超不定期更新コラム

ブルゴーニュの熟成についての一抹の不安。

 食通の方の接待を仰せつかって、白金の「ラシェットブランシュ」へ。接待費節約の意味もあって、手持ちのワインを持ち込みました。
このラトゥールは、ボルドー高価なりし頃、シンガポールに旅行した際にオーチャード通り沿いのショップで購入してきたものです。日本より暑さの厳しいシンガポールでワインを購入するというのは、どうみてもセオリーから外れますが、当時は94ラトゥールといえども国内では4万円ぐらいしたので、20Kほどの現地プライスに惹かれて土産に買ってきたのです。
まあそういうことなので、ある程度、熱を浴びていることは覚悟していましたが、抜栓してみると、コルクは全然上のほうに染みてきておらず、思いのほか綺麗でした。そして何より安心したのは、グラスに注いだ瞬間、辺りにパァッと芳香が広がったことです。コレですよ、コレ。

色調は濃いガーネットで、エッジはかなりはっきりとオレンジが見て取れます。グラスに鼻を近づけると、シロップに漬けこんだブラックベリーやカシス、八角、甘草などのスパイス、黒土、皮革などのすばらしい香り。味わいは分厚い果実味をしっかりした酸と思いのほかこなれたタンニンが支える、堂々としたものです。94年の左岸ということで、まだまだタニックかなと想像していましたが、そのようなこともなく、エッジの丸い球体のような味わいはメインの鹿料理に実によくマッチしました。
こういうボトルを飲んでしまうと、やっぱり10年以上に亘って寝かせる記念の年のワインはボルドーがふさわしいのかなぁ、と思ってしまいます。
ボルドーがプリムールやオークションなどさまざまな形で流通しえるのは、やはり、長年に亘って安定的に熟成してくれる、この頼もしさゆえのことなんでしょう。

翻って、ブルゴーニュはどうでしょうか?

最近、寺田倉庫に寝かせていた村名級の95〜97年、98年あたりをよく開けるのですが、 単に状態にシビアだというだけでなく、スパンが長くなればなるほど、思ったように熟成しないボトルが多いなあと考えさせられます。96年の赤のようにビンテージそのものが過大評価されてきたケース(まあこれは仕方ないかもしれませんが‥)、96年の白のように何らかの問題があって熟成しないケース、先日飲んだパカレのように熟成に向かない生産者、それ以外にも異臭が出てしまうボトルや、寡黙になってウンともスンともいわないボトル、スカスカになってしまうボトルなど、なんだか期待したような熟成具合でないなあ、と思うボトルが多いんですよねぇ。

以前、私よりもずっと古くからワインを収集されている方のお宅に何度か伺った際、リリース当初に買ってご自宅で長年熟成させたという80年代のボトルたち(ネックのあたりに「果実酒」というシールの貼ってあるヤツです。)を、何本かずつ開けていただいたのですが、かなりの比率で異臭が出ていたり、ヒネたようになっていました。ご自宅には居住スペースを改造したセラーがあり、湿度まできっちりコントロールしていて、保存は完璧。おそらく当時はリーファーコンテナなども一般的でなかったりして、コンディション面で難しかったのかなと想像していましたが、今思うと、そもそもブルゴーニュワインの熟成ポテンシャルという根本的な問題もあるのかなと思います。

加えてブルゴーニュの難しいところは、熟成のピークの期間が短いということですね。ボルドーの場合は、小さなビンテージでも結構長くピークが続きますが、ブルゴーニュの場合はピークはボルドーのように高原状でなく、落ちるのも早い。まあその分早くから飲めることは飲めますが。

上の子の生まれ年の02年は、ブルの当り年ということで、ブルゴーニュばかりやたら買い込みました。たぶん6ケース以上購入したと思います。そんなに買って、子供が70歳になるまで誕生日を祝う気かと突っ込まれそうですが、この中で 10年から15年後に、本当に美味しく飲めるボトルがいったいどれだけあるのか、となると、そんなにないのかもしれません。
多く買い込んだ作り手のうち、シャルロパン・パリゾやロベール・アルヌーあたりは、比較的早めに飲むべき作り手と認識していますが、他の作り手についても、 ルソーやルーミエ、ミュニュレ・ジブールなどの長熟タイプの生産者のグランクリュクラス以外は、比較的早い時期から飲んでしまった方が幸せかも、と思ったりもします。

また、02年のボルドーはあまり注目される年ではありませんがそれでも娘の大学入学祝いとか、成人祝いとか、そういうときのためにボルドーを買い足しておこうかな、と思う今日この頃です。

※そうはいっても、たまに目もくらむようなすばらしい熟成を遂げたボトルに出会ってし まうから、ブルゴーニュとのつきあいはやめられないのですけど‥。