が熱帯性の格闘昆虫であり、成虫はまだ一日や2日は5度や10度には耐えるとは言え、幼虫となると生死にかかわる。更に正月も過ぎ、岩手では連日氷点下である。下手に荷物として送れば凍って死んでしまいかねない。いかに潤沢に沸かせた虫とは言え、凍死の危険を冒すには余りにも高価な戦士達も多い。

同様の悩みは全国の昆虫通販業者の間でもあるようだ。夏には暑過ぎて死んでしまわないようにと、クール便を使う場合もあるが、冬にはウォーム便というのもなく、使い捨てカイロを貼りつけた発泡スチロール箱で送る、というところで精一杯である。秘密結社御伽社ではこうした業者からも戦士の種を送ってもらってもいるようだが、この時期はそのような方法では、やはり着死、衰弱、という結果が非常に多いという。こうして冬季に特に寒い地方へ安全に
昆虫戦士を送る方法の研究が始まった。

まず、理論的には次の様な点が考えられた。

・昆虫の酸素消費量は極めて少なく酸欠は一日や2日は全く考慮する必要はない
  (ただし、一緒にあるマットや餌の腐敗、発酵などで急激に酸欠になる虞はあるので、送る場合はそこに気をつける。餌や湿り過ぎたマットを入れない事だ。)
・保温性が高いのはやはり発泡スチロールであり、密閉して梱包する事が望ましい。
・使い捨てカイロは酸素を消費するので、昆虫と同じ所に入れる事はできない。
・ペットボトルにお湯を入れて同梱する事により酸欠させる事なく密閉状態でも保温が可能。
・箱を二重にすれば、中はそこそこ、外は熱く保つ構造も可能。
使い捨てカイロというのは、密閉すると酸欠で反応が止まり、暖かくならない。しかも密閉しない場合は、カイロの反応が終わってからは冷めてしまう原因になるので結局、長時間の保温にはあまり適さない。外箱に穴を開け、そこに内側からカイロを貼りつければというのも考えたが、密閉度を失うのとめんどくさいので、結局今回はやめた。更に机上の空論としては電池でほんの少しだけ発熱させ、長時間持たせる、というのも考えたが、電気の計算が苦手でめんどくさいのでこれもやめた。


そこでまず、簡単な予備テストとして大小二つの発泡スチロール箱を用意し、小さい箱には500mlのペットボトルに38度程のぬるま湯と水温計を入れ、ただ普通に蓋をし、これを大きい箱に収め、まわりには40度程のお湯を入れた1.5リットルのペットボトル2本を転がし、また普通に外の箱も蓋をし、一晩外に放置した。東北ほどではないにしろ、外気温は夜は5度位までは冷える。さて、翌朝蓋を開け水温計を見ると、、、7度。。。。。完全に失敗である。これではとても岩手なんぞに荷物を温かいまま送れるとは思えない。いくら発泡スチロールが保温性に優れると言ってもこんなすかすかのいい加減梱包ではダメな事が明らかになった。


そこで今度は中箱の内部にはアルミ蒸着シートのような内張りをし、500mlペットを2本にして片方に水温計、やはり38度のぬるま湯を入れ、回りはぎっちりとスチロールカス、綿、インシュレータなど、そこらにあったものを詰め込み、更に蓋は周りをきっちりとガムテープで密閉した。これを大きい箱に収め、2本の大ペットボトルは今度は75度のお湯を入れ、はやりまわりをぎっちりとインシュレータ等で詰め、ガムテープで密閉し同様に屋外に一晩放置した。
翌朝中を開け、水温計を見ると、、、25度!おお!これはよさそうだ。外のペットボトルもまだほんのりと暖かい。さぁあとは実際にテストしてみるだけだ。クロネコヤマトに赴きいつまでに出せば岩手に翌朝着くか?と尋ねると夕方6時までなら翌朝大丈夫ですとのこと。
屋外一晩ほったらかしで大丈夫ならば、実際には宅配便はほとんど屋内か車内で、条件はゆるいと考えられる。




そこで試しに上記と同じセットで、中箱内には御伽社で種雄を探していた87mm程のギラファ戦士ペレメタ戦士を手のひらサイズのタッパーケースに入れ、夕方5:30頃午前着指定で発送した。

翌朝9時過ぎ、御伽社から「到着した」との報告があり水温計の温度を尋ねると、、、

23.5度だ。虫もぴんぴんしている。

歴史的瞬間である。

東京から、氷点下の岩手に送ってもこれならてんでへっちゃらである。


そこで御伽社から同じセットで今度はエレゾウ(偉い象?なんだそれ?)、ネプ(御笑いグループか?)、ユーリケ(なんか有利なのか?)、スペシカ(特別なシカ?)、等がつまった便が送り返されて来た。御伽社代表はいつもの事だが結構いい加減なので中箱は一杯になったので、中のペットは無しにしたと言い、外側に500mlと水温計も入っていたのだが、それでも水温は23度あった。いい加減ついでに、15だったはずのネプは17はいっていたりしたが、とにかくどの虫も全て完全に元気で無事であった。もう一つ別の箱が一緒に届いたので開けて見ると、さまざまな岩手の御土産やコンセイ様?
なんじゃこりゃ?が収まっていた。なんでも我が家に生息する天敵な人にご機嫌伺いをする必要が生じているらしい。

                                              

次に、商業的に行うには少々パッケージがでかくなり過ぎて料金が高い(と言っても今回1370円だったので高価な虫の場合は大した問題ではないと思うのだが)ので、よりコンパクトに、密閉度、保温性を高くできないか?という点についても研究してみた。クロネコヤマトの27x13x20という小型の箱で2kg以内(だったよな?)だと安いはずなので、これを使ってみた。写真のように、内部にまずきっちりと例のアルミ蒸着スチレンシートみたいなものを張り、その中にきっちり収まる建材用発泡スチロールで作った箱を用意し、この中にも更にアルミ蒸着スチレンシートを張る。その中には500mlペットボトルを2本入れ、片方は75度のお湯、片方は30度のぬるま湯にして中に水温計を入れ、更に両者を隔てる八方スチロールの壁を入れ、隙間は綿を詰めガムテープで中箱も外箱も密閉して、夜10時から次の日の夜10時まで家の外に24時間放置した。
    

丁度この日は寒く、夜中の外気温は2度まで下がった。そこでおそるおそる開封して温度を見ると!おおお!なんと13度を維持している。これはなんとかなりそうだ。最低が13度位ならどんな幼虫も成虫も一日で死ぬような事はないはずだ。

あとは、関西から東北、のような半日以上かかる場合、あるいは北海道など2日かかる場合にどうなるか?という問題と、実際にこの小型パッケージで試してみるだけだが、もうそろそろ暖かいのでこの研究の続きはまた来年という事で、、、、(ほんとにまだやるんかい???)