超不定期更新コラム

ヘッドスペースの不思議

先日、赤坂にある「メゾン・ド・ユーロン」に行ったときのこと。ここは中華の店ながら、ワインが豊富なことで有名で、一説にはそのストックは12000本とか。薦められるがままに73年のブルゴーニュを注文したところ、店主のS氏は「コルクが脆くなっているでしょうから…」と言って、圧力式のコルク抜きを使って抜栓してくれた。
まるでリボルバー式の拳銃のような、かなり大仰な形のそれは、どういう原理だか知らないけれど、、ワンアクションでコルクがスポンと抜けるのだ。ボトルのコルクは案の定かなりボロボロになっていたけど、最後のほんの少しがちぎれただけで、ほとんど問題なくきれいに抜くことができたのには驚いた。
こういうものがあることは以前から知っていたのだけど、古酒の抜栓にも有効だとは知らなかったのだ。

考えてみれば、ソムリエナイフというのは、ボトルの口にひっかけてテコの原理でコルクを抜くのだから、自然と力が片方向に集中しがちなわけで、構造的に古酒のもろいコルクを抜くにはあんまり向いていないんじゃなかろうか?(もちろん熟達の技を持つソムリエさんは別ですよ)
その点、スクリューブルにしても、今回使った新兵器?にしても、スクリューがまっすぐささるということだけでなく、力が均等にかかる分、古酒の抜栓には有利なのかもしれない。
ということで、早速その新兵器のコルク抜きを欲しいと思っている私だ。
(ちなみにプライスはグランヴァン一本以上するらしい…)

ところで、古酒で問題になるのが液面の高さ。
オークションでもよく「ベースネック」とか「トップショルダー」などという表現で液面の高さが表現されていて、液面の低いものについては気分的に敬遠したくなるが、そもそも、液面が低いとなにがいけないのだろう。

そう思ってさっそく掲示板に書いたところ、何名かの方から丁寧な返事をいただいた。私が日頃お世話になっている「青葉台ニュース」のかもしださんによれば、乾燥した環境下で保存されたワインの場合、一年に1ミリ程度の割合で減少することがあるという。ということは、20年程度経過したワインの場合、トップショルダーぐらいになっていてもそれほど気にする必要はないわけだ。
中古車を買うときに、走行距離が多すぎても少なすぎても好ましくなく、年式相応に走っているものが良いと言われるのとおんなじだ。

いや、まてよ。
そうするともうひとつ疑問なのは、「減った液面分のワインはどこに行ってしまったのか?」ということだ。

ワインはコルクを通して呼吸しているという俗説があるが、これは間違いだ。空気がコルクを通して自由に出入りできるようでは、ワインはあっという間に酸化してしまう。コルクはあくまで空気を遮断するための道具なのだ。
ということはすなわち、「蒸発したワインがコルクを通って出ていく」ということもありえない話ではないのか?

たまたま4年ぐらい前のニフテイのワインフォーラムのログを読んでいたら、ちょうどこのことについて論じているくだりがあった。
専門筋らしき方の説くところによれば、 答えはズバリ、「コルクに染み込んでいる」らしい。よく古いワインのコルクを持ってみるとズシリと重いことがある。この重さは新品のコルクに対して、数グラムから十数グラム重くなることがあるそうだ。さらに上面までコルクにたっぷりと染み込むと、わずかではあるが、コルクから蒸発して目減りしてゆく分もあるだろうとのこと。そうした分、すなわち液体に換算して数mlから十数ml分がコルクに染み込んだ結果、液面が減っていると考えればつじつまがあう。逆に言えば、ビローショルダーになってしまっているものなどは、そんなにコルクが吸収できるはずもないわけだから、やっぱりどこか問題ありなのだろう。
もうひとつ、その方は液面低下の理由として、「バッカスの神のつまみ食い」を挙げておられた。う〜ん、なかなか。 (^^)

話はここで終わらない。
液面が下がった結果、ボトルのヘッドスペースは増えるわけだが、そこに空気は補充されない。コルクが健全であれば、空気は遮断されているはずだから。加えて、ヘッドスペース内の酸素は二酸化硫黄と反応したり、フェノール成分と結合して消費されてしまう。
そうすると、古酒のヘッドスペースというのは、原理的には「陰圧」になっていると考えられる。
よく古酒のコルクを抜栓するときに、コルクが中に引っ張られるような感じになったり、スポンと落ちてしまったりするけれど、これはコルクが湿って緩くなっているだけでなく、瓶内が陰圧になっているからだというわけだ。ちなみに、古酒のコルクは緩くなっている事が多いが、その方の経験によれば、およそ10ミリだけでもコルクがきちんと瓶に接していれば密封する役割は果たせているとのこと。

さらに、これもニフティのログの受け売りなんだけど、ちょっと良いソムリエナイフのスクリュー部分には溝がほってあるよね?
これは何のためかというと、抜栓の際に、スクリューのこの溝の部分から空気を送りこんで、圧力差を解消するためなんだって。
ということは、ふだん我々は抜栓するとき、あんまりスクリューでコルクを貫通させないけれど、 古酒に関しては、貫通させてしまったほうがよろしいということか。

以上が私なりに調べた液面やヘッドスペースに関する認識なんだけど、いや、そうじゃないよ、というご意見あれば、ぜひ掲示板の方にお知らせ下さい。

ヘッドスペースに関する話は、熟成の話なんかにも発展して、つきることがないんだけど、今回はまあこの辺で。

※ニフティサーブの酒フォーラム#2会議室ログ96年分を参考にしました。