当時のスペインでは、画家はまだ技芸とみなされ、社会的身分は低いものだった。(例えば1628年に発布された王の勅令には「宮廷画家に与える一日分の食料の割り当ては、理髪師のそれに等しいものとする」と書かれている。)一絵描きでしかなかったベラスケスが、1659年ついに貴族の仲間入りを果たしたというのは異例の大出世だったのだ。
それにしても、ベラスケスとは一体どのような人物だったのだろうか。 「ラスメニーナス」の中の、口ひげをはやした、威厳に富んだ彼の表情からは、偉大な芸術家であるという自負と同時に、有能な官吏にありがちな一種近づきにくい怜悧な雰囲気すら感じる。しかし、私はとえいば、なぜかその顔に親近感すら覚えるのだ。いかめしい表情で、眉一つ動かさずに矮人や道化師の姿をキャンパスにしたためる画家の視線はやっぱり暖かかったのではないかと。