医者の目記者の目60


         ネット医療記者クラブを

     (医者のち記者ときどき患者・朝日3/1掲載分)

医療の現場に身を置いてみると、マスコミの医療報道が「ずれてる」と感じることが多い。インフルエンザをきっかけに先週は書いたのだが、そうした感じは、インフルエンザ報道に限らない。

たとえば、医療事故や医療費・医療制度の将来など、医療に関係する報道のおりおり、文章のはしばし、しばしばじりじりと感じる。戦争報道にたとえれば、戦場を取材せず、参謀本部だか戦略研究所だかの取材だけで作られた報道だなあ、という違和感を。

臨床経験の長い医師たちには、そうした思いがもっと強いようだ。医師の集まりに顔を出すと、私がマスコミ代表にされて、集中攻撃、袋だたきに遭ってしまうことが多い。「いや、私も今は医者ですから」と言いながら、マスコミの内情を説明するはめになり、内心コウモリの悲哀を味わっている。

「じゃあ、どうすりゃいい?」と書いて、先週は終わった。

私の地域の医者仲間で、インターネットによる医療情報ネットワーク構築の中心になっているアンドウ先生は、こう言うのが口癖だ。

「自分たちが、インターネットで発信しちゃえばいいんですよ。マスコミしか情報発信できない時代は終わったんです」

それはそうだが、少なくとも当分の間、マスコミの影響力も到底無視できないほど大きいことは確かだ。誰でもが適切な情報をインターネットから得られるようになるとも思えない。

インターネットを使って、現場で働く医療関係者と、医療を取材する記者とが、情報や議論を交換することで、医療報道の質を高めることはできないか。質の高い医療報道を目指す記者と医療関係者とを会員にしたメーリングリストを作れば、可能だと思う。記者は、取材したいこと、意見を聞きたいことについて、全国の医療従事者にたずねることができる。医療者は、取材して欲しいこと、記事や番組に対する批判、注文などを、直接報道を担当する人たちに発信できる。いわば自営の「ネット医療記者クラブ」だ。

大変なエネルギーと時間が要るだろう。何度かマスコミの医療取材につきあったが、あまりに話しが通じなくて、本題に入る前に夜通しになってしまったりする。でも、本当のジャーナリストは、読者のため、視聴者のための報道を目指している。本当の医者は、患者のための医療を考えている。読者のため、視聴者のため、患者のため、結局は同じことを言っているのではないのか。通じないはずはない。コウモリ医者は、そう思っている。


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