06/18
出汁とり狂想曲
わたしの料理はついに進化の日を迎えた。偶然と幸運に寄るところが大きいとはいえ、和食の母、舌の友、料理の要等など数々の称賛に彩られた、かの「出汁」というものを、ついに使うことができるのである。しかも鰹出汁である、鰹節から出汁をとるのである。とても素晴らしい日だと言えよう。もしかしたらぶるじょあじ〜かもしれない。
その鰹出汁でつくる栄えある初料理は煮物とすることにした。鳥のモモ肉が安かったからである。他に出汁を使うようなものは作れないともいう。兎も角、煮物は以前より旨くなるに違いないはずである。しかし、しかしだ。わたしは出汁のとり方を知らないのである。聞いたことはあるかもしれないが、スーパー鳥頭たるわたしが覚えていられるはずがないのである。胡乱ながら気がついたのは例によって台所に立ってからである。ならばと例によってその筋に近しいかもしれないね人にいきなり電話攻撃をかけるのである。「出汁はお湯からとるのか、水からとるのか」と。まずは都浪さんに聞いてみると「わたしはお湯からとるけど」という。「わたしは」「けど」、である。つまり、自信がない? と突っ込んでみると「うん」と即答である。仕方がないので次は女帝陛下にお伺いを立ててみると「水からとるんじゃないの?」と、異なる答えが返ってきた。ならばと都浪さんの意見を言ってみると狼狽えてしまった。こちらは困惑するばかりである。結局そのまま電話を切ったが、はたしてどちらを信じれば良いのか。片方を信じるともう片方には義理が立たないのである。つまりは嘘吐きだと断定してしまうのである。漫画なんかだと友情の危機に発展するかもしれない大問題かもしれない。
かといって決定打がなく決められないので、野菜でも切りながらのんびり決断しようと思っていたら、陛下が気になるからとわざわざ調べてくれたという。こういうところが敵わない由縁であるが、曰く、
- 一番出汁:沸騰直前のお湯にカツオ節を入れ1分加熱火後火を止める。カツオが沈んだら上澄みを取る。
用途:吸い物茶碗蒸し
- 二番出汁:一番出汁の半量の水に出汁ガラを入れて火にかけ沸騰後弱火にし、2、3分後火を止め上澄みを取る
用途:煮物みそ汁
なるほど。つまり、煮物を作るときは一番出汁を無駄にせねばなないのである。少なくとも煮物を作るには役に立たないのである。和の道は奥が深い。ともあれ実行してみるのが一番であるので、さっそく時計を用意して一番出汁をとってみよう。しかしどの程度のお湯にどの程度の鰹が必要なのか目安がわからないし、沸騰直前が具体的にいつなのかわからないし火加減に至っては全く言及されていないではないか。だから料理本て嫌いだ。いい加減でいいから書いていないといっても、その筋の人には素晴らしい出汁をとるために最適な水と鰹節の量だとか投入に絶妙のタイミング等々の秘伝があるはずである。素人のためにできれば開示していただきたいものであると考えるのは贅沢だろうか。
などと考えていたらお湯が沸いてしまっていた。いかん、水をいれて温度を下げよう。そして改めて沸騰する前に軽く一掴み分を放り込んでみたところ、香り麗しく黄金色の美々しい液体が得られた。いい加減な出し方でも素晴らしい結果が得られる鰹様々である。しかしこの一番出汁に用はなく、必要なのは二番出汁である。さぞ麗しき液体が得られることと期待に胸膨らませて手順に従い煮出してみると、と。お湯が得られた。はっきり言ってお湯である。まかり間違ったら鰹の味と香りするかもしれないね、程度で麗しい香りも美しい色も無い。一体どこで間違ったのか。これでは出汁足り得ないではないか。
思案した結果、何が悪かったか考えないところが私たる由縁であるが、先の一番出汁を混ぜてみるが少し薄い気がする。ならば鰹節を足せば良いと考え鰹節の袋を振ってみると拳大の塊が転がり出てしまった。多すぎるじゃぁないか、と言ってみても後の祭である。
この段になると一番出汁も二番出汁も関係なく、面倒くさいのであの黄金色の香り高い美麗な液体を得ることしか考えず、そしてそのまま煮物を作ってみると、これがうまい。一般的にうまいかどうかは別にして、今まで作った中で一番うまい。こんないい加減な出汁のとり方でもうまくなるとは素晴らしい。さすがである。使わなかった私が愚かであった。参りましたと言うほかないではない。これが二番出汁を使えばどれほどうまくなるのだろうか。
そのためにも、味付けの腕を日々研鑽せねばなるまい。
TOPページへ戻る