不定期更新コラム

ネットショップ再考(またまた長文)

2年前に、「ネットのワインショップ花盛り」というタイトルでコラムを書いたが、その後いろいろと思うことがあったので、今回、新たに、この件について書いてみたいと思う。(またまた長文でスミマセン)

楽天市場に出店しているワインショップの総数が、いつのまにか100店舗を越えていた。
実際、私も改めて数えてみたら、楽天のショップだけで20店のショップの利用経験があった。もちろん、楽天以外にも、多くのショップを利用させていただいている。

ネットのショップが増えれば、当然競争も熾烈になる。
楽天の検索システムなどは、残酷とすらいいたくなるほどわかりやすい仕組みになっていて、たとえば「ルロワ」と検索すれば、300件以上のヒットがあり、同一銘柄についての各ショップの値づけが一目瞭然となってしまう。

買い手にとっては、競争により価格が下がるのは嬉しいことだが、単に値段が安ければいいかといえば、そうとも言えないのがワインの難しさだ。

値段が安いということは、コストがかかっていないことであり、コストがかかっていないということは、流通や保管におけるケアが充分になされていない可能性が高い、ということでもある。
たとえ、5万円のワインが2万円で売られていたとしても、それが明らかに劣化した飲むに耐えないダメワインであれば、2万円捨てたのと一緒だ。

前回のコラムでも書いた通り、市場に出回っているワインのうち、ブショネだけでも5%ぐらいは覚悟せねばならないところにもってきて、熱劣化したワインなども含めれば、下手すると全体の2割以上のワインが健全でない状態で流通しているのではないかと私は疑っている。
(数字にさしたる根拠はないが‥)
ブショネは店レベルでは防ぎようがないにしても、熱による劣化については、保管とインポーターの選別をしっかりやっているショップであれば、出くわす頻度はずいぶんと違ってくる。
したがって、ネットに限らずショップの選別は非常に重要な事項である。

また、ネットでのショップとのやりとりは、お互い顔をつきあわせることもなく、声を聞くこともなく、大抵の場合、メールのやりとりだけで完結してしまう。
これは注文する側にとっては気楽なことだけれども、同時に売り手にとっても「気楽」だということを意味する。

ちょっとシニカルな視点でみれば、入荷したボトルの中で、ボトルキャップが回らないものとか、液面が低いとか、そういう見た目の状態の悪そうなものを意図的にネット販売に回すというショップがあったとしても私は驚かないし、売れ残った商品をいっぱひとからげにして、「福袋」と称して売ることだってできる。うがった見方をすれば、ネット販売というのは、店側にとってはそういう風に「便利に」利用することもできるということだ。

したがって、我々がネットを通じて購入する場合、それぞれのショップがどのような「ネット販売に対する姿勢」や「品質管理に対する姿勢」を以って臨んでいるかを見極めることが肝要だ。 ところが、 ネット通販では、そのための手っ取り早い方法である「店側とフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーション」が容易にできない。これこそがネット通販の最大のリスクだろう。

以下、もうちょっと具体的な事例を挙げてみたいと思う。

◆ボトルを事前に確認できないリスク

繰り返しになるが、通販の場合、事前にワインボトルの状態を確認できないというのがアキレス腱だ。
外観から判断できるワインの状態なんていうのは、些細な情報量でしかないし、それらについては当然問題ないものが送られて来ることを我々は期待しているのだけど、残念ながら、(キャップシールが回る回らないぐらいはまだしも)コルクがポコンと盛り上がっているとか、明らかに噴いた跡があるとか、液面が下がっているとか、そういうボトルを平気で送りつけてくる酒屋もなかにはあるのが実情だ。
かって地方の某ショップで89ムートンが比較的安価(といっても絶対額としては結構なものである)で出ているのをたまたま見つけて購入してみたが、送られてきた現物は、聞いたことのない輸入元のもので、案の定キャップシールも回らなかった。このボトルについてはまだ飲んでいないので、最終的な損得勘定についてはなんともいえない。しかし、そんな心配をしながら鬱々と過ごさねばならないぐらいなら、何千円か高くても最初から信頼できるショップで購入しておけばよかったのだ。
このような轍を踏みたくなければ 、見知らぬネットショップでいきなり高価なワインを買わない、購入するときには、品質管理に気を配っている旨が表記されているショップを選ぶ、周囲の評判を聞いてみる、など、まずは慎重を期すことだろう。
やむをえず一見のショップで高価なワインを購入するときには、事前に状態やインポーターについて、メールや電話で確認するなどするとよいかもしれない。そして、そういう質問に答えてくれないようなショップからは買ってはいけない、ということだ。


◆梱包はきちんとされてるか?

たとえば、注文した商品が送られてこないとか、間違った商品が送られてくるとか、納期を守らないとか、そういったきわめてベーシックなレベルで問題がある店は論外だけど、これらの点については、各店とも信用に直結することゆえ、私自身、今までこの種のトラブルに出会ったことはほとんどない。
では、さらに一歩踏み込んだ視点で見てみよう。
たとえば、 送られてきたワインの梱包への気配りはどうか。 一本一本丁寧に紙やセロファンで包んであるとか、メッセージカードが入っているとか、そういう店は、店側の意気込みや心配りが感じられるし、後々のやりとりも安心できようというものだが、 そこまでせずとも、ワインが割れたり、揺すられたりしないようきちんと梱包がされているかどうか。
こうした配慮すら出来ていないショップが意外にあるのには閉口する。
ネット販売に対する姿勢って、意外とこういう細かいところに現われるものだ。

◆コンディションに対する考え方

ワインのコンディションについては、人によってどこまでを劣化と感じるかの「閾値」の違いがあって話を難しくしている。
ショップが厳しい品質管理をしていて、客側が無頓着であればなんの問題もないのだろうけれど、残念ながら、世の中にはその逆の事例も多い。
実際、私なぞもコンディションには敏感な方なので、ショップにとっては「嫌な客」扱いされそうであるが、実際は、ある程度の比率で劣化したワインに出くわすのは仕方ないとあきらめているので、店にクレームをつけるようなことは滅多にない。

しかし、そんな私でも、楽天のとある有名なショップで購入したボトル9本のうち、なんと6本が(私の基準からみれば)劣化したボトルだったのには、さすがにキレた。
6本目のときには、我慢できずにボトルを店まで持参して(そのショップは私の家から比較的近かった)、「飲んでみてくれ。」と言ったら、店主は平気な顔で「大丈夫。こんなモンですよ。」と答えたものだ。
たぶん、この店主には悪気は全然無かったのだろう。ただ、ワインの状態に関する許容度が私とはあまりに違いすぎるだけなのだ。それまでは、調味料や雑貨などの陳列棚の隙間に雑然とボトルが詰め込まれた店内を見ても、「いやいや、セラーは別にあると聞いているし。」と、贔屓目に見てきたが、ここに至って初めて私は、「この店からはもう買ってはいけないな。」と理解した。

◆火のないところには…

「人の口に戸は立てられない」とはよく言ったもので、この店に限らず、状態管理に問題のあるショップは、仲間うちの評判や、某所の掲示板などでしばしば名前が挙がっている。
ネットの発達は、情報の伝達速度と共有を飛躍的に拡大させた。とくに、口コミ情報、のようなものについては、劇的に情報量が増えた。
中には中傷的なものやガセネタなどもあり、情報の精度の確認と適切な取捨選択というのが大きな課題となる一方で、私個人の経験から言わせていただけば、よくない評判のたっているワインショップは、本当に良くない場合が多い。(笑)
なので、最近私は、評判の悪いショップからは、どんなに安くても買わないことにしている。

◆百鬼夜行のメルマガ

ショップからのメルマガはまさに百花繚乱という感じで、毎日のようにいろいろなショップから送られて来るが、不当表示的なものやモラル的に問題がある事例も結構見受けられる。

「○○個限定!これを逃すともう入手はできません」などと売りあおっておきながら、1ヶ月後には、「お客様のご要望にこたえて○○個再入荷しました」と平然と言ってのけるショップ。

「パーカーポイント○○点!」というような告知につられてアクセスしてみると実はビンテージ違いで、よく読まないと気付かずに買ってしまいそうなまぎわらわしい表示をしているショップ。

はたまた、「蔵出しで状態が最高」「ウチは他店とは違います。」みたいなことを声高に謳って、バカ高い値段を正当化するショップ。

さらに、オススメのワインについてのくだりを読んでみて欲しい。
パーカーの本を引用しているだけの店が多いが、本当にオススメの銘柄であれば、 メルマガに店長の日記だの雑感だの書く以前に、 自ら飲んで自らの言葉でワインの感想を記して欲しいものだと思う。
また、一見 自分のところで書いているように見えても、なんとなく他の店で読んだのとおんなじ説明文だったりすることがありませんか。これってたぶんインポーターの紹介を丸写しにしているか、よその紹介文を安易にカット&ペーストしているのだろうけど、それを読者に看破されるようでは、あまりに芸がなさすぎるというものだ。

さて、このようにして何度か痛い目に遭いながら、信頼できるショップに出会えたとしても、まだまだリスクは残っているのだ。


◆アフターケアーの難しさ

ショップが遠方の場合、開けてみたらブショネだったとしても、それを申告して、現物を送り返して、などとやりとりするのは煩雑きわまりない。まして熱劣化の場合は、日にちが経ってしまったら、クレームは難しいだろう。


◆配送時のリスク

残念ながら、配送のリスクは小さくないのが実情だ。
・冬以外の季節に配送することによる熱を浴びるリスク
・ クール便による急激な温度変化のリスク
・ 遠距離輸送の振動による熟成促進のリスク
などに加えて、「宅配業者の劣悪なサービス」という人為的なリスクが無視できない。
ことに、○リカン便のルーズさには、私も何度も泣かされている。
・在宅しているのに、1階のポストに不在連絡票だけ入れて帰ってしまう(このため、私が注文していた90ダニエルリオンは初夏のポカポカした陽気の中、一日中トラックの荷台で揺られることになった)。
・夜着を指定したのに関わらず、まっ昼間に持ってくる。
・クール便扱いなのに、明らかに冷蔵庫から出して野ざらしのような状態で放置された形跡がある
などなど、私以外でも被害にあっている人は少なくないようだ。

◆送料、手数料などの負担増。

今更ながらのことだけど、通販で購入すれば、送料がかかるだけでなく、代引き手数料や振込み手数料、夏場であればクール便の費用などが別途かかる。これらを合算してゆくと、往々にして近所の酒屋の方が安かったなんてこともある。
ちなみに、 どうせ手数料や送料がかかるのならば、まとめて購入した方が得だと、ついつい一度にたくさん買い込みすぎて、セラーに入りきらなくなる、というのが私の陥りやすいパターンである。

◆ なんのかんの言っても‥

などなど、ネットで購入することに関してネガティブなことばかり書き連ねてきたが、かくいう私自身、今やネットなしのワインライフは考えられないぐらい、ネット通販は必需品になっているのだ。

何が良いかといえば、 まずなんといっても、選択の幅が広まったことだ。

ある特定の銘柄を探したいと思いたったとき、以前は最寄のショップに注文するか、受動的に送られてくるダイレクトメールのリストの中から探すだけだったのが、今や探したいワインをヤフーや楽天で検索をかければ、日本全国のショップのリストの中から探し出すことができる。「ワイン探し」がぐっと能動的かつ効率的になったといってよいだろう。この便利さはなにものにも代えがたい。

それに店舗まで行く手間が省けることも多忙な身にとってはありがたい。
そもそもワインって、野菜や果物のように商品そのものを見て鮮度を確認できるものでもないし、目玉商品は入荷してすぐに売りきれてしまうし、どのみち保存に気を使っている酒屋は大事な商品はカーブにしまいこんであったりする、 なんてことを思うと、ある程度ショップとの間に信頼関係ができていれば、実店舗に行かなければならない必然性ってあんまりない。おまけに店舗に行った場合も、何本も買えば結局配送してもらうことになる。だったら最初からネットで注文、というのは合理的な発想だ。
もっともなじみの店に行くことには、そうした合理性だけで説明できない楽しさもあるのだけれども。

メルマガについてもいろいろ書いたけど、私自身は概ね楽しく読ませてもらっている。とくに、日ごろ自分の興味のない分野については、メルマガから仕入れる情報というのがなかなか貴重だったりする。郵送のDMと違って、ネット上で注文まで完結してしまうのは便利この上ない。ただ、便利すぎるのと、 メルマガの美辞麗句につられて、ついつい買いすぎてしまうのは困りものだ。

それにしても、数年前には考えられなかったことだけど、今やネットで購入することは珍しくもなんともない時代になった。
これからのネット通販は、選別の時代に入ったといえるだろう。悪質な店やは淘汰されてゆくべきだし、良い店はもっと支持を得るべきだ。
このHP上でダメな店を具体的に名指しで挙げることは、小心者の私にはできないけれども、たとえば、「こんなワイン飲んだ」や「こんなワイン買った」を時系列で見てみてほしい。HP開設当初はよく登場したが最近登場しなくなった、というのは、私にとって「ダメな店」。逆に最近よく購入しているところは「良いと思っている店」ということだ。

考えてみれば、近畿だの中国四国だの北海道だののショップから購入するなんていうことは、ネットの普及がなければ考えられなかったことだ。中には劣悪なショップもあるけれども、地方の熱心で真摯なショップの人たちと出会える機会を持てたことはすばらしいことだと思うし、今までリスクとして書いてきたことも裏を返せばメリットになりうるということだ。

(2002.5.22)