宝塚スターの母

仕事上のつきあいで知っている女性、Yさんのお嬢さんが宝塚の生徒だという話は前からうわさで聞いていた。
本人に話を聞いてみたいと思っていたのだが、なにぶん「宝塚」だから仕事の場でおおっぴらにできる話ではない。
たまたま、会社のトイレで出会ったのでいいチャンスだと思い、話しかけてみた。
「Yさんのお嬢さん、宝塚に入っていらっしゃるそうですね」
Yさんは破顔一笑、おもむろに上着のポケットから写真を取り出した。
それはお嬢さんの舞台姿の写真であった。
いつ、どこで、誰に話しかけられてもいつでも対応できるようにYさんのポケットには常にお嬢さんの写真が入っているのだ。
うーむ、尊きかな母の愛。きっとYさんにとっては自慢でたまらない娘なのだろう。
Yさんは娘の公演を見に行くために、融通がつきやすい今の仕事に転職したそうだ。
「Yさん、歌劇の新人公演の評、ほめてありましたね」
「お嬢さん、楽屋日記書いてましたね」
ときどき、そんなふうに声をかけるといつも嬉しそうににっこりするYさんだ。
私だって「宝塚スターの母」になることを夢見て、ふたりの娘にバレエとピアノを習わせたこともあったのだが、夢は叶わなかった…。
自分は無理でも、自分の娘があの階段をおりてきたら、すばらしいだろうなぁ。