1802年 アルバ公爵夫人わずか40歳で没。 1807年 フランス軍、スペインに侵攻。 1812年 妻ホセファ没。 1819年 「聾者の家」購入。しかし、この年の末、重病に陥る。
その後、ゴヤはフェルナンド7世の自由主義者弾圧を避けて、ボルドーに亡命することとなった。時に78歳。80に手が届こうかという老人が住み慣れない国に移住しなければならない辛さは想像を越えるものだっただろう。 しかし、そのボルドーの家に、ロバの背に乗って毎朝ミルクを届けに来た乙女を描いたこの絵には、もはや絶望的なペシミズムは見られない。女性のショールに見られるようにその筆致は相変わらず自由で卓越した技巧を見せるが、画面は明るく、詩的で叙情的な雰囲気とどこか吹っ切れたような透明感に満ちている。 ロココ風の宮廷画からはじまって、透徹したリアリズム、告発者としてのドラマ、幻想的厭世的な世界、と遍歴を続けた画家の魂が、やっとたどりついた、透明感のある叙情的な世界。が、このとき、画家の生命の炎は、もはやあといくばくも残されてはいなかった。数ヵ月後、ゴヤ死去。享年82才。 しかしながら、晩年「黒い絵」を描きつづけたゴヤが、その地を追われ、終の棲家となったボルドーで、このような優しさと美しさに満ちた絵をもってその画業を終えたことに、私はすこしばかり心やすらぐ思いになるのだ。この絵もまた、プラド美術館に展示されている。プラドを訪れる機会があれば、ぜひそんなゴヤの生涯に思いを馳せながら、鑑賞してみてほしい。