ガリテア 〜ラファエロ II
画家が「ラ・ヴェラータ」を描くのに、この庶民の娘になぜわざわざ貴族の婚礼衣装をまとわせたのか。あるいは「ラ・フォルナリーナ」の、裸体の左腕に刻まれた「この女性は、ウルビーノのラファエロの妻」という署名のリングが何を意味しているのか。そういった謎については、後世の憶測や三面記事的興味をもっていろいろと語られているようだけれども、ここでは取り上げるのはやめておく。 ただ、おそらくは、身分の違いや諸般の事情等で、結局添い遂げることのなかった二人が、その実、疑うことなき深い愛情によって結ばれていたのだということを、ラファエロは自身の筆を以って証明したかったのではなかろうか。そんな思いが伝わってくるような二枚の絵である。
ラファエロが37歳の若さで世を去ったとき、フォルナリーナは葬列に参加することすら許されなかった。そして翌日彼女は修道院の門を叩いたという。しかしこの幸薄き女性は、一方ではラファエロによって、キャンパスの中に永遠の生を得ることになり、はかないロマンスの主人公として、後世まで語り継がれることになった。これもまた、「ガリテア」の導きだろうか。