不定期更新コラム

    デュジャック・ナイト
    私のワインライフにおいて、「平野弥」の平野さんとか、「ボナペティ」の中沢さんとか、「ワイナート」の田中さんとか、勝手に「師匠」と呼ばせていただいている方が数名いらっしゃいますが、アマチュアの世界ではさしずめ、F木さんがその筆頭です。今回の「BurgandyNight」の主催者であるF木さんは、yohさんの「西麻布〜」にもしばしば「F木師匠」として登場するのでおなじみかと思いますが、ブルゴーニュの名醸ドメーヌを垂直でいただける「BurgandyNight」は、まさにマニア垂涎のワイン会のひとつといってよいと思いますし、月例でこのような会を催すパワーたるや尋常ではないと思います。その「BurgandyNight」も実に34回目、このところ子育て等で忙殺されてしばらく参加していなかったのですが、今回デュジャックということで、久しぶりに参加させていただきました。
場所は麹町「オーグードゥジュール」。以前の私の職場の近くだったこともあり、かってはよくランチに利用させていただいた店です。久しぶりに行きましたが、繁盛しているようでなによりです。

まずは、珍しい白から‥。

※デュルイド(Druid)について
最近、ジャックセイス氏のご子息が中心となって「デュジャック・フィス・エ・ペール」というネゴシアン業の乗り出したデュジャックですが、実は相当昔からアメリカではネゴシアンとして白ワインをリリースしていたことは、知る人ぞ知る事実です。F木さんの資料によりますと、このDruidというのは、84年に義理の兄弟(ジャックセイスさんの奥さんはアメリカ人)と設立したUS向けの白ワイン専門ネゴシアンで、ファーストリリースは85年。今では2軒の信頼できる栽培農家と契約して、ムルソー(とピュリニーモンラッシェをリリースしているそうです。ブドウを買い付け、ドメーヌ・デュジャックで醸造、6ヶ月樽熟、75%新樽が用いられます。US以外では売られることはありませんが、需要の高まりに応じて、生産量は当初の8樽から25樽まで増えているそうです。


ピュリニー・モンラッシェ97(デュルイド)

とても綺麗な、やや濃いめの黄金色がかったイエロー。マロングラッセ、黄桃のコンポート、フルーツタルト、バニラなどの甘い香りが満開です。よく開いいて、判りやすく外向的な味わい。やや散漫な印象もありますが、これは温度が高めだったせいもありますね。97年は今が飲み頃でしょう。【89】

 

コルトンシャルルマーニュ85(デュルイド)
これは実に珍しい銘柄です。デュジャックのコルトンシャルルマーニュなんて、私自身も存在すら知りませんでした。しかも85年ということで非常に興味深く飲ませていただきました。
色調は照りのある濃いめのイエローでかなり黄金色がかっています。白桃やミネラル、アカシアなどの品のある香りで、時間とともに、ナッツやアーモンド、キャラメルなどの濃縮されたニュアンスが出てきます。果実味のパワーはさすがに落ちてきていますが、干からびた印象はなく、しなやかで張りのある酸のおかげで、縦方向に伸びやかな味わい。20年経過していながら、長いことグラスに注ぎっぱなしにしていてもヘタらないのはさすがです。【92】

 

モレ・サンドニ93
それほど濃くない、中程度のガーネットの色調です。香りはよく開いていて、シロップに漬けたカシスやダークチェリー、土瓶蒸し、オレンジの皮、香水、バニラなどが入りまじった、まさに「デュジャック香」です。味わいもまた、濃厚というわけではないのですが、酸が心地よく引っ張り、果実味とタンニンが過不足なく溶け込んで、心地よい広がりがあります。93年のブルゴーニュはなかなか評価が定まらないと言うか、評価が分かれる年ですが、実際作り手によって相当出来不出来もあるのではないかと思います。このデュジャックはまさに飲み頃で、村名とは思えないほど美味しくいただけました。【91+】

モレ・サンドニ69
最初リストを見たときは、96年をF木さんが入力ミスしたのだろうと思いましたが、なんと本当に69年でした。かなり淡くなっていて、レンガがかった綺麗なオレンジガーネットの色合いです。香りはしんみりとした赤い果実、ちょうどリキュールとドライフルーツの中間ぐらいの感じでしょうか。枯葉や乾燥イチジクなどの熟成した香りの中に、マツタケやバラ、ファンデーションのような蟲惑的なニュアンスがあって、古酒になってもやはりデュジャックらしい香りだと納得させられます。味わいは繊細でやさしくなっており、完全に古酒の領域ですね。それにしてもこのボトル、特筆すべきは状態のよさで、古酒にありがちな、藁や枯葉、醤油系統のニュアンスもなく、本当に綺麗にエッセンスに昇華したかのような印象でした。ちなみに参加者の間でも、90エシェゾーと並んでこの日の一番人気の一本でした。【94】

