超不定期更新コラム

2/28 香りの表現

ソムリエがワインを表現するときの言葉として、よく「濡れた小犬の香り」とか「秋の森の香り」なんていうフレーズが引き合いに出されます。昨年放映されたテレビドラマ「ソムリエ」ではそれがさらに誇張されて、稲垣くんが「草原を駆け巡る乙女のような」とか言っましたが、実際のテイスティングの現場ではさすがにそのような抽象的で詩的な表現は聞きませんね。

テイスティングにおける表現は香りという主観的な要素を皆が共有できるように、使われる言葉がかなり「標準化」されています。
たとえば、白ワインにおける果物の香りとしては、
若いほうから、
ライム→レモン→グレープフルーツ→青りんご→洋ナシ→白桃→黄桃→ パイナップル→パッションフルーツ
というようなものがよく使われますし、
赤ワインでも
レッドカラント→ラズベリー→野いちご→ブルーベリー→カシス(ブラックカラント)→ブラックベリー(くわの実)

というような順序で使われます。
認定試験に際して、よく注意されるのはグラスをクンクンと嗅いで、これらの香りを嗅ぎ取れるかということよりも、香りの表現に矛盾がないかどうかです。
たとえば、白ワインの表現で、フルーツの香りをたくさん書こうとするあまり、「ライムやパイナップルの香り」などと言うと、若いワインに対する表現とよく熟した果実香に使う表現を同時に使っているわけで、矛盾するとみなされるのです。同様に、赤ワインで、青っぽさを表現する「ピーマン」とよく熟した果実を表現する「ブラックベリー」を同時に使うのも減点となりそうです。
そういう視点で私のHPのテイスティングメモを見ると結構矛盾だらけだったりするのですが、まあ、それはそれとして…

こうした香りを覚えようと思って、実際に生のフルーツの香りをかいでも実際にはあんまり香ってはきませんよね。私も眼病を患った手前、毎日のように冷凍ブルーベリーを食していますが、それ自体をクンクンと嗅いでもあんまり香りはしません。では、ブルーベリーの香りはどうしたらもっとも如実に体験できるかというと、ブルーベリー味のガムとか、ブルーベリージャムを食べたときに、口の中で鼻腔を通して伝わってくる香りがそれなのだと思います。(これを含み香といいます)

すなわちワインでいう香りというのは、多くの場合、
1.香水や香料で使われるもの。
2.鼻でクンクンかいだ場合だけでなく、実際に口に含んだときに鼻腔を通して伝わる香り。(含み香)
のことを言っていることが多いようです。

ところで、私も自分のHPの感想にいろいろな表現を使っていますが、いまだに香りがよくわからなくて使えない表現とか、使っているのだけど実は自信がないものとかもあります。

◆ポピュラーなんだけど、かいだことがないので使えない表現
「火打ち石」「シダ」「黒カビ」

◆「ネ・デュ・ヴァン」などで嗅いだことはあるのだけど、いまいち自信がない表現
「松ヤニ」「菩提樹」「トリュフ」

それから、ハーブの各品種はよくわからないので、「フレッシュハーブ」とかまとめてしまったり、花も「ライラック」とか「カモミール」とかは区別がつかないので、「白い花」とか「黄色い花」とか言ってしまってます。ようするに結構いい加減なわけです(笑)。

ちなみに私がテイスティングのメモを書くときに参考にしている方が二人 います。ひとりは田崎真也氏。彼が雑誌などに書いているコメントは切りぬいて集めているくらいです。もうひとりは、「インターナショナル・ワインセラー」のスティーブ(ステファン)・タンザー氏です。タンザー氏のメモは簡潔でとてもよく書かれていて、私は多いに参考にしています 。「層をなしている」とか、「粉っぽいタンニン」とか「鉛筆の芯」とか、「あぶった香り」などは彼がよく使う表現で、わかりやすいので私も真似して、じゃなかった、参考にしてます。