不定期更新コラム

2000ボルドー購入タクティクス?

「2000年のボルドーの評判がいいみたいだね。」

「うん。最初の頃は、評論家たちが高得点を連発してるのを目の当たりにしても、どうせ2000年というミレニアムビンテージに対するご祝儀だろ、なんて冷めた意見が多かったけど、実物のボトルが市場に出回り始めるにつれて、本当にいいらしい、という声が優勢になりつつあるね。」

「ワインスペクター誌は、ビンテージ評価として、99点をつけているようだし、ワイン・アドヴォケイト誌でも33銘柄を「Legendary」、144銘柄を「Outstanding」と、例年にないほど多くの銘柄に高評価を与えてるね。単なるこけおどしではなく、真剣に61年や82年、90年に迫る(もしくは匹敵する)ビンテージだと思っていいんだろうか。」

「WA誌といえば、R・パーカー氏は、2000ビンテージの3度目のテイスティングレポートで、シュバルブランの点数を、98+に下げた。下げたといっても、それまでの2回の評価は98-100という風に幅を持たせていたわけだから、厳密には下がったことにはならないけど、マルゴーやラフィットが、それぞれ100点にアップしたのに、『ワイン・オブ・ザ・ビンテージの有力候補』とまで言っていたシュバルブランが下がったのは意外だった。」

「そうそう、実は僕も1本プリムールで買ってるんで、なんだかなあ、と思ったよ。なにせプリムールのシュバルブランの価格は他の5大シャトーより断然高価だったからね。」

「ところが、その後パーカー氏は、自身のBBSで、シュバルブランのことを激賞しているそうだ。」

「ほう?どんな風に?」

「曰く、3度目の評価を載せた#146号では、シュバルブランの『エアレーションテスト』が間に合わなかったのだが、その後到着したボトルを改めてテイスティングしてみると、抜栓して3日たって、実に見事な味わいになった。146号ではあまりに寡黙に閉じこんでしまっているので、あのような点数になったが、これはやはり疑いなく、過去25年間で最高のシュバルだ、というような内容だったかな。」

「ふ〜ん。過去25年ということは、82年や90年も含めて、と暗に示唆しているんだろうね。購入した立場から言えば、嬉しいことだけど、反面、それって飲み頃まで途方もなく時間がかかるということなのかな?」


「そこが難しいところだね。」

「2000年モノを今購入して、10年から20年待つリスクや保管費用を考えると、今買うのが賢い選択かどうかは悩ましいところだと思わない?冷蔵庫型セラーの耐用年数は7〜8年だと聞いているし、これから先20年で大地震が起こってすべてがパーとならないとも限らない。そもそも20年後にワインを飲める健康体でいるって保証はどこにもないもんねえ。」


「それを言うなら、まずこの夏の電力不足を心配しなさいって。(笑)
まあ、必ずしも20年も待つ必要はないんじゃない?飲み頃というのは、ひどく一般化された概念で、まだ若いタンニンをたっぷり残した味わいを好む人もいれば、下りかけて骸骨のようになりかけたものを好む人もいる。ちなみに僕は早飲みが好みということもあるけど、ここ2〜3年で飲んだ90年の5大シャトーなどは、どれも美味しく飲めたよ。君が買った2000年のシュバルについては、20年後にまさに飲み頃を迎えていて美味しく飲めそうだということは言えそうだけど、20年後まで「飲めない」とか「飲んではいけない」というものではないよ。」

「でも、1級シャトーなどを早く開けたら、ちょうど閉じている時期でちっとも楽しめなかった、って話はよく聞くけど?」


「確かに、長熟ビンテージのボルドーについては、リリース後フレッシュな果実味が失われて、熟成感が出てくるまでの間、ウンともスンとも言わないぐらい閉じてしまう事例はよくあるね。以前飲んだ82年や86年のムートンなどはまさにそうだった。2000年についても、酸、タンニンのバックボーンがしっかりしているようなので、しばらくすると閉じてきそうだね。そういう意味では、一番もったいないのは、今購入したはいいが、結局セラーがいっぱいになったりして1〜2年後に開けてしまうパターンだろうね。」

「ということは、いずれにしても、慌てて買う必要もない、ということだよよね?ブルゴーニュと違って、リリース直後に買わないと市場からなくなってしまうというわけではないし、昨今の経済環境では、今買わないとすぐに大幅に値上がりしてしまうということはなさそうだし。それになにより今の価格は高すぎると思わない?」


「う〜ん、たしかに1級シャトーに4万円近いプライスがついているのを見ると、どうかなあと思ってしまうけど、中堅どころのシャトーなどは品質を考えればわりとお買い得のものが多いんじゃないかな。たとえば、Ch.ラグランジュが4000〜5000円前後、Ch.プリューレリシーヌが4000円前後という価格は、96年のリリース時とほぼ同等。99年と比べると、3〜5割増だけど、出来の違いを考えれば納得感がある。グリュオラローズやレオヴィルポワフィレなんかも高評価のわりにまだまだリーズナブルな値段だよね。このあたりの銘柄が、これ以上待っていて安くなるかというと、どうかなという気もする。」

「その1級銘柄はどうだろう?プリムールは、2万円前半だったけど、その水準まで下がることはあるんだろうか?」


「現在の相場は、ムートンやマルゴー、ラトゥールが3万5千円〜4万円、ラフィットだけがなぜか安くて3万3〜5千円ぐらいで出回っている。その位の価格でもそこそこ売れているようだし、売り手も価格維持のためか、小出しにしか出してこない。ドタ勘で言うと、おそらくセールなどと称して、3万円そこそこ、瞬間風速的に29800円とか、あるいは28000円ぐらいの値がつくこともあるかもしれないが、もう一歩踏み込んだ値下がりはあまり期待できないのではないかな。」

「その根拠は?」

「いや、だからドタ勘だって。ただ、僕はリリース直後からRP100点銘柄の96ラフィットが欲しくてずっとプライスをウオッチングしているんだけど、96ラフィットの最安値が3万弱ぐらい。これって、リリース直後も今も変わらないんだよね。というか、リリース後一時ぐっと値上がりしたのが、最近値下がりして元の水準に戻ったというところかな。96ラスカーズについても同様で、1万円台後半から一時3万円近くに値上がりして、最近また2万円を切る価格で市場に出てきている。良年のマルゴーなんかは、3万円を切る価格ではなかなかでないしね。」

「そういう意味では、今某所で出てるラフィットの32800円、ラスカズの16900円という価格は妥当なのかな?」

「まあ、少なくとも今の相場から見れば、悪くない線だと思うよ。もちろんマクロ経済レベルでデフレが進行して、ワイン市場全体の相場がぐっと下がれば話は別だけどね。実は僕もどこかのタイミングで一本ずつ買おうかなと思っている。(笑)」

「買っても当分飲めないのに?(笑)」


「シュバルをプリムールで買ってる君に言われたくないね。(笑)まあ、なんだな。ワインの喜びには、飲む喜び以外に、集める喜び、所有する喜びっていうのもあるじゃない?僕はコレクターではないけど、やはり記念のビンテージのものは何本か持っていたい、という素直な欲求があるんだよね。まあ、ワールドカップの記念コインのようなものだよ(笑)」

「他にはどの辺の銘柄を買おうと思ってるの?」


「自家消費用としては、前にも言ったとおり、Ch.ラグランジュやCh.プリューレリシーヌなどは比較的安くて玉数も多いので、買っておきたいと思う。こういう銘柄をケース買いして毎年飲んでるとワインの熟成の仕方がよくわかって楽しいのだろうけど、マンション住まいの我が家にはそんな保管スペースはないから夢物語だな。」

「僕が目をつけているのは、近年復調著しいACマルゴーの各銘柄。ブラーヌカントナック、デュルフォールヴィヴァン、ラスコンブ、ローザンガシーなどはまだまだ品質に対して価格は抑えられているらしいので買い得かも。あと、右岸はラランド・ポムロールとかコート・ド・カスティヨンといった、マイナーな地区から安くて美味しいワインが続々とリリースされているし、伝統的なシャトーからも新興勢力に対抗してすばらしいワインがリリースされているようだね。」

「いずれにしても、5000円以下で相当いいものを買えるという意味では、新世界を含めた他地域と比べても2000ボルドーの価格競争力は非常に高いと思うね。」

「残る問題は夏のボーナスの額だけだね。」


「それが最大の難問だったりするんだけどね。」

(2003.5.28)