エシェゾー93
さて、ここからエシェゾー3連発です。色調からして、村名とは別物であることを誇示するかのような濃厚なガーネット。香りも密度感があって分厚い感じです。ただし、系統はあくまでも村名等と同じで、カシスやダークチェリーなどの果実にバニリーな香りとバラや香水のような甘い香りが絡みつくようなニュアンスはまさにデュジャック香です。
味わいは、まだ若い印象すらあって、特にタンニンはかなり固めで、どことなくボルドーチックです。酸もやや自己主張していて、グラスに注いだ当初は、バランスが悪いかな、と思いましたが、時間とともにグングンよくなっていきました。なんというか、筋肉質で構造的なデュジャックで、この日飲んだものの中ではやや異質でしたが、私自身はこの銘柄がもっとも印象に強く残りました。【94+】

エシェゾー91
F木さんは91年のブルについてはあまり良い印象を持っていないそうですが、私自身は少ない経験ながら、何度かすばらしいものに当たっているので、この91ビンテージにも期待していました。
色調は93年と同系統ですが、やや淡めです。香りは実によく開いていて、まさにデュジャック香が満開。一同陶然となっていました。味わいもグランクリュらしい密度感とテクスチャーがありますが、ややバランス的に酸が勝っていて、若干フィニッシュがイガイガした印象になるのが惜しいところです。93や90との差は本当に微妙なところなんですけどね。
【93】

エシェゾー90
この日の真打ち、90年のエシェゾーです。90年のデュジャックについては過去にクロ・ド・ラ・ロッシュを2回、ボンヌ点マールを1回飲みましたが、どれも大変にすばらしい味わいでした。色調は濃厚なガーネットで、エッジはきれいなオレンジが入っています。香りはバランスのとれた、デュジャックらしい妖艶なものです。芳香力といいますか、香りの強さ自体はそれほどではないものの、グラスに顔を近づけると、香りの密度感が1ランク上の印象を受けます。味わいは酒質の厚みがすばらしく、93で目立ったタンニンも91で感じられた酸も、果実味に覆われて顔を出すことはなく、球体のようにスマートで丸いふくらみがあります。フィニッシュも調和がとれていて見事です。ただ、以前飲んだ90のボトルたちに比べると、時間の経過によるものか、畑の違いによるものか(前者の要素が強いように思いますが)、全体的なキメがやや緩くなってきているように感じられました。90年はまさに今ピークで、そろそろ緩やかな下り坂に差し掛かろうというようなタイミングかな、と思いました。【95】

ニュイ・サンジュルジュ・フルリエール93    
(ジャン・ジャック・コンフュロン)

当初予定されていた88ボンヌマールがブショネだったので、代わりに出されたボトルですが、まだ硬いですね。黒い果実、スパイスなどに加えて木質的な香りが感じられます。口に含むと、クリーンな果実味を中心に、しっかりした構造のある味わいです。デュジャックの後に飲んでしまうとやや無骨な面もなきにしもあらずですが、もう少し寝かせると華やぎそうな予感があります。【90】

それにしても、今回思ったのは、やはりデュジャックは古くなってもデュジャックだな、ということです。69年などはすっかり古酒となっていましたが、香りはデュジャック香がしっかり感じられました。また、93のモレなんて、まさに今飲み頃ですばらしい状態で、村名のレベルの高さも再認識しました。
一般にデュジャックは、若いうちから楽しめるワインだといわれますが、なかなか若いデュジャックでは今回のボトルたちのような妖艶さは感じられませんよね。というか、私はそもそも最近のデュジャック自体、全般にイマイチのように思っているのですが、自他共に認めるデュジャック好きのF木師匠いわく、最近のデュジャックがイマイチだというよりも、デュジャックのワインは全般に若いうちには本来の魅力が出にくいので、時間をおけばよくなるだろうとのこと。今93年が満開状態であることを思うと、98年あたりはその真価を測るためにはあと5年ぐらい待った方がいいのかもしれません。一方で、デュジャックのワインは20年もキープできることは稀だと思うので、あのデュジャック香を本当に楽しめるスイートスポットというのは、リリース後10年から、長くて15年ぐらいの結構短い期間なのかもしれません。あ、いや、今回の69村名みたいな例外ももちろんありますけどね。

F木師匠、いつものことながら、ごちそうさまでした。またご一緒させてください>みなさま。