09/06
ニュー・軟禁7日間



さすがに三日目四日目になると大きなイベントが全くなくなってしまった。しかも土日だけに、イベントらしいものというと、手に刺しっぱなしにしている針セット(点滴針に15cm程度の管と止血弁が付いたもの)に血が入り過ぎて固まってしまい点滴ができなくなったことと、点滴の管の中に気泡が混じっていてもコップ一杯分くらいなら肺から出て行くと橋口さんに教えてもらったことだろうか。品川区故に日中はケーブルテレビで競馬中継を見て過ごせたが全くもって暇で何も起らない平穏で退屈な2日であり、月曜からの日々を想像してげんなりしてみた。

当然五日目も至って平穏である。回診こそ大学病院らしく主治医団の後ろに学生と思しき若いにいちゃんねえちゃんズが並び指をさして「あれが〜」と囁きあっているのを見て多少楽しめたものの、それが終わればこの後は病院の決め事以外何も起らない極めて退屈な時間が訪れを西部警察を見ながら考えていると、突然現れたのは注射器を手にした医師団主治医補佐B、C両先生であり、何の予告もなく採血だという。一言教えといてくれよ。だが、B先生はかなりの別嬪さんで、C先生もそれなりに別嬪さんとくれば見物にもってこいの組み合わせである。掃き溜めに鶴、暇対策に別品さん、何でもいいが少しでも暇がまぎれるなら良い。
先生方は厳かに注射器を取り出し、私はにこにこと顔を見ながら袖を捲る。そして針が腕に刺さり、ゆっくりと血が抜き取られる。例によってその様を見物していると、突然「あれ? 吸えない・・・。」と呟くのである。予定量の半分程度吸い上げたところで、押しても引いても、いや、押しちゃいかんね。力一杯引いても全く吸い上げなくなってしまったらしく、二人は青い顔をしながら相談を始める。「ほ、ほんとに吸えないの?」「うん、全然動かないの。なんでだろ? どうしよ〜!?」「じゃ、これだけでやめとく? 左は点滴してて使えないし。」「でも、これだけじゃ全然足りないし。」「う〜ん・・・。」「ねえ、どうしましょう?」(俺に聞かれても困るんだけど)「じゃあ、他の部分でとろっか。」「う、うん、仕方ないし。」
と、こんな調子で暇の潰れるとても面白い採血だった。

とても面白いといっても、所詮採血であり、10分もあれば終わってしまう短いイベントである。西部警察が終わってしまえば夜までみたい番組が全く無くなってしまい、今度こそ極めて平穏で退屈な時間がやってくる。笑っていいともやごきげんようは飽きたし安浦さんシリーズも面白くない。もちろんワイドショーは見る気がしない。月曜なので競馬雑誌発売日だが館内の売店に入るのは夕方頃だという。することも見るものも無い完全に暇をな時間が訪れた、と途方に暮れていると再び救世主が現れた。昼食後の点滴を手に現れた高見さんである。看護婦の中では既に中堅の域に入ろうとする年齢に見える高見さんである。てきぱきと準備をしながら雑談することもできる高見さんである。思い切って心に溜まったものをぶつけてみた。
今までに何度も顔を見た看護婦さんは高見さんと橋口さんを含めた3人だけで、顔を見た看護婦さんは既に十数人に登る。看護婦はチーム制で担当するとのことだが、土日が特別体制だとしても多すぎでは無いのか、と。
答えは、「基本的に入院患者は御老体が多いし、この建物は皮膚科と眼科しかないから若い男の人は珍しいから」だそうだ。なる程、わたしゃさながら檻に閉じ込められた珍獣で看護婦さんは見物客か。こちらも看護婦さんや主治医団を鑑賞見物しているので不服申し立てはできないが。

という雑談もてきぱきとした高見さんであるからして数分で終わってしまい、再び平穏で退屈な時間がやってくる。嗚呼退屈。仕方なく寝て過ごし晩飯を食えば、後は点滴を受けて終わりだ。
点滴はもちろん看護婦さんが持ってきてくれて準備をする間の数分は、毎回なんともない会話が発生する。この日もいつものように発生した。「そういえば石川台にお住まいなんですよね。私雪谷大塚に住んでるんですよ。」「あ〜、近いですね〜」「でも入院しちゃってお仕事大変でしょう?」「(どういう繋がりがあるんだろう)いや〜、一応まだ学生ですから〜ね。」「ゑ? あ? が、が、学生さんなんで・・す・・か?」「この顔だからそ〜は見えないでしょう?」「あ、そ、そ、そうなんですか・・・。」
そして、そそくさと慌ただしく帰っていった。その様がなかなか楽しい。


ほ〜、そういうことだったのかと思ったが、だがしかし、これ以後毎晩20時に来ていた主治医補佐A先生が全くこなくなり、点滴の準備と片付けの間に世間話も全く発生しなくなり、看護婦さんもわりと年配の方が中心になった。それに伴い6日目に外出許可が出た以外に何のイベントも無く、7日目に退院となった。


・・・落ちない。



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