超不定期更新コラム

セラーが故障した!!(前編)

それは穏やかに晴れた、金曜の正午頃のことだった。

大腸ポリープの切除後、2日間の有給休暇を取得していた私は、自宅のセラーからあふれはじめているワインたちを実家のセラーに移そうと、ドライブがてら、千歳烏山の実家へと向かった。

本来ならば、「家で安静にしていなければならない」のだけど、このうららかな陽気のもとで、2日間も家の中でうだうだしているのはあまりに退屈だし、なにより心底病人になってしまいそうで、精神衛生上よろしくない。
ということで、ちょっとした買い物や散歩ならOKといわれているのを拡大解釈して、実家まで足を伸ばすことにしたのだ。

実際、実家に着いたら着いたで、ソファに寝そべってテレビでも見ながら過ごすだけなので、往復のクルマの運転以外はほとんど負担にはないはずだった。


ところが、これが思いがけぬ、悲惨な一日の始まりだったのだ。


到着後、 母親とひととおり茶飲み話などして時間をつぶし、セラーのある自室へと向かう。自室といっても、家を出てずいぶん経つので、いまや物置である。

扉を開けてみて、おや?、と思った。

備え付けのデジタル計の温度表示が17度を指しているのだ。
おかしいな?
設定温度は13度にしてあるはずだ。扉を閉めた状態で、今まで15度までは上がっても16度以上になったことは一度もない。
現に、前週の日曜日(3月3日)にたまたま来たときには、ちゃんと14度だったのを確認している。

誰かがいじったのだろうか?
そう思って、母や弟に聞いてみたが、知らないという。

ここでなんとなく、イヤ〜な予感がし始めたが、最近の暖かな陽気のせいかもしれないと思い、とりあえず、設定温度を11度まで下げて様子を見ることにした。
何といっても、購入してまだ1年である。初期不良や経年劣化ならともかく、こういうタイミングで壊れたなんてハナシは聞いたことがない。


書き忘れたが、実家のセラーは、エレクトラックス社の「サイレントカーヴ」100本入りのタイプ。ほぼ1年前に、NOISYさんの「セラー半額」セールで購入したものだ。

今、私が住んでいるマンションは、スペースの関係で、「ロングフレッシュ」の30本入りセラーを置くのが精一杯である。
セラーに入りきれない分を寺田倉庫に預けてあったのだが、ひと箱、ふた箱と増えていくうちに、結構な数になってしまって、月々の支払いがバカにならなくなってきた。
それに、寺田倉庫に預けてしまうと、定期預金と同じで、ふと飲みたくなったときに、気軽に取りに行く、ということができない。まだ若く何年も熟成させねばならないワインの場合はむしろそれがよいのだけど、そうでないものについては、 一旦預けてしまうと不便きわまりない。

なので、これを機会にと、、半額になった旧型のサイレントカーヴを購入して、寺田倉庫に保管してあるうちの約半数を実家に収容することにしたのだ。

以来、約1年。昨年の夏は、エアコンのない南向きの部屋という悪環境にもかかわらず、きっちりと稼動してくれていた。


それが、である。

この日は1時間たっても、2時間たっても、温度計は、17度を指したままなのだ。 17度といえば、部屋の温度と大差ない。
ということは、やっぱり、セラーが冷えていないのではないか。

青くなって、しまいこんであった取り扱い説明書の「修理を依頼する前に」という項目をひとつひとつチェックしていくと、
「後ろのパイプの部分が熱くなっていない場合は電気系統の故障」
という一文が目に入った。

おそるおそる、後部のユニット部分を触ってみる。
熱いどころか、ひんやりとしている。

どっひゃ〜、 やっぱり、これは故障だ。 故障に違いない。

こうして、異常の発見から、2時間半後の3時半すぎになってやっとエレクトラックス・ジャパンに電話で修理の依頼をした私であった。

この後に続くドタバタの原因として、初動の遅れを指摘されれば返す言葉もない。しかし、この機種は、機械音や振動がないのを売り物にしているだけあって、こういう季節だと、故障かどうかもなかなかすぐに判別しずらいのである。

電話に出た担当者は、
「すぐサービスを手配します。のちほどサービスの担当者から電話を入れさせますので。」
とのこと。

ふう。とりあえず、一安心だ。

一息つくと、今度はさまざまなことが頭の中を駆け巡った。

前回来たのが3月3日。このときは正常に作動していた。とすると、セラーが壊れたのは、3月4日から8日までの間だろう。長くても、5日間だ。
とりあえずこの期間であれば、室内の気温が20度以上になったことは考えにくい。(私の部屋は暖房を使っていないので)
したがって、中のワインたちへの影響は軽微だろう。
なにはともあれ、壊れたのがこの時期だったのが不幸中の幸いだった。
いやいや、安心するのは早いぞ。
天気予報によれば、週末は4月下旬のポカポカ陽気になると言っていた。
とすると、中のワインたちをどこかへ避難させなければならないか。
いや、そもそもセラーの修理となれば、中のワインは全部出さねばならないのだろう。

とすると、またひとつ問題発生だ。

というのも、我が家は、知る人ぞ知る「エアコン大嫌い一家」(私だけは例外だが)なので、家の中でエアコンといえば、居間と和室についているだけなのだ。しかも、その和室が、こともあろうに、この日、「畳の張替え」の真っ最中なのだ。

うう、困った、置き場が無い。 いっそ、寺田倉庫に持っていってしまおうか、それとも友人宅、いや松原にでも一時預かってもらおうか。
いや、待て待て。冷静になろう。この季節なら、エアコンをきかせなくても、外の温度はせいぜい15度だ。玄関にでも置いておけばいいじゃないか。
う〜む、でも、虎の子の89リシュブールちゃんや90デュジャックちゃんたちを玄関に野ざらしにしておいて、本当に大丈夫だろうか。逆に夜温度が下がりすぎる、なんてことはないだろうか。

思案をめぐらせてるうちに刻々と時間だけが過ぎてゆく。
1時間たっても、連絡がないので、こちらからもう一度電話することにした。

私:
「すみません。先ほどセラーが故障したと電話したものですが。」

電話に出た女性:
「今、担当が席を外してまして。」

私:
「サービスの方から電話をいただけるとのことなんですが、連絡が来ないんですけど。」

女性:「お急ぎですか?」

私:「(って、あたりまえだろが!(^^;)セラーの中のワインが心配なので、早く見てもらいたいんです。 」
女性:「そうですか。 それではもう一度手配します。」


この電話のあと、母に頼まれて、和室の畳の張替え業者の作業に立ち会ったり、会社から別件の電話が入ったりして、わさわさと過ごしていたら、あっというまにまた1時間が経過してしまった。

こうなるとさすがに私も焦ってくる。

なにせ、今日は金曜日。しかも、もう5時すぎだ。このまま連絡がとれなかったら、すべてが週明けまでずれこんでしまう。
そもそも、連絡がとれたとしても、夕刻の今から修理に来てくれるものだろうか。
来てもその場ですぐ治るとは限らないし、また来ないなら来ないで、こちらも善後策を考えなければならない。
ワインはこの季節なのでなんとかしのげるにしても、こちらは土日はいろいろ予定が入っているし、ずっと実家に泊まるわけにもいかない。いろいろと予定を組みなおさなければならない。
これは一大事になるぞ。

ということで、もう一度催促の電話。今度は先ほどの担当の男性が出てきた。

担当者「サービスには連絡したんですけどねえ。すみません、もう一度確認します。 ところで、お客様は、いつ頃の修理がご希望でしょうか?」
私:「できるだけ早くお願いしたいんです。」
担当者: 「今日はもうサービスの者は動けないんですが…。」
私:「え?今日はダメなんですか?」
担当者:「はい。」
私:「じゃあ、明日は?」
担当者:「あいにく週末は営業しておりません。」
私:「今週末は暖かくなるらしいので、中のワインが心配なんですよ。中には高額なものもあるので。」
担当者:「中のワインの保管につきましては、お客様の責任ということになっています。」
私:「(だんだん頭に血が上ってくるのを抑えながら)いや、こちらの責任といっても、セラーが壊れているんですから…。」
担当者:「そういうときは、みなさま(って、そんなによく壊れるのか?)エアコンをかけて部屋ごと冷やしているようですよ。」
私:「(ここで怒っちゃダメだと自制しつつ、困り声で)うちはそういう部屋ないんですよ。困ったなあ、高価なワインも入っているんで、なんとかなりませんか。」
担当者:「とにかくサービスから電話を入れさせます。夜遅くなっても構いませんか。」
私:「構いません。なんとかお願いします。」

しかし、それからも待てども待てども、電話はかかってこない。

<つづく>


(02.3.9)