不定期更新コラム

疑惑?のビンテージ。

先日、ひさしぶりに松原の「フルール・ド・プリムール」に伺った際、アルマン・ルソーの76クロ・ド・ラ・ロッシュを持参したのだが、残念ながらこのボトル、ほとんど枯れ果てる寸前のような状態だった。

もともと一万円チョイという大胆なプライスが暗示していたとおり、液面も相当下がっていたし、「買う場合は自己責任」的なニュアンスが強かったものなので、この結果について、恨み言を言うつもりは全くない。

それに、このボトルって、そもそも不利な要因がいくつか重なっていたのだ。

1.いかんせん25年前のブルゴーニュである。ちょっとしたボトル差や若いときにおかれた環境の違いが大きな差となって現われるだろうということ。

2.それでなくとも70年代の A・ルソーは、不調をかこっていた時期で、酒質自体が弱かった可能性は否定できない。

2.グランクリュとはいえ、ルソーの誇る上位3銘柄(シャンベルタン、シャンベルタン・クロドベーズ、クロ・サンジャック)ほどには長期熟成能力を持ってはいなかっただろうということ。先だって某所で飲ませていただいた89シャルム・シャンベルタンもまさしく今がピークというような味わいだった。

3.マディラ化してなかったことを思うと、それほど酷い環境ではなかったのかもしれないが、これだけ液面が下がっていたということは、少なくともベストな状態で保存されていなかっただろうということ。

4.タクシーを使用したとはいえ、当日ハンドキャリーのハンデがあった。

5.(このボトルに限らず)76年って、ブルゴーニュのビンテージでは78年とともに70年代を代表する良年のように言われているけれども、実際はそれほどよくないのではないかという疑問。

特に5番目の疑念が捨てきれなかったので、数日後に家のセラーにあった 「76クロ・ド・タール」を開けてみた。

ところが こいつは予想に反してすばらしかったのだ。

アルコールは弱めになっているのだけど、 甘く濃縮されたリキュールのような果実味が残っていて、古酒によく見られる醤油っぽいフレーバーや麦わら、枯草のようなフレーバーもなく、とてもピュアな状態を保っている。
久しぶりに感動できる古酒に出会えた、という感じで、ワイン会にでも持参すればよかったと後悔したものだ。

それもそのはず、このボトルはフランスの信頼できる酒屋で購入してもらい、冬場に航空便で送られてきたものを、到着後8ヶ月間、ピクリとも動かさなかった(忘れていたともいう)ものなので、コンディション的には最上の部類。いわば例外的なものだと言ってよいだろう。

では、ここ数年で飲んだ76のブルゴーニュはどうだったろうと記録を見直してみると、印象に残っているものといえば、ワイン会で飲んだ蔵出しのヴォルネイ・プースドールぐらいのもの。他はことごとくハズレている。2度飲む機会のあったアンリ・ジャイエにしてもイマひとつのものだった。

繰り返しになるが、このぐらいの年代になると、ボトル差とかコンディションなどが大きくものを言うので、短絡的に76年が思ったほどよくないのではないか、と結論づけられないのは理解している。それでもやっぱり、76年のブルゴーニュって‥‥、という疑念を捨てきれないでいる私である。

考えてみれば、各ワイン誌でも、樽の中にある時と、リリース後の試飲は行われているが、10年後20年後の経過まで追いかけているところは少ない。リリース時に評した点数が、はるかな熟成を経た後の姿にまで通用するものなのだろうか。
この点については、さすが一流ジャーナリズムの評価だけあって、概ねその通りになっていると思う。
ただ、 なかには、期待どおりに成長していない年とか、予想以上によくなっている年もあるのではないか。
個人的に、世間の評価との間にギャップを感じているのは以下のような年だ。

◆88年のボルドー、ブルゴーニュ赤
どちらも良いビンテージと言われているが、どうも綺麗に熟成しないというか、バランスの悪いものが多いように思われる。少し前にDRCの蔵出しが出回ったが、これってドメーヌでもその将来性を見限ったのではないか、なんてうがった見方もしたくなる。ブル白は結構いいものにあたっているけれども‥。

◆93年のブルゴーニュ赤
最初凡年と言われていたところ、パーカーさんが、いやいいんじゃないか、と言ったために価格がつりあがったといういわくつきの年。でも、最近飲んでもあまりあたった経験がない。そう思って、WAの最新のビンテージチャートを見返してみると、なんと70点台ではないか。いつのまにか下方修正したのだろうか。それとも、もともとこんなものだったのか?
(余談だが、ビンテージの100点評価って、ピンとこないのは私だけだろうか…)

◆95年のボルドー、ブルゴーニュ赤
良年の誉れ高い年だが、私はあまりこれぞというものに当たったためしがない。まあ、まだ飲むには早いものが多いし、閉じている時期なのかな、と自分で自分を納得させている。はてさて、今後どのように成長することやら。

◆83年のブルゴーニュ
腐敗病と天候不順とで、今や悲惨な年といわれている83年だが、リリース直後は良年といわれていたらしい。もっとも、この年のブルって、たまに驚くほどいいものにあたるので、私の中ではいまだに評価が定まらない年だ‥。

◆91年のブルゴーニュ
こちらは良い方のギャップ。ボルドーの悲惨な評価のため、実力以上に過小評価されているキライがあるが、結構美味しく熟成しているものがあると思う。もっとも小型の収穫年のせいか、今や市場ではなかなかお目にかかれないが‥。

◆97年のボルドー
早期に熟成しそうなチャーミングなビンテージと言われてきたが、チャーミングというよりは、構造に乏しくがっかりさせられる年だと思う。99年についても97年と同傾向のように言われることがあるようだが、個人的には99年の方がよほどいいと感じている。

◆評判どおりの悲惨な年。
某所BBSでも話題になっていたが、90年代なら、ブルゴーニュ(赤)は94年、ボルドーは92年にとどめをさしたい。80年代だと、84年。これらの年は評判通り?ガッカリさせられることが多い。でも、こういう年に限って、DRC何本か買ったりしてるんだよなあ‥。80年代のブルゴーニュのオフビンテージといわれる80、82、86、87年あたりはそれほど悪いとは思わないが、熟成のポテンシャルということを考えると、どの年ももう飲んだほうがいいのではないかと思う。

◆では、近年最高の年は‥
やっぱり90年じゃないだろうか。 90年のブルゴーニュって構成要素が豊かでほんとにすばらしいと思う。ボルドーは酸度が低くデカダンな雰囲気がいい。89年もすばらしいが、90年に比べると熟成のペースが速いように思われる。ブルの85年やボルドーの82年については、あんまり飲んでないのでなんともいえない。誰か飲ませてください、DRCとかラトゥールとか…。 (^^;

(2002.8.23)