不定期更新コラム

コシュデュリ・ナイト

4月のデュジャックに続いて、F木師匠主催の「バーガンディナイト#36」に参加させていただきました。今回のテーマは、ジャン・フランソワ・コシュ・デュリ。いわずとしれたブルゴーニュ最高峰、いや、世界最高峰のシャルドネ生産者です。
よくブル白でトップ3とか、トップ5の生産者という話題になると、たいていの場合、コシュ・デュリとコント・ラフォンが満場一致で採択され、それ以外は好みによってルフレーブ、ソゼ、ニーヨン、ドーヴネ、ラモネあたりから選ばれるというところでしょう。それほど飛びぬけた存在の コシュ・デュリですが、唯一最大の問題はべらぼうに高い流通価格です。村名ムルソーですら1.5万、もしくはそれ以上という価格はなんとも悩ましいものがあります。というのも、1.5万出せば、トップ5とまではいかずとも、決して凡庸でない生産者のバタール・モンラッシェまで手が届くわけですから。
私自身も普段はなかなかコシュ・デュリを飲める機会にはめぐり合えないので、今回のバーガンディナイトには迷わず申し込むことにしました。それに今回申し込んだもうひとつの大きな理由は、ラインアップの中に、金ラベルの通称で知られる逸品、コルトン・シャルルマーニュがあることです。市場での流通価格は近年のビンテージですら10万を大きく超えるというコシュ・デュリの金ラベル、しかもそののバックビンテージを飲める機会はこれを逃すと、この先果たしてあるかどうか‥。 ということで、会が催されたのは、6月18日の土曜日、場所はいつものとおり、麹町オーグードゥジュールでした。

ムルソー・ヴィルイル97
(ドメーヌ・エ・セレクション)
あるボーヌのネゴシアンが所有する畑で、長年友人であるコシュ・デュリにワイン作りを委託してきましたが、最近になって、所有者の希望によって瓶詰めされるようになった、というものだそうです。(よってラベルの趣も大きく異なります。)まだ若々しい輝きのあるイエローの色調。柑橘系果実、レモン、ミネラル、バニラ。非常に密度感のある香りと味わいながら、現時点ではまだまだ硬い印象。気長に待っていると、グラスの中でゆっくりと開いてきます。通常のコシュデュリの97村名ムルソーは過去に何度か飲んでいますが、こちらの方がひとまわりスケールが大きいですね。【92?】

ムルソー96
白桃、バニラにまじって、シャンピニオン系の熟成香が出始めています。前の銘柄が97年にしてはやたら若々しかった感じですが、このボトルはビンテージ相応という感じです。96年らしく、凝縮感があって力強く、縦に伸びるしなやかな酸が素敵です。 【92】

ムルソー95
柑橘類、白桃、ミネラル。アタックは細身ですが、酸が綺麗で、口の中で旨みを伴った果実味が広がり、エレガントな仕上がりです。前の2本に比べると、格段に表情が豊かで、まさに飲み頃の印象です。 【92+】

ピュリニーモンラッシェ・ レ・サンセニエール95
95年初リリースの畑名つき村名です。場所はバタール・モンラッシェのすぐ下だとか。白桃、バニラ、白い花、熟成香はほとんど感じません。やわらかくエレガントでバランス良好。 ムルソーほど酸のパワーを感じませんが、これは相対的に果実の厚みがこちらの方が一枚上手であることによるものでしょう。【93】


コルトンシャルルマーニュ88
このボトルはここまでのものとは相当に趣がことなりました。ややアンバーのまじったような落ち着いたイエローの色調。マンゴー、ピーチなどのドライフルーツ系の果実、ヘーゼルナッツ、ミネラル。時間とともにクリームブリュレのような焦げた香り。味わいは静謐なもので、口の中で、ゆっくりと波が押し寄せるような広がりがあります。フィニッシュにやや酸が強めに出ますが、飲みこんだ後も口の中で反芻するような余韻の長さは特筆すべきものです。
ちょっと評価が難しいボトルですね。やや飲み頃を後ろに外している感じもあって、素直に感動、とはいきませんでしたが、88年の白という難しめの年の熟成はこうしたドライな方向なのかもしれませんし‥。いかんせん経験値がないので、よくわかりませんが、いずれにしても、余韻の長さは、尋常ならざるものだったのはたしかです。【95??】

ボーヌ・グレーブ88(トロ・ボー)
赤い果実、ヨード、紅茶、枯葉。しっかりした果実味とやわらかなタンニンがあって、クラシックな熟成ブルの醍醐味を味わわせてくれるボトルでした。地味ながらいい仕事する生産者ですね。もう少し華があると、ブレークするのでしょうけど‥。【90】

コルトン89(トロ・ボー)
赤系果実、イチゴゼリー、紅茶、枯葉。透明感のあるクラシックなピノで、前の銘柄に比べるとタンニンがやや勝っている感じがあるものの、時間とともにバランスがとれてきます。 果実の厚みはさすがグランクリュですが、現時点での熟成具合という意味では88ボーヌの方を好む人も多かったようです。89年にしては長命な仕上がりで、まだまだ行けそうです。 【91】

いやあ、よく飲みました。シャル探の総会などで複数本のコシュデュリを飲んだことはありますが、こうやってコシュ・デュリばかりまとめて飲んだのは初めての経験です。基本路線としては、ピンと張った透明な酸と、決して過熟に陥らない、レモンや柑橘類を彷彿させる鮮度の高い果実味、それにバニリーなオークが絡みつくように溶け込んで、まるでボディビルをやっている(男性ではなく)女性のような、しなやかで張りのある酒躯がすばらしいですね。
今回飲んだ 90年代中盤以降の銘柄は、危惧されたほど今飲んで若すぎるということはありませんでしたが(除く97年)、村名であっても熟成のポテンシャルはかなりありそうなので、もう少し熟成させるとまた違った側面が見えてきそうです。
コルトン・シャルルマーニュについては、正直、わからないというのが率直な印象ですね。只者でない余韻の長さはあったものの、味わい自体はかなりドライで、これが88年の特性なのか、それともややピークを超えていたのか‥。とはいえ、ボトルの下のほうにあたった他の参加者のグラスは、はっきりと果実味の厚さと酸の切れが違って いたようですし、 F木師匠が抜栓したての試飲の時にはグレープフルーツを連想させるような新鮮な柑橘系の香りと切れのある酸があったそうですので、抜栓後急激に酸化が進んだのかもしれません。まあ、金ラベルについては、私にとっては、「飲んだ」という事実だけで、モニュメンタルな出来事といえますので、不満があろうはずもありません。ぜひ何年か後に師匠がお持ちの90年代のボトルもお相伴に預かりたいな、と思いながら家路についたものでした。

(2005.6.25)