超不定期更新コラム

5ポイントの向こう岸

別に開き直っているわけではないが、「こんなワイン飲んだ」でつけている私の評点は、客観性、公平性のあるものじゃなくて、あくまで主観的な満足度にすぎない。事実、飲んだ環境やそのときの気分によってすら変わって来るものだということは何度も書いてきた。

そんないいかげんなものでも、何度もワイン会などでご一緒してる方々などは私の嗜好をよくお分かりになっていて、最近は、「これはshuzさんとこでは92点ぐらいでしょ?」なんて言われたりして、参ってしまう。
何で参るって?
だって、ワインを持参した人などからそういわれると、それより悪い点をつけずらいでしょ?(^^;

それからもうひとつよく言われるのは、「最高点は95点なんですか?」ということだ。
たしかに今まで、ずいぶん多くのワインを飲んできたけど、最高点は86グランジやら82ムートンやら82シュバルブランやらにつけた95点に留まっている。

「グラスに顔を埋めたまま死んでもいい。」と思った時が100点、と公言している手前、パーカーさんと違って、そうそう簡単に100点をつけるわけにはいかない。とはいえ、これだけの数のワインのコメントを書いてきて、今まで95点までしかつけていないというのも、我ながらもったいぶってるものだなあ、と思う。

振り返れば、このサイトの前身となったワインのデータベースを作り始めたのは、98年のことだ。それ以来、かれこれ3年コメントを書きつづけていることになるわけだけど、そもそもデイリーワイン飲みの時期が長かった私にとって、ボルドー1級シャトーなどというものは当初は未知との遭遇だった。
したがって、この3年間というものは自分のワイン体験にとっては、まさに鳥人ブフカがちょっとずつ棒高跳びの世界記録を更新していくかのような、ブレークスルーの連続であったわけだ。
これもワイン会などですばらしいワインたちを惜しげもなくふるまってくれた多くの友人たちのおかげだと、その点に関しては感謝にたえないのだけど、このプロセスが、私の場合たぶんかなり急ピッチだったのだろう。

そうやって、自分の頭の中で、なんとなく品質と価格のマトリクスのようなものができてくる一方で、評価の基準である「満足度」に関しては、麻薬常習者のように、どんどん求める水準が高まってくるという副作用?に犯されている。そう、ブレークスルーが、めったなことでは起きなくなってきたのである。

例えば、初めて飲んだ1級シャトーは、78ムートンだったけど、当時は「1級シャトーを飲んだ」というだけで、舞い上がって、それだけでポイントも高くなった。
でも、その後3年間で、ムートンであれば82年や86年なども含めた80年以降の全ビンテージを、それも2回りぐらいは飲んでしまった。そうやって相場観のようなものがわかってくると、同じ78ムートンを飲んでも、当然初めて飲んだときのようなインパクトは感じなくなる。
(そういう意味で、たぶんこのサイトを作り始めたころに較べると、私の評点はより辛く、特に上値は重くなってきていると思う。)

これって、良く言えば、評価尺度が以前より定まってきたともいえるけど、悪く言えば、感動することに対して、鈍感になってきているとういことでもある。
これは、はたして喜んでいいことなのか、悲しむべきことなのか…。

一方で、いまだに自分にとっては「未体験ゾーン」のワインたちがたくさんあって、それらに対する憧憬のようなものがずっと私の中にある。
たとえば、相変わらずロマネコンティはビンテージにかかわらず飲んだことがないし、良年のペトリュスだとか、伝説の47シュバルブランだとか、45ムートンだとか、94ハーランエステートだとか、61ラトゥール・ア・ポムロールだとかといった、おそらく状態が健全で飲み頃をはずしさえしなければ、私のワイン体験にとってのブレークスルーになるであろうワインたち。
そんな憧れ銘柄の指定席として、なんとなくこの5点分が聖域というか、クッションというか、そういうエリアになっているともいえる。

しかし、最近は、こんなことでいいのか、と自分を戒めたい気持ちにもなる。

上にあげたような「夢のような」ワインたちでないと本当にブレークスルーを得られないのだろうか。
私のワインに対する評価尺度の眼鏡が、プライスと世間の評判による先入観で、どんよりと曇ってしまい、日常手にするワインたちの中にも隠れている感動の芽を摘み取ってはいまいか。
インフレ化する一方の我が家のワイン経費を思うにつけ、その思いを強くする。

毎食フランス料理ばかりで満腹状態が続いていれば、「ロオジェ」のフルコースを食してもそれほど感動は得られないだろう。でも、空腹のときであれば、定食屋の定食の味にも思いがけなく感動することがある。
(その定食の味が、客観的にどうなのかは、別にして…)
そういう意味では、私が95点以上つけたくなるのって、病気で数ヶ月禁酒したあとの久しぶりの一本とか、そんなシチュエーションかも、と思ったりもする。

3月あたりから毎週続いてきたワイン会の予定が、7月8月あたりになると一段落する。この時期には、ムリにワイン会の予定をいれずに、初心に返って、それほど高価でない身の回りのワインたちともう一度じっくりむきあってみようか、と思っている。