ぼくから快楽が逃げていく

 

ぼくから快楽が逃げていく

快楽が逃げていくのだろうか ぼくが逃げていくのだろうか

時が寂寥を忘却させた分 死臭を放つ老化が始まる

ぼくから快楽が逃げていく

 

やる気はあるがやる気にならない

やりたいことが堆積するばかりで 時が消滅していく

そんなことはどうでもいい

一瞬の快楽が欲しいのだ

それなのに ぼくから快楽が逃げていく

 

強く手を擦って臭いを嗅いでみる 死体を焼いた臭いがする

今では 何もしなくても体から死臭が立ちのぼる

そんなことはどうでもいい

一瞬の快楽が欲しいんだ

それなのに ぼくから快楽が逃げていく

 

テニスプレーだって

ジャズミュージックだって クラシックだって

あのつまらない 詩を聞かされることだって

セックス以上の快楽があった

ぼくから快楽が逃げていく
    

   

 (「渤海35号」に掲載)