不定期更新コラム

たまにはワイン会の報告なぞ‥

RWG誌でもご一緒している「青葉台ニュース」のかもしださんより、 たまには豪勢なワインを持ち寄って究極の?ワイン会でもやろうというお誘いがあった。かもしださんはイタリア出張で購入してきたルロワの97ミュジニーを持参してくださるとのこと。
多忙を理由に今年に入ってワイン会にまったく参加していなかった私だが、そういう趣旨(とワイン(^^;)であれば、なんとか融通をつけてでも参加したいところである。しかし問題は持参するボトルだ。価格面や希少さの面でルロワのミュジニーに匹敵するものは残念ながら我が家にはほとんどないし、あったとしもまだ飲むには若すぎるものばかりだ。
また、今回集まるのはワインのコンディションにはひときわ鋭敏な方たちなので、そういう場にワインビッドなどで仕入れたものも持参しにくい。
ということで、結局、ある程度のリスクを覚悟で、フランスで購入した古酒を持参することにした。

会場に選ばれたのは、都内でも有名なワインレストランのひとつである「タストヴァン青山」。ここは私も過去に何度か利用したことがあるが、最近経営陣が変わって、リアルワインガイドでご一緒させていただいている原深雪さんがシェフ・ソムリエールを務めている。そういう気安さもあって、原さんにはいろいろと便宜を図ってもらった。原さん、いろいろありがとうございました。

BBRブリュット
お店より。細かく勢いのある気泡。リンゴやカリンなどの果実味とナッティなフレーバー。コクのある味わいだが、しっかりした酸のおかげでとてもバランスのよい仕上がり。このところ安泡ばかり飲んでいたけれども、よくできたシャンパーニュというのはさすがに美味しいです。かけつけ一杯、と言う感じでいただくのはもったいなかったかも。


料理は6000円からのコースもあったが、ここはひとつアラカルトで、ということで、それぞれ前菜、魚料理、肉料理とチョイスした。 まずは前菜のカルパッチョに合わせて、白を抜栓。

モンラッシェ94(ヴェルジェ)
のへさんより。ヴェルジェのモンラッシェはバタール・モンラッシェとともにかって同ネゴシアンのフラッグシップだったが、この94年を最後にリリースされなくなった。ブドウの供給元はブシャールというウワサ。最初かなりスルリとした印象で、おや?と思わせたが、時間とともに開いて、厚みをましてきた。黄色い果実に加えて、バターやナッツ、ミネラルなどの心地よい香り。94ということもあるのか、圧倒的なものは感じないが、 中盤から余韻にかけての伸びやかさはさすがと思わせるものだった。この手のシャルドネはたっぷり時間をかけると別物のように開いてくる場合が多いが、今回は原さんのはからいでグラスをワインごとに用意してもらえたので、ゆっくり時間をかけて変化を愉しむことができた。【94】

さて、次は魚料理。他のワインはすべて赤だったので、どれから開けようかというのが悩ましかったが、一番優しい味わいになっていそうなものを開けようということになった。まあ、魚料理といっても、帆立貝とポテトのグラタン風の料理だったし、前に開けたモンラッシェもグラスにたっぷり残っていたので、それほど料理とのマッチングに神経質にならなかったというのが実情であるが‥。

Ch.ピションラランド53
私の持ち込みは、4年前のフランス旅行の際、マドレーヌ広場のニコラで購入した53ラランド。ハンドキャリーで相当に気を使って持ち帰り、帰国後は自宅のロングフレッシュの中で全くといってよいほど動かすことのなかったボトルだ。この日のために1週間前に店に預けたのだが、その際は念には念を入れて、自宅から店までパニエに入れたままタクシーで運搬した。
キャップシールにニコラのロゴが入っているところをみると、当時は元詰めでなく、ニコラで瓶詰めしていたのだろうか?いずれにせよ51年経過したボトルである。コルクはかなりボロボロで、リコルクはしていなそうな雰囲気。ソムリーエルの原さんの手腕を以ってしても、最下部5ミリほどがちぎれてしまった。
スペアのボトルを持参しなかったので、 死んでたらどうしよう と思っていたが、これが思いのほか良い熟成を遂げていて驚いた。赤々としたしっかりした色調。香りはリキュール状の黒い果実やスーボワに加えて、バラやファンデーションのようななんとも心地よいニュアンスがまざる。なにより香りの輪郭がダレておらずクッキリしているのがすばらしい。口に含むと、若々しいというのはオーバーにせよ、少なくとも50年経っているとは思えないようなしっかりした味わいがあり、リキュール的な果実味の中にタンニンがきれいに溶け込んで、なんともクリーンで透明感のある味わいになっている。まさに長い年月にしか可能にならないような、一切の角が研ぎ澄まされた味わいとでも言ったらよいのか。国内でも航空便とか蔵出し直輸入とかによる古酒を飲む機会はあるが、ここまでコンディションのよいものは稀有といってよいだろう。味わい、コンディションなど総合すると、私が過去に飲んだボルドーでもおそらく3指に入るボトル。後生大事に扱ってきた甲斐があった。
【97】

次は鴨のローストにあわせて‥

ミュジニー97(ドメーヌ・ルロワ)
本日のメインイベントは、かもしださんの欧州土産のミュジニー。出張の折に購入したものとのことで、97年とまだ若いこともあり、本来ならもっと寝かせた方がよいのかもしれないが、我々のために惜しげもなく振るまってくれるということでありがたくお相伴に預かることにした。ドメーヌ・ルロワの所有するミュジニーの畑は0.27ha、その年産は600本前後。希少さもさることながら、見かけたとしても国内の流通価格は10万円超。大げさでなく、この先、一生の中で、再び飲む機会があるかどうかという銘柄である。

濃厚なルビーの色調(暗くてエッジはわからず)。香りは最初かなり還元的な赤身肉やスパイスなどが中心だったが、時間とともに鮮烈な赤い果実やオレンジの皮、ミネラルなどがグンと張り出してくる。 味わいはルロワらしい、純度の高い果実味がすさまじいばかりの凝縮感をもって口の中に広がる。バランス的には現時点では酸がかなり強めに感じられるが、この酸がなんというか層をなして波打つように押し寄せてくるような印象で、かって味わったことのないような味覚体験だった。タンニンは豊かだが、いうまでもなく緻密に仕立てられており、今の時点ですでに飲めてしまう懐の広さがある。とにかく各要素の厚みと力強さ、表情の豊かさがすばらしく、フィニッシュはきちんと統制のとれたオーケストラのフィナーレのごとくであり、その点、まるでバッハの無伴奏ソナタのような53ピションラランドとは対照的だ。香りにせよ味わいにせよ、まだ全貌を現しているといは言い難い面もあるが、現時点でもその壮麗なまでの実力は十分に堪能できた。
【97】

最後の赤は、食後のよく熟成したウオッシュチーズとともに‥。

アラウホ99
Andyさん持ち込みのアラウホはドメーヌのメーリングリストから購入しているというもの。さすがに上記の2本の後では辛かろうと思ったのだが、これがまた全然見劣りしていなかったからさすがだ。まだ若々しい濃厚なルビーの色調。香りはカシスやブラックベリー、ロースト、ココナッツなどに混じって、若々しいハーブの青い香り。一見青さを感じる香りに不安がよぎったが、それは杞憂に終わった。味わいはまさに完熟というべきもので、厚みのある果実味を質感のあるタンニンと心地よく伸びやかな酸が支える完璧なバランス。一部のカリカベのようなドロリとした凝縮感こそないが、非常に精妙にバランスのとれた酒躯と後半からフィニッシュにかけてひっかかるところのないクリーンな味わいとがすばらしく、余韻の長さも特筆もの。いわゆる「フィネス」を感じるワイン。若いながらも実にエレガントに仕上がっていて、上記2本とは全く異なるベクトルの、これまた最高峰の味わいを見せてくれた。
【96】

デザートワインは、のへさんからの二本目。

アマーヴィレ90demi(クインタレッリ)
イタリアの珍しいデザートワイン。セパージュは「いろいろな土着品種」だとか。美しいアンバーの色調で、アンズや乾燥プルーン、キャラメル、それに独特のユーカリっぽいニュアンス。純度が高くベッタリしていない甘みと、それを支える豊かな酸により、甘くてキレのある、メリハリのある味わいになっている。とても表情の豊かなデザートワイン。なかなか自分で買おうと思わないような銘柄だが、飲んでみるとそのすばらしさにうっとりさせられる。いやいや貴重な体験でした。【95】

最後はエスプレッソで締めて、4時間に亘る宴は終了。タストヴァンは前日の金曜日は相当混んでいたらしいが、この日は空いていて、ゆっくりゆったりと料理とワインを楽しむことができた。
それにしても今回のワイン会は自分にとっても滅多にない体験だった。ラインアップだけを見れば、もっとスゴイ会というのもあるかもしれないが、今回なにより印象的だったのは、持ち寄られたボトルたちのコンディションのよさだ。
かもしださんや私が持参したものは欧州よりハンドキャリーで持ち帰ったもの、Andyさんのボトルもドメーヌより直送されたものということで、正直なところ、国内で流通しているものとは一線を画する状態のよさだったし、 のへさんが持参された2本も全く問題のないものだった。 あちこちで書いているように、私は別に偏執的にワインの状態にこだわっているわけではないし、現地のボトルをことさら礼賛するつもりもない。国内の業者さんの中にもワインの品質維持にひとかたならぬ努力を払っている方々がいることも存じ上げている。それでも今回のようなすばらしいボトルたちに出会ってしまうと、やっぱり自分が購入するワインについては、現地からのハンドキャリーとか、直輸入とか、そうしたルートを開拓したいという欲求にかられてしまう。

最後にお勘定だが、ワインの持ち込み料(1000円)を含めて、一人12000円弱。総じてレベルの高かった料理と、コースでなく、あえてアラカルトで頼んだことを思えば十分リーズナブルだったといえるだろう。
この店、駅からのアクセスがやや不便なのが難点だが、渋谷からタクシーで1メーターの距離だし、そもそも我が家からタクシーを使っても1500円程度でおさまる近さ。今後も頻繁に利用したい店だと再認識した次第。

ということで、 また、5年後ぐらいに今回のような会をやりましょう、ということになった。次回には何を用意しようか、何を飲ませてもらえるのか、今から楽しみであるが、反面、これから5年の間に起こるであろうことをいろいろ思うと、ずいぶん先の話だなあ、とも思う。まずはなにより、5年後にもワインを楽しめるような健康な体でいたいものだ。

(04.9.17)