04/23
武道館中野
とある用事で日本武道館敷地内を通り抜けようとしたとき、いつものように鬼のような速さで歩く私に見知らぬおにぃちゃんが近づいてくる。道でも訪ねられるのかと思いきや第一声が「新入生の方ですか?」ときた。どうやら大学生らしい。片やこちらはスーツ姿である。年の頃も既に新入生とは言い難くあまつさえ私服でも老けてみえるのにスーツを着ると2割り増し老けてみえる私に向かって、である。どう甘く見積もっても22才以下には見えないと言うのに彼の目はどういう構造をしているのだろうか。若く見られてむっとするのもどうかと思うので平静を装いつつ、こういう人はお礼かたがたたっぷりとからかってあげるのが世の情け、是れぞ人の道というものであるので「はい、そーです。」と調子を合わせてみる。
この間およそ10秒の間、分速80mの歩みに息を切らせて必死に追いすがる彼を哀れに思い、それでいてこちらの様子をうかがう輩も見受けられなかったので歩きつつ話を進めてみれば、「サークルの勧誘」とのこと。もう一度周りを見渡してみるとどこぞの大学の入学式があったらしい。そんな日に勧誘するようなサークルが真っ当なはずなく、当然次の一言も真っ当ではない。「大学で何を学んだらいいかなんて考えたことありますか?」息を切らせ息を詰まらせ紡ぎ出すその様に涙を誘われつつ、同時に差し出されたパンフレットのような紙を受け取ってみる。コピーではなく印刷されたものなので、どうやら印刷機を借りられる程度の経済力はあるらしい。
さて、大学で何を学べば良いか、とな。そんなことを聞かれたのに至極真っ当な答えを出すのは気の毒となのでそこでこのように答えてみた。「抽象的なことを考える力をつけなきゃいけませんよね。」彼はうろたえる。「わからない」「自分の選んだ学科の勉強をする」なんてのを期待したのかもしれないが、予想外のことに弱いのだろうか。息を切らせて意図を必死に読み取ろうとする彼に説明すると少し怯んだようだ。これくらいなら誰でもやりそうなもんだと思うんだが、あまりりこういう勧誘に慣れていないのだろうか。こんなことじゃ一人前になれないぞ、おにぃちゃん。
引き気味のお兄ちゃんを引きずり戻すためにも印刷物から話題を見つけた方がよさそうなので見てみると、「人生の目的とはなにか」「本当の幸福とは何か」「本当の自分とはなにか」「死んだらどうなるのか」と書かれている。「死んだらどうなるか、か」と呟いてみると案の定再び目を輝かせ、息も絶え絶えに語りかけてくる。「死んだらどうなると思いますか?」これはヤマ場であるので私は即答した。「そのうち腐る。」「・・・。」ついでにまくしたててもみる。「あ、普通はその前に焼かれますね。」「・・・いや、あの、そうじゃなくて・・・。」「焼かれるか腐るかしませんか?」「そりゃそうですけど」「ああ、病院だったら体を拭かれたりしますね。」「いや、だから」「な〜んて、わかってますよ。魂がどうなるかってことでしょう?」「・・・・・・。」
にいちゃんは怒りそうな雰囲気をかもし出してきた。やばい。
そこで真っ当に答えてみる。「老荘思想では生と死は互いの延長なので区別するものではないと主張してます。だから死を恐れるのも、ましてや死後を考えるのも愚かなんだそうですね。」するとあからさまに怪しい物でも見るような目で見てくるのだ。
失礼千万、おのれどういうつもりだ、と内心腹を立てているうちに彼の頭の位置が一気に下がっていく。後ろ向きに歩きながら確認すると地面にへたり込んでいる。10分もよく頑張ったね、と一声かける時間もないのでそのまま捨て置いたが、貴重な経験といい運動になったと思う。
この経験を是非とも活かしてくれ。なんの役に立つかわからんが、宗教以外のものに。
TOPページへ戻る