超不定期更新コラム

低温&温度変化実験

ちょっと前に掲示板で
「低温や急激な温度変化による劣化の可能性」
が話題になった。
言い出しっぺは私で、ワイン会用に81グランジを持参する際、事前に送っておくべきか、それとも当日持込みとするかについて、悩んでいたのだ。

通常、夏場でなければ、事前に送っておく方がベターなのは言うまでもない。輸送で舞った澱が落ち着くまでいくらか時間がかかるし、澱がなくとも、年代モノのワインはブランブランと揺すられた直後はワインの味わいに影響が出やすいからだ。

ところが、今年は梅雨入り前に温度が上昇した日があった。ちょうどワイン会の行われる前も、日中は気温が27度とかまで上昇していたので、それで悩むことになったのだ。

外気温が30度以下でも、クルマの中はエンジンを止めると、平気で40度ぐらいまで上昇する。なので通常便で送るのはリスキーだ。
となると、クール便で送らなければならないのだろうけど、そうすると今度は低温と急激な温度変化という別の懸念が出てくる。
加えてワイン会が行われた店はカジュアルフレンチの店なので、セラーがないときている。
したがって、事前にに送った場合、ワインは1週間かそこらで下記のような温度変化を経験することになる。

セラー(14度)→クール便持込み手続き(20〜25度前後)→クール便で輸送(3〜5度前後)→梱包をとく(作業にもよるが、20〜25度前後まで上がるか?)→冷蔵庫に保管(5度前後)→当日冷蔵庫から出す(20度前後)

掲示板の意見や、周囲のアドバイスをまとめると、見解は大きく二つに分かれたようだ。
「氷結するような低温や噴いてしまうような温度変化でなければ大丈夫じゃないか。」という説と、「いいや、低温環境では明らかに劣化する」という説だ。
どうしようかと悩んだ末、結局ワイン会には当日持っていくことにした。

どうも、「低温&温度変化」に抵抗感があったからだ。

これには実は私自身のトラウマのようなものがある。ワインを飲み始めたころ、当時デイリーワインで冷蔵庫に保管していたフェッツァーのメルローを、晩酌に飲もうと思って冷蔵庫から出し、やっぱりやめた、と翻意してまた冷蔵庫に入れ、次の日こそ飲もうと思って出したら今度は料理が合わなそうなので、また冷蔵庫に戻し、そんなこんなで3日目にようやく抜栓したら、明らかにおかしく感じられたという事件があったのである。
それに、人間だって、夏の暑い時期に、灼熱の太陽の下とクーラーの効いた室内との出入りを繰り返していると、あっというまにバテてしまうのは、営業マンなら誰でも経験がおありだろう。

さて、ワイン会当日、まーやんさんの持ちこみの「82ピションラランド」が事前に送られたものだということだったので、私は興味を以って飲んでみた。

すばらしい熟成状態なのだけど、わずかに、しかし明らかに、果実味がへこんでフラットになっている。その結果、後半のタンニンが目立ってしまう。このワインはおそらく状態が完璧だったら、過去最高点をつけたであろうと思うぐらいすばらしかっただけど、本当にそれだけが玉にキズだった。
同時に、私は「やっぱり!」と思った。
犯人はクール便と冷蔵庫による急激な温度変化ではあるまいか、と。
しかし、事はそう簡単ではない。
このワイン、そもそもまーやんさんが購入する以前に熱を浴びて、ダメージを受けていたのかもしれないからだ。

ということで、ここはひとつ、「論より証拠」。下記のような実験をしてみることにした。
実験台となったのは、正月にウメムラの「福袋」と称して1ケース送られてきた「エラスリス・ソーヴィニヨンブラン96」。
すでに1本飲んでいるが、状態はオッケーだったので、他のボトルもたぶん大丈夫だろう。大量生産されている銘柄だから、ボトル差もそれほどあるまい。加えてやや古い白、ということで状態にも敏感だろうし。などなど、我ながら、なかなか面白い実験台だと思った。値段も安いしね。

実験は以下のように行った。

「エラスリス」を2本用意。

1本目=冷蔵庫の野菜室に2週間保管。
2本目=冷蔵庫の野菜室に2週間保管。ただしこちらは一日一回冷蔵庫から出して常温になるまで放置し、その後また冷蔵庫に入れる、という作業を繰り返した。

3本目=セで保管

さて、注目の結果は…

<冷蔵庫に入れっぱなしだったボトル>
ボリューム感のある白桃や洋ナシっぽい果実香、甘いキャンディやグミ。味わいは、甘くふくらみのある果実味の第一印象。口中でややシャープなしっかりした酸が広がって、果実の蜜っぽい甘味とよくバランスされている。充分なボリューム感があってグラマラス。ブラインドでこれをSBと答えるのは難しそうだが、フィニッシュに感じる苦味からかろうじて、SBっぽい雰囲気を感じる。

<冷蔵庫から出し入れを繰り返したボトル>
トップノーズにちょっとじゃこうっぽい香りや猫のおしっこ臭がある。味わいはほとんど通常ボトルと変わらないが、果実のボリューム感がやや少ない気がする。
香りをかいで、「やっぱり違いが出ている!」と思ったのもつかの間、熟成香はすぐにめだたなくなり、味わいは正直言って、単体で飲んだら全く問題ない、というレベルに感じられた。

その後、温度の上昇にあわせて、およそ15分ごとに、今度はブラインドで両者を比べてみた。
結果は、3度とも、どちらがどちらののボトルかは判別できたが、その差は微小であった。
判別のポイントは、主に、
・ 「出し入れボトル」に感じる、かすかな熟成香。
・ 酸が、通常ボトルがビビッドに感じるのに比べて、出し入れボトルはやや溶け込んだ印象。
・ 但し、最初に感じた果実のボリュームは温度が上昇するとほとんど判別不能になった。

セラーで保存したボトル>
最後に、セラーに入れておいたボトルとの比較。温度が一定にならなかったので、一概には言えないが、 飲み比べた印象では冷蔵庫に保管したものとの差は感じられなかった。ということは、2週間程度の冷蔵庫での保存による影響はほとんどなかったということだ。

ここまでで得られた結果をまとめると、以下のようになる。
・ 冷蔵庫に2週間保存したボトルと常温のままのボトルの差はほとんどなかった。すなわち、2週間程度では、冷蔵庫保管による劣化は感じ取れなかった。

・ 冷蔵庫から出し入れを繰り返したボトルは、わずかに状態に変化が見られた。しかしそれは、「やや熟成が進んだか?」と思われる程度で、はっきりネガティブな印象ではなかった。


・ それに、上記の違いは、「ボトル差」である可能性も否定できないレベルだった。

この実験から、下記のことが言えそうだ。

・ 2週間程度の冷蔵庫保管(=低温保管)がワインに与える影響は微小だろうということ。
・ 低温と、常温との温度変化に関しては、ワインが凍ったり噴かない限りは、大きな影響はなさそうだということ。

今まで、クール便の使用を忌み嫌ってきた私であるが、とりあえず、噴かせさえしなければ、それほど神経質にならなくてもよいのかと思わせる今回の結果だった。

ちなみに、同じような実験、経験等された方いらっしゃいましたら、ぜひご意見ください。