玉石混合!?美味しく飲むためのTIPS集 〜その4
 

◆デキャンタージュは必要か?

デキャンタージュというのは、ワインのをボトルから直接グラスに注ぐのではなく、いったんデキャンタというガラス製の器に移す作業のことを言います。通常は、古いワインについては「オリを取り除くため」、若いワインについては「まだ若くて閉じている場合、空気に接触させて開かせるため」というまったく異なった目的のために行われています。前者についてはわかりますが、後者については反対意見もあるようで、堀賢一氏は著書「ワインの自由」の中でワイン醸造の世界的権威であるエミール・ペイノー教授がこの二番目の効用の反対論者であることを引き合いに出し、自身も日本ではデキャンタージュが安易に行われ過ぎていると結論づけています。
一方で、私自身の経験で恐縮ですが、先日エノテカで行われた、Ch.コスデストゥールネルとCh.ピションラランド、Ch.アンジェリスのスリーシャトーのテイスティング会では、それぞれのシャトーのオーナーが居合わせた場においても、70年代から96年まですべてのワインがデキャンタージュされてでてきたのには驚きました。

通説としては、
・ブルゴーニュワインはふつうデキャンタージュしない。 (果実味がとんでしまうし、ブルゴーニュのオリは微細で飲んでも大したことないため)
・若いボルドータイプのワインはデキャンタージュすると味がまろやかになる。
・熟成の課程で閉じている時期のワインはデキャンタージュすることによって香りが開くことがある。

というところだと思います。

私自身はどうかといえば、個人的には、デカンタージュは好きじゃないです。理由は以下によります。
1.デカンタージュすることにより、ワインの温度が上がってしまう。(特に夏場)
2.デキャンタを洗うのが面倒くさい。
…とまあ、ちょっと議論の本質からはずれたところで、好みじゃないということなんだけれども、確かに95年以降ぐらいのボルドーを飲むときはデキャンタージュの効用は感じます。(といってもそんなに若いボルドーを飲むことはあまりありませんが。)あとは、開けたけれども香りが全然閉じているというワインについては、ダメもとなので、デキャンタージュしてみるようにはしています。
<補足>
最近はブルゴーニュのデカンタージュにもより寛容になってきている印象を受けます。特に自然派ワインなどで、抜栓当初の異臭をとりのぞくために積極的にデキャンティングするような事例を多く聞きます。(2006.2)

◆ビンテージの善し悪し

「よいビンテージ=今飲んで美味しいとは限らない」ということはどこの入門書にも書かれているので、あえて繰り返しませんが、でもやっぱりよいビンテージのワインは美味しいと思います。(笑)

特に最近のボルドーは、若くから飲みやすいように作られる傾向にありますし、このところ価格もグンと下がってきているので、95、96といったすばらしいビンテージを買って飲んでも「幼児虐待」などと揶揄されることはないでしょう。さすがに1級とか、スーパーセカンドはもったいないと思いますが、たとえば先日飲んだラグランジュ96などはすばらしいものでした。価格も3千円台でしたし。

では、よくないビンテージのワインは買うべきではないのでしょうか。もちろんそんなことはありません。
凡庸なビンテージのワインには逆に以下のメリットがあります。
・値段が安い。
・熟成が早いので、手ごろに熟成感を味わえる。
ボルドーで言えば、87、(91、92、)93、94というところです。84や87については、市場ではあまり見かけなくなりましたが、昨年飲んだ「84レオヴィルラスカズ」「87ムートンロトシルト」はともにちょうど熟成のピークを迎えつつあり、すばらしいものでした。価格的にもかなり割安です。90年代についても、91、92はあまりおすすめしませんが、93はほどよく熟成して美味しいものが結構あると思います。94はまだ全般にタンニンが手ごわいようですが、それでも右岸を中心に良いものがあると思います。
97年は例外的なほど若いうちから楽しめるビンテージです。

ブルゴーニュについては、91は最近再評価される傾向にあり、狙い目と思います。94もそろそろ飲み頃に入ってきているものがあるようで、ちょっと前に飲んだアルマン・ルソーの「シャンベルタン・クロ・ド・ベーズ」などはまだ若いもののすばらしい味わいでした。個人的には良い作り手の87などもねらい目と思います。(あまり市場にありませんが。)
<補足>
2006年現在の情報を私見を交えて記します。
・90年代後半から2000年代前半は、イタリア、ローヌの2002年などごく一部をのぞいて決定的に良くない年というのは見当たらず、地球温暖化の影響もあってか、ビンテージの安定性が高まっていると思います。
・ ブルゴーニュでいえば、97年が評判を上げているのに対して、優良年といわれてた96年に対して、「酸っぱいばかりで本当に綺麗に熟成するのか?」という疑問の声が聞かれるようになってきています。飲み頃に入ってきているのは95、97、98年あたり。94年以前は一部の超長熟な銘柄以外はまず開けてよいタイミングでしょう。2000、2001年も村名クラスであれば開けて問題ないと思います。
・ボルドーは2000年、2003年、そしてまだリリースされていない2005年がすばらしい年と言われますが、その間の99、01、02などもそれほど悪くはないし、価格も穏当なのでねらい目と思います。 ただ、飲み頃という意味では凡年に数えられる年(91、92、93、97)以外はまだ早いかもしれません。良作年だと90年あたりでもまだ早いものもあるようです。

◆ビンテージの良し悪し2

ところで、ビンテージって、ある地域の印象が強すぎて、実は他の地域は良い年なのに人気がなく安く入手できたり、とか、はたまたその逆のパターンなどもあるようです。具体的にいくつか挙げてみます。

◆61年は ボルドーにとっては今世紀屈指の当たり年だけど、ブルゴーニュは並年。 82年、86年も同様。
◆その逆が69年と78年。ボルドーは並年だが、ブルゴーニュは当たり年。
◆67年は赤は冴えない年だが、ソーテルヌは稀にみる当たり年。
◆94年のボルドーは左岸より右岸のほうがよいといわれている。逆に96年は左岸は最高の年だが、右岸は左岸ほどではないらしい。
◆91年と言うとフランスはどこも全滅という感じだけど、カリフォルニアは当たり年。
◆ブルゴーニュでは92年は赤は冴えないが、白はなかなかの年。ブルゴーニュの白は全般に赤が冴えない年がよい年の場合が多い。

などなど。あくまで一般的なビンテージ情報ですので、これがまたさらに微細な地域差や生産者によってまた違ってくるところが面白いところですね。
ちなみに97年はカリフォルニアとイタリアで戦後最大級のあたり年、98年はローヌがすばらしい年、99年はブルゴーニュが当たり、2000年はボルドーが良好と、財布の紐がゆるみっぱなしですね。

◆ハーフボトルの買い方

私もよくハーフボトルを買いますが、買うときには以下の点を考慮しています。
1.ハーフボトルは熟成が早い。
熟成のしくみについてはまだ解明されていない点も多いようですが、一般にはコルクから液面までの空気の入るスペースの比率がハーフではレギュラーボトルより大きいので、その分熟成が早いといわれるようです。同様にマグナムボトルは熟成がゆっくりだと言われます。
2.ハーフボトルは痛みやすい。
ハーフボトルでは、ワインが外面にさらされる表面積が内容量に対して大きいので、コンディションが悪くなりやすいともいわれています。

上記のことははっきりと統計的な数字があるわけでも科学的に解明されているわけでもありませんが、概ね経験的にもうなずける部分があります。我が家ではハーフボトルを買うことが多いので、買うときには、なるべく若めのワインを買うことにしています。一方、年代物は通常のボトル以上にリスキーだと思うので、もし買うなら信頼できる店で買うことをおすすめします。

◆美味しい温度は何度位?
飲むときの温度は重要です。よく「白ワインは冷たく、赤ワインは常温で。」と言われていますが、現実には夏場に「常温」では温度が高すぎます。温度が高すぎるとぼんやりした感じの焦点の定まらない味になりますし、逆に冷蔵庫などで低くしすぎると、今度はギスギスの味になってしまいがちです。私は概ね赤ワインについては「ちょっとひんやりする程度」(=たぶん14〜15度くらい)、白ワインについては、「若くてフルーティなものは低め(6〜8度)、熟成して複雑なものは高め(10〜12度)」くらいを目安にしています。赤ワインについては実際はもっと高くてもよいのでしょうが、グラスについだり、デキャンタしたりしていると、その間に温度が上がるのでこの位がいいと思ってます。夏場なら、冷蔵庫(冷凍庫は絶対NG!)で20〜30分冷やすくらいでしょうか。
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◆熟成って面白い!

私がワインに興味を持つようになったきっかけは、たまたま家で何年もの間忘れ去られて、別物のように熟成した白ワインを飲んだことだったんですが、熟成のメカニズムについては、まだ解明されていない点が多いようです。熟成については以下の二つがあってよく混同されているように思います。(というか、私もよく判っていない。)

1.ゆるやかな酸化によるもの
発酵後、瓶詰めまでの間のワインは樽の中などで適度に空気に触れ酸化熟成します。これは、飲み残したワインを何日か置いておくと最後は酢になってしまう、その課程が極めてゆるやかに進行しているものと思われます。一方、瓶詰め後も ボトルとコルクの間のヘッドスペースに入った少量の空気によって、きわめて ゆるやかに酸化が進むともいわれます。

2.還元的熟成によるもの
堀賢一氏著「ワインの自由」によれば、カレーを一晩おくと味がなじんで美味しくなる、というようなものだそうです。
科学的には、ワインの色素成分であるフェノール分(アントシアニン色素やタン ニンなど)が酸やワインにとけ込んだ酸素の影響を受けて結合しあい、より大きな構造へと変化し、ついには固体化して、ワインの澱となって沈殿します。渋みの成分であるタンニンなどがこれによって減少するので、ワインはまろやかになり、また色素成分のアントシアニンが減るので、色が薄くなります。
こうしたフェノールの結合がゆっくり進めば進むほど香りや味わいが複雑になると言われていますが、科学的には解明されていないようです。

これらの熟成は、温度やその他もろもろの条件に左右され、一般には高温では熟成は早く進み、低温だとゆっくりになるようです。そのため、ごく若いワインの場合、丁寧にセラーで保存したワインより、常温で一夏過ごしたワインのほうが味がまろやかになって美味に感じられたなんて逆転現象も起きたりします。我が家でもセラーの容量の関係上、寝室で保存しなければならないワインがかなりありますが、たまにそのような事例に出くわします。ただし、これらはあくまで「ケガの功名」であって、本来の熟成によるものでないことは言うまでもありません。また、 こうした環境へのタフネスさはワインの品種や産地によって大きく異なります。買ってきてすぐ美味しく飲めるタイプのワイン(新世界やスペインなど)やデリケートなピノノワールの多くは逆にグジュグジュになってしまうリスクが高いですし、 調子に乗ってふた夏越させると悪くなる確率がぐっと上がるようです。セラーがない環境ではワインのためにもやはり早めに飲んであげるのがよいでしょう